第5話 時間の流れは残酷だなと実感する
コンソールから艦載機の機体制御設定をいじりながら、状況を確認する。
帝国と共和国の戦闘に巻き込まれてワープ装置を搭載した母艦が墜ちた。
オレの乗る個人用艦載機にはワープ能力がないため、ここから移動することができず、このまま空気がなくなって死んでしまう。
そんな事態を回避するために、ワープ能力を保有する船に逃げ込めばいいわけだ。
モニターの向こうには、いくつもの閃光が上がり、大きな爆発や小さな爆発が見える。艦載機のスラスターを使って、隠れているデブリを押すように戦場へ移動する。
シールド機能は切っている。
この世界の技術では、シールド機能による物理反発力を探知して相手の位置を特定できるからだ。
ぶっちゃけると危険極まりない行為である。紙装甲の安物艦載機が、頼みの綱であるシールド機能を切っているのだ。別のデブリにぶつかったらアウト。流れ弾に当たってもアウトだ。当然だが、戦艦の主砲が当たればデブリごと一撃で破壊される。
だが、だからこそ使える手段がある。
オレがやろうとしているのは宇宙海賊の奇襲部隊がよくやる手だ。
軍もその手法は知っていし注意するだろう。だが、それは海賊を警戒している哨戒行動中ならばの話だ。
現在は敵軍と交戦中である。この状況で海賊の襲撃にまで気を配って対処している余裕はない…と思う。
デブリを盾に戦場に近づくと、より戦闘の状況がよくわかる。
撤退中の銀河帝国の艦隊を、共和国の艦隊が追撃している。
「運がいいのか悪いのか…」
そんな戦場で被弾した船を発見した。大きさからたぶん巡洋艦クラスだろう。別の大型の戦艦を盾にするように帝国軍に砲撃している。
ここら辺は本当に運だより。海賊らしいといえば海賊らしい。
“元”だけどな。
大事なことだから。ここ大事なところだから。
「南無三!」
軽くおまじないをつぶやいて、デブリから飛び出す。あとは一直線だ。設定をいじって残りのシールドを前面にあつめて、フルパワーで目標の船に近づく。
巡洋艦と言っても宇宙船である。当然シールド機能が搭載されており、その能力は艦載機とは比べ物にならないくらい強力だ。通常なら接近するオレの船は物理攻撃と判断してシールドではじかれてしまうだろう。
だが、本体にダメージを負っているという事は、シールドが削られた証拠だ。
シールドは艦艇のエネルギーを消費することで回復できる。
しかし、艦艇のエネルギーは有限だ。砲撃や宇宙船の推進エネルギー、さらにはワープのためのエネルギーも必要となる。
待機してシールドの回復を図っているならともかく、砲撃して敵を攻撃している以上、シールド回復にまで手が回っているとは思えない。
予想通り、巡洋艦に近づくがシールドによる衝撃はない。
もちろん着艦許可などないし巡洋艦からのドッキングサポートなどないので、艦載機についているトラクタービームを発射。
トラクタービームが船体に当たるのと同時に、逆噴射で一気に速度を落とす。
「グフゥ!!」
急速にかかるGで、変な声とともに息が漏れる。座席に固定するベルトが体に食い込んで涙がにじむほど痛い。
あれ?こんなに衝撃あったっけ?
昔はもっと頑丈だった気がする。痛みに耐えつつ、時間の流れは残酷だなと実感する。
オレの乗っていた船はトラクタービームに引き寄せられるように巡洋艦の船体に近づく。
トラクタービームは目標の物体を自機に引き寄せる機能を持つ重力光線だ。
通常は遠距離にあるデブリ(ミサイル)を回収するために使用するのだが、引き寄せる相手の方が質量が大きいと、逆に船体側が引っ張られる特性がある。
つまり、巡洋艦より質量の軽いオレの乗る艦載機は、トラクタービームを発射しているけど、目標をこちらに引き寄せるのではなく、自分を相手に引き寄せていくのである。
そして、そのまま破損している巡洋艦に接弦。
あとは、艦に乗り込むだけだ。
宇宙海賊をやっていた時には、このまま船を爆破して船体に穴をあけて中に入るとか無茶をしたものである。
改めて思うけど、ろくでもないな。
とはいえ、どんな経験でも役に立つ事もある(現在進行形)。それが非合法な点はこの際目をつぶろう。
座席の固定ベルトを外して船の外に出る。
生憎、ただのデブリ回収用艦載機に自爆装置はついていないので、そのまま放置だ。しばらくすればトラクタービームのエネルギーが尽きて勝手に離れるだろう。
そうなる前に、艦載機に搭載された緊急パックを回収して背負う。数日分の栄養食と補給用のエアボンベやサバイバル用品の入った緊急用キットだ。消費期限を超過しているけど多分使えると思う。
そして最後に座席の後ろに置いてあったものを手に取る。
それは一本の長剣だ。
刃渡り1mほど。柄を入れて1.3m程度。ただの剣より広い刀身。材質は宇宙船の外壁にも使われていた超伝導装甲を削りだした逸品だ。まあ、廃棄船から廃品利用した鍔もない一本の平たい板だ。
護身用と思って用意したけど、本当に使うことになるとはな。
背負った緊急パックと間に挟むように仕舞う。
あとは、外壁をつたって破損場所から中に入るだけだ。
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