第五話:学校へ行こう! でもなんか変?
カードショップから帰ってきて小一時間。
俺は今までにない期待感に胸を膨らませていた。
目の前にあるのはゴツい機械でできた四角いデッキケース。
前の世界では子供たちの憧れで、この世界ではサモンファイターの必需品。
「これが……召喚器」
立体映像と衝撃波を出して、サモンを迫力あるものにする夢のマシン。
それが今、自分の眼の前にある。
まさに感無量。涙も出てきた。
「えーっと、電源を入れて……ユーザー登録?」
説明書を読みながら、召喚器を操作してみる。
立体映像のモニターが出てきた。どうやらこの仮想モニターを操作すればいいらしい。科学の力ってスゲー。
とりあえずユーザー登録をするのだが……個人番号を要求するとかスゲーな、流石はサモン至上主義世界。
「個人番号入れてっと。これで良いのかな?」
名前や年齢なども登録すると、仮想モニターに「ようこそ」と表示される。
これでユーザー登録は完了したみたいだ。
後はデッキを入れて、実際に動かしてみるのだが……
「さて、どのデッキで動かすかだな」
記念すべき初回起動なのだ。
どうせならとっておきのカードで感動を味わいたい。
というかよく考えたら、俺まだこの世界で使う自分のデッキを用意していない。
「となるとまずはデッキ構築か」
一度召喚器を置いて、俺は大量のカードを取り出す。
この世界で使うデッキを作るのだ。
だがここで少し考えねばならない事もある。
「どのくらいの強さにすればいいんだろうか?」
これは推測なのだが、この世界における一般人はそんなにサモンは強くない筈だ。
理由は幾つかあるが、最大の理由はレアカードの価値だ。
一枚何万円から何百万円とするレアカードを、そう何枚もデッキに投入できる人間はそう居ない筈。そんな事ができるのは金持ちくらいだろう。
となれば、ただの一般人である俺がレアカード満載のデッキを使うのは変な注目に繋がってしまう。
「別に目立ちたくないとかって訳じゃないけど……流石にやりすぎは良くないよな」
ならひとまず、前の世界で使っていたレアカード満載ガチデッキは候補から除外。完全な緊急時用にしよう。
ではこの世界で使うメインデッキはどうするか?
答えはシンプルだ。
「要するにレアカードを抑えていて、強さも申し分ないデッキを作ればいいんだ」
所謂貧乏デッキだ。
基本的にレア以下で構成されているデッキをメインにすれば、変な目立ち方はしない筈。
そして幸い、俺は以前その貧乏デッキを愛用していた事がある。
「どこだ、どこだ……あった! 幻想獣のカード」
目当てのカードを見つけた俺は、早速デッキを作り始める。
懐かしき相棒達を手に取りながら、時々思い出に耽りつつ、俺は戦略を練っていく。
「この系統のデッキは構築難易度が高いんだよなぁ」
でもその方が燃える。
メインのモンスターを入れて、サポートの魔法カードを入れる。
「これは枚数減らして……これは思い切って抜いて」
何度も微調節を繰り返しながら、机の上で一人回しをする。
見えてきた課題を潰すように、何度もデッキの内容に修正を加えていき……再び一人でデッキを回す。
それを繰り返していく内に、気づけば数時間が経過。
時計は午前四時を示していた。
「で、できたけど……流石に、眠い」
完全に熱中しすぎていた。
あと三時間もすれば学校へ行かなくてはならない。
しかも懐かしき中学校だ。
俺は完成したデッキを召喚器にしまい、ベッドへと沈んでいった。
で、四時間後。
「遅刻寸前じゃねーか!」
完全に熟睡してしまった。
デッキは完成したけど、結局召喚器はユーザー登録しかできてない。
大慌てで学ランに着替えて腰の召喚器を下げる。
鞄には教科書を詰め込み、俺は家を飛び出した。
猛ダッシュで通学路を駆けていく。
それすらも懐かしく、なんだか奇妙な気持ちになった。
通学路を間違えないように、懐かしき中学校への道を意識しながら走る。
徐々に同じ制服を着た学生の姿が見えてきた。
ただ一つ気になる事はある。
「(ウチの学校、あんなカラフルな髪色の奴多かったっけ?)」
完全にアニメ世界のカラーリングである。
そんな事を考えながら、俺は駆け足で学校に向かう。
「ま、間に合った」
五年前の俺が通っていた中学校、
卒業の記憶があるので、再び校門をくぐるのに違和感を感じるが、そこはグッと堪えよう。
しかし、それにしても……
「ウチの学校、こんなにボロかったっけ?」
心なしか、校舎全体がボロい気がする。
壁の塗装が剥がれまくっていて、窓には段ボールが張られている。
気のせいか、エアコンの室外機も見当たらない気がする。
「……とりあえず教室行くか」
自分の名前が書かれた下駄箱を見つけて、靴を履き替える。
やっぱり下駄箱もボロくなっている気がする。
記憶を頼りに階段を上って、二年A組の教室へ入った。
「……なんだこれ」
教室に入って、まず俺はそう零してしまった。
だって無理ないじゃん。
窓は割れまくっていて、段ボールが張られているわ。
エアコンはおろか扇風機も痕跡しか残っていないわ。
挙句、机に至ってはみかん箱である。
なにこれ? 新手のいじめか何かか?
俺はひとまず自分の席を探して、そこに座る。椅子無いけど。
座った俺は教室を軽く見回す。
やはりさっきのカラフルな髪の生徒たちは、見間違いではなかったみたいだ。
ウチの教室にも何人かいる。てか知らない人たちがいる。
「(やっぱ、あくまで別世界なんだな)」
知ってる人間が何人か別人に入れ替わっているのは、どこか空虚なものを感じる。
せめて隣の席には知ってる人がいますように。
そう思って隣の席を見ると、そこにはよく知る男がいた。
小中と一緒だった学級委員長の
「おはよう、速水委員長」
「あぁ
眼鏡の位置を直しながら、挨拶を返す速水。
その手には参考書がある。相変わらずの優等生だな。
だがそれ以上に、比較的親しい人間が隣なのは好都合だ。
「なぁ速水、ウチの学校ってこんなにボロかったっけ?」
「しかたないだろ。ウチは県内サモンファイトランキング最下位なんだからな」
「県内サモンファイトランキング……ってなんだっけ?」
「天川……いくら何でも勉強のしなさすぎだ」
速水が渋々ながら説明を始めようとすると、俺の後ろから女の子声が聞こえてきた。
「簡単に言えば、学校ごとのサモンの強さランキング……で合ってますよね?」
「正解だ
「え、誰?」
振り向いた先に立っていたのは、綺麗な女の子だった。
白い髪と赤い目。まるで雪うさぎを彷彿とさせるような容姿の美少女だ。
だが俺の記憶の中に、こんな同級生はいない。君は誰?
「天川、流石に失礼だろ」
「い、いいんです。私なんて影の薄い存在ですから」
「すまん。人を覚えるのが苦手なんだ」
「赤翼さん。コイツに自己紹介をしてやってくれ」
速水が助け船を出してくれた。
赤翼さんは少しはにかみながら、自己紹介をしてくれる。
「赤翼ソラです。四月からの転校生なので影が薄いですけど、名前だけでも覚えてくれると嬉しいです」
「覚えた。赤翼さんのこと確かに覚えたぞ」
だってめっちゃアニメビジュアルなんだもん。
忘れる方が無理だよ。
「それはさておき。サモンファイトランキングって何?」
溜息を一つつく速水と苦笑いする赤翼さん。
渋々だが、速水が説明をしてくれた。
「簡単に言えば、学校ごとのサモンの強さランキングだ」
「へぇー。でもなんでそれで校舎がボロくなるんだ?」
「敗者は勝者に絶対服従。サモンファイトに勝った学校は、負けた学校から何でも奪えるんだ」
「へ、へぇ……恐ろしいな」
「本当に怖いんですよ。最初は学校運営の予算。その次は学校設備。そしてこの前はとうとう教室の机が奪われました」
「(怖いよ、サモン至上主義世界!)」
だが思い返せば、アニメでも似たようなシーンはあった。
とは言っても、奪い合うのは些細なものばかりだったけど。
まさか学校同士で設備の奪い合いをしているとは……怖いよ。
「で、でもさ。こんだけ奪われた後なら、もう取られるもんもないだろ」
「どうだろうな。案外次は人間を狙ってくるかもしれんぞ」
「じょ、冗談でも怖いっての」
「本当に冗談で済めばいいですね」
そんな話をしているとチャイムが鳴り響く。
教室に担任の先生も入って来た。
「あー、朝からみんなに悪い知らせがある」
いきなり不穏だ。
「ここ最近の連敗続きで、修学旅行がなくなりそうだ。だからみんな頑張ってくれ。以上」
「はいぃぃぃ!?」
えっ、修学旅行無くなるの!?
あっそうか、学校予算取られたんだっけ。
いやそれにしても周りの反応よ。
「やっぱりか」
「これ私達は修学旅行諦めた方がよさそうですね」
「もっと俺が強ければ!」
「諦めろ。金持ちボンボンのいないウチに未来はない」
完全に諦めムードである。
「(これが……サモン至上主義世界の現実なのか)」
カードゲームで全てが手に入る反面、負ければ全てを失う。
ファイト一回に対する責任もきっと重い。
なのにレアカードは入手困難。
世知辛い現実だ。素直に俺はショックを受ける。
だが俺のショックはまだ続いた。
「……なにこれ?」
午前の授業を終えて給食の時間。
出て来たのはコッペパンと牛乳だけ。
貧しいってレベルじゃないぞ。
「なぁ速水、この給食ももしかして」
「あぁ、サモンファイトに負けた結果だな」
改めて思う。サモン至上主義って怖い。
だがここで文句を言っても何にもならないので、俺はもそもそとパンを食べた。
「(これは大真面目に、ガチデッキで予算ふんだくる作戦を検討してもいいかもしれんな)」
流石にこの現状は酷すぎる。
俺のデッキで改善できるなら、協力は惜しまないぞ。
量も少ないので早々に終わる給食。
それからなにも無い休み時間が始まる。
「なんか……すごい世界に来ちゃったな」
外の風に当たりながら、そんな事をぼやく。
すると校門の方から、何やら騒がしい声が聞こえてきた。
他の生徒たちも何だ何だと集まり始めている。
「あっ、速水。あれなんだ?」
「わからん。だが只事ではない事は確かだ」
俺も野次馬根性が出て来たので、速水と一緒に校門へと向かった。
そこには、他校の制服を着た集団が十数人いた。
あの制服、見覚えがあるぞ。
「あの制服、やはり東校の奴らか!」
「東校って、
「あぁ、そしてウチの学校が連敗している相手だ」
マジかよ。ウチあんな柄の悪い学校に連敗してたのか。
だってアイツらこの時代に、リーゼントで刺繡入りの長ランとか着てるんだぞ。
しかも中学生でバイク乗ってるし。
あっ、騒ぎを聞きつけた先生が来た。
「何の用だ」
「サモンファイトをしに来ただけですよ」
東校の代表だろうか、妙に身なりの良い生徒が先生と対峙している。
「もうウチから奪えるものは無いぞ」
「ふーん。それはどうですかね?」
「どういうことだ?」
「労働力がいるじゃないですか。新鮮な奴がたくさん」
身なりの良い生徒は俺達野次馬を見ながらそう言い放つ。
労働力だって? まさかとは思うが。
「ウチの校舎が汚れてきたんですよ。掃除をしてくれる労働力が欲しくてね」
「ヒャハハ!
「コスプレさせようぜ! コスプレ!」
取り巻きの下種な主張を聞いた身なりの良い生徒、財前が「好きにしろ」と言う。
すると東校のチンピラ共は一気に沸き立った。
「下種がッ」
「同意。アイツら完全に奴隷を欲してやがる」
速水と一緒に、俺も嫌悪感を隠しきれない。
当然狙われている女子達もドン引いている。男子もだ。
「当然ただでとは言いません。そっちが勝てば、東校が今まで奪ってきた物を全て返却しましょう」
「負ければどうなる」
「生徒全員、ウチの奴隷」
緊張が走る。
とんでもない賭けファイトが始まってしまう。
一体誰が戦うのだろうか。
「対戦者はどう選ぶ?」
「サモン連盟のルールに従ってランダムマッチングです。それなら文句もないでしょう?」
「わかった。そのファイト、引き受けよう」
今更だけど、ここで東校の生徒を追い返さずサモンファイトを受けてしまうあたり、先生もサモン脳なんだなと思う。
東校の財前という男子生徒は召喚器から出現した、仮想モニターを操作する。
「それでは運命のマッチング開始です」
生徒全員が腰から下げていた召喚器にランプが灯る。
それが一人、また一人と消えていき、数を減らす。
ランプが消えたウチの生徒が胸をなでおろしているあたり、これが点いていたら戦う事になるのだろう。
事が事だけに、責任重大だからな。
人数の少ない東校の生徒は、すぐに対戦者が決まった。
「おや? 僕ですか。これは西校さんも運が悪いですね」
財前という生徒に決まった瞬間、女子の悲鳴が聞こえて来た。
男子達の間にも絶望ムードが漂い始める。
「なぁ、速水。あの財前とかいう奴、強いの?」
「二年にして、東校のランキング一位。県内ランキングでもトップテンに入る実力者だ」
「なるほど。強いんだな」
そしてあの様子からして、多分金持ちのボンボンなんだろう。
レアカード満載のデッキを使っているに違いない。
そんな事を考えていると、俺の召喚器からブザーが鳴り始めた。
「あれ? なんだこれ?」
「て、天川……お前」
「おや、君が僕の対戦相手ですか」
財前が俺を見ながらそう言う。
そしてウチの生徒からの視線も一身に突き刺さる。
……って、え?
「対戦すんの、俺!?」
責任重大すぎるぞ。
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