第五十七話:デッキ破壊封印!?
近所の公園に移動した俺達。
卯月と半蔵は既に召喚器を向かい合わせていた。
「「ターゲットロック!」」
二台の召喚器が無線接続する。
というか卯月の苛々が滅茶苦茶伝わってくるんだが。
これは早々に終わらされるかもしれないな。
「ふふふ。今日こそボクのものになってもらうよ」
「とりあえずその口閉じてくれない? 耳障りなの」
「ボクはツンデレも大好きさぁ!」
「黙れ」
あの半蔵とかいう小僧、ポジティブが明後日の方向に飛んでいるな。
なんか気に入らないから早々にデッキ破壊してもらおう。
「やっちゃえ卯月ちゃーん!」
「ストーカーに屈しちゃダメ!」
舞ちゃんと智代ちゃんも声援を送ってる。
ここは兄もエールを送ろうではないか。
「卯月ー! そんな馬の骨、さっさとデッキアウトしちまえー!」
「お兄は黙ってて」
酷い塩対応だ。兄は泣くぞ。
「さぁ、始めようか」
「速攻で壊してあげる」
二人が初期手札5枚を手に取った。
「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」
コンピューターが先攻後攻を決める。
先攻は半蔵だな。
「ボクのターン! スタートフェイズ。メインフェイズ!」
そういえば借りてきたデッキとか言ってたけど。
どんなデッキで挑む気なんだ?
「ボクは〈ディフェンダー・コング〉を召喚!」
半蔵の場に、機械で出来たゴリラが召喚される。
あぁ……どうりで苗字に覚えがあるはずだ。
〈ディフェンダー・コング〉P8000 ヒット0
「財前ってアレか。東校のチンピラのボスやってた奴」
「そういえばそんな男もいたな」
「ツルギくんのチュートリアル相手でしたっけ?」
ようやく思い出した。
余談だけど東校から奪われたものは、あの後ちゃーんと俺が殴り込みにいって全部回収しきった。
略奪なんでダメ、絶対。
「続けてボクは、デッキを上から8枚除外して〈ディフェンダー・マンモス〉を召喚だ!」
デッキを犠牲に召喚されたのは、巨大な機械のマンモス。
うん。君相手がデッキ破壊だってわかってるよね?
なんでそんなカード使ったんだ?
〈ディフェンダー・マンモス〉P10000 ヒット0
「更に! 召喚コストで除外された〈ギフトキャリアー〉の効果発動! デッキからカードを1枚ドローする」
半蔵:手札3枚→4枚
あーあー、またデッキ削ってるよ。
そりゃ卯月に負けますわ。
というか兄の方が強いんじゃねーの?
「ボクはこれでターンエンドだ」
半蔵:ライフ10 手札4枚
場:〈ディフェンダー・コング〉〈ディフェンダー・マンモス〉
ヘイ小僧よ。自信満々にターンエンドしてるけど、そんなブロッカー程度で卯月は止められないぞ。
「アタシのターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」
卯月:手札5枚→6枚
さぁ卯月よ。やっておしまいなさい。
「メインフェイズ。アタシは〈ナーガウィザード〉と〈ポイズンサーペント〉を召喚」
卯月の場に召喚されたのは2体の蛇。
さぁ始まるそ。卯月のデッキ破壊が。
「〈ポイズンサーペント〉の召喚時効果、【溶解:3】を発動」
【溶解】の効果で半蔵のデッキが上から墓地に送られる。
更にナーガウィザードの効果によって、破棄枚数は1枚プラスの合計4枚だ。
「ふふふ」
デッキ破壊を受けても、半蔵は不敵な笑みを浮かべるばかり。
デッキ破壊を食らいすぎて、おかしくなってるのか?
「半蔵、気持ち悪い」
「何度でも言ってくれたまえ」
「やっぱ早急に始末する。アタシはライフを1点払って〈ナーガナイト〉を召喚」
卯月の場に召喚された3体目の蛇竜。
それは騎士の装備をした蛇であった。剣も持っている。
〈ナーガナイト〉P5000 ヒット1
「アタックフェイズ。〈ナーガナイト〉で攻撃」
剣に自分の毒を吹きかけるナーガナイト。
アイツの能力は攻撃時に発動する。
「攻撃時効果【溶解:3】を発動。〈ナーガウィザード〉の効果も合わせて、デッキを上から4枚破棄」
毒を含んだ斬撃が、半蔵のデッキに襲い掛かる。
だが半蔵は余裕顔だ。不気味にさえ感じる。
4枚のカードが半蔵のデッキから墓地に送られ……
「っ! おいちょっと待て!」
今ヤベェカードが見えた気がしたぞ!
半蔵の笑みも露骨なものになっている。
これは……間違いない。
「ハーハッハ! ボクはこの瞬間、デッキから墓地に送られた魔法カード〈ブレインリセット〉の効果を発動!」
「そのカードって……たしか」
卯月も露骨に嫌な顔をする。
それは俺も同じだったが、他の面々はわかっていないようだった。
「ツルギくん、あの魔法カードを知ってるんですか?」
「知ってる。ある意味最悪のカードだ」
俺はソラに「見てればわかる」と言っておく。
「〈ブレインリセット〉がデッキから墓地に送られた時! 〈ブレインリセット〉を含む僕の墓地に存在するカードは全てデッキに戻る!」
半蔵の墓地のカードは全てデッキに戻り、シャッフルされる。
その光景を見た舞ちゃんと智代ちゃんは驚愕の声を上げた。
「えっ!? 魔法カードも戻っちゃったよ!?」
「これじゃあ卯月ちゃんのデッキ破壊は」
「あぁ。完全に封印された」
俺が最悪のカードと表現した理由を、ようやくソラや速水も理解したようだ。
アイも露骨に嫌な顔をしている。
「あの半蔵とかいうガキ、やりやがったな」
「告白ファイトでピンポイントメタカードを使うのって……流石に」
「男の俺でも引くな」
「私なら今頃ビンタしてるわね」
メタカードを悪いとは言わないけど……この状況で使いのは流石に引く。
卯月も完全に呆れた顔で半蔵を見ていた。
うん。告白ファイトでピンポイントメタカードを使う男なんて、お兄ちゃんは許しませんよ!
「はぁ……呆れた」
「勝者が正義だと、兄様から教えられてるんでね。その攻撃は〈ディフェンダー・コング〉でブロックだ」
メカゴリラの拳に潰されて、爆散するナーガナイト。
蛇竜のモンスターは基本的にパワーが高くないのが弱点なんだよな。
「ブロックで相手モンスターを破壊した事で〈ディフェンダー・コング〉は回復する」
「……ターンエンド」
卯月:ライフ9 手札3枚
場:〈ポイズンサーペント〉〈ナーガウィザード〉
俺の近くで舞ちゃんと智代ちゃんが不安そうな表情を浮かべている。
「せんせぇ! 卯月ちゃん負けちゃうかも」
「デッキ破壊ができないと、卯月ちゃんなにもできないよ」
「大丈夫だって」
「本当に大丈夫なんですか?」
ソラも聞いてくる。だが俺の答えは変わらない。
「大丈夫だよ……卯月は俺の妹だぞ?」
「ツルギが言うと、説得力がスゴいわね」
なんか引っかかるが、まぁいいだろう。
実際卯月は諦めている様子は無い。
どちらかと言うと、心底面倒くさそうなだけだ。
「舞ちゃんと智代ちゃんも、静かに卯月を見守ってくれ」
「せんせぇ」
「でも……」
「大丈夫だ。見てれば分かる」
そう、見てれば卯月が諦めない理由が分かる。
デッキ破壊なんてメタが容易に思い浮かぶ戦法を使う卯月だ、メタのメタを想定していないわけがない。
「もしかしたら初お披露目になるかもな……」
卯月のプランB……2枚目の切り札が。
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