第五十九話:クリスマスには運命の出会いを
二学期の終業式も終わって、今日はクリスマス。
街にはカップルが溢れかえる悪魔の行事です。
サモン脳な世界でもクリスマスは変わらなかった! くそったれ!
だが今年の俺はリア充だぞ。何故ならチームメイトが構ってくれるからだ!
……そう思ってた時期が、俺にもありました。
ソラは外せない用事。
アイはクリスマスパーティーと言う名の、うるさく言ってくる親戚をしばく会なんだとか。
つまり俺は家を追い出されて、雪の降る中絶賛一人である!
泣いていい?
だがこうなったのも何かの運命。一流の男はどんな状況も楽しむものなのだ。
というわけで俺は電車に乗って3駅ほど移動。
年明けには入試を受けに行く町、
とは言っても別に高校の下見に行くわけではない。
赤土町にはもう一つ見所があるのだ。
駅から出て、俺は町を歩く。
流石はクリスマス、人が多い。というかカップルが多い。
あーあ、全員1killできねーかなー。
まぁ半分冗談なんだけど。
街頭テレビには、クリスマス特番が流れている。
どれもこれもサモン関係ばかりだ。
改めて異世界に転移したんだなという実感が湧いてくる。
JMSカップではとうとうアニメのキャラクターに出会ったし。そろそろ主人公にも会えたりしてな。
「ん?」
俺は何気なく見ていた街頭テレビに映ったニュースが気になった。
『サーガタワーで起きた爆発事故から今日で四年が経過しました』
爆発事故? この世界ではそんな歴史があったのか。
ちなみにサーガタワーというのは今日の目的地。
高さ650メートル。UFコーポレーションが運営している、召喚器のマザーコンピューター兼電波塔だ。
世界各地に召喚器用の電波塔はあるけど、ここ赤土町にあるやつが中核を担っている。
「アニメでも散々映ってたタワーだからな~、一回くらいじっくり見たいもんだよ」
冷える手をポケットに入れてから、俺は目的地に向かって歩き出した。
とは言っても、もう既に見えてるんだけどな。流石はデカいタワーだ。
クリスマスらしいイルミネーションや曲を素通りして、俺は遂に目的地に着いた。
「おぉ、これがサーガタワー」
現在タワーの足元にいるが、最上部は全く見えない。
ここからサモンファイトに必要なデータが送信されているのだ。
他にもサモン関係の研究所も兼ねているらしい。
うーん、アニメの聖地巡礼に来た気分だ。感動的だな。
そうやって俺が感動していると、何やら見覚えののある後ろ姿が目に入った。
白い髪にちっさい身体。うん、間違いない。
「ソラじゃん」
「えっ、ツルギくん!?」
声をかけたら滅茶苦茶驚かれた。
俺そんなに怖いか?
「というかソラ、今日は用事があったんじゃ」
「……はい。ここに用があったんです」
少し暗い雰囲気で、ソラはサーガタワーを見上げる。
ふと、俺の脳裏には先程のニュースが浮かんでいた。
「私のお父さん、ここで亡くなったんです」
「もしかして……四年前の爆発事故か?」
頷くソラ。なるほどな、今日が命日だったわけか。
ソラは召喚器から1枚のカードを取り出す。
エオストーレのカードだ。
「爆発事故……と言っていいのか、今でもわからないです。ただ私は……このカードを使ってお父さんとファイトをしたくて」
ソラは当時の事をポツリポツリ語る。
四年前。エオストーレを受け取ったソラは、それでお父さんとファイトしたくてサーガタワーの研究室を訪れたらしい。
しかし直後に爆発音。
ソラが研究室を覗いた時には、ソラのお父さんには巨大な鉄の破片が刺さっていたらしい。
「そこから先のことは、ショックで覚えてないんです。次に目が覚めた時には、病院のベッドの上でした」
「そうなのか……」
俺もソラと一緒にタワーを見上げる。
果てが雲に隠れて見えないサーガタワー。
だがここで終わってしまった物語もあるのだ。
ふと、ソラは俺の手を掴んでくる。
「ツルギくんは……いなくなったり、しないでくださいね」
「……いなくならねーよ。そんなつもりも無いし」
なにより俺は……
「残された人間の辛さは、痛いくらい知ってるからな」
「ツルギくん?」
「俺の家もさ父親がいないわけなんだけど……正直に言ってしまえば、ある日いきなり消えたんだ」
「えっ」
とは言っても前の世界での話なんだけどな。
「卯月が一歳になった頃だ。ある日突然、父さんは行方不明になったんだ」
勿論だけど警察に届出は出した。
だがいまだに見つかっていない。
法律上、既に死亡扱いになっている。
「だから残された人間の気持ちはわかる。俺は急に消えたりしないから、安心しろ」
「ツルギくん……だったら、安心ですね」
手を握る力が少し強くなるソラ。
というかどさくさに紛れて手を握ってしまったが、大丈夫なのだろうか?
「絶対、いっしょの学校に行きましょうね」
「あぁ。絶対に俺がソラ達を強くする」
「ツルギくんが言うと、なんだかとんでもない事になりそうです」
「その方が安心できるだろ……ところでソラ」
「はい、なんでしょう?」
「この手はいつまで握っていればいいんだ?」
ソラは「へ?」と声を出した後、自分の手を見る。
するとソラの顔は見る見る赤く染まっていった。
「ひゃわわわわ!? こ、これは違うんです! 別に何か深い意味があるわけでは!」
「落ち着けソラ。カオスな事になってる」
「私ごときが手を繋ぐなんてぇ! 本当にごめんなさい!」
「自己評価低いなオイ! 大丈夫だって、嫌ではなかったから」
むしろなんかドキドキしてました。
女の子の手って、柔らかいのね。
結局その後ソラを宥めるのに数十分かかるのだった。
◆
サーガタワーや赤土町を軽く観光して時間潰した俺。
夕方近づいてきたので、電車に乗り、家に帰るのだった。
ちなみにソラとは途中で別れた。
「いやぁ〜流石はサーガタワー。迫力あったな」
とはいえ、あそこで事故があったのも事実なんだけどな。
もう夕方だし、卯月の友達も帰っている頃だろう。
今日の晩飯レシピはどうするかな〜。
俺がそんな事考えていると……
「ん? なんだあれ」
家の隣に大きなトラックが一台。
引っ越し業者のようだ。
「そういえばお隣は空き家だったな」
まぁそのうち挨拶に来るだろう。
そう考えて家に戻ろうとした次の瞬間であった。
「っ!?」
俺の視界に、見覚えのあるシルエットが入ってきた。
思わず足を止めてしまう。
いやまさか、そんな事がありえるのか?
引っ越し業者荷物を運び込んでいる間、唇を突き出して暇そうにしている女の子が一人。
赤みがかったショートヘアーに、ハーフパンツを履いているので、どこかボーイッシュな雰囲気もある。
年齢は今の俺と同じくらいだ。
俺はその女の子注視する……うん、間違いない。
「マジかよ」
俺が驚きのあまり小さくそう零していると、女の子の方からこちらに近づいてきた。
「ねぇねぇ! 君もしかしてご近所さん?」
「あぁ……お隣さんだ」
「やったー! ねぇサモンはやってるよね!?」
「やってる。この前JMSカップでも優勝した」
「えぇ!? 言われてみれば、テレビで見たことある顔のようにも……ふわぁ、すっごい強いお隣さんだぁ〜」
天真爛漫を絵にしたような、爽やかな雰囲気の女の子、
そしてなにより、サモンを心から愛している。
「あっ、そういえば自己紹介がまだだったね」
自己紹介しようとする女の子。
だけど俺は知っている。
君の事を、よく知っているんだ。
だって君は……
「アタシは
「ツルギ……
「ツルギくんか〜、これからよろしくね!」
武井藍……アニメ『モンスター・サモナー』の主人公。
俺はその主人公と握手を交わしたのだった。
そうか……つまり来年は、アニメの物語が始まる年なんだな。
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