第九話:そして俺は動き出す

 学校が終わり、家に帰る。


「つ、つかれたー」


 あの後午後はずっとクラスメイトや先生たちに絡まれ続けたし、挙句放課後には祝勝会と称した宴会に連れ出されそうになった。

 流石に罪悪感がすごかったので逃げ帰ってきたが。


 帰宅してから卯月と母さんに今日の出来事を話すと……


「えぇ……」

「あらあら~。ツルギ頑張ったのね~」


 卯月は世界にドン引きし、母さんはのほほんと褒めてくれた。

 母さんはともかく、妹よ気持ちは分かるぞ。俺も引きかけた。


 ちなみに卯月も学校でやらかしてきたらしい。

 小学校のサモンの授業で無双してきたのだとか。


「なんかさぁ、みんな弱すぎたんだけど」


 ついでに休み時間にはいじめっ子も撃退したと。

 完全に武勇伝を作り上げている。

 てかサモンの授業ってなんだよ、中学校には無かったぞ! 少なくとも今日はだけど。


「で、これからどうすんの?」


 卯月が俺達に問いかける。


「こうなっちゃったのは仕方ないし~、お母さんは流れに任せるわ」

「お兄は?」

「俺は……サモンで活躍できるなら、派手にやってやろうと思う」


 どうせ元の世界に戻る方法も分からないんだ。

 ならこの世界で生きていく為にも、サモンで戦い続けてやる。


「はぁ……まぁ、そうなるよね」

「卯月も母さんも。サモンで困ったことがあったら俺に相談してくれよ」

「そうさせてもらうわ」

「息子が頼もしくて、お母さん助かるわ~」


 家族の為だ、出来る限りの事はしよう。

 流石に変な目立ち方するデッキとかは渡さないけど。


「あらあら~」

「お兄、笑ってるの?」


 二人に指摘されて気がついた。

 俺今ニヤついていたらしい。


「なんかさ、ワクワクしてきてさ」

「ワクワク? なんで?」

「自分の才能が日の目を浴びるかもしれないって事とか、色んな人達とサモンで戦える事とか」

「はぁぁぁ……お兄、完全にこの世界に染まってない?」

「そうかもしれない」


 実際俺も大概なサモン脳の持ち主らしい。

 とは言っても前の世界基準でだが。

 それはともかく。

 俺は今、とても期待感に胸を膨らませていた。

 評価されなかった自分の才能が、誰かの為になるかもしれない。

 そう考えると、未来に期待をしてしまったんだ。


「それでさ母さん。俺、この世界でやりたい事ができたんだ」

「あら~、目標ができたのは良い事じゃない」

「お兄、なにすんの?」

「俺さ、プロのサモンファイターになりたい。その為にサモンの専門学校に行きたいんだ」


 実は今日、学校で少し調べていたんだ。

 サモン専門学校にどんな所があるのか。

 そうしたら、ある一つの学校を見つけたので、俺はパンフレットを貰ってきた。


「この学校」

「えーっと、聖徳寺しょうとくじ学園?」

「聖徳寺学園って……お兄、確かここって」

「あぁ、アニメ『モンスター・サモナー』で主人公達が通ってた学校だ」


 まさかこの学校も実在するとは思わなかった。嬉しい誤算というやつだ。

 しかも家から電車で通える範囲にある。


「ここに通いたいの~?」

「うん。ここで強くなってプロになりたい。そんで母さんを楽させたいんだ」

「ツルギ……」

「お母さん、冷静になって。お兄大概ヤバいこと言ってるからね」


 まぁそうかもしれない。

 前の世界の常識からすれば「俺の音楽で家族を食わせるんだ」って言ってるのと同レベル……いや、それ以下の発言だからな。

 だがここはサモン至上主義世界。

 そんな夢物語も実現できるかもしれないんだ。


「俺、初めてやりたい事ができたかもしれないんだ。だから母さん、お願いします!」


 俺は深々と頭を下げる。

 すると母さんは、優しく俺の頭に手を置いた。


「やっと夢を持てたのね、ツルギ」

「……」

「頑張るのよ」

「うん」


 母さんの許可が出た。

 なら後は来年の受験に向けて頑張るまでだ。


「はぁ……アタシもサモンで頑張ろうかな。そっちの方が楽かもだし」

「卯月はまだ小学校なんだから。ゆっくり決めなさいな」

「うぅ、精神年齢は高校生なのに」


 和やかに話が進んでいく我が家。

 この先の方向性、そしてこの世界で生きていく覚悟は決まった。

 俺は今日使ったデッキを手に取って視線を落とす。


「これからも頼むぜ、俺のデッキ」

『キュップイ!』


 気のせいか、カーバンクルの鳴き声が聞こえた気がした。

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