第2話 帝国国民的賛辞
オレが16年お世話になったABSR-0018は監獄として機能する為の宇宙ステーションだ。
このステーションで生活する民間人は百数十人ほど。監獄内には数千人の犯罪者が収容されている。そんなステーションが百個ほどあるのがアーバシー星系だ。
この星系がそうなるのには理由があった。
この星系への侵入方法が、極めて限定的であることだ。
宇宙船に搭載されるワープ装置は(宇宙規模では)それほど長い距離を移動できるわけではない。せいぜい星系内を短時間(数時間)で移動する程度だ。
星系同士の離れた場所に移動するにはワープでも速度が足りない。
それを解決させる為、長距離移動用の『ゲート』が星系ごとに設置され、星系と星系をつないでいる。
星系内はワープで移動し、星系ごとはゲートを利用するのである。
そして、このアーバシー星系に移動できるゲートは一つしか存在しない。
さらには、ゲート付近に強力な磁場を形成する巨大恒星があるため、その磁場の弱い時期にしかゲートが使用できないという立地的な問題があった。
逆に言えば、アーバシー星系で何かあった場合でも、このゲートを封鎖して対処すればすむし、違法侵入や脱獄への警戒もゲートが使用可能な期間だけで済む。
つまり、犯罪者の隔離先として都合がよかったのだ。
まあ、何が言いたいかというと。
宇宙刑務所から出所してきたけど、このアーバシー星系から出るには、ゲートの使用可能な間に、星系外へ出る宇宙船に乗らなければならないという点だ。
「乗ります!乗ります!」
そう言ってABSR-0018の宇宙船ドックに駆け込む。
アーバシー星系から出る宇宙港には、人がほとんどいない。観光もビジネスもない場所だから当然だ。
なので、ステーションといっても、搭乗チェックは機械式だ。
通路に設置された電子ゲートをくぐると、登録されたオレのDNAを検知し、外部への移動許可が下りているか確認してくれる。
あとは通路に沿って、目的の船に乗るだけだ。
二十人ほどしか乗れない小型のシャトルにはオレ以外の客は一人。
その一人は、どう見ても一般人。というか、今日監獄から出たのはオレ一人である以上、他に乗っているのは一般人だろう。
当然、一般人が元犯罪者であるオレに親しくする理由もなく、オレとしても一般人を威圧する趣味もないので、関わることなく転生後初めてのお客様待遇で宇宙船のシートに体を沈ませる。
…といっても、宇宙旅行を堪能する余裕はない。
備え付けの携帯端末を取り出して、出所時に教えてもらった場所へアクセスする。
『銀河帝国再就職先斡旋紹介所』
監獄出所者への就職を斡旋する公共組織だ。
監獄の生活から解放された以上、オレは自分で金を稼いで生活しなければならない。
老後の保障などないし貯金もほとんどない。監獄内での仕事で給料は出ていたが、服役中にちょっとした私物を購入するだけで消える程度の薄給だ。
なので、早急に生活のための金を稼ぐ必要があるのだ。
囚人番号の代わりにもらった帝国国民番号を入力。表示される各種項目と取得資格をチェックして情報登録する。
個人用の宇宙船操縦資格などは、現代でいう自動車免許程度のありふれた資格だ。さらに、刑務所内での仕事のために取得したいくつかの初級機械工学の資格にチェックを入れる。
刑務所では資格試験を取得する際に修学時間の為の優遇制度がある。さらに、資格取得者には専用の仕事が選べ、それらの仕事は給料が(ほかに比べると僅かに)高かったりするので可能なものを取得していた。
伊達に16年も刑務所で暮らしていないぜ。まったく嬉しくないけどな。
とりあえず、募集項目を表示させる。
「銀河帝国宇宙軍第八艦隊、帝国東方警邏隊、シドレン星系防衛軍…。ジーザス。軍隊だらけじゃないか」
やたら金のかかっていそうな目を引く募集要項の間に、簡素な一般企業からの募集項目が並んでいる。
まあ、銀河帝国として独立したけど共和国側は独立を認めておらず、現在両国は戦争中であることも知っている。そのことで軍事力の増強が急務であることも理解できる。
けど、ここまで露骨なのはちょっと引く。
試しに募集内容を開いてみれば、『安心、安定』とか『ステップアップをサポート』とか『アットホームな職場です』とか、香ばしい雰囲気のする文字や、根拠のわからない数字のグラフなどで、自分たちの仕事の優位性をアピールしている。
「入隊しませんか?」のボタンが自動ポップされたりして邪魔くさいほどだ。
さすがは銀河帝国公式紹介所だ(帝国国民的賛辞)。
さらには、同じ宇宙軍の艦隊ごとに募集が並んでいる。宇宙軍第三艦隊と第六艦隊との違いがさっぱりわからない。
「どう見ても地雷だな」
もちろん、そんな命の危険な職場はごめんだ。そもそも40歳手前で入隊できる軍隊といわれても不安しかない。
そんなわけで、軍隊関係をスルーしつつ、合間に埋没されかけた一般企業の募集要項を見ていく。
そんな、端末を操作に悪戦苦闘するオレに関係なく、外部へと移動する宇宙船は時間通りに静かに出港していった。
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