第4話 シャバに戻ってカタギになったはずなのに…

再就職した会社が、帝国と共和国の戦闘に巻き込まれて物理的に潰れた。


「おう。ジーザス」


さて、もう一度おさらいだ。


この世界の宇宙船は、星系同士を設置されたゲートで移動し、星系内を宇宙船に搭載されたワープ装置で高速移動する。


では、ワープ装置を搭載されていない艦載機はどうするか。

理論的にはゲートまで移動は可能だ。艦載機の軌道をゲートに合わせて飛行すればいずれ目的地に到達できるだろう。何十年後か何百年後か知らんけどな。



もちろん、それ以外の方法もある。

ワープ機能を搭載した宇宙船に回収してもらえばよいのだ。


しかし、現在この宙域での戦闘は共和国側が優勢だ。その証拠に、帝国軍は後退している。


このまま銀河帝国が敗走しこの星系から撤退すれば、銀河帝国の船に助けてもらうことはできなくなる。

つまり、帝国に帰る手段がなくなるのだ。


そんなわけで同僚たちは絶望に打ちひしがれているわけだ。




一応、こんな状況でも救いがないわけではない。


どんな船にでも搭載されている救難信号を発信すれば、戦闘終了後に回収してもらえる可能性は十分にある。

銀河帝国と銀河共和国との間に、どんな戦時条約を結んだかは知らないけど、捕虜の取り扱いによる取り決めがあるはずだ。


問題があるとすれば、それが捕虜である点だ。


大事なことだが、オレは銀河共和国時代に捕まって服役した受刑者だ。出所できたのは共和国から独立した銀河帝国の恩赦のおかげである。


これを共和国側視点で見ると、独立を認めていない帝国を自称する組織によって監獄から出てきた受刑者(残り刑期は34年)となる。

どう見ても「お邪魔しました」で穏便に帝国へ送り帰してくれるはずがない。


人道的かつ好意的に対応をしてくれたとしても、法治国家の原則から、残りの刑期を全うさせようとするだろう。


下手をすれば、銀河帝国を自称するテロリストに協力した脱獄犯として、さらに罪が加算される可能性すらある。


冗談じゃない。せっかく出てきたのにこれ以上、捕まってたまるか!!




つまり、そんなオレに残された手段は一つしかない。


見つけた大きなデブリに隠れてエンジンを止める。生命維持装置も止まるが、宇宙服を着ているので、活動することに問題はない。



こんな状況でもオレはまだ冷静だった。

なぜなら、前歴である宇宙海賊時代にも、似たような修羅場は何度もあったからだ。


銀河共和国軍が勝利を収めたこの星系は、帝国領ではなく共和国領となるだろう。

つまり、自由の為には、どんな手段でも取っても、銀河帝国の法を破る事にはならないのだ。


それが例え、宇宙海賊時代の経験を生かす事であってもだ。


「おかしい。シャバに戻ってカタギになったはずなのに…」


艦載機のメンテ用のコンソールを取り出して、内部設定を操作しながら愚痴る。


初手で怪しい会社に入ったからだという事は分かってはいる。

でも、言い訳をさせてくれ。


あんな杜撰でブラックな会社だった(過去形)けど、ちゃんと帝国の公認組織から紹介された会社だったんです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る