第五十六話:卯月のモテ期?

 季節は進んで、今11月。

 秋も終わりが見えて、肌寒さを感じてくるわけだけど。

 俺達チーム:ゼラニウムは絶賛受験勉強の詰めに入っていた。

 今日も俺の家に集まって受験勉強中。


「なぁ速水はやみ……英語教えて」

天川てんかわ、いい加減英語を克服しろ」

「ツルギ、本当に英語苦手なのね」

「神は二物を与えないって、きっとこの事なんですね」


 ソラさん。その言葉は俺の心に刺さります。

 だってサモンに関しては殆どチートみたいなもんだもん!


 俺達が机を囲んで勉強していると、インターホンが鳴った。


「誰か来たのか?」


 俺が玄関に行こうとすると、先に卯月うづきが駆けて行った。

 あぁなるほど。卯月の友達か。


「いらっしゃい」

「卯月ちゃんこんちゃー!」

「こんにちは卯月ちゃん」


 予想通りの来客。

 卯月の友達であるまいちゃんと智代ちよちゃんだ。

 さしずめ一緒に宿題する約束でもしたんだろう。

 ……卯月だけ学力高くね? 元は女子高生よ。


「ねぇおにい。テーブル半分使っていい?」

「あぁ俺は良いぞ」


 他の皆もOKを出してくれたので、合計7人で勉強を始めた。

 うーん、賑やかだな。


「天川せんせぇ、なにやってるのー?」

「英語とかいう悪魔の教科だよ、舞ちゃん」


 なぜ世界は言語を統一してくれないのか。理解に苦しむ。


「お兄、まだ英語苦手なの?」

「先生にも苦手なものってあるんだね」

「君らも来年にはこの悪魔に苦しむ事になるんだぞ、小学6年生よ」


 勉強が苦手らしい舞ちゃんは「ひゃー」と声を上げている。

 対する智代ちゃんは結構余裕顔だ。真面目に勉強しているんだろうな。

 卯月は……邪悪なドヤ顔を俺に向けている。


「お兄、そこスペル間違えてる」

「え?」

Sit座るじゃなくてShitうんこになってる」

「クソったれ!」

「漏らしてるのはお兄の答えだけどね」

 

 これは恥ずかしいな。

 だが卯月よ、そんな間違いはこっそり教えてくれ。

 見てみろソラ達を。必死に笑いを堪えてるぞ!


「卯月ちゃん、英語得意なんだ」

「あぁ……うん、興味があって、自分で勉強した」

「卯月ちゃんすごいねー!」


 はぐらかすように答える卯月。

 まぁ英語は得意だろうよ、元英語科の女子高生。


「そういえば、妹ちゃんもやっぱりサモンは強いのかしら?」


 ふと、アイが疑問を口にする。

 そういえばアイは卯月のファイト見た事ないんだったな。

 あとソラ、露骨に震えてるんですが……そんなにトラウマなのか?


「卯月ちゃんはねー! すっごく強いんだよー!」

「卯月ちゃんが負けてるところなんて、一度も見たことないもん」

「ちょ! 舞、智代」


 顔を赤らめる卯月。これは相当暴れたな。


「兄として是非とも聞きたいな。妹の武勇伝」

「お兄! 余計なこと言わないで」


 お前も色々暴露されてしまえ。


「卯月ちゃんはいつも冷静にファイトをしてて、誰にも負けない強い子なんですよ」

「意地悪な子もいじめっ子もみーんなデッキ破壊するの!」

「……流石はツルギの妹ね……デッキ破壊」


 アイが露骨に引いている。

 そんなに恐ろしいか? デッキ破壊。


「卯月ちゃんはクールでかっこよくて。みんなの人気者なんです」

「ふたつ名? ってのもついたんだよー!」

「舞ちゃん、それ詳しく教えて」


 俺は必死に笑いを堪えながら、掘り下げる。

 だって二つ名よ二つ名。聞きたいに決まってるじゃん。


「舞、智代……流石にその辺で」

「卯月ちゃんのふたつ名はねー!」

蛇姫へびひめっていうんです。蛇姫の卯月ちゃん」


 俺は盛大に吹き出した。

 これは我慢できんわ!


「蛇姫! いいじゃないか! カッコいい二つ名じゃんか!」

「笑うなお兄!」


 顔を真っ赤にして抗議する卯月。

 だが残念。俺は笑うぞ。

 その厨二感が凄まじい二つ名を笑い飛ばして、リベンジ決めてやるぞ!


 なお数秒後、俺の顔面には卯月の拳がめり込んでいた。


「大変申し訳ありませんでした。卯月様」

「わかればよろしい」

「ツルギくん、それ大丈夫なんですか? 目と鼻が見えなくなってますけど」


 大丈夫だ。どうせ数秒後には元に戻る。


「それにしても、蛇姫たぁ……大層な名前がついたな卯月」

「好きでつけられたわけじゃない」

「でも卯月ちゃん満更でもなさそうだけどね〜」

「智代!」


 うーん、流石は俺の妹。

 否定はしないか。


「いいなぁ二つ名。俺も欲しいよ」

「「「えっ?」」」

「え?」


 ゼラニウムの皆様、なんでそんな声出すの?


「ツルギくん、二つ名は色々ありますよね?」

「まさか知らなかったのか?」

「ツルギなら二つ名くらいついてるでしょ」


 待って、俺に二つ名とか初耳なんですけど。

 教えて教えて!


「殺戮兵器とか皆殺しとか」

「無慈悲とかキュップイ殺しもあるな」

「ツルギを表現する見事な言葉の数々ね」

「カッコよさが皆無じゃねーか!!!」


 なんだよその二つ名!

 恐怖心しか与えてないじゃないか!

 心当たりは……めっちゃあるけどさぁ!


「ププッ。お兄にはちょうどいいんじゃない?」

「笑うな卯月」


 兄は傷心だぞ。


「卯月ちゃんもせんせぇも暴れん坊だー!」

「舞、アタシとお兄を一緒にしないで」

「卯月ちゃん……十分暴れん坊だと思うよ」


 智代ちゃんが困り顔でそう言う。

 うーむ、ちょっと暴れすぎたかな。


「あとねせんせぇ! 卯月ちゃんはすっごくモテるんだよー!」

「なんですと?」


 それは聞き捨てならんな。

 俺は卯月の妨害を突破して、舞ちゃん智代ちゃんから話を聞く。


「卯月ちゃんサモンがすごく強くて、大人っぽいから、男の子からすごくモテるんです」

「最近いっつも告白されてるよー!」


 うーん、この流れには覚えがあるぞ。

 俺もサモンで大暴れしてたら女子から告白されたし。

 ……正確には告白サモンファイトなんだけど。

 俺普通に勝ったら、女子泣きながら去っていくなぁ。

 なんか最近はそういうの無くなったけど、なんでだろう?


「卯月ちゃん、告白サモンファイトでも容赦がなくて……」

「みーんなデッキ破壊しちゃってるよー!」

「卯月……お前」

「仕方ないじゃん。ガキっぽい男子しか来ないんだし」


 わーお、思春期女子のセリフ。

 負けた男子には数秒だけ同情してやろう。

 だがその後は俺がしばく。


「そういえば卯月ちゃん、昨日も告白されてたよね」

「いつものやつー?」

「あぁうん。あのしつこい奴ね」


 おやぁ? 何やら不穏なものが聞こえたぞ〜?


「卯月〜、しつこい虫がついてるのか?」

「ツルギくん、なんだか笑顔が怖くなってますよ」


 ソラさん。これが兄心です。


「せんせぇ! クラスメイトの半蔵はんぞうくんが卯月ちゃんにつきまとってまーす!」

「ほう、それがターゲットの名前か」

「先生? 顔が怖いです」


 覚えたぞ、半蔵だな。

 俺が始末しに行こう。


「お兄、余計な事しないでよね」

「いやいや。俺は卯月を思って」

「動くな。馬鹿兄」

「はい」


 でも無限ループするくらいは許してくれよ。


「半蔵くんって、昨日で何回目の告白だっけ?」

「5回目。全部潰してきたけど」

「卯月ちゃんさっすがー!」


 顔も知らぬ半蔵とかいう小僧よ。5回も負けたなら諦めろ。

 次は兄が直々に潰すぞ。


「卯月ちゃん、モテるんですね」

「兄としては複雑だけどな」

「ツルギはどうなの? あれだけ強いんだからモテるでしょう?」

「それがなアイ。意外とそうでもないんだ。最初の方は女子が告白しに来たけど、最近は何もない」


 本当になんでなんだろう?

 もしかして俺が不細工なのか?

 なんか悲しいなぁ。


赤翼あかばね……お前」

「ナンノコトデスカ? ワタシハナニモシリマセンヨ」


 ソラは何故か片言になっている。

 まぁそれはともかくとしてだ。

 卯月が2度目の小学校生活を満喫しているようで、兄はすごく安心した。


 さて、そろそろ勉強の続きしようか。

 いい加減この英語とかいう悪魔を倒さなくてはいけない。

 そう思って問題集のページをめくろうとした瞬間であった。


『蛇姫さーん!』


 なんか外が騒がしい。

 というか……


「卯月、なんか呼ばれてないか?」

「気のせいじゃない?」


『卯月さーん!』


「卯月。間違いなくお前だぞ」

「チッ」


 うーん、露骨に舌打ち。

 もう誰が来たか予想できたぞ〜。

 忌々しそうな顔を隠すこともせず、卯月は玄関に向かって歩いて行った。

 俺も心配なのでついていく。


「卯月さぁぁぁぁぁぁん!!!」

「うるさい!」


 玄関を開けるや、卯月はまずそう叫んだ。

 家の前には身なりの良い黒髪の……小学生。

 後ろには高そうな黒塗りの車もある。

 うーん、ボンボンの香りがする。


「卯月さん! ボクと付き合ってくれ!」

「冗談は顔だけにして」


 我が妹よ、カウンターが強烈過ぎるぞ。

 あとアイツそんなに不細工じゃないぞ。


「あー! やっぱり半蔵くんだー!」


 後ろから舞ちゃんが叫ぶ。

 なんだと? つまりあの小僧が。


「卯月、アイツが例の男か」

「うん。財前ざいぜん半蔵っていうクソ野郎」


 気のせいかな? なんか聞き覚えがある苗字な気がする。


「お前がウチの妹に付き纏ってる男子か」

「初めましてお義兄にい様。財前半蔵申します」

「貴様にお義兄様と呼ばれる筋合いは無い!!!」

「何やってんのお兄」


 ジト目で俺を睨む卯月。

 だってこのセリフ、一度言ってみたかったんだもん。


「卯月さん。今日こそボクと付き合ってもらうよ」

「無理」

「じゃあこうしよう。サモンファイトでボクが勝てば、付き合ってくれるという事で」


 そう言って半蔵は召喚器を取り出す。

 懲りない男だな。

 だがこういう野郎にはお灸必要だ。


「よーし。そのファイト俺がやってやろう。妹が欲しけりゃ兄を倒せ」

「お兄、下がってて」

「いやここは」

「アタシが始末するから、お兄は手を出さないで」


 卯月の目に殺意が宿っている。

 俺は大人しく下がることにした。だって怖いもん。


「アタシが勝ったら、もうウチにまで押しかけてこないで」

「いいだろう。今日は兄様からデッキを借りてきたんだ。必ず勝つ!」

「近くに公園があるから……そこで始末する」


 そう言うと卯月は召喚器片手に、公園へと歩いて行った。

 舞ちゃんと智代ちゃんも心配なのか、後ろついて行く。

 うーん、これは……


「なぁみんな、息抜きしようぜ。どうせすぐ終わるから」

「そうだな。そろそろ休憩必要な時間だ」

「私は……ツルギくんが行くなら」

「私は妹ちゃんのファイトに興味があるわ」


 よし、交渉成立だな。

 俺達は準備をして、近所の公園へと向かうのだった。


 どうでもいいけど、誰も卯月が負ける可能性を考えてなかったな。

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