第八話:この世界で「勝つ」という事
ファイトが終わり、召喚器がスリープモードに移行する。
同時に表示されていた立体映像も全て消えた。
この世界でのデビュー戦が終わったのだな。
そう思うと言いようのない達成感が込み上げてくる。
「っと、感動してる場合じゃない」
俺は校庭で倒れている
「おい。起きろ」
「ヒィ!」
「そんなにビビるなよ。で、敗者は勝者に絶対服従なんだっけ?」
財前と東校の生徒たちは無言で頷く。
よし、確認完了だ。
「奪うものは俺が決めて良いのか?」
「あ、あぁ」
「じゃあ奪わせて貰うな」
貰うはものは、もう決めている。
「西校から奪った予算、全部返せ」
「……そ、それだけか?」
「ん? もっと奪った方がよかったか?」
「い、いや、その」
「お望みとあらば空っぽになるまでサモンファイトしてもいいんだぞ」
俺がそう言うと、東校のチンピラ達は一斉に顔を青くさせた。
そんなに怖いか? 無限ダメージコンボ。
「で? 約束は守るんだろうな?」
「……敗者は勝者に絶対服従だ。サモン連盟のルールもある。奪った予算は全額返そう」
「ちゃんと東校の先生に話しつけろよ」
「当然だ」
そう言うと財前は起き上がり、東校のチンピラ生徒たちの元へ戻って行く。
「帰るぞ、お前たち」
「「「へ、へい!」」」
財前はチンピラの一人が乗っていたバイクの後ろに乗ると、東校の生徒を引き連れて去って行った。
つーかあまりに自然すぎてツッコめなかったけど、バイクの二人乗りは止めろよ。
そして中学生がバイク乗るな。
まぁこれで一件落着したのだ。
俺も教室に戻ろう。
と、その前に言うことがあった。
「あ~、みんなゴメン。奪い返すもん勝手に決めちまった」
冷静に考えれば相談してから決めるべきだった。
つい勢いで俺が決めちまったけど、予算だったら無難で許されるよね?
怒られたら……素直に謝ろう。
というかギャラリーだった皆さん、なんか静かじゃありませんか?
もしかして俺マジでやらかしたか!?
そんな事を考えるのもつかの間。
校庭には西校生徒達の歓声が爆発した。
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
「やった! 遂に東校の奴に勝った!」
「しかも相手はあの財前だぞ! スカッとしたぜぇ!」
「流石天川。僕は信じてたよ!」
「予算が戻ってくるってことは、私達修学旅行に行けるんですか!?」
なんかすごいリアクションだな。我ながら冷めた目で見てしまう。
まぁ冷静に考えれば無理もないか。
速水曰く西校は連戦連敗であんな事になってたわけだし。
それにしても手のひら返しがすごい気がするが、それをツッコむのは無粋だろう。
「
「速水」
「ありがとう。アイツらの鼻を明かしてくれて」
「いいさ。俺はただサモンを楽しんだだけだ」
それは事実。
正直ファイト中の俺はサモンを楽しむ事に注力していた。
勝利して奪い返せたのは、結果論にすぎない。
それでも西校の皆は、勝者である俺を褒め称えてくれた。
「おい胴上げしようぜ、胴上げ!」
「今日は無礼講だー!」
男子たちが一斉に集まって、俺の身体を持ち上げる。
いや、あの、みなさん?
「「「わーっしょい! わーっしょい!」」」
「ちょ、やめ、胴上げやめーい!」
俺は男子の手によって、問答無用の胴上げをされた。
なんか小恥ずかしい。
だけど……本気で拒絶する気にはなれなかった。
なんだか嬉しかったのだ。
カードゲームで勝つ。ただそれだけで褒められる今に、俺は心地いいものを感じていた。
前の世界でチヤホヤされた事なんか無かったから、余計にかもしれない。
「(あぁ……そうか)」
これが、この世界で「勝つ」という事なんだな。
サモンで勝てばなんでも手に入る世界。
カードゲーム至上主義世界。
そんな世界に俺は来たんだと、今になって再認識した。
「(なんか、悪くないかも)」
きっとこれはカードゲーマーにとって都合のいい世界。
俺はそんな世界で、強さを手に入れたのだ。
ならせいぜい、派手にやってやろう。
カードゲームという、俺の唯一の才能で、成り上がってやる。
……それはそれとして。
「「「わーっしょい! わーっしょい!」」」
「お前らいい加減下ろせー!」
結局この後十分くらい胴上げされた俺。
その後も学校中の人間から感謝されたり褒められたりと、忙しくて仕方なかった。
「(この世界のノリ……慣れるのに時間かかりそう)」
少しだけ先行きが不安に思える一日だった。
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