第八十九話:熱き晩餐者たち

 第二の試練が始まって数時間。

 俺は無事目標ポイントを達成していた。

 なんなら余裕を持って稼いだので、現在の保有ポイントは『28000p』だ。

 ちなみに速水はやみは『24000p』。

 召臨寺しょうりんじにはもう行って今日の寝床を確保した。

 となれば、後は楽しいお食事タイム!


天川てんかわ流、今日のうまかもん」

「何故、アゴをしゃくれさせているんだ?」


 速水には伝わらなかったようだ。

 現在俺達2人はコンビニで食材の調達をしている。

 ソラとアイはバーベキュー場でスペースの確保中。

 らん九頭竜くずりゅうさんはさっき連絡があって、今こちらに向かっている最中らしい。

 全員無事に目標ポイントを獲得できたようで、とりあえずは安心だな。


 というわけで何を作るかなんだが……


「本当に俺チョイスでいいのか?」

「仕方ないだろう。天川が一番料理慣れしてるんだからな」


 仕方ないじゃん。そいうご家庭なんだもん。

 でもまぁ、頼まれた以上はお応えしますよ。


 バーベキュー場にある設備は既に把握済み。

 現在時刻は午後4時50分。

 そろそろ高校生は腹ペコモンスターになり始める頃合いだ。


(となれば、腹持ちの良いメニューが最適かな?)


 想定タイムリミットは午後18時まで。

 無料レンタル可能な調理器具にはダッチオーブンとフライパンがある。

 火も3箇所は使用可能。

 ならば今夜のレシピは決まりだ!


「速水、オリーブオイル取ってくれ」

「……いきなり意識が高くなったな」

「なるべく美味いもん作ってやる」


 そして俺達は手持ちのポイントと相談しながら、食材を購入していった。





 で、バーベキュー場に来ました。

 ソラとアイに頼んで、調理器具は用意してもらっている。

 これでいつでも調理開始可能なのだが……


「……藍、なにそれ」

「あはは……なんでだろうね?」


 無事に合流してきた藍と九頭竜さん。

 なのだが……九頭竜さんが母親にしがみつく幼稚園児のように、藍にピタリとくっついていた。


 あぁうん、予想はつくよ。

 昼間のポイント稼ぎを通して仲良くなったんだよね。

 でもね九頭竜さん、物語の流れが壊れるように誘導しちゃった俺も悪いけど……君そこまで極端なコメディキャラじゃなかったでしょ!?

 なんなの、その、今にもデフォルメ二頭身になりそうな状態は。

 藍と九頭竜さんが良い友人関係になるのは知ってたから、それを早めただけのつもりだったのに。

 なにこれ? 百合系同人誌の世界線に移動しちゃった?

 コミケの新刊ですか?


「あの……九頭竜さん、キャラ壊れてないかな?」

「藍は渡さない」


 思わず突っ込んじゃったけど、めっちゃ膨れっ面で抗議された。

 あぁうん……友達ZERO脱却おめでとう。

 今日から君はギャグ要員だ。

 さよならシリアス。


「あらあら、藍は真波まなみと仲良くなったのね」

「めでたしめでたしですね」


 アイさんソラさん。そんな簡単に〆て良い話じゃない気がするんです。

 速水を見ろ。九頭竜さんの豹変っぷりに、眼鏡がズレてるぞ。

 アレが通常の反応だ。俺達は間違っていない。


「まぁ、仲良きことは良いことなんだろうな」


 きっとそうだ。そう結論づけてしまおう。

 だからコアラみたいに藍にしがみついている九頭竜さんは、全部アイツに任せよう。


「真波ちゃん、はなれてー!」

「やー!」


 ……全部任せよう。

 今日の俺はシェフだ!


「それでは調理開始!」


 背景から目を逸らして、俺は食材の下処理をしていく。


(玉ねぎ、ニンジンを微塵切りにしたら……フライパンにオリーブオイルを加えて火にかける)


 じっくりとオイルが回るように火入れして、馴染んだら蓋を閉めて蒸しあげる。

 こうやってソフリットを作るだけでも、味は格段に進化するのだ。


(蒸す時間は10分ほど、その間に米を準備する)


 もう一つ用意していたフライパンにバターを溶かし入れる。

 そこに研いでいない生米を加えて炒めればバターライスになる。


「速水ー、ダッチオーブンに水入れて、顆粒コンソメ入れてくれー」

「わかった」


 ちなみにダッチオーブンとは鍋の一種だ。使い方は色々あるけど、今回はシンプルにしたから火にかける。

 あっ、水の分量もちゃんと計っているぞ。

 そして速水はその辺キチンとしてくれるから、安心して頼めるな。


「……ねぇソラ。私達って」

「アイちゃん、言っちゃダメです」

「ツルギくんってアタシ達よりも女子力あるよね!」

「藍ちゃん! 言っちゃダメです!」


 聞こえてるぞ女子の皆様。

 あと女子力じゃなくて生活力です。

 それから九頭竜さん、露骨に俺から目を逸らすな。


(炒めた米はダッチオーブンに入れて……蒸し終わったソフリットをさらに火入れする)


 フライパンから蓋を外して、水分を飛ばすように炒める。

 並行して、生米を炒め終えたコンロで、今度は冷凍むきエビとベーコンを炒める。

 下味はシンプルに塩コショウだ。


(エビとベーコンは軽く焼き目がつく程度に……ソフリットは褐色になれば完成だ)


 火入れが終わった素材を、ダッチオーブンに加えていく。

 最後にコーン缶とグリンピース缶を加えて、しばらく放置。

 水分を吸わせた方が美味しく仕上がるのだ。


「……で、君らは何を?」


 振り返るとそこには、ババ抜きに勤しむ皆様がいた。

 うん、暇だもんね。米は時間かかるもんね。

 女子組に頼んでおいたテーブルの準備はとうに終わってるね。

 あと皆様、お菓子ゲットしてたなら俺にも分けてくれ。

 俺もポッキー食べたい。


 まぁ良いさ。今夜は俺の飯で口からビーム吐かせてやる。


 で、十分に水分を吸った米を炊くこと二十数分。

 本日の夕食が完成いたしました。


「どうぞ、天川流ピラフです」

「「「おぉ〜」」」


 ダッチオーブンの蓋を開けた瞬間、女子三人から感嘆の声が出た。

 速水は眼鏡が曇るからか、少し離れていた。


「ほーら、食いたいだけ皿に盛れ」

「食べたいだけ!?」


 目を輝かせるソラ。

 安心しろ、お前を想定して米は2キロ買ってきた。


「足りなきゃ追加で作ってやるから、遠慮するな。おあがりよ!」

「はい!」


 ソラさん、声が力強いね。

 そして皿に盛って、テーブルでいただきます。

 ……うん、我ながらいい味だ。


「これは……うぅぅぅぅまぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぞぉぉぉぉぉ!」


 速水うるさい。口からビーム出すな。

 大阪城を破壊しそうな勢いのリアクションだな。

 女子を見習え、女子は……


「ツルギくんの作るご飯、美味しいですね〜」


 見ろ、ソラの素晴らしい笑顔を。

 これが普通なんだよ。

 他の女子だって……


「うーん、ツルギくんの料理ブラボーだよー!」


 ほらな。藍だって普通の反応だ、ありがとう。

 なんか素晴らしそうな名前のオジサンの影が見えた気がするけど……気のせいだろう。


 で、アイと九頭竜さんはというと。


「美味しいわね……少し涙が出そうになるけれど」

「ボク、もっと家事とか色々勉強した方がいいのかな?」


 なんか心に深い傷を負っていた。

 重く考えるなよ、2人に必要なのは基礎的な生活スキルだけだ。

 もう一度言う、基礎的な生活スキルだけだ。


『ウマウマ、ブ〜イ』

『ふむ、いい味だな。褒めてやる』


 ちなみに人目につかない隅っこでは、ブイドラとシルドラも食べている。

 気に入ってもらえて何よりだ。


 それはそうとして、さっきから気になっている事が一つ。


(なんというか……外から視線が集まってるんだよなぁ)


 正体の予想はつく。ポイントが溜まらなかった奴らの視線だろう。

 多分耳をすませば腹の虫が聞こえてくる。

 でもピラフはあげないからな。


 というか、ファイトを挑んできたりはしないんだな。


「なんか不思議だな」

「外の視線か?」

「おっ、速水気づいてたか」

「分かりやす過ぎるからな。アイツらはきっと、俺達には挑んでこない」

「断言するんだな」

「主に天川が惨劇を起こすからな」


 あっ、そういう理屈ですか。

 でもまぁ、それで安心して飯が食えるなら……まぁいいか。


「ツルギくん、おかわりお願いします!」

「アタシもー!」


 美味しく飯を食べてくれる女の子は、何がなんでも守るべきだからな。

 とりあえず腹ペコガールズの胃を満たしてやるか。


「了解、ちょっと待ってろ」

「「大盛りでお願い(します)!」」

「ほんと、よく食うなぁ」


 美味い飯をみんなで食べて、夜は更けていった。

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