第五十五話:蒸気竜王
残りライフは僅か3。
母さんの【炎獣】デッキの前ではほとんど無に等しい数値。
そんなピンチの状態で、
「俺のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ」
速水:手札3枚→4枚
「メインフェイズ。俺は魔法カード〈元素交換〉を発動します! 手札の系統:〈元素〉を持つカード〈スチーム・レックス〉と〈ファイアエレメント〉をデッキに戻して、カードを3枚ドロー!」
速水:手札1枚→4枚
なるほど。まずは手札交換で質を高めてきたか。
問題は今のドローで、速水が解答札を手にできたかなんだけど。
「よし! 俺は手札の魔法カード〈ウォーターエレメント〉を2枚使って【合成】!」
速水の場に青色の魔法陣が出現する。
どうやら上手くいったらしい。
「水の二重奏〈マリン・フタバ〉を合成召喚!」
魔法陣から大量の水が生まれ、一体の首長竜を構成していく。
現れたのは、身体が水で出来たフタバスズキリュウだ。
〈マリン・フタバ〉P8000 ヒット0
「〈マリン・フタバ〉が場に存在する限り、俺が受ける全てのダメージは1点減ります」
上手いな。これで母さんの炎獣から受けるダメージを大幅に減らせる。
問題は、速水のライフが残り少ない事だけど。
「続けて俺は〈ダイヤモンド・パキケファロ〉を召喚!」
速水の場に金剛石の頭を持つパキケファロサウルスが召喚された。
〈ダイヤモンド・パキケファロ〉P6000 ヒット2
「あら~、なんだか強そうな恐竜さん達ね~」
「いきます! アタックフェイズ。〈ダイヤモンド・パキケファロ〉で攻撃!」
速水の指示を受けたパキケファロが、母さんに向かって突撃する。
今母さんの場はがら空き。このままでは2点のダメージを受けてしまう。
だが母さんの表情は余裕そのものだ。
「え~っと。わたしの場にモンスターがいないから~、魔法カード〈ボンバーディフェンス!〉を発動~」
「〈ボンバーディフェンス!〉!?」
「わたしの墓地から、系統:〈炎獣〉を持つモンスターを3体まで復活させるわね~。みんな戻ってらっしゃい」
母さんの場に、先ほど墓地に送られた3体の炎獣が復活する。
〈タイガーボンバー〉P5000 ヒット1
〈パグボンバー〉P1000 ヒット1
〈ヒポポボンバー〉P10000 ヒット2
やよい:手札2枚→1枚
一度に3体もモンスター蘇生。流石にギャラリーやソラも驚きの声を上げる。
「1枚のカードで3体も蘇生できるんですか!?」
「その代わりこのターンの間、母さんは【爆炎】を使えないけどな」
「十分凶悪ですよ!」
俺の【爆炎】が使えないという言葉が聞こえたのか、速水は少し安堵の表情を浮かべる。
「じゃあ恐竜さんの攻撃は~〈ヒポポボンバー〉ちゃんでブロック」
パキケファロの攻撃を受け止めるヒポポボンバー。
パワーはヒポポボンバーの方が高いので、パキケファロは弾き飛ばされてしまう。
だが破壊はされない。
「〈ダイヤモンド・パキケファロ〉は、ターン中1度だけ戦闘では破壊されません」
「あら~そうなの~」
「……俺はこれでターンエンドです」
速水:ライフ3 手札1枚
場:〈ダイヤモンド・パキケファロ〉〈マリン・フタバ〉
流石にもう追撃できるカードはないか。
いや、そもそも迂闊に炎獣を破壊する事自体がマイナスになる。
速水の判断は正解だ。
問題は……次のターンを生き残れるかだな。
「わたしのターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」
やよい:手札1枚→2枚
「あらあら~。素敵な子が来てくれたわ~」
ドローしたカードを確認して、笑顔になる母さん。
あっ、これ速水負けたかもな。
「メインフェイズ。わたしは系統:〈炎獣〉を持つモンスター〈タイガーボンバー〉ちゃんを進化~」
タイガーボンバーが赤色の魔法陣に飲み込まれていく。
これは……来るぞ、前の世界では制限指定もくらった化物が!
「みんなで仲良く、ボンバーしちゃいましょ~! おいでなさい〈【
魔法陣が弾け飛び、中から炎のたてがみを持つ巨大な獅子が姿を現した。
これが【炎獣皇】レグルスボンバー。【炎獣】デッキの切り札だ。
『ガオォォォォォォォォォォン!!!』
〈【炎獣皇】レグルスボンバー〉P12000 ヒット3
「ツルギくん、ツルギくん! あのSRカードって」
「あぁ、母さんの切り札だ。これは流石に終わるかもしれないぞ」
「そんなぁ!?」
SRカードの登場に、ギャラリーも盛り上がっている。
まぁ対峙している速水は冷や汗かいてるけど。
「アタックフェイズ~。まずは〈パグボンバー〉ちゃんで攻撃~」
「その攻撃は……ライフで受けます!」
パグボンバーの体当たりが、速水にぶつかる。
しかしマリン・フタバの効果によって、速水の受けるダメージは1点減った。
「攻撃をしたから〈パグボンバー〉ちゃんは破壊。そして【爆炎】発動~」
パグボンバーの爆弾が、速水に襲い掛かる。
このダメージも1点軽減された。
速水:ライフ3→2
「次は〈ヒポポボンバー〉ちゃんで攻撃~」
ヒポポボンバーが速水に突進を仕掛ける。
不味いぞ。ヒット2のヒポポボンバーの攻撃を受けてもまだ大丈夫だけど、その後の【爆炎】を受けたら速水の負けだ。
さぁ速水、どうする!?
「魔法カード〈緊急合成!〉を発動!」
おっ、そう来たか。
あのカードは系統:〈元素〉が誇る制限カードだ。
速水のやつ、よく握ってたな。
「このカードは自分のライフが5以下の時、自分の墓地から系統:〈元素〉を持つモンスター1体を選択し、【合成】扱いで召喚する魔法カード!」
「あら~、なんだか強そうなカードね~」
「俺は墓地から〈ウォーター・プレシオン〉を【合成】扱いで召喚!」
速水の場に青色の魔法陣が出現する。
魔法陣の中から蘇生されたのは、身体が水で構成されたプレシオサウルスだ。
〈ウォーター・プレシオン〉P3000 ヒット1
「【合成】で召喚された〈ウォーター・プレシオン〉が存在する限り、俺の場のモンスターはパワー+2000となる」
〈ウォーター・プレシオン〉P3000→5000
〈マリン・フタバ〉P8000→10000
「更に! 〈ウォーター・プレシオン〉が合成召喚された場合、俺はカードを2枚ドローできる!」
速水は覚悟を決めた表情で、デッキに手をかける。
恐らくここで何か引かなければ、速水は確実に負ける。
「ドロー!」
速水:手札0枚→2枚
「よし! まずは〈ヒポポボンバー〉の攻撃を〈ウォーター・プレシオン〉でブロック!」
ヒポポボンバーの体当たりを食らって、ウォーター・プレシオンは爆散する。
だがこれで終わりではない。
ヒポポボンバーも自身の効果によって自爆した。
「破壊された〈ヒポポボンバー〉ちゃんの【爆炎:3】を発動~」
ヒポポボンバーの爆弾が、速水に襲い掛かる。
残りライフは2点。マリン・フタバでは軽減しきれないダメージだ。
「魔法カード〈シーエレメント〉を発動! 次に俺が受けるダメージを6点減らす!」
どこからか海水が溢れ出し、爆弾の導火線の火を消してしまった。
上手いぞ速水。だけどまだ母さんの場にはレグルスボンバーが残っている。
「それじゃあ次は~〈レグルスボンバー〉ちゃんで攻撃~」
獰猛な牙をむき出し、レグルスボンバーは速水に襲い掛かる。
これを受けたら強烈だぞ。
「その攻撃は〈マリン・フタバ〉でブロック!」
ここでマリン・フタバを捨てる選択をしたか。
とりあえず攻撃は止まったように見えるけど……
「ツルギくん……もしかして〈レグルスボンバー〉って」
「あぁ、想像通り【爆炎】持ちだ」
「やっぱり!?」
「それだけじゃない。〈レグルスボンバー〉は攻撃終了時に自爆して、このターン中に破壊された系統:〈炎獣〉を持つモンスターを可能な限り墓地から召喚する」
「それ強すぎませんか!?」
その通り、強すぎるんです。
仮にも環境トップの切り札ですよ。
さぁ速水よ、この攻撃はどうする?
「……この瞬間、俺は魔法カード〈エレメント・バックドロー〉を発動!」
「あら~?」
「〈エレメント・バックドロー〉は自分の場の【合成】によって召喚されたモンスターを1体デッキ戻す事で、ライフを1点回復し、デッキからカードを2枚ドローします!」
おっ、流石は速水だな。良いサクリファイスエスケープだ。
ブロック宣言をしているから、レグルスボンバーの攻撃自体はもう届かない。
問題はこの後の【爆炎】だな。
「……ドロー!」
速水:ライフ2→3 手札0枚→2枚
攻撃は凌いだ。だが攻撃が終わったという事は……
「攻撃が終わったから~〈レグルスボンバー〉ちゃんの効果発動~。破壊して【爆炎:3】を発動するわね」
ギャラリーから終わったという声が聞こえる。
レグルスボンバーは自爆し、巨大な爆弾が速水に襲い掛かった。
大きな音を立てて爆発する爆弾。
ステージ上は立体映像の煙で包まれていた。
「速水くん……負けちゃいました」
「……いや、まだだ」
「えっ?」
ソラが驚きの声を漏らす。
そう、まだ終わってない。
立体映像がまだ、消えてないんだ。
「あらあら~? まだ終わってないのかしら?」
「はい……その通りです」
煙が消えて、速水が出てくる。
その手には1枚の魔法カード。そして周りにはバリアが張られていた。
「【爆炎】が発動する瞬間、俺は魔法カード〈ファイナルセキュリティ!〉を発動しました」
オイオイオイ、かっこよすぎるだろ速水!
この土壇場で制限指定の防御魔法を発動だと!?
ワクワクするじゃねーか!
「この魔法カードは、自分のライフが5以下の時に、致死量のダメージを受ける場合に発動できます。このターンの間、俺のライフは0にはなりません」
速水:ライフ4→1
うーん、流石は最強の防御カード……もとい遅延カード。
「あら~倒せないのね。残念」
母さんが残念がってるけど、周りからすれば恐怖映像だなこれ。
「でも〈レグルスボンバー〉ちゃんの効果は発動できるわ。墓地から〈パグボンバー〉ちゃんと〈ヒポポボンバー〉ちゃんを復活」
墓地から蘇る2体の炎獣。
これで防御も万全という事だ。
やよい:手札1枚→0枚
「ターンエンドよ」
やよい:ライフ10 手札0枚
場:〈パグボンバー〉〈ヒポポボンバー〉
なんとか耐え抜いた速水だけど……ピンチなのには変わりない。
まず母さんの場には【爆炎】を使えるモンスターが2体。これらを倒せば、速水は負ける。
かといって防御を固めるだけでもダメだ。次の母さんのターンで、攻撃されて負ける。
速水が勝つには、このターンで勝負を決めるしかない。
「俺のターン……」
さぁ、速水のデッキはどう応える!
「スタートフェイズ。ドローフェイズ!」
速水:手札1枚→2枚
「よし! メインフェイズ。俺は魔法カード〈エレメンタルポーション〉を発動!」
まずは回復カードか。
「墓地から系統:〈元素〉を持つカード〈ウォーターエレメント〉〈緊急合成〉〈ウォータープレシオン〉の3枚をデッキに戻して、ライフを3点回復!」
速水:ライフ1→4
ライフは少し回復できたけど、手札は残り1枚。
あの手札に全てがかかっているぞ。
「俺は魔法カード〈逆転の一手!〉を発動! このカードは自分のライフが4以下の場合にのみ発動できる!」
おっ、あれは俺が速水に教えたカードだ。
「手札が3枚になるようにデッキからドローできる。俺の手札は0枚、よって3枚ドローします!」
速水:手札0枚→3枚
勢いよくドローする速水。
恐らくこれが最後のドローだ。
このドローに全てがかかっている。
速水は恐る恐る、ドローしたカードを確認した。
「……そうか、応えてくれたのか。俺のデッキ!」
どうやら、勝ち筋が見えたらしい。
速水の目に光が灯っている。
「まずは、手札の魔法カード〈シーエレメント〉と〈エアロエレメント〉を【合成】!」
水と風の元素が混ざり合い、速水の場に新たなモンスターを作り出す。
「合成召喚! 現れろ〈タイフーン・ブラキオ〉!」
速水の場に召喚されたのは、竜巻を纏った首長竜。
あいつの召喚時効果は強力だぞ。
〈タイフーン・ブラキオ〉P10000 ヒット2
「〈タイフーン・ブラキオ〉の召喚時効果発動! 相手の場のモンスターを全て疲労させる!」
ブラキオの起こした風に押しつぶされて、母さんの炎獣2体は疲労状態となってしまった。
これで母さんの場にはブロッカーがいない。
「ブロッカーはいなくなりました……だけど」
「あぁ、速水の〈タイフーン・ブラキオ〉じゃ、母さんのライフを削り切れない」
「でも速水くん、全然諦めてないです」
「そうだな……多分、あの最後の手札に何かある」
速水は最後に残った1枚の手札に目線を落としている。
そして軽く深呼吸をすると、覚悟を決めたように顔を見上げた。
「いきます!」
「男の子って元気ね~」
速水は仮想モニターに1枚のカードを投げ入れた。
「進化条件は【合成】によって召喚されたモンスターであること。俺は合成召喚された〈タイフーン・ブラキオ〉を進化!」
タイフーンブラキオが巨大な魔法陣に飲み込まれていく。
「火炎の闘志と流水の知識。今こそ交じりあいて、革命の狼煙を上げろ! 進化召喚!」
魔法陣が弾け飛び、巨大な蒸気機関の心臓が出現する。
その心臓を中心に、無数の炎と水が集まり、新たな身体を構成していった。
生まれるのは蒸気。鉄の外皮を新たに得て、元素の竜王が降臨した。
「現れろ! 〈【
『GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』
〈【蒸気竜王】スチームパンク・ドラゴン〉P13000 ヒット3
新たなSRカードの登場に、ギャラリーが盛り上がる。
盛り上がるのは当然、俺達もだ。
「ツルギくん、見てください! アレ!」
「あぁ! 速水のやつ、引き当てやがった!」
「あら~、なんだか強そうなドラゴンさんね」
母さん、強そうじゃなくて、そのドラゴン強いんだよ。
「アタックフェイズ! いきます!」
さぁ速水、見せてやれ。
お前の新しい切り札の性能を!
「〈スチームパンク・ドラゴン〉で攻撃! そしてこの瞬間、〈スチームパンク・ドラゴン〉の効果発動!」
「どんな効果なんでしょう?」
「見てれば分かるさ。強い能力だから」
「このカードの攻撃時、自分の墓地に存在する系統:〈元素〉を持つ魔法カード1枚を選択し、その効果を発動する!」
そうこれがスチームパンク・ドラゴンの効果。
墓地の魔法をコピーするのも強力だけど、何故かコピーした魔法カードが墓地におかれたままなんだよ!
そして、今の速水の墓地にはたしか……
「俺は墓地の魔法カード〈グランドエレメント〉の効果をコピーして発動! 〈グランドエレメント〉は、自分の場の系統:〈元素〉を持つモンスター1体のヒットを2上げる!」
その代わりにライフを2点失うけどな。
速水:ライフ4→2
〈【蒸気竜王】スチームパンク・ドラゴン〉ヒット3→5
今の母さんにブロッカーはいない。
しかも手札は0枚だ。
「いけ! 〈スチームパンク・ドラゴン〉!」
「うーん、ライフで受けるわ」
スチームパンク・ドラゴンの放った蒸気が、母さんを包み込んでダメージとなる。
やよい:ライフ10→5
「お母さんのライフは半分。でももう速水くんの場には〈ダイヤモンド・パキケファロ〉しか」
「いや、大丈夫だ。速水が勝った」
「えっ?」
そう、速水の勝ちだ。
何故なら〈スチームパンク・ドラゴン〉は……
「〈スチームパンク・ドラゴン〉は【2回攻撃】を持っています」
「あらあら~、それは防げないわね~」
「はい。これで終わりです! いけ! 〈スチームパンク・ドラゴン〉!」
『GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』
咆哮を上げるスチームパンク・ドラゴン。
もうこの攻撃は止まらない。
「……ライフで受けるわ」
スチームパンク・ドラゴンの吐いた蒸気が、母さんのライフを削り切った。
やよい:ライフ5→0
速水:WIN
ファイト終了のブザーが鳴り、立体映像が消えていく。
俺とソラは速水の元へと駆け寄った。
「速水くん、すごかったです!」
「やるじゃんか速水」
「ありがとう。新しい切り札のおかげでなんとか勝てた」
母さんもこちらに歩み寄ってくる。
「あらあら。お母さん負けちゃったわ~」
「まぁ母さんは手札悪かったしな」
「まて天川。あれで手札が悪かったのか?」
「母さんのデッキは後攻1kill率めっちゃ高いぞ」
無言で顔を青ざめさせる速水。悪い事したかな?
結局この日は俺とソラで速水の試運転に付き合い続けた。
ちなみに母さんは周りの人にフリーファイトを挑んで練習をしていた。
控えめに言って、母さんの方は地獄絵図でした。
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