第92話 ほら、専用ルームだ
高性能シャトルの小部屋に閉じ込められる。
部屋と言っても、物置のようなもので、お世辞にも居心地は良くない。当然クッションや椅子もなく、改善の兆しすらないのが現状だ。
ついでにトイレもない。両手が拘束されている以上、自由にいたす事もできない。
つまり垂れ流しである。
だが、大丈夫。オレの尊厳はまだ無事だ。
明かりもない小部屋の中で体を横たえる。
軽い振動と共にGを感じる。シャトルが飛び立ったのだろう。やがて加速。重力圏を飛び出すようだ。
ヘックスに捕まった当たりで、今回の問題にフロンティアワンの一族がかかわっている事を理解した。あの監視カメラに写っていた男の左目の下にある「〒」のようなマークを見た所で、それを見たヘックスに邪魔されたのだ。
あのマークの中にはコードが彫り込まれており、おそらくそれで一族の個人を特定しているのだろう。
オレには特定する方法はないが、同じ開拓者の一族であるヘックスなら何か方法を知っているのかもしれない。
…そして、改めて気が付いたけど。チャプター号のオレ以外の乗組員は全員フロンティアワンの一族だ。
もしも、今回の事件がフロンティアワンの一族の秘密にかかわる事であるなら、その秘密を守る義務は3人の子供達にも適用される…かもしれない。
つまり、オレという部外者一人を対処すればよい問題という事になる。
…アレ?詰んだ。
いやまて、まだ慌てるような時間じゃない。
秘密に関わったと言っても、別にオレはフロンティアワンに敵対しているわけではない。見方を変えれば手助けしてしている正義のヒーロー…第三者くらいにしておくか。
合法か非合法かはこの際目をつぶるが立派な協力者だ。
まあ、いきなり殺されるような事はないだろう。
数時間の捕囚状態での飛行の後、かすかな衝撃と共にシャトルの速度が落ちる。
着陸した衝撃を感じてしばらくすると、ドアが開いて光が差し込む。
「モーニングコールは頼んでないぞ」
「ずっとこの部屋に居たいならそう言え」
「オッケイ。スイートルームに移るよ」
「希望は聞いてやる」
そういうと、強引に手錠で拘束された手を取り、オレを引っ張っていく。
シャトルから降りると見覚えのある貨物室だ。チャプター号に合流したらしい。
そのまま、見慣れた船内に連れていかれる。
あいにく子供たちはいない。ブリッジにでもいるのだろう。
そして、目的地に到着。
「ほら、専用ルームだ。とりあえず大人しくしてろ」
そりゃ、チャプター号のオレの部屋だ。専用ルームと言われればその通りだ。
少し乱暴に部屋の中に押し込まれる。
「こんな殺風景だったか?」
ピッ。プシュー
不満の声を上げたが、返事もなくドアが閉まる。
とりあえず、ドアの開閉ボタンを押してみたが無反応だ。
当たり前だが、船の各機能はブリッジから操作可能だ。部屋のロックに関しても同様である。
「おう。ジーザス」
自分の部屋を見る。
ものの見事に何もなかった。備え付けのベッドや壁に設置されたモニター端末こそあるが、持ち込んだ棚や酒を入れた小型冷蔵はもとより、ゴミになっていた読み古しの雑誌や酒の肴を保管した食品ケースすら持ちだされている。
まあ、やりすぎだと言いたいが、わからなくもない。オレの剣の腕を知っていれば、棒切れ一本でも危険だと判断される。当然、その可能性があるものはすべて取り払ったという事なのだろう。
ちょっとセクシーなポスターすら剝がされているが、さすがにそれで同じことはできないぞ。
窓にもスモークがかかっており外が見えないようになっている。
完全に監禁されたわけだ。
外されない手錠を恨めしげに見てから、とりあえず、椅子もないので備え付けのベットに横になる。手を拘束されていても横になるくらいはできる。
部屋の隅に簡易トイレ(船外強制排出可能)がある。尊厳の問題は大丈夫そうだ。
「まあ、なるようになるさ」
不安がないとは言わないが、出来る事はない。何もするなと言われたのなら、せめて体力を回復させるくらいはするさ。
…メシはちゃんと出るんだよな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます