アウトローになろう

99話 オレの願いはそんなものだったか?

ピーッピーッ


連絡の電子音が鳴る。

別に警告音ではない。ワープを終えて通常空間に戻る為の信号だ。


「よ~し。周囲の索敵と…」


そう口にしながらコンソールに手を伸ばしつつ、語尾が小さくなって消える。

そりゃそうだ。口に出す必要なんてないのだ。

全部自分でやらなければならないわけで、別にそれは普通の事だ。


モニターに周囲の確認結果がでる。次にエネルギーの残量チェックと、次のワープまでの回復時間の算出。

乗りなれない新しい船なので、その辺の性能はおいおい覚えないといけないだろう。


別に難しい作業ではない。宇宙船の操縦の基本操作だ。

ガルベルトの言った通り、なんとも無難で安全な宇宙船だ。




ステーションで準備を整えて出港して1日ほど。

辺境経由で帝国へ向かっているのだが、当たり前だが敵対国だ。正規のルートなどないので、国境の端の端。無人星系を経由するような形で、帝国へと向かっていた。


遠回りではあるのだが安全には代えられない。

当然、船の往来もないので、何もない経路を移動するだけだ。星々の衝突だとか、別動隊の艦隊との遭遇なんて事件は、文字通り天文学的な確率でしか起こらない。

退屈な操縦ともいえる。


次のワープの為のエネルギー回復の時間なんて、暇でしかたない。元がステーション防衛用の戦闘艇の為か、内部のデータコンテンツにもろくなものがない。まあ、充実していても疑問を覚えるのだが。

メシ寝るトイレ位しかすることがない。一人でいる以上、コクピットを離れるのは最小限だ。食事だって、ここで取る。

チラッ見れば、食べ終えた食事パックのゴミが適当にまとめられている。どこかのステーションについたらまとめて捨てよう。


暇なので、適当な音楽でもと思って通信を開こうとすると、一つのニュースが送られてきた。今まで通った星系からの緊急速報だ。星系政府などが発行する通知で事故や災害の連絡が多い。


【~~頃に、帝国軍が侵攻を開始。共和国艦隊がそれを向かい打つべく同星系に侵入しました】


船をもらって出港した星系からの連絡だった。


普通であれば「ああそうかい」と、近寄らないようにするのだが、事情を知っているオレからすれば、この話に裏がある可能性が高い事が読み取れる。


戦争になれば、外部からやってくる船は激減する。さらに星系から別星系に避難する者も出るだろう。

少なくとも、その星系で行動する者への監視と対応は後手に回る。ましてや、それが共和国の権力者であるならば…


「関係ないね」


現地のキャスターらしい自動人形の無表情なアナウンスを途中で消す。


ステーションを放棄して共和国に提供するなら、開拓者の一族にこれ以上の被害は出ない。住み慣れたステーションから出ていくのは大変かもしれないが、開拓者として再スタートするというのなら、彼らの本分であるから好きにすればいい。


当面の資金に関しては、伊達に顔役としていたわけではないだろうだから、ある程度の貯えはあるはずだ。


まあ、残ると言った奴がどうなろうと、そいつの問題だ。


腰のポーチに手を伸ばす。中からくしゃくしゃのパックが出て来た。前に購入した飴の袋だ。

中を開けてみるが空だった。

別に甘いものが好きってわけじゃない。なくても困る事もない。


何気にパックに書かれたマスコットキャラクターを見る。動物っぽい人型のキャラが不気味なほど笑顔を向けていた。


何か感じることもなく笑顔のキャラクターをしばらく眺めて、そのまま丸めてパックゴミの方に放り投げる。

そして、座席の背もたれに体を預けるとコクピットのモニターに映し出された何もない宇宙を見上げる。

しばらく眺めた後に、コクピットのモニターの横に表示された航路予定図をみる。

あと数十個のゲートを通れば、帝国領に入る事が出来る。そこで、この船の登録をして経緯の説明をして銀行預金の確保をして…


「再就職か…」


念願のシャバに戻ってカタギになる。


念願?

誰がそんなものを願った?

オレの願いはそんなものだったか?


ピーッピーッピーッ


次のワープの為の、エネルギー回復のアラームが鳴る。


ワープの準備に入ろうとコンソールに手を伸ばして、その手を戻して髪の毛をかきむしる。


違う。

オレはこの世界に生まれ変わる為に、そんなものは願わなかった。

じゃあ、オレが願ったのはなんだ。


何のために、その願いをかなえてもらった?


「そんな事は分かっているんだよ!」


神様は願いをかなえてくれた。

オレの願いだ。


それは、間違ってもシャバでカタギになる為じゃない。


願いはかなった。

手段はある。方法も知っている。切り札だって用意してある。

必要なものは全部あるじゃないか。

必要のないものは、安定した職探し位のものだ。


「ジーザス」


ワープ先を変更する。航路を戻るルートに変更して、ワープを開始する。

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