第百三話:お家に帰ってきたっプイ!

 空が暗くなってきた頃に、ようやく帰宅。


「ただいま〜」

「あっ、お兄おかえ……」


 母さんと一緒に夕飯を作っている最中だったのか、エプロンを着けた卯月うづきが出迎えてくれた。

 が、俺の姿を見るや言葉を失っている。

 ……え? もしかして、俺の頭上を見てます?


「プイプイ。はじめましてっプイ」


 急に喋るな。卯月が見えてたらどうるす――


「DXおしゃべりカーバンクル!?」

「玩具じゃねーよ」


 どんなリアクションだよ。あと見えてるのかよ。

 そしてそんな玩具は前の世界にも無かったぞ。


「えっ、お兄、それ生きてるの?」

「生きてる……で合ってるよな?」

「一応合ってるっプイ」


 俺の頭上でのんびりと答えるカーバンクル。

 擬似生命体とか言ってたけど、温もりはあるし、生きてるよな。


「あぁ、とうとうお兄もトンチキ世界の一部と化し……元からか」

「なぁカーバンクル。もしかして俺バカにされてるのかな?」

「知らんプイ」


 辛辣な相棒だな。

 俺がそう思っていると、奥から母さんも来た。


「おかえりなさいツルギ」

「ただいま母さん」

「プイプーイ!」


 カーバンクルが俺の頭上で手を振っている。

 だから急に喋るな。母さんにも見えていたら……


「あらあら〜。カーバンクルちゃんも一緒なのね〜」

「見えてたとかそう言うのは置いといて、母さんはもうちょっと動揺とかしてくれ」


 のほほん過ぎて心配になるんだよ。

 ちなみにここでようやくカーバンクルは俺の頭上から降りてくれた。

 今は母さんの足元をピョンピョン跳ね回っている。


「やよいっプイ! やよいっプイ!」

「あらあら〜、お母さん懐かれちゃったわね〜」

(頼むからもう少しリアクションとかしてくれ)


 とりあえず俺は家に上がって、2人に色々と説明した。

 主に合宿での出来事と、化神の事。

 化神に関しては俺には難し過ぎるから、カーバンクルに説明を手伝ってもらったけどな。


 全ての話を一通り聞き終えると、卯月は静かに頭を抱えていた。


「……カードゲームって、物騒過ぎない?」

「卯月、それを言ったらお終いだ」


 だが俺も同感ではある。

 ウイルス感染するカードとか諸々、この世界は危ない要素が多いんだよ。

 あとカードゲーム勝者が得られるものがデカすぎる。

 主にウチのイカれ権力組織こと六帝りくてい評議会とかな!


「というかお兄、なんでウイルス拾ったのさ」

「俺に聞くな。無意識レベルでやられたんだ」

「カーバンクルがいなかったら、お兄感染確定だったじゃん!」

「面目ない」


 卯月にネチネチとお説教を受けてしまう。

 正直ウイルスに関しては俺が悪いので、何も反論できない。

 ちなみに今カーバンクルは母さんの膝の上だ。めっちゃリラックスしてやがる。


「お兄、本当にわかってるの?」

「わかってるから睨まないでくれ。年頃の娘がしちゃダメな顔になってるぞ」

「は?」

「なんでもありません」


 我が妹の圧がスゴい。

 そしてカーバンクルよ、少しは俺を庇ってくれ。


「プ〜イ」

「カーバンクルちゃんは可愛いわね〜」


 カーバンクルめ、完全に蕩けてやがる。

 あと母さん、あんまり甘やかし過ぎないでくれ。


「カーバンクルちゃん、ツルギを守ってくれて……ありがとうね」

「そういう約束っプイ」

「……ありがとう」


 とりあえず今は先の事を考えなくちゃな。

 ウイルスカードが配られ始めたみたいだし。

 政帝せいていこと政誠司まつりせいじが動き始めたって事だし。


「とにかく今は、ウイルスカードが出回るのを少しでも防がなきゃな」


 流石に全部は不可能だから、せめて身内だけでも注意喚起したいところだ。

 母さんと卯月は前の世界を知っているからどうにかなる。

 問題は元からこの世界の住民な奴らだ。

 流石にこの世界でさえ人体に感染するウイルスが入ったカードなんて、荒唐無稽が過ぎる。

 化神だってすぐには信じて貰えないだろうしな。


「はぁ〜、やる事が多いな」

「ウイルスの対策?」

「主に注意喚起。卯月ならどうする?」

「せめて舞と智代には気をつけて欲しいけど……実際感染した人を見ないと危機感生まれないんじゃないかな?」

「こっちも似たような所感だ」


 知らない人からカードを貰っちゃいけません……なんて言っても説得力無いだろうし。

 やっぱり大元叩くしかないのか?

 だからと言って、いきなり政帝に挑んでもダメだし……もどかしいもんだ。


「ねぇツルギ、ちょっと聞いてもいいかしら?」


 珍しく母さんから質問だ。


「そのウイルスに感染しちゃったら、どうやって治せばいいのかしら?」

「そういえばアタシもそれは知らない」


 うーん、やっぱりそれが気になるよな。

 だがここで大きな問題がある。


「実はな……俺も知らないんだ」

「ハァ!? お兄の記憶が頼りなのに!」

「知ってたら最初に話してる。だけどウイルスからの回復方法はアニメでも詳細な描写がなかったんだよ」


 アニメでは藍がウイルス感染者とファイトをするのだけど。

 ファイトに負けた感染者が、どうやって回復したのかは特に描写されていなかったんだ。

 基本的には次の話以降でちゃっかり回復して再登場だったからな。

 入院する描写があったのは……九頭竜さんくらいか。


(一応アニメでは一年生編の中盤で九頭竜さんがウイルスに感染して、藍とのファイト後にしばらく入院する描写があったけど……割とすぐに戻って来ていた印象があるな)


 そもそも的な事を言えば、今の九頭竜さんがウイルスで闇堕ちするなんて展開…………

 …………全く想像できないな。

 藍と友達になって既にポンコツ化してるし。

 なんならアニメよりポンコツ化が加速していそうだし。


(これが所謂、歴史改変ってやつなのかね〜)


 アニメとは違うルートが展開されているから、どこまで予測通りに進むのか俺でもわからない。

 となれば今一番恐れるべきは、歴史の修正力ってやつだな。

 感染の可能性が消えた者の数だけ、誰かが代わりに感染するという展開。

 アニメで感染していた生徒を警戒するだけでは足りなさそうだ。

 だからと言って全てを監視するなんて事も不可能。

 見える範囲で警戒するしかないか。


「基本的には学園の生徒にしかウイルスカードを渡さないだろうけど……一応卯月や母さんも気をつけてくれよ」

「うん、わかった」

「アニメでの傾向からして、所謂心の闇に漬け込んでカードを渡してくると思うから……こまめなコミュニケーションが一番重要だろうな」

「舞と智代は多分大丈夫。あの二人は闇なんて言葉とは無縁だから。お兄の方はどう?」

「アニメで感染していた九頭竜さんを除けば……一人心配な奴はいる」


 具体的には速水だ。

 アイツは表面上は普通に接してくるけど、内面関しては色々と抱えているタイプだからな。

 特に最近はお兄さんに対するコンプレックスとか膨らんでるだろうし。

 個人的には一番の警戒対象だ。


「あとは化神だよね」

「あぁ……コレに関してはマジで何もわからん」


 だってアニメにも出てなかったし。

 異世界転移後に初めて知ったし。


「何体くらいいるんだろうな……全く見当もつかん」

「少なくとも善良な化神はボク含めて6体いたっプイ。まだ眠ってる化神もいたっプイ」

「…………は?」


 えっ、6体?

 カーバンクルとブイドラ、シルドラ。

 そして和尚のロードキリンで4体だから……


「あと2体って、どいつだ?」

「眠っていたけど気配は感じ取れたから、すれ違った瞬間にわかったっプイ」

「マジかよ」

「1体はツルギとイチャイチャしてた白い髪の女の子のデッキにいたっプイ」


 ソラじゃねーか!

 アイツのデッキに化神いたのかよ!

 十中八九エオストーレだと思うけどさ!


「ねぇお兄、ソラさんってアニメ出てたっけ?」

「出てたら俺は中学時代にテンション上がり過ぎて引かれている」

「もう1体は合体メカのやつっプイ」

「財前じゃねかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 嘘だろ!? アイツそんな重要な役どころになってたのかよ!

 こんなん想定できるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 あの財前だぞ。あの財前のデッキに化神がいるとか信じられんわ!


「お兄……」

「卯月」

「バカの相手は任せる」


 逃げられた。だがな、奴の弟はお前の学校にいるんだぞ。

 ……うん、冷静に考えたら兄だけでも面倒だったわ。

 あぁもう、考えなきゃいけない事が多過ぎる。


「ほら2人とも。難しい事はあとにして、先にご飯食べちゃいましょう」

「プイプイ! やよいのご飯っプイ!」

「カーバンクルちゃんにはお野菜多めにするわね〜」

「キュプーイ!」


 母さんの言う通りだな。まずは腹を満たして、それから考えよう。

 まだ時間はあるんだ。

 ……やっぱり身内を魔改造するのが手っ取り早いか?


(落下する彗星を受け止めてカードを強化……は来年の話だから、今年は素直に手持ちのカードやブランクカードを使うか)


 ほどほどのテコ入れで済めば、ありがたいんだけどな。

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