第五十八話:【蛇影竜帝】ミドガルズ・オロチドラゴン
心底面倒くさそうにプランBに切り替えている卯月。
そうとは知らず、
「ボクのターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」
半蔵:手札4枚→5枚
ドローしたカードを確認した半蔵は目を輝かせた。
切り札でも引いたんだろう。
「キタぁぁぁ! 兄様の切り札ぁぁぁ!」
借り物の切り札で大興奮の半蔵。
まだまだ半人前の小僧だな!
「メインフェイズ! ボクは〈ディフェンダー・マンモス〉を進化!」
機械のマンモスは巨大な魔法陣に飲み込まれていく。
あぁ、この流れ前にも見たわ。
「進化召喚! 出でよ〈【
魔法陣を砕き、大地から巨大な人型ロボットが姿を現した。
久々に見たな、アヴァランチ。
〈【重装将軍】アヴァランチ〉P15000 ヒット4
見るからに強そうなSRカードの登場。
しかしギャラリーの反応はドライであった。
多分何度も登場してるんだろうなぁ……主に財前兄が使ってさ。
まぁ見慣れていないであろう舞ちゃんと智代ちゃんは少し驚いてるけど。
「せんせぇ! なんか強そうなの出てきた!」
「大丈夫。あれは脳筋の鉄くずだ」
見てみろ卯月を。もう感情すら消えた表情をしているぞ。
「ボクの快進撃は止まらない!」
「はいはい」
「ボクは魔法カード〈ギャンビットドロー〉を発動! 場の〈ディフェンダー・コング〉を破壊して、デッキから2枚ドローだ!」
半蔵:手札3枚→5枚
「続けてボクは〈メカゴブリン〉と〈ギアバーサーカー〉を召喚!」
半蔵の場に召喚されたのは、機械のゴブリンと機械の鬼。
どちらも放っておくと厄介なモンスターだ。
というか【機械】デッキ特有の攻撃的な布陣が完成してしまっているな。
「アタックフェイズ! この瞬間〈アヴァランチ〉の効果発動! 手札を1枚捨てる事で、ボクの場の系統:〈機械〉を持つモンスターは全て【オーバーロード】状態になる!」
出たな脳筋効果! だがその程度でウチの妹を倒そうなどとは思うなよ!
半蔵:手札3枚→2枚
〈【重装将軍】アヴァランチ〉P15000→P30000 ヒット4→8
〈メカゴブリン〉P6000→P12000 ヒット1→2
〈ギアバーサーカー〉P5000→P10000 ヒット1→2
大幅なパワー強化とヒット上昇。
流石にこれを見た小学生2人とアイは驚いていた。
まぁ俺やソラはもう見たことある光景なんだけどな。
「行けぇ〈メカゴブリン〉で攻撃だ! 更に〈ギアバーサーカー〉の効果発動! 相手は必ずボクの機械モンスターの攻撃をブロックしなくてはならない!」
「面倒くさ……〈ポイズンサーペント〉でブロック」
強化されたメカゴブリンの攻撃を食らったポイズンサーペント。
無残にも破壊されてしまう。
だがこれでは終わらない。
「この瞬間〈メカゴブリン〉の効果発動! 戦闘で相手モンスターを破壊したことで、相手に2点のダメージを与える!」
卯月:ライフ9→7
メカゴブリンのバーン効果を受けた卯月だが、まだ余裕そうだ。
問題は次の攻撃だな。
「残りライフを全部削ってあげるよぉ! 〈アヴァランチ〉で攻撃だぁ!」
大槍を持って襲い掛かるアヴァランチ。
現在アヴァランチのヒットは8で卯月のライフは7。
更にアヴァランチには【貫通】の効果がある。
このままブロックすれば卯月の負けだが……どすする?
「はぁ……魔法カード〈槍砕き!〉を発動」
卯月が1枚のカードを仮想モニターに投げ入れると、アヴァランチの大槍は粉々に砕けてしまった。
「〈槍砕き!〉の効果で、このターンアタシは【貫通】ではダメージを受けない」
「なんだって!?」
「だからさ、その粗末な槍さっさとしまってくれる?」
卯月さんや、それは一部のマニアに興奮されるセリフだからオススメはしないぞ。
見ろ半蔵を! 顔を赤らめているじゃないか!
あんな変態、お兄ちゃんは認めませんからね!
「くっ! だけど強制ブロックは有効だー!」
「じゃあ〈ナーガウィザード〉でブロック」
普通にアヴァランチの拳に潰されるナーガウィザード。
だがダメージは発生しない。
「〈ギアバーサーカー〉続けぇ!」
「ライフで受ける」
卯月:ライフ7→5
うん。とりあえずこのターンは上手く凌いだな。
半蔵は決めきれなかったせいか、心底悔しそうだ。
「ターンエンド!」
半蔵:ライフ10 手札2枚
場:〈【重装将軍】アヴァランチ〉〈メカゴブリン〉〈ギアバーサーカー〉
さてさて。ターンは回って来たけど、卯月のピンチに変わりはない。
プランBをしようにも、今の卯月は進化条件をそもそも満たしていない。
この状況をどうやって切り抜けるのか、見せてもらおうか我が妹よ!
「アタシのターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」
卯月:手札2枚→3枚
「メインフェイズ。魔法カード〈リセットドロー〉を発動」
なるほど。そのカードを使うのか。
「このカードの効果で、お互いに手札を全て捨てて、その後捨てた枚数+1枚だけデッキからドローをする」
「それだとボクの手札が増えちゃうけど?」
「問題ない。別に興味ないから」
卯月と半蔵はお互いに手札を捨てて、カードをドローした。
卯月手札0枚→3枚
半蔵:手札2枚→3枚
ドローしたカードを確認する卯月。
小さく頷いたのを見た俺は、卯月の墓地の枚数を確認した。
卯月:墓地6枚
なるほどねぇ。
「アタシは魔法カード〈ザ・ナーガゲート〉を発動。コストでデッキを上から5枚墓地に送る」
卯月:墓地6枚→11枚
「〈ザ・ナーガゲート〉の効果で、デッキから系統:〈
ここであのカードを手札に加えなかった……ということは卯月、もう手札に持ってるな?
「〈トラップスネーク〉を召喚」
1体の小さな蛇が召喚される。
だがそれ自体が戦うことは無い。
あの蛇は、進化素材だ。
「進化条件は、墓地にカードが10枚以上あるプレイヤーが存在すること!」
卯月は1枚のカードを、仮想モニターに投げ込んだ。
「アタシは系統:〈蛇竜〉を持つモンスター〈トラップスネーク〉を進化!」
トラップスネークの身体が黒い魔法陣に飲み込まれていく。
「影の国より来りて、咎人を牢獄に堕とせ! 蛇竜の帝!」
魔法陣が弾け飛び、中から巨大な蛇の皇帝が姿を見せた。
「進化召喚! 来て〈【
戦場に君臨したのは、八つの首を持つ蛇の皇帝。
黒い鱗が邪悪さを演出している。
しかし問題はそのステータスだ。
〈【蛇影竜帝】ミドガルズ・オロチドラゴン〉P9000 ヒット0
「「「えっ?」」」
小学生3人が素っ頓狂な声を上げる。
まぁ無理もない。ミドガルズ・オロチドラゴンのパワーは高くない。
ヒットに至っては0だ。
とても【機械】デッキに対抗できるカードには見えない。
「卯月ちゃん! そのカードで本当に勝てるの!?」
「大丈夫。これSRだし」
「大丈夫だよ智代ちゃん。あれ強いから」
俺が言うと納得したのか、とりあえず静かになる智代ちゃん。
そして半蔵とかいう小僧よ。ここからがお前の地獄だ。
「ターンエンド」
卯月:ライフ5 手札1枚
場:〈【蛇影竜帝】ミドガルズ・オロチドラゴン〉
攻撃など何もせずにターンを終える卯月。
一見すると勝負を投げたようにも見えるかもだが……あれで正解だ。
余計な攻撃は、するものじゃない。
「ふふふ。どうやらようやくボクのお嫁さんになる気になったみたいだね」
「寝言は死んでから言って」
「照れないでくれ。ボクが一瞬で終わらせるから」
何度も言うが、あの半蔵とかいう小僧のポジティブが気持ち悪い。
「ボクのターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ」
半蔵:手札3枚→4枚
「メインフェイズ! まずはそのSRカードから消えてもらおうか! 魔法カード〈斬撃歯車!〉を発動!」
巨大な歯車が、高速回転しながらオロチドラゴンに放たれる。
「自分の場に系統:〈機械〉を持つモンスターが存在する時、このカードは相手モンスター1体を破壊する事ができる!」
歯車は急接近し、オロチドラゴンの首を切り裂く……ことは無かった。
まるで影のように、オロチドラゴンの身体を歯車はすり抜けていく。
それを見た半蔵は「えっ!」と声を上げた。
「〈ミドガルズ・オロチドラゴン〉の効果発動。このカードが相手によって破壊される場合、代わりに【溶解:8】を行う」
「は、破壊を防いだだけじゃなく、8枚もデッキ破壊だと!?」
オロチドラゴンが口の中に毒液を溜め始める。
これをぶつける事で、デッキを破壊するのだ。
だがここで舞ちゃんが声を上げる。
「ダメだよ卯月ちゃん! 半蔵はデッキ破壊を無効にするカードをもってるんだよ!」
「そっそうだ。どんなデッキ破壊が来ても、ボクの敵じゃない!」
なんとか自信を取り戻して、偉そうに叫ぶ半蔵。
だが残念だな。もうお前がどうこうできる領域は終わってるんだよ。
「なに勘違いしてるの?」
「ひょ?」
「誰がアンタのデッキを破壊するって言ったの?」
「いやいや、そもそも【溶解】は相手のデッキを破壊する能力」
「〈ミドガルズ・オロチドラゴン〉の効果。このカードが場に存在する限り、アタシが発動した【溶解】は、アタシのデッキを破壊する」
自分のデッキを破壊する。
その言葉が聞こえた瞬間、小学生組だけではなく、ソラ達も驚いた。
「えっ、自分のデッキって破壊して大丈夫なんですか!?」
「大丈夫じゃないな」
「じゃあなんで卯月ちゃんは」
「まぁ見てなって。めっちゃ驚く事になるから」
俺はとりあえずソラの視線を戦っている2人に戻す。
「自分からまけてくれるのか……そんなにボクの魅力に気づいたのかい?」
「吐き気がする」
「照れるなって。ならお望み通り、デッキアウトで負けさせてあげるよ!」
ウッキウキだな半蔵よ。
ちなみに卯月のデッキは……残り16枚か。
「アタックフェイズ! 〈アヴァランチ〉の効果発動! 全員【オーバーロード】だぁ!」
半蔵::手札2枚→1枚
〈【重装将軍】アヴァランチ〉P15000→P30000 ヒット4→8
〈メカゴブリン〉P6000→P12000 ヒット1→2
〈ギアバーサーカー〉P5000→P10000 ヒット1→2
「行けぇ! 〈アヴァランチ〉で攻撃だぁ!」
「その瞬間。手札から〈バリアスネーク〉の効果を発動!」
「手札から発動するモンスター効果だと!?」
驚く半蔵。あぁ、そういえばまだ珍しい時代だったな。
「自分のライフが5以下で、相手モンスターが攻撃した時、このカードを召喚できる」
卯月の場に、首からバリアを展開した蛇が召喚された。
〈バリアスネーク〉P1000 ヒット0
勿論だが、召喚だけで終わるはずがない。
「〈バリアスネーク〉が効果で召喚された時、次にアタシが受けるダメージは0になる」
「なんだって! それじゃあ」
「【貫通】のダメージは受けない。更に追加効果で【溶解:4】を発動!」
バリアスネークの毒が放たれるが……オロチドラゴンの効果で、破壊されるのは卯月のデッキだ。
卯月:残りデッキ12枚
「で、その〈アヴァランチ〉の攻撃は〈ミドガルズ・オロチドラゴン〉でブロック」
重装将軍が無数の武器をオロチドラゴンに投げつけるが、その全てがすり抜けてしまう。
全て無駄に終わったように見えるが、オロチドラゴンの仕事はここからだ。
「破壊を無効にして【溶解:8】を発動」
再び卯月のデッキが破壊される。
卯月;残りデッキ4枚。
遂に卯月のデッキも残り一桁となった。
みんな卯月のピンチを確信している。
「……せっかくだ。デッキアウトで負けさせてあげるよ。ターンエンドだ!」
半蔵:ライフ10 手札0枚
場:〈【重装将軍】アヴァランチ〉〈メカゴブリン〉〈ギアバーサーカー〉
あーあ、余裕ぶってターンエンドしやがったよ。
半蔵のライフは10、場は強力なモンスター3体。
対して卯月はライフ5で、場にはオロチドラゴンとバリアスネークのみ。
まぁ普通に考えればヤベー状況だな。卯月のデッキも4枚しかないし。
問題は……次のドローだな。
次に何を引くかで、全てが決まる。
「アタシのターン。スタートフェイズ。」
卯月はデッキに手をかける。
「ドローフェイズ!」
卯月:0枚→1枚
ドローしたカードを確認した卯月は、小さく笑みを浮かべた。
これは……終わるな。
「メインフェイズ。アタシは〈ポイズンサーペント〉を召喚」
お馴染みの蛇が召喚される。
勿論【溶解】持ちだ。
「〈ポイズンサーペント〉の召喚時効果、【溶解:3】を発動!」
ポイズンサーペントの毒が、卯月のデッキを破壊する。
最初のドローで1枚。そして今3枚を破壊された事で、卯月のデッキは……
卯月:残りデッキ0枚
デッキアウトだ。
卯月を心底心配していた舞ちゃんと智代ちゃんは、悲しそうな顔になる。
「卯月ちゃん……」
「デッキアウトになっちゃった」
ソラも俺の隣で泣きそうな顔になっている。
「……終わっちゃいましたね」
「あぁ。終わりだな……卯月の勝ちで」
「「「えっ?」」」
まぁびっくりするだろうな。
アレはそういうカードだ。
俺は無言で卯月の場を指さす。
「見てればわかる」
そんな俺の声が聞こえてないのか、半蔵は勝利を確信して高笑いをしていた。
「ハーッハッハ! これでデッキアウト! ボクの勝ちだぁ!」
「本当にそう思う?」
「次の君のスタートフェイズで、ボクの勝ち。それが事実だよ」
「じゃあ試してみる? アタシがわざわざ自分のデッキを破壊した意味を」
「なに?」
卯月が不敵な笑みを浮かべている……というか目だけ笑ってない。
完全にヤる奴の目つきだ。
まぁこの後、半蔵とかいう小僧を始末するんだけどな。
「エンドフェイズ……」
「ボクのターンだね」
「違う。もうアンタのターンは来ない」
「ひょ?」
「この瞬間〈ミドガルズ・オロチドラゴン〉の専用能力【
瞬間、半蔵の足元に無数の黒い魔法陣が出現した。
魔法陣から漆黒の影で出来た蛇の首が伸びてくる。
「エンドフェイズ開始時に、アタシのデッキが0枚なら……【影牢】の効果でアタシはゲームに勝利する」
「な、なんだってー!?」
仰天する半蔵。
それは他の者達も同様だった。
まぁ珍しい能力だからね……特殊勝利ってやつはさ。
「あっ……あぁ、ボクが、負ける?」
魔法陣から出現した蛇達は、一斉に半蔵に狙いを定める。
もう逃げられない。というか半蔵視点だと怖いだろうな、アレ。
「嫌だ嫌だ嫌だ。ボクがここで負けるなんて!」
「影の底で黙るって事を勉強してきて」
「嫌だぁぁぁぁぁぁ!!!」
泣き叫ぶ半蔵。だがもう容赦は無い。
「影の底、闇の中で反省しなさい! ワールドエンドシャドウ!」
「助けて兄様ぁぁぁぁぁぁ!!!」
影の蛇が一斉に半蔵に食らいつき、その全身影の塊に飲みこんでしまった。
あぁ……流石に絵面が怖いな。
みんな黙り込んでるし。
「あーあ、面倒くさかった」
半蔵:効果により敗北。
卯月:WIN
ファイト終了のブザーが鳴り、立体映像が消えていく。
実際に影に飲まれたわけでは無い半蔵だが……失禁しながら気絶していた。放置しておくか。どうせさっきの運転手が回収するだろう。
それはそれとして。
「卯月ちゃーん!」
「卯月ちゃん!」
「ちょっ! 舞、智代、抱きつかないで!」
「だって負けちゃうかと思ったんだもーん!」
「そうだよー! 心配したんだからね!」
卯月は友人2人に揉みくちゃにされている。
まぁあっちはあっちに任せるか。
女子小学生の対応は女子小学生が適任だ。
で、俺はと言うと……
「な? 卯月勝っただろ」
「そ、そうですね……」
「流石は……天川の妹だな」
「お前らなんか引いてないか?」
もしかして卯月を育てたの俺だと思ってる!?
……大正解だよ。
「ねぇツルギ」
「アイ」
「卯月ちゃんの嫁入りについて、真面目に考えた方が良いわよ」
「えっ、もしかして不味い?」
「男が逃げかねないわね」
……その案件は後回しにしよう!
俺は少し現実から逃げながら、自宅に戻るのだった。
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