第97話 シャバに帰る事が出来るのだ
「なぜ、あの子たちが狙われた?」
オレの質問に、ガルベルトが軽く首を横に振る。
彼等の開拓団が有用なゲートの情報を持っていたとしよう。しかし、それが子供である必要はない。
「アーカイブへのアクセスには、一族の生態DNAが必要となる。未発見のゲート情報の経路を追う証拠になるのだ。両親のどちらが一族かは分からないが、その子は確実に開拓の一族の血を受け継いでいる。彼らの開拓団が提供した情報へアクセスする為の専用鍵になるのだ」
秘密のデータの本人確認の為にDNA情報を使用するのは一般的な方法だ。特に、膨大な情報の場合、誰が情報提供者なのかの証明に、DNAによる選別がセキュリティに組み込まれている。
そして、開拓民の一族と言っても子孫を作る方法は人類と同じだ。開拓の一族同士だけでの結婚という前時代的な慣習でもないのなら、一般人との縁で結婚する者もいるだろう。
両親のどちらが一般人かは、外見から見分ける事は難しい。となれば、確実にDNAを持っている存在として子供を狙うのは分からなくもない。
「そして、こちらに対しての人質という意味もある。保護したと言い張るだろうがな」
そして、DNAに関してはデータからでも再現可能だ。費用も時間もかかるものの、その点さえクリアすれば不可能ではない。
だが、同族の生存者の保護という観点から、開拓の一族に圧力をかける事が出来る。あくまで偶然を装ってだ。それゆえに、合法的に子供たちを入手する事にこだわったわけだ。
「ルーインの家から荷物を持ち出したのはあんたたちか」
「そうだ。他の二つでは目的が同胞だと判明するのが遅れて後手に回った。だが、彼女の事故は大きく報道されたからな」
「後手に回ったという事は、アーカイブの場所がばれたのか。それでこのステーションが狙われていると?」
オレの言葉に、ガルベルトがため息をついて首を横に振る。
「このステーションはアーカイブではない。アクセスできるポイントの一つではある。彼らからえた未申告のゲート情報はこのステーションを経由してアーカイブに記録されている。つまり、この場所はバレているという事だ」
「なるほど、で、今一生懸命データ削除中か」
「いや、このステーションを放棄する」
なんか、すごい事を言い始めた。
あたりまえだが、ステーションは高価だ。古いステーションだって安い物ではない。ましては、稼働するステーションとなればその価値は莫大な額になるだろう。
「自爆でもさせるのか?」
多数の人間の定住するステーションにそんなもの付いているとか恐怖以外のなにものでもないのだが、宇宙開拓時代から連綿とつづく集団の末裔である。何か隠し持っていないとも限らない。
「そんなことをすれば、共和国の良い口実だ。このステーションを明け渡す。その間に、このステーションからアーカイブへの中継ポイントを破壊する」
「思い切りが良すぎるんじゃないのか?」
「相手は共和国だ。未申請ゲートの存在が判明している以上、「知りません」とは言えん。なら、最初から明け渡して、素直に従ったと見せかける。こちらは明け渡しているのだ。共和国側もそれ以上追求する事はできないだろう」
おそらくアーカイブはこの星系以外にあるのだろう。通信するための専用中継機が用意されているはずだ。その中継点を物理的破壊してしまえば、このステーションをどれだけ調べてもアーカイブを追う事は出来なくなる。
あくまでも、未申請のゲートの情報だ。義務でもなければ犯罪でもない。
子供たちのいた開拓団の情報を、このステーションで管理していると証明できても、あくまでもこの近隣の提供情報を提供するだけで済む。
ここは、近隣の開拓民の一族の顔役のステーションでしかない。確保しているデータはあくまでも一部だけだ。長い年月広大な宇宙の開拓情報に比べれば1%にも満たないだろう。
当然、戦争の趨勢を決める情報とはならない。
このステーションからアーカイブへ情報を送信した記録と経路さえなければ本命のアーカイブは守られる。
そして、協力を強制させるための
その代償がステーション一つ。
高いか安いかは人それぞれだろう。
トカゲの尻尾切りともいえるが、同時にこの地域の開拓民をこれ以上締め上げたとしても、この中継点でアーカイブへの経路は途絶える。
切ったシッポを最後までおいしくしゃぶりつくせるわけだ。
共和国に散らばる開拓民を守るためだとするならばその選択は正しい。
他の顔役にも連絡が行っているなら、それ以外の開拓民の一族を狙うのは難しくなるだろう。
そもそも開拓の一族の存在は一般に知らされている。強制的に調べるような方法は民主主義の共和国では取れない。
…個人的には、ゲート以上にも知られたらまずい情報が秘密アーカイブにあるんじゃないかと思うんだが、突っ込むつもりはない。
「あの監視カメラに写っていた奴は誰だ。アンタ等の秘密部隊か?」
開拓時代から存続する組織である、特殊な戦力を隠している可能性だってある。
「我々にそんなものはない。アレが共和国の特殊部隊。今回の元凶だ」
「でも、マークが入っていたぜ」
右目の下を指でなぞる。
それを見て、眉をしかめてガルベルトが口を曲げる。
「裏切り者というのはどこにでもいる」
まあ、組織が大きくなればそういう存在もいるだろう。
「そもそも、今回の情報を共和国に漏らしたのが彼だ」
「おやまぁ。目的は金か?名誉か?」
「復讐だよ。彼は我々を憎んでいるからな」
彼…ね。どうやらよく知る人物らしい。憎しみをぶつけられるほどに。
まあ、別に見も知らない奴が何の因縁を持っているかなんて知った事ではない。詳しく話してほしいわけでもないので話題を変える。
「で、オレはこれからどうなるんだ?中継点を壊しに行けばいいのか?オレの船は返してもらえるのか?」
「…いや、中継点の場所を部外者に教えるわけにはいかない。もう手は打ってある。そして申し訳ないが、あの船を返すわけにはいかない。つまり、取引がしたい」
ガルベルト話の内容はどうという事はない。人手は足りていないが、部外者のオレの力を借りるほどではないそうだ。ただ、ステーションを放棄するにあたり、荷物の搬出に使う為に、商船であり積載量の多い「チャプター号」を借り受けたいとの事だ。
「もちろん、ムサシさんにも悪くない条件でだ」
そういうと、ガルベルトは手元の端末を操作して一台の宇宙船を表示させる。
「このステーションにある戦闘用フリゲートの一つだ。型は古いが、実用品だ。このステーションの治安維持に使用していたものだ。ビーム砲やシールドも戦闘用の物が積まれている。辺境から向こうに行くのに支障はないはずだ」
あえて「どこに行く」かの部分で言葉を濁すガルベルト。ちらっと横に立つヘックスに視線を向けるが、あいにく表情の見えないヘックスに反応はない。
あれだけ時間があったのだ。ヘックスがオレとの交渉に向けてガンベルトに話を通していたとしても不思議ではない。
合法的な武装船の提供。
つまり、これがあれば
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