第八十九話:熱き晩餐者たち
第二の試練が始まって数時間。
俺は無事目標ポイントを達成していた。
なんなら余裕を持って稼いだので、現在の保有ポイントは『28000p』だ。
ちなみに
となれば、後は楽しいお食事タイム!
「
「何故、アゴをしゃくれさせているんだ?」
速水には伝わらなかったようだ。
現在俺達2人はコンビニで食材の調達をしている。
ソラとアイはバーベキュー場でスペースの確保中。
全員無事に目標ポイントを獲得できたようで、とりあえずは安心だな。
というわけで何を作るかなんだが……
「本当に俺チョイスでいいのか?」
「仕方ないだろう。天川が一番料理慣れしてるんだからな」
仕方ないじゃん。そいうご家庭なんだもん。
でもまぁ、頼まれた以上はお応えしますよ。
バーベキュー場にある設備は既に把握済み。
現在時刻は午後4時50分。
そろそろ高校生は腹ペコモンスターになり始める頃合いだ。
(となれば、腹持ちの良いメニューが最適かな?)
想定タイムリミットは午後18時まで。
無料レンタル可能な調理器具にはダッチオーブンとフライパンがある。
火も3箇所は使用可能。
ならば今夜のレシピは決まりだ!
「速水、オリーブオイル取ってくれ」
「……いきなり意識が高くなったな」
「なるべく美味いもん作ってやる」
そして俺達は手持ちのポイントと相談しながら、食材を購入していった。
◆
で、バーベキュー場に来ました。
ソラとアイに頼んで、調理器具は用意してもらっている。
これでいつでも調理開始可能なのだが……
「……藍、なにそれ」
「あはは……なんでだろうね?」
無事に合流してきた藍と九頭竜さん。
なのだが……九頭竜さんが母親にしがみつく幼稚園児のように、藍にピタリとくっついていた。
あぁうん、予想はつくよ。
昼間のポイント稼ぎを通して仲良くなったんだよね。
でもね九頭竜さん、物語の流れが壊れるように誘導しちゃった俺も悪いけど……君そこまで極端なコメディキャラじゃなかったでしょ!?
なんなの、その、今にもデフォルメ二頭身になりそうな状態は。
藍と九頭竜さんが良い友人関係になるのは知ってたから、それを早めただけのつもりだったのに。
なにこれ? 百合系同人誌の世界線に移動しちゃった?
コミケの新刊ですか?
「あの……九頭竜さん、キャラ壊れてないかな?」
「藍は渡さない」
思わず突っ込んじゃったけど、めっちゃ膨れっ面で抗議された。
あぁうん……友達ZERO脱却おめでとう。
今日から君はギャグ要員だ。
さよならシリアス。
「あらあら、藍は
「めでたしめでたしですね」
アイさんソラさん。そんな簡単に〆て良い話じゃない気がするんです。
速水を見ろ。九頭竜さんの豹変っぷりに、眼鏡がズレてるぞ。
アレが通常の反応だ。俺達は間違っていない。
「まぁ、仲良きことは良いことなんだろうな」
きっとそうだ。そう結論づけてしまおう。
だからコアラみたいに藍にしがみついている九頭竜さんは、全部アイツに任せよう。
「真波ちゃん、はなれてー!」
「やー!」
……全部任せよう。
今日の俺はシェフだ!
「それでは調理開始!」
背景から目を逸らして、俺は食材の下処理をしていく。
(玉ねぎ、ニンジンを微塵切りにしたら……フライパンにオリーブオイルを加えて火にかける)
じっくりとオイルが回るように火入れして、馴染んだら蓋を閉めて蒸しあげる。
こうやってソフリットを作るだけでも、味は格段に進化するのだ。
(蒸す時間は10分ほど、その間に米を準備する)
もう一つ用意していたフライパンにバターを溶かし入れる。
そこに研いでいない生米を加えて炒めればバターライスになる。
「速水ー、ダッチオーブンに水入れて、顆粒コンソメ入れてくれー」
「わかった」
ちなみにダッチオーブンとは鍋の一種だ。使い方は色々あるけど、今回はシンプルにしたから火にかける。
あっ、水の分量もちゃんと計っているぞ。
そして速水はその辺キチンとしてくれるから、安心して頼めるな。
「……ねぇソラ。私達って」
「アイちゃん、言っちゃダメです」
「ツルギくんってアタシ達よりも女子力あるよね!」
「藍ちゃん! 言っちゃダメです!」
聞こえてるぞ女子の皆様。
あと女子力じゃなくて生活力です。
それから九頭竜さん、露骨に俺から目を逸らすな。
(炒めた米はダッチオーブンに入れて……蒸し終わったソフリットをさらに火入れする)
フライパンから蓋を外して、水分を飛ばすように炒める。
並行して、生米を炒め終えたコンロで、今度は冷凍むきエビとベーコンを炒める。
下味はシンプルに塩コショウだ。
(エビとベーコンは軽く焼き目がつく程度に……ソフリットは褐色になれば完成だ)
火入れが終わった素材を、ダッチオーブンに加えていく。
最後にコーン缶とグリンピース缶を加えて、しばらく放置。
水分を吸わせた方が美味しく仕上がるのだ。
「……で、君らは何を?」
振り返るとそこには、ババ抜きに勤しむ皆様がいた。
うん、暇だもんね。米は時間かかるもんね。
女子組に頼んでおいたテーブルの準備はとうに終わってるね。
あと皆様、お菓子ゲットしてたなら俺にも分けてくれ。
俺もポッキー食べたい。
まぁ良いさ。今夜は俺の飯で口からビーム吐かせてやる。
で、十分に水分を吸った米を炊くこと二十数分。
本日の夕食が完成いたしました。
「どうぞ、天川流ピラフです」
「「「おぉ〜」」」
ダッチオーブンの蓋を開けた瞬間、女子三人から感嘆の声が出た。
速水は眼鏡が曇るからか、少し離れていた。
「ほーら、食いたいだけ皿に盛れ」
「食べたいだけ!?」
目を輝かせるソラ。
安心しろ、お前を想定して米は2キロ買ってきた。
「足りなきゃ追加で作ってやるから、遠慮するな。おあがりよ!」
「はい!」
ソラさん、声が力強いね。
そして皿に盛って、テーブルでいただきます。
……うん、我ながらいい味だ。
「これは……うぅぅぅぅまぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぞぉぉぉぉぉ!」
速水うるさい。口からビーム出すな。
大阪城を破壊しそうな勢いのリアクションだな。
女子を見習え、女子は……
「ツルギくんの作るご飯、美味しいですね〜」
見ろ、ソラの素晴らしい笑顔を。
これが普通なんだよ。
他の女子だって……
「うーん、ツルギくんの料理ブラボーだよー!」
ほらな。藍だって普通の反応だ、ありがとう。
なんか素晴らしそうな名前のオジサンの影が見えた気がするけど……気のせいだろう。
で、アイと九頭竜さんはというと。
「美味しいわね……少し涙が出そうになるけれど」
「ボク、もっと家事とか色々勉強した方がいいのかな?」
なんか心に深い傷を負っていた。
重く考えるなよ、2人に必要なのは基礎的な生活スキルだけだ。
もう一度言う、基礎的な生活スキルだけだ。
『ウマウマ、ブ〜イ』
『ふむ、いい味だな。褒めてやる』
ちなみに人目につかない隅っこでは、ブイドラとシルドラも食べている。
気に入ってもらえて何よりだ。
それはそうとして、さっきから気になっている事が一つ。
(なんというか……外から視線が集まってるんだよなぁ)
正体の予想はつく。ポイントが溜まらなかった奴らの視線だろう。
多分耳をすませば腹の虫が聞こえてくる。
でもピラフはあげないからな。
というか、ファイトを挑んできたりはしないんだな。
「なんか不思議だな」
「外の視線か?」
「おっ、速水気づいてたか」
「分かりやす過ぎるからな。アイツらはきっと、俺達には挑んでこない」
「断言するんだな」
「主に天川が惨劇を起こすからな」
あっ、そういう理屈ですか。
でもまぁ、それで安心して飯が食えるなら……まぁいいか。
「ツルギくん、おかわりお願いします!」
「アタシもー!」
美味しく飯を食べてくれる女の子は、何がなんでも守るべきだからな。
とりあえず腹ペコガールズの胃を満たしてやるか。
「了解、ちょっと待ってろ」
「「大盛りでお願い(します)!」」
「ほんと、よく食うなぁ」
美味い飯をみんなで食べて、夜は更けていった。
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