第八十八話:絢爛と従玩②

 真波まなみのターンが終了し、次は小柄なメイド服の少女こと鳳凰院ほうおういん鈴音すずねの番である。


「すずのターンなのデス! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」


 鈴音:手札5枚→6枚


 勢いよくドローをする鈴音。

 それを見て藍は内心「そういう一人称だったんだ……あと何でメイド服なんだろう?」と思っていた。


「メインフェイズ! すずは魔法カード〈従玩じゅうがんのお片付け〉を発動!」


 鈴音の場に、大きな玩具箱が出現する。

 玩具箱の蓋が開くと、鈴音の手札が2枚吸い込まれた。


「〈従玩のお片付け〉は発動コストで手札のモンスターを2枚捨てるデス。すずは〈トイ・レディー〉〈トイ・キッチン〉を捨てるデス!」


 鈴音の手札から二体の球体関節人形が墓地に送られる。

 一体はごく普通のメイド型。もう一体はキッチンメイドの姿をしている。


「そして〈従玩のお片付け〉のメイン効果! すずのデッキから系統:《従玩》を持つモンスターを2枚墓地に送るデス! すずが墓地に送るのは〈トイ・ナース〉と〈トイ・スカラリー〉デス!」


 玩具箱の中に、子守りメイドと皿洗いのメイドが吸い込まれていく。

 四種のモンスターを墓地に送る魔法カード。

 らんはツルギから聞いた話を思い出していた。

『墓地にカードを積極的に送っていく相手には気をつけろ』

 その通りだと藍は考えていた。

 墓地にカードを置くことで強くなるアイのようなファイターもいる。

 恐らく鈴音も同じタイプなのだろうと、藍は考えていた。


「さぁ連鎖デス! 墓地に送られた〈トイ・スカラリー〉の効果発動! すずのデッキを上から3枚墓地に送るデス!」


 鈴音のデッキから3枚のカードが墓地に送られる。


 墓地に送られたカード:〈トイ・パーラー〉〈トイ・ハウス〉〈エルダーサイン〉


 さらに2体のメイド人形が墓地に送られた。

 続けて鈴音は魔法カードを仮想モニターに投げ込む。


「魔法カード〈従玩の組立!〉を発動デス!」


 鈴音の墓地から魔法陣が出現する。


「すずの墓地から系統:《従玩》を持つモンスターを1体召喚するデス! 来るデス〈トイ・パーラー〉!」


 魔法陣を突き破り、鈴音の場にパーラーメイド型の球体関節人形が召喚された。


 〈トイ・パーラー〉P4000 ヒット2


「さーらーにー! 〈従玩の組立!〉の【トイアシスト】4を発動デス!」

「専用能力っ!」


 藍は思わず歯を食い縛ってしまう。


「【トイアシスト】で指定された枚数の《従玩》カードがあれば、すずのカードがパワーアップするです! 〈従玩の組立!〉の追加能力! すずの墓地からヒット1以下のモンスター〈トイ・キッチン〉を召喚デス!」


 続けて鈴音の場にキッチンメイド型の人形が召喚される。


 〈トイ・キッチン〉P6000 ヒット1


 1体の令嬢に、2体のメイド人形が並んだ。

 彼女達の本番はここからである。


「〈トイ・パーラー〉の【トイアシスト】4を発動デス! 召喚時に相手モンスター1体を破壊するデス! 〈フレイムナイト〉を破壊です!」


 パーラーメイドが真っ黒で毒々しいお菓子を、フレイムナイトに投げつける。

 するとお菓子をぶつけられたフレイムナイトはグズグズに溶けて崩れてしまった。


「そ、それ食品衛生法的にどうなの!?」

「治外法権デース」


 藍の突っ込みに、鈴音は胸を張って反論した。

 藍は「それでいいの?」と肩を落としていた。


「アタックフェイズデス! 〈トイ・キッチン〉で〈【王子竜】シルドラ〉を指定アタックデース!」


 【トイアシスト】3の効果によって、鈴音の〈トイ・キッチン〉は指定アタックが可能となっている。

 キッチンメイド型の人形は、フライパンを手にしてシルドラに攻撃を仕掛けた。

 パワーはお互いに6000同士、このままでは相打ちになる。


「させない。〈ホークナイト〉を効果で身代わりにする」


 真波の指示によって、ホークナイトがシルドラの前に出る。

 フライパンをその腕で防いで、翼で反撃する。

 ホークナイトはキッチンメイドと同時に爆散した。


「なら〈エリザベート・ファング〉で攻撃デス!」


 茉莉花まりかが従える令嬢に攻撃を指示する鈴音。

 エリザベートは真波に向かって、その脚を振り下ろそうとする。

 だが真波の目に諦めは浮かんでいない。


「魔法カード〈スクランブルナイト〉を発動。ボクの場に系統:《王竜おうりゅう》を持つモンスターがいるなら、手札か墓地から系統:《輝士きし》を持つモンスター1体を召喚する」


 真波の場に召喚のための魔法陣が出現する。

 なお〈スクランブルナイト〉で召喚したモンスターは、ターン終了時に墓地へ送られる。


「来て〈ギガントウォールナイト〉」


 全身が城壁そのものとも形容できる巨体の騎士が、真波の場に召喚された。


 〈ギガントウォールナイト〉P7000 ヒット0


「〈ギガントウォールナイト〉でブロック」


 赤毛の令嬢の蹴りを、巨体の騎士が受け止める。

 しかしエリザベートの方がパワーは高い。

 ギガントウォールナイトは、その全身が粉々に砕かれてしまった。

 しかしここまで真波の想定内。


「破壊された〈ギガントウォールナイト〉の効果発動。このターン、ボク達が受けるダメージは全て−2になる」

「うーん、これじゃあ攻撃の意味がないデス」


 鈴音は追撃はしなかった。

 しかし代わりと言わんばかりに、1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。


「すずは魔法カード〈タイムスリップ〉を発動するデス!」

「未来にモンスターを飛ばす魔法カード」


 真波は鈴音が発動した魔法カードを冷静に見極めていた。


「その通りデス! すずは墓地から〈トイ・ナース〉を除外して、次のこちらターンで召喚可能にするデス!」


 なおこの場合の次のターンとは、茉莉花のターンである。

 真波は鳳凰院姉妹がタッグファイトの本質理解していると考えた。

 警戒心を強める真波。


「すずはこれでターンエンドデス!」


 鈴音:ライフ9 手札1枚

 場:〈トイ・パーラー〉〈【絢爛令嬢けんらんれいじょう】エリザベート・ファング〉


 状況は鳳凰院姉妹の方が有利。

 藍と真波は何とかして逆転の道筋を見つけようとしていた。

 そして藍のターンが回ってくる。


「アタシのターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ!」


 藍:手札4枚→5枚


 ドローしたカードを確認して、藍は小さく頷く。


「よし! メインフェイズ。アタシは〈ブイドッグ〉を召喚!」


 藍の場に犬型モンスターが召喚される。

 入試でも使ったカードだ。


 〈ブイドッグ〉P3000 ヒット1


 だがこれだけでは終わらない。

 ライフは5以下、既に藍の領域に入っていた。


「よーし、気分ブイブイいっきたー! 〈ブイドッグ〉の召喚時効果発動! このカードよりパワーの低い相手モンスターを1体破壊するよ!」

「でもすず達の場にはパワー3000以下のモンスターなんていないデース!」


 〈ブイドッグ〉P3000→P8000


「なんでパワーが上がるデスか!?」

「〈ブイドッグ〉の【Vギア】発動。アタシ達のライフが5以下なら、パワーが+5000になる」

「と、いうことは……破壊範囲が」

「パワー8000未満! アタシは〈トイ・パーラー〉を破壊!」


 ブイドッグが噛み付いて、トイ・パーラーを破壊する。

 まずは1体破壊。

 藍のターンはまだまだ続く。


「自分の場に系統:《勝利》を持つモンスターがいるので、魔法カード〈ビクトリードロー〉を発動!」


 魔法カードの効果で、藍のデッキの上から1枚目がオープンされる。


 オープンされたカード:〈【勝利竜】ブイドラ〉


「オープンしたカードが系統:《勝利》を持つカードなら、手札に加える。さらに【Vギア】発動! デッキからカードを2枚ドロー!」

「アナタ達揃いも揃ってドローしすぎデス!」


 鈴音が叫ぶが、スルーして藍は手札を増やす。


 藍:手札3枚→6枚


「さぁいくよ! 燃える炎で勝利をつかむ! 熱く弾けてアタシのバディ! 〈【勝利竜】ブイドラ〉を召喚!」


 赤く燃える魔法陣から、赤色のチビ竜が召喚される。

 藍の相棒、ブイドラの登場だ。


 〈【勝利竜】ブイドラ〉P5000 ヒット2


「やっとオイラの出番ブイ!」

「遅れた登場だな雑種」

「あっ! なんでお前が先に出てるブイ!」

「知ったことではない。せいぜい運命を恨め」

「やっぱりお前は気に入らないブイ!」


 相手に聞こえないとはいえ、ブイドラは早速シルドラと喧嘩を始めていた。

 藍は少し困った表情で、それを諌めた。


「ブイドラ。今ファイト中だから、後にしてね」

「ブゥゥゥ」


 頬を膨らませるブイドラ。

 だが藍の言うことならと、ひとまず大人しくなった。

 気を取り直して、藍は1枚のカードを仮想モニターに投げ込む。


「魔法カード〈パワードおむすび〉を発動! このカードは場のモンスター1体のパワーを+5000するか、ヒットを+1できる。だけど【Vギア】を達成していれば両方使える! アタシは全ての効果を〈ブイドラ〉に!」

「おむすび食べてパワーアップブイィィィ!」


 大きなおむすびを食べて、ブイドラは強化を受ける。


 〈【勝利竜】ブイドラ〉P5000→P10000 ヒット2→3


 これで必要なものは揃った。

 藍は戦闘を開始する。


「アタックフェイズ! 〈ブイドラ〉で〈エリザベート・ファング〉を指定アタック!」

「男女ビョードー火炎放射ブイ!」


 ブイドラは口に炎を溜め込んで、エリザベートに放とうとする。

 しかし、それに反応して茉莉花がカードを1枚仮想モニターに投げ込んだ。


「魔法カード〈ゴージャス・ウォール〉を発動! ワタシの場に系統:《絢爛》のモンスターがいれば、アタックフェイズを強制終了するわ!」


 藍は自分の手札に目線を落とすが、今は何もしない。

 金色に輝くオーラによって、ブイドラの炎は打ち消されてしまう。


「うわっ、眩しいブイ!?」


 ブイドラはあまりの眩しさに、目を抑えながら転げ回っていた。


 アタックフェイズが終わってしまった藍。

 これ以上できることはもう残っていなかった。


「ターンエンド」


 藍:ライフ4 手札4枚

 場:〈ブイドッグ〉〈【勝利竜】ブイドラ〉〈【王子竜】シルドラ〉


 ターンが巡って、茉莉花のターンになる。

 ここまで有利にゲームを運べた茉莉花は余裕を浮かべていた。


「ワタシのターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」


 茉莉花:手札3枚→4枚


「メインフェイズ。鈴音、使わせてもらうわよ」

「お姉様のためなら喜んでデス」

「ワタシは魔法カード〈タイムスリップ〉の効果で除外されていたモンスター。〈トイ・ナース〉を召喚!」


 過去から時を超えて、茉莉花の場にナース服を着た子守りメイドが召喚された。


 〈トイ・ナース〉P3000 ヒット1


「召喚された〈トイ・ナース〉の【トイアシスト】5の効果を発動! ワタシ達の墓地からヒット2以下のモンスターを召喚するわ」


 鳳凰院姉妹の場に、墓地へと繋がる魔法陣が展開される。


「ワタシが召喚するのは〈トイ・ハウス〉よ!」


 魔法陣を通じて、墓地からハウスメイド型の球体関節人形が召喚された。


 〈トイ・ハウス〉P4000 ヒット1


 一見するとあまり強くないモンスターを復活させている。

 だが茉莉花の狙いは、そのモンスター効果だ。


「召喚された〈トイ・ハウス〉の効果発動! コストで〈トイ・ハウス〉自身と〈トイ・ナース〉を破壊するわ!」


 二体のメイド型球体関節人形が消滅する。

 表面上だけ見ればとんでもないディスアドバンテージ。

 だがその重めのコストを前にして、藍と真波は一瞬たりとも油断をしていなかった。


「〈トイ・ハウス〉の【トイアシスト】5を発動。このターン、ワタシは系統:《従玩》または《絢爛》を持つ進化モンスターを、進化条件を無視して召喚できる」

「進化モンスターの踏み倒し能力!?」


 その破格の性能を前にして、藍は声を上げて驚く。

 進化条件から無視するという事は、進化素材すら必要ないという事だ。

 驚く藍に自信の笑みを浮かべて、茉莉花は1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。


絢爛けんらんに終わりはなく、が栄光は永遠に輝き続ける! ただ我が儘に、ぜいを尽くしなさい! 〈【絢爛超令嬢けんらんちょうれいじょう】マリー・スカーレット〉を進化条件を無視して召喚!」


 茉莉花の場に出現した魔法陣を破り、真紅のドレスに身を包んだ令嬢が姿を現す。

 優雅に、高貴に、その我が儘を押し付けるために。

 ウェーブのかかった金髪の令嬢が、降臨した。


 〈【絢爛超令嬢】マリー・スカーレット〉P13000 ヒット4


「2枚目のSRカード……しかもパワー13000にヒット4のモンスターを踏み倒しって……」

「ふふ、これがワタシの切り札よ」


 たじろぐ藍に、堂々とした笑みを浮かべて、茉莉花がそう告げる。

 それはそうと、藍は目の前に現れた強力なモンスターをどう攻略すべきか考えていた。

 だが、ただステータスが大きいだけではない。


「〈マリー・スカーレット〉の【セブンブラスト】を発動」

「あっ!? 場のヒット数は、合計7だった!?」


 〈エリザベート・ファング〉がヒット3、〈マリー・スカーレット〉がヒット4なので、合計7である。

 

「〈マリー・スカーレット〉が場に存在する限り、相手モンスター全てのヒットは−3になる」


 茉莉花が召喚した令嬢から衝撃波が飛んでくる。

 その効果によって、藍達のモンスターはヒットを失ってしまった。


 〈ブイドッグ〉ヒット1→0

 〈【勝利竜】ブイドラ〉ヒット2→0

 〈【王子竜】シルドラ〉ヒット2→0


「む、これは……」

「身体から力が抜けるブイ〜」


 シルドラとブイドラはその場に倒れ込んでしまう。

 これでは相手に戦闘ダメージを与えられない。


「アタックフェイズよ。まずは〈エリザベート・ファング〉で攻撃!」

「〈ブイドッグ〉でブロック!」


 エリザベートの蹴りを、ブイドッグがその身に受けて爆散する。

 だが今茉莉花の場はヒット合計7である。


「〈エリザベート・ファング〉の【セブンブラスト】で2回攻撃よ。いきなさい!」


 再び攻撃を仕掛けるエリザベート。

 現在ブロック可能なモンスターはシルドラのみ。

 真波は悩んだ。ここダメージを受ければ、ライフ差がさらに広がる。

 シルドラを失えば【ロードストライク】も使えなくなるが、ここで大ダメージを受けるよりは。


「シルドラで――」


 真波がブロック宣言をしようとした、その時であった。


「魔法カード〈勝利のお札-1、2、3-〉を発動! 攻撃を無効にする!」


 藍が発動した魔法カードによって、エリザベートの額に一枚のお札が張り付く。

 その能力で攻撃は無効化された。

 真波は無意識に藍の方を見る。


「真波ちゃんのパートナーは、絶対に守る!」

「藍……うぷ」


 真波は感動のあまり、吐きそうになっていたが、ギリギリで堪えていた。

 とはいえ、まだ相手の攻撃は終わっていない。


「なら〈マリー・スカーレット〉で攻撃よ!」


 金髪の令嬢が、どこからか取り出したギロチンを投げつけてくる。

 だが藍には策が残っていた。


「魔法カード〈カサ乱舞地蔵!〉を発動! 効果で〈地蔵トークン〉を召喚して、そのままブロック!」


 〈地蔵トークン〉P8000 ヒット0


 藍の前に一体の地蔵が召喚され、飛来するギロチンをその身に受ける。

 地蔵は真っ二つに切り裂かれてしまったが、藍達のライフは守られた。

 これで茉莉花に攻撃可能なモンスターはいない。

 茉莉花は忌々しそうにターン終えた。


「クッ、ターンエンドよ!」


 茉莉花:ライフ9 手札3枚

 場:〈【絢爛令嬢】エリザベート・ファング〉〈【絢爛超令嬢】マリー・スカーレット〉


 なんとか耐え切った。

 しかし藍達が劣勢な事には変わりない。

 真波は逆転可能か否かを考えて、召喚器に目をやる。

 不可能ではない……しかし確率は低い。


(きっと……昨日までのボクなら、見切りをつけていたかもしれない)


 可能性は信じない。確実な道だけを歩む。

 九頭竜真波は今までそうしてきた。

 だが……今は可能性を信じたいという気持ちに満ちていた。

 武井藍という、始めての友達と同じように、最後まで諦めないファイトをしたいと思っていた。


「ボクのターン……スタートフェイズ。ドローフェイズ!」


 真波:手札3枚→4枚


 真波はドローしたカードを見た瞬間、一つの可能性を見出した。


(一か八かになる……でも、藍ならきっと!)


 藍を信じて、真波は1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。


「メインフェイズ。ボクは魔法カード〈緊急武装交換〉を発動!」

「なに、そのカードは」


 今までのファイトでは真波が使って来なかったカードを前に、茉莉花は疑問符を浮かべる。


「このカードはデッキからカードを1枚ドローする。その後、プレイヤー1人を選んで、そのプレイヤーと手札を1枚ずつ交換する。ボクは藍を指名!」


 魔法カードの効果で、まずは手札が1枚増える真波。


 真波:手札3枚→4枚


 そして藍とお互いの手札を見せ合う。

 真波は藍の手札に賭けていた。

 あのカードがもし手札にあれば、勝ち筋は見える。

 そして……そのカードは藍の手札にあった。


「ボクはこのカードを手札に加える」

「じゃあアタシはこれ」


 藍が持っていったカードを確認して、真波は満足気に頷く。

 そして反撃の狼煙は上がった。


「ボクは……ライフを1点支払って、アームドカード〈ビクトリーセイバー〉を顕現!」

「なっ、それは!?」


 驚く茉莉花。真波が使ったのは、藍のアームドカードであった。

 ライフをコストに、真波の場には紅い刀身の大剣が姿を表した。


 藍&真波:ライフ4→3


「まずは〈ビクトリーセイバー〉を〈【勝利竜】ブイドラ〉に武装!」


 サイズが小さくなった剣を、ブイドラが武装する。


「よっしゃあ! パワーアップブイ!」

「マナミ、アイツだけか?」

「安心して。続けてボクはデッキを上から5枚除外して、アームドカード〈キングダムセイバー〉を顕現!」

「さらにアームドカードデスか!?」


 魔法陣を突き破って、銀色の剣が姿を現す。


「〈【王子竜】シルドラ〉に〈キングダムセイバー〉を武装!」


 眩い光と共に、シルドラが持てるサイズに変化したキングダムセイバー。

 シルドラはそれを手に掴んで、武装した。


「ふん。コレで対等だな雑種ゥ」

「お前、ホントにヤな奴ブイ」


 ジト目で抗議するブイドラ。

 だがシルドラはどこ吹く風だ。


「〈バレルナイト〉を召喚」


 真波の場に、二丁拳銃を手にした騎士が召喚された。


 〈バレルナイト〉P3000 ヒット1


「アタックフェイズ! まずは〈ブイドラ〉で〈マリー・スカーレット〉に指定アタック!」

「なっ!? パワーは〈マリー・スカーレット〉の方が高いわよ!」

「て、思うでしょ〜」


 少し意地の悪い笑みを浮かべる藍。


「〈ビクトリーセイバー〉の武装時効果! 〈ブイドラ〉のパワーは+10000になるよ!」

「パワー+10000ですって!?」

「高すぎデス!」


 〈【勝利竜】ブイドラ〉P5000→P15000


「ド派手にブった斬るブイ!」


 ブイドラは剣を振り回し、マリー・スカーレットを攻撃する。

 だが相手はSRカード。簡単には倒せない。


「クッ! 〈マリー・スカーレット〉の【ライフガード】を発動! 回復状態で場に残すわ!」


 場に残ってしまうマリー・スカーレット。

 だがそれで良かった。真波にとって大切なのは、破壊判定が下る事であった。


「〈バレルナイト〉の【ロードストライク】発動。相手モンスターが破壊される度に、相手に2点のダメージを与える」


 能力が発動して、バレルナイトは鳳凰院姉妹を拳銃で撃ち抜いた。


 茉莉花&鈴音:ライフ9→7


 この程度のダメージでは終わらない。

 真波は藍の方を見る。

 

「藍、力借りるね」

「やっちゃえ真波ちゃん!」

「ボクは〈ブイドラ〉の【Vギア】を発動! 〈ブイドラ〉に2回目攻撃をさせる」


 起き上がるブイドラ。

 その瞳にはやる気が満ちていた。


「やったるブイ!」

「〈ブイドラ〉でもう一度〈マリー・スカーレット〉を指定アタック!」


 再び剣を向けるブイドラ。

 マリー・スカーレットは抵抗するが、敵いそうもない。

 このままでは破壊されてしまう。


「させないデス! 魔法カード〈従玩の反攻!〉を発動デス! ライフを払ってモンスター2体を破壊――」


 茉莉花&鈴音:ライフ7→6

 

 鈴音はサポートをするために魔法カードを使う。

 しかしその効果を発揮する前に、魔法カードは粉々に砕かれてしまった。


「デスゥ!?」

「ライフを2点払って、魔法カード〈ディスペルスラッシュ!〉を発動したよ」

「そ、それは九頭竜真波のカードのはずデス!」


 真波のカードを使った藍に、鈴音は驚く。

 しかし、それを可能にするタイミングがあったのだ。


「えへへ。実はさっき〈ビクトリーセイバー〉と交換したんだ〜」

「そんなバカなデスゥ」


 藍&真波:ライフ3→1


 そしてブイドラの攻撃は通る。

 マリー・スカーレットはブイドラが振り下ろした剣撃によって、真っ二つに斬り裂かれてしまった。

 もう【ライフガード】も残っていない。

 そして破壊判定が下った事で、バレルナイトの能力も発動する。

 バレルナイトの弾丸が、鳳凰院姉妹撃ち抜いた。


 茉莉花&鈴音:ライフ6→4


「続けて〈シルドラ〉で攻撃!」

「王が引導を渡してくれる!」


 剣を構えて、シルドラは突撃する。

 鈴音は手札が0枚なので、もう抵抗はできない。

 しかし茉莉花は……


「魔法カード〈ゴージャス・ウォール〉を発動! アタックフェイズを強制終了させるわ!」


 金色のオーラが、シルドラの攻撃を無効化しようとする。

 だが光り輝くオーラに、一本の大槍が突き刺さった。


「なっ!?」

「魔法カード〈ドンキホーテの大槍〉を発動! 系統:《防御》を持つ魔法カードを無効にする!」

「貴女、いつの間にそんなカードを!」

「念の為に温存しておいたの」


 藍の発動した魔法カードによって、金色のオーラは消えそうになる。

 だがまだ終わらない。


「魔法カード〈魔術押収の御触れ〉を発動! 手札の〈ザ・バトラー〉を捨てて、その魔法カードを無効にするわ!」


 手札をコストに、魔法カードをさらに無効化しようとする茉莉花。

 藍の手札はもう0枚。このままではアタックフェイズが強制終了してしまう。

 万事休すか、藍が諦めかけたその時であった。


「そう……そうくると思った」

「真波ちゃん?」

「最後の詰めは、確実に刺そうとしてくる……きっとそうだと思ったから、ボクはこのカードを温存しておいた」


 そう言うと真波は1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。


「魔法カード〈捨て身の魔封剣〉を発動!」

「な、なによそのカードは」

「このカードは自分の場に存在するアームドカードを1枚破壊することで、相手の魔法カードを無効にする」

「なんですって!?」


 驚愕する茉莉花。

 真波はコストとして〈キングダムセイバー〉を破壊した。


「シルドラ!」

「承知した。邪魔な魔法は打ち消す!」


 シルドラはキングダムセイバーを投擲する。

 すると茉莉花が発動しようとしていた魔法カードは、その効果を無効化されてしまった。

 

 これにより、全員手札は0枚。

 もうカウンターを打つ事はできないので、逆順処理に入る。


 〈捨て身の魔封剣〉が〈魔術押収の御触れ〉を無効化する。

 〈魔術押収の御触れ〉は〈ドンキホーテの大槍〉の無効化に失敗する。

 そして〈ドンキホーテの大槍〉が〈ゴージャス・ウォール〉を無効にすれば。


「これで〈シルドラ〉の攻撃は通る。いってシルドラ!」

「良いだろう、くらえ!」


 シルドラは茉莉花に勢いよく蹴りを入れる。


 茉莉花&鈴音:ライフ4→2


 そしてこのターン、真波はブイドラによってモンスターを2回破壊している。

 いくら【ライフガード】によって一度生き残っていても、2回破壊すれば、シルドラの能力は発動するのだ。


「〈【王子竜】シルドラ〉の効果発動。相手モンスターを2回以上破壊しているなら、1度だけ回復できる」

「えっ……それじゃあ」

「お姉様、詰みデス」

「そんなー!」


 間抜けな声を上げる茉莉花。

 だが藍とのランチタイムを妨害された恨みがあるので、真波は容赦しない。


「これでトドメ! いって〈シルドラ〉!」

「マナミの命とあっては仕方ない。恨むなよ」


 シルドラの口に眩い光が集まっていく。


「くらえ、シルバーバースト!」


 溜まった光エネルギーを、シルドラは鳳凰院姉妹に向けて一気に解き放った。


「きゃぁぁぁぁぁぁ!」

「また負けデース!」


 茉莉花&鈴音:ライフ2→0

 藍&真波:WIN


 ファイトが終了し、立体映像が消える。

 真波は無言で鳳凰院姉妹に歩み寄った。


「……よけいな事はしないで」


 凄まじい圧で、ただそれだけ吐き捨てると、真波は藍の方へと戻って行くのであった。

 そして藍は、獲得したポイントを見て目を丸くしていた。


「……『18000p』も入っちゃった」


 勝てばポイント総取りルールにより、藍は予想外な一攫千金を成功させた。

 だが内心、藍は少し鳳凰院姉妹に同情してしまうのであった。

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