第十話:チンピラを片付けよう

 異世界転移して一ヶ月程が経過した。

 俺個人の今後の方向性(聖徳寺学園への進学)に関しては決まったが、流石に受験はまだまだ先だ。そうすぐには結果を見れない。


 ならばひとまずと、学業の成績を上げることにした。

 第一志望はサモンの専門学校。当然サモンの成績が重視される。

 俺は中学のサモン授業を頑張る事にした……のだが。

 やはりと言うか何というか、この世界のサモンの授業はあまりレベルの高いものではなかった。

 なんよ、ほとんど基本ルールのおさらいみたいな授業だったぞ!

 退屈過ぎるわい!

 そんで俺が全問正解したら周りが妙に俺を持ち上げてきたけど、むず痒いったらありゃしねーわ!


 これも少し悩みの種。

 あのデビュー戦の後、俺は何度か学校でサモンファイトをしたのだが、当然の事ながら全勝。

 すると周りのクラスメイトや先生達は、えらい勢いで俺を持ち上げてきた。

 手の平返しとでも言えばいいのだろうか? 物凄い勢いで媚び売ってくる奴も多くて、少し辟易してる。

 女子に至っては昼飯時に囲んでくる始末だ。

 ……ちょっといい気分だったかも。

 とはいえ、急に態度を変えられては俺としても戸惑う。

 もう少し静かな生活がしたいもんだ。


「完全に贅沢な悩みだよなぁ」


 だが事実だ。

 実はもう一つ悩みの種もあって、サモンの相手が一瞬でいなくなった事だ。


「流石に1killコンボやり過ぎたかな?」


 相手に失礼がないよう、全力で挑んでいたわけだけど。

 派手にやり過ぎたのか、最近は俺が誘っても相手してくれる奴が殆どいない。

 悲しい……せっかくサモンの世界に転移したってのに。


「まぁ、相手してくれる奴が完全にゼロって訳じゃないのは救いだよな~」


 特に委員長こと速水はやみ

 アイツも聖徳寺学園へ進学希望らしく、サモンの話題や練習相手として意気投合した。

 実は今日も一緒にサモンで暴れ散らかす予定だ。


「えーっと、会場はこっちだよな?」


 今日は日曜日。絶好の大会日和だ。

 俺と速水は、一緒にサモンの大会に出る約束をした。

 現在俺はスマホを片手に、会場となるドームへ向かっている。


「しっかし、大会成績で受験が有利になるとか。相変わらずスゴい世界だな」


 完全に前の世界で言う〇〇検定系の扱いである。

 しかもこの世界のサモンファイターのレベルを考えれば。完全に俺の独壇場だ。

 これは出場する以外の選択肢はない。


天川てんかわ、こっちだ」


 そうこうしている内に会場近くに着いた。

 既に速水が受付近くに立っている。


「おっす速水。もう受付は済ませたのか?」

「まだだ。お前を待っていたんだよ」

「そりゃ遅れて悪かったな」


 今日の大会は単発ながらも、規模の大きい大会だ。

 参加者、観客共にスゴい人数である。

 前の世界では考えられない光景だな。

 ギャラリーの多さに、少し緊張を覚えてしまう。


「なんだ天川、緊張してるのか?」

「こういう規模の大会は初めてだからな」

「それもそうか。ついこの前まで召喚器も扱った事が無かったからな」

「そうだな」

「大会のダークホースとして、派手に暴れてやればいいさ」

「それは速水も同じだろ。デッキのチューニングは大丈夫か?」

「お前のおかげで最高に仕上がっている。決勝で天川と戦うのが楽しみだ」


 信頼してくれるねぇ。なら頑張って、その期待に応えますか。

 となれば、まずは大会の受付だ。

 俺と速水が受付をしようとした、その時だった。


「ん? あれって」


 ふと、俺の視界に見覚えのある白髪の少女の姿が入ってきた。

 あのアニメビジュアルは間違いない、同じクラスの赤翼あかばねソラさんだ。

 なんか騒いでいるけど、隣にいるのは……なんかガラの悪そうな男だな。


「どうしたんだ、天川」

「速水、あれ赤翼さんじゃね?」

「……確かにそうだな。何かトラブルにでも巻き込まれているのか?」

「速水、先に受付済ませててくれ。俺ちょっと様子見てくる」

「俺も行こう。学級委員長として見過ごせない」


 俺と速水は受付の列を外れ、駆け足で向かった。


「赤翼さん。なんかあったのか?」

「天川くん、速水くん」


 涙目でこちらを見てくる赤翼さん。

 対するガラの悪い男の手には、一つのデッキが握られていた。


「なんだテメェら。関係ねー奴はすっこんでろ」

「クラスメイトが絡まれてるんだ。気にするなって方が無理だろ」

「天川に同じくだな」


 赤翼さんを庇うように、男の前に立つ。

 しっかしガラ悪いなコイツ。


「で、赤翼さん。何があったんだ?」

「……私、うっかりこの人にぶつかっちゃって、謝ったんですけど、デッキを取られちゃったんです」

「なんだと!?」


 速水はキッと男を睨みつける。

 それは俺も同じだった。

 つまり男の手にあるデッキはアイツのではなく、赤翼さんのもの。


「女子中学生からデッキ強奪するなんて、恥ずかしいと思わないのか?」

「おいおい人聞きが悪いな。俺はただ慰謝料を貰っただけだよ」

「ふざけるな! デッキはファイターにとって命も同然なんだぞ!」


 速水君、めっちゃキレてるな。

 まぁ心境で言えば俺も同じく怒ってるんだけど。


「だから貰ったんだよ。大会にでるようなデッキなら高く売れるからなぁ!」

「……は?」


 要するにあれか? 金の為に人からデッキを巻き上げてる糞野郎ってわけか。

 俺は躊躇うことなく、召喚器を取り出した。


「ターゲットロック!」


 俺の召喚器と糞野郎の召喚器が無線接続される。


「おい、糞野郎」

「あぁん!? なんだクソガキ」

「俺とファイトしろよ」


 流石に俺も堪忍袋の緒が切れた。

 この糞野郎はここで潰す!


「俺が勝ったら、赤翼さんから奪ったデッキを返せ」

「お前が負けたらどうするんだ?」

「俺のデッキをくれてやる」

「フン、いいぜ。受けてらる」


 交渉成立だ。速攻で潰してやる。


「おい、天川! 流石にその条件は」

「そうですよ! もし負けたら天川くんのデッキが」

「大丈夫だって。俺強いから」


 それに受付の時間もある。

 ちょっと本気出させてもらうぞ。


「なんだなんだ? 場外ファイトか?」

「デッキを賭けてファイトするんだってよ」

「頑張れー坊主!」


 流石はサモン至上主義世界。一瞬でギャラリーができた。


「さっさと終わらせて、お前のデッキも有難くいただくぜ」

「絶対に奪い返す」


 初期手札5枚をドローする。

 ……おや? この手札はもしや?


「さぁ、始めようかァ!」

「あぁ……そうだな」


 急にあの糞野郎が少し哀れに思えてきた。

 だが赤翼さんのデッキを取り戻すためだ。手加減はしない。


「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」


 ツルギ:ライフ10 手札5枚

 チンピラ:ライフ10 手札5枚


 仮想モニターに先攻後攻の表示が出る。

 あっ、俺が先攻だ。


「あっ、これ勝ったな」

「あん? テメェ何言ってるんだ?」

「スタートフェイズ。メインフェイズ」


 悪いな糞野郎。

 恨むならその運の悪さを恨め。


「〈ケリュケイオン〉を召喚。魔法カード〈召喚爆撃!〉を発動。〈【紅玉獣こうぎょくじゅう】カーバンクル〉を召喚」

「あっ」

「あっ」


 後ろから、速水と赤翼さんの気の抜けた声が聞こえてくる。

 だってしょうがないじゃん。初手で揃ってたんだもん。


「カーバンクルを破壊してお互いに1点のダメージ。俺にくるダメージは〈ケリュケイオン〉で軽減。カーバンクルは破壊されても手札に戻るので、無限召喚します。無限ダメージあざっしたー」

「えっ、ちょ、おま」


 何か言っている気がするが、問答無用。

 無限の爆撃が、チンピラを襲う。


 チンピラ:ライフ10→9→8→7→6→5→4→3→2→1→0


 ツルギ:WIN


「(相手に防御札なくてよかったー)」


 まぁそれはともかく、やっぱり華麗にコンボが決まるのは気持ちが良い。

 ……なんか周りからドン引きの空気を感じるけど、気にしないもん!


 それはさておき。

 俺は間抜けな顔で尻餅ついてる糞野郎に歩み寄る。


「おい、約束だ。奪ったデッキを返せ」

「テ、テメェ、何かイカサマでも」

「お気に召さないなら何度でも相手してやるけど。どうする?」

「……クソっ」


 流石に観念したのか、糞野郎は赤翼さんのデッキを取り出した。

 これで一件落着……そうなる筈だったのに。


「こんなデッキィ!」

「なっ!?」


 周りから何人もの悲鳴が聞こえる。

 あろうことか糞野郎は、赤翼さんのデッキをすぐ隣にある川に投げ捨ててしまった。


「ギャハハハハハハハ、ザマーみやがれ!」


 サモンファイターにあるまじき暴挙。

 糞野郎はその場で大人たちに取り押さえられた。

 いや、今はそれどころじゃない!


「速水、俺のデッキ頼む!」

「天川!」


 俺は速水にデッキを預けて、すぐに川へと飛び込んだ。

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