第22話 そしたら出発だ

OSSの勢力同士の争いは膠着状態を迎えた。


と言っても、攻め込むための戦力を失った相手に、もう打つ手はない。時間をかければ共和国政府の支援が来る。状況的に見れば組合側の勝利である。


味方した勢力が勝利するのは良い気分だ。

問題があるとすれば、その勝利の余韻にいつまでも浸っていられないという事だろう。


なにせ、後ろ盾である共和国の手が入れば、オレが共和国の関知しない理由で出所してきた受刑者であることがバレるからだ。


遠回しに自分の首を絞めたと言ってはいけない。他に方法がなかったのだ(熱弁)。




そんなわけで、(法律的に)先のない星系から逃げ出すために、ガンツのとっつぁんの事務所にやってきた。


「ほら。こいつだ」


そう言って渡されるのは、宇宙船の起動キーだ。オットー組合長救出の報酬と、荷物の返還金で、フリゲート級の宇宙船を用意してもらったのである。


さすがに、今度は戦闘の余波でドックごと壊されることはないだろう(トラウマ)。


「どんな船だ?」

「まっとうな船は手元にないんでな。バルク船だ。メンテもしてあってちゃんと飛ぶ」

「…贅沢は言えねぇか」


時間はないうえに、金もない。


このステーションに残っている無法者達にだって、共和国の手が入るなら逃げ出そうという後ろ暗い奴がゴロゴロいる。そう言った人間相手ならどんな船でも喉から手が出るほど欲しいだろう。


そんな中で、ガンツのとっつぁんが用意してくれた船だ。文句を言える状況ではない。


それが、例えまっとうな星域を航行する事ができない不法製造バルク船だとしてもだ。


「世話になったな」

最後・・に、いい仕事ができたよ」


静かにそういうガンツのとっつぁんの言葉に、起動キーに伸ばした手が止まる。


「…引退か」

「ああ。これからは孫をあやして、昔話を自慢して生きるさ」


起動キーを手に取って確認する。


人生の大半をOSSの不法故買屋として生きてきたガンツのとっつぁんは、この後訪れる共和国のまっとうな世界では必要とされない。

下手なことをして捕まれば、この地域のまとめ役である息子のオットーにも迷惑がかかる。


とっつぁんもいい年齢だ。平穏で穏便に暮らすことが許されるなら、そうするべきだ。


そして、帝国に戻る(予定の)オレとも、もう会うことはない。引退する以上、関わる事もなくなるだろう。


「その剣を大事にしろよ」

「ああ」


そう言われて、軽く腰に差した鞘を軽くたたく。


クロム合金の刀身にレイザイド鉱の柄。現役時代でも持っていなかった超希少素材をふんだんに使った超高級実用品だ。

実用品だけど、オレ以外が実用する事のない超ピーキー品でもある。


「じゃあ、達者でな」


それだけ言って席を立つ。


後ろで軽く鼻をすする音が聞こえた。


振り返らずに、片手をあげて店を出た。



「…」

「なんだ。囚人プリズナー


店から出た所にあるベンチにヘックスが座っていた。


「お前はこのまま用心棒バウンサーか?」

「契約は今日までだ。明日は他の星系に行く船を探すさ」

「ここには残らねぇのか?」

「…共和国からは、賞金を懸けられているからな」


その言葉に軽く笑う。


「ハッ。バウンサーかと思ったら賞金首バウンティか」

「…ちっ」


賞金首には二種類ある。特定の星系で賞金を懸けられる星系賞金首と、星系という国境を越えた共和国共通の賞金首だ。


二つの違いは、星系と共和国のどちらに賞金をもらえるか分かれる。

そんなヘックスの境遇を笑うと、ヘックスは不愉快そうに舌打ちをする。


チャリチャリ…

「…」

「…」


お互い無言のまま、オレは手に持ったバルク船の鍵をもてあそぶ。


共和国からのお尋ね者である以上、ヘックスもここに残る事はできない。共和国が来る前に、この星系から移動しなければならない。

もちろん、そのためには宇宙船が必要になる。


チャリ


ヒョイっと船の起動キーをヘックスの方へ放る。ゆるい放物線を描いてヘックスはそれを手でつかむ。


「ん?」


手の中の起動キーを見て、バイザー越しにオレを見る賞金首に笑って見せた。


「ちょっと飴ちゃん買って来る。そしたら出発だ。準備はすませておけよ」


おっちゃんも、たまに無性に甘味が欲しくなる事もある。

…そいう事にしておく。

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