第3話 新入社員(入社三カ月目)

【ふざけんな!地獄に落ちろ!!】

【ああ!!ダンがやられた!】

【畜生!畜生!ち…】


通信から聞こえてくるのは、罵声と怒声と悲痛な叫びだ。




こんにちは。デブリ回収業社『(株)モロボシ』の新入社員(入社三カ月目)ムサシ=ゲンジ(39歳)です。


デブリって何か?それは宇宙空間を漂うゴミだ。


無重力の宇宙では力を加えられると、空気抵抗もないので慣性に従い進み続けるという特性がある。


宇宙船や宇宙ステーションにはシールド機能が常設されていて、小さなゴミならシールドで防ぐので問題はないのだが、質量が大きくなればシールド機能の限界を超えてしまい被害を受ける事になる。


そういった大きなゴミは避ければいいのだが、衛星軌道やゲート装置付近など移動に制限がかかるような場所ではそうもいかず、致命的な事故になりかねない。


そんなわけで、宇宙のゴミを解体回収する業者というのが必要になる。

それがデブリ回収業です。


もちろん、業者にはピンからキリまであります。

ピンからキリまでです。大事なことなのでもう一度言いました。



この世界は国家間、企業間、あるいは宇宙海賊の襲撃と戦闘に事欠かない危険な世界だ。当然、一般の船でも武装して自衛する(各武装には資格が必要)。


そんな争いの絶えない世界では、多種多様な戦闘兵器が開発された。


ビーム兵器は命中率も高くシールドを破るのに適した武器だ。物体に反発する特性を持つシールド機能であるがゆえに、物理特性のない光学兵器はその威力を余すことなくシールド機能に負荷を与えることができる。


逆に、ミサイルや実弾タレットのような物理攻撃はビームほど効率よくシールドを削ることはできないものの、船体本体の装甲を破壊する力は光学兵器を上回る。

さらに、ミサイルなどはシールドで物理ダメージを防御しても爆発の衝撃はシールドを貫通し本体に達する。


もちろん、それぞれの兵器はさらに細分化され特化し、または汎用性を高める為に日夜開発が続けられている。



さて、今回ここで注目するのがミサイルだ。

ミサイルはロックオンした標的を追尾し、軌道を調整して標的を攻撃する自動追尾兵器である。


しかし、ミサイルの追尾機能は有限だ。距離が遠すぎてミサイルの推進エネルギーが切れる。ジャミングにより標的を見失う。ミサイルが命中する前に標的が撃沈される。標的が機動力でミサイルを振り切る。

こうなるとミサイルは無力化する。


とはいえ無力化してもミサイルは消滅するわけではない。慣性に従って飛び続けるだけだ。

つまり、立派なデブリ(ゴミ)となる。



そして、(株)モロボシはデブリ回収業者です。

ピンからキリまであるデブリ回収業者である。大事なことなのでもう一度言います。


推進剤を失ったミサイルは、その機能を失ったわけではない。というか、本来の能力は残ったままだ。


ソフトウェアを再インストールして推進剤を補充すれば、再利用することができる。

そして、正規のルートで入手するには資格や契約が必要なこれらの軍事兵器が、リサイクル品なら資源として自由に売買できるのである。


当然、他のスクラップに比べて取引価格は大きく変わる。



『(株)モロボシ』の主な業務は、デブリ(廃棄ミサイル)の回収です。


広域的な意味で廃棄ミサイルはデブリだから、取り扱いに特殊な資格も不要。


たまたま回収したデブリがミサイルとしての機能を保有していたという事になる(建前)。

そんなスクラップをリサイクル業者が、高額を付けて引き取ってくれるだけである(書類上の記載内容)


問題は、廃棄ミサイルがある場所というのは、ミサイルが飛び交っていた場所という事で、世間一般にそれを戦場といいます。



さすがに戦場に飛び込んで回収するような自殺まがいのことはしていない。

戦闘が終わったのを見計らって住居兼社屋の母艦で移動し、艦載機に乗った社員がミサイルを回収して撤収する。


回収するのは、戦闘が終わった後だ。



とはいえ、戦闘が終わったからと言って、次の戦闘が始まらないという保証はない。


末端の弱小三流廃品回収業社に、相対する軍がわざわざ戦闘開始の合図を送ってくれるはずもなく、最悪なことにミサイル回収中に次なる戦闘が始まり阿鼻叫喚の地獄絵図になったわけだ。



戦闘に巻き込まれた(株)モロボシが取れる手段は一つだけ。

危険な戦場から逃げるという手段だ。


しかし、そこにも問題があった。


宇宙船を用いた艦隊戦においては、数百kmや数千kmの距離を開けて戦うのが普通だ。戦闘機でのドックファイトでも数kmの世界だ。


当然、敵を目視して判別できるわけもなく、探知装置と敵味方識別信号(IFF)を頼りに、攻撃するのが宇宙での戦闘である。


そして、末端の弱小三流グレーゾン廃品回収業者をわざわざIFFに登録してくれる律義な軍隊など存在しない。



つまり、戦闘を開始した双方から見て宇宙船「モロボシ」は、味方ではない艦艇が戦場にいるとしか認識されないのである。

その結果どうなるかは言うまでもない。


【おいおいおいおい!】

【嘘だろ!なぁ。嘘だろぉ!】


結果、艦載機のコクピットに広がるのは、同僚の悲痛な通信と、(正しい意味での)誤射によって攻撃されている母艦「モロボシ」の映像だ。


オレ達が乗っている艦載機は安物機体だ。シールドはついているし、デブリを回収するためのトラクタービームもある。武装はないけど宇宙空間を移動する機動力も保有している。


そして、ワープ機能は搭載されていない。だから艦載機とよばれる分類の宇宙船なのだ。


ワープ機能を持つのは、母艦となる宇宙船「モロボシ」だけだ。

それがたった今、目の前で爆発した。

訂正しよう。

ワープ機能を持つのは、母艦となる宇宙船「モロボシ」だけだった。


「おう。ジーザス」

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