第八十七話:絢爛と従玩①
双子の姉である鳳凰院
妹の鳳凰院
実家は代々続く実業家であり、正真正銘の上流階級。
気高く優雅をモットーに、常に上に立とうとする茉莉花。
姉を支える影である事を好む鈴音。
失敗らしい失敗などほとんど経験した事のない二人にとって、常に自分の上に存在する
鳳凰院姉妹は定期的に真波にファイトを挑んでは敗北。
次の日も挑んでは敗北。
デッキを練り直し、高額なSRカードを採用しても敗北。
気づけば戦績は姉妹合わせて0勝89敗。
諦めの悪い姉妹は、打倒九頭竜真波を掲げて研鑽を続けた。
そしてこの合宿でも、姉妹は己を鍛えるためにポイントを荒稼ぎしてきた。
あとは九頭竜真波を倒すのみ。
だから姉妹は、いつも通りファイトを挑んだつもりであった……
「フングルイ……ムグルイナフ……イア、イア」
九頭竜真波は現在、人の領域を踏み外していた。
ファイトは開始しているが、あまりにも異様な光景に鳳凰院姉妹は恐れ戦く。
「ちょ、ちょっと。九頭竜さん本当に大丈夫なの!?」
「外なる神々を呼び出して世界を焼き尽くしそうな声デス」
金髪縦ロールお嬢様の鳳凰院茉莉花は、素で真波を心配。
黒髪小柄メイドの鳳凰院鈴音はドン引きしていた。
そんな二人に対して、
「えっと、アタシがコミュニケーションをフォローする方向でいいかな?」
「よ、よろしくお願いするわ」
「ご迷惑おかけするデス」
話をまとめる三人に反して、真波はまだ人の域に戻れずにいた。
「じゃあ気を取り直してタッグファイト! アタシのターンからだね。スタートフェイズ!」
藍のターンから、ようやくファイトが始まる。
「メインフェイズ。まずはこの子、アタシは〈ブイ・フルーツクラブ〉を召喚!」
藍の場にオレンジ色の蟹が召喚される。
お馴染みの初動モンスターだ。
〈ブイ・フルーツクラブ〉P3000 ヒット0
「召喚時効果発動! ライフを2点支払って、デッキから系統:《
藍&真波:ライフ10→8
「アタシは魔法カード〈スリップ・コンブ〉を手札に加えて、ターンエンド」
藍:ライフ8 手札5枚
場:〈ブイ・フルーツクラブ〉
まずは様子見の布陣を敷く藍。
真波はまだギリギリ人ではない。
「ワタシのターンね。スタートフェイズ! ドローフェイズ!」
鳳凰院茉莉花はカードを1枚ドローした。
茉莉花:手札5枚→6枚
「メインフェイズ! ワタシは〈ザ・バトラー〉を召喚」
茉莉花の場に、老齢で品のある執事が召喚された。
〈ザ・バトラー〉P6000 ヒット2
「ワタシは〈ザ・バトラー〉の効果発動! ライフを2点支払うことで、ワタシの場に〈従者トークン〉を1体召喚するわ!」
茉莉花&鈴音:ライフ10→8
〈従者トークン〉P1000、ヒット4
老齢の執事の能力によって、姉妹の場には若い男性従者が召喚される。
そのトークンのステータスを見た瞬間、藍は驚いて目を見開いた。
「いきなりヒット4のモンスター!? 召喚コスト低すぎない!?」
「安心なさい。今ワタシの場にいる2体は自身の能力で攻撃ができないわ」
「あっ、よかった~」
攻撃不可と聞いて安堵する藍。
だが当然これで終わるわけがない。
茉莉花は1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。
「ワタシは召喚コストとして、場の〈ザ・バトラー〉を破壊!」
老齢の執事は一礼すると同時に消滅。
執事がいた場所には、真っ赤な魔法陣が出現した。
「
魔法陣から一人の令嬢が姿を現す。
赤く美しい長髪に、嗜虐性さえ垣間見える美しき顔。
茉莉花のSRカードが召喚された。
〈【絢爛令嬢】エリザベート・ファング〉P9000 ヒット3
「いきなりSRカード……」
「驚くには早いわよ。アタックフェイズ!」
警戒心を強める藍に、茉莉花は戦闘開始を宣言する。
「〈エリザベート・ファング〉で攻撃!」
「それは……〈ブイ・フルーツクラブ〉でブロック!」
いきなりライフを5以下にしては真波に負担が大きくかかるかもしれない。
そう考えた藍は、まずは防御に徹する事を選んだ。
令嬢の鋭い蹴りを受けて、オレンジ色の蟹は爆散してしまう。
これで残るは攻撃不可の〈従者トークン〉のみ。
藍がひとまず安心しようとした、その時であった。
「この瞬間〈エリザベート・ファング〉の【セブンブラスト】を発動」
「えっ、なにそれ!?」
「【セブンブラスト】は系統:《絢爛》だけが持つ専用能力。ワタシの場に存在するモンスターのヒット数が合計7ちょうどであれば、追加能力を得る」
「合計7ちょうど……あっ!」
藍は茉莉花の場を見て気が付いた。
ヒット3の〈エリザベート・ファング〉と、攻撃不可だがヒット4の〈従者トークン〉。
合計7である。
「攻撃できないトークンを出したのも、これを狙ってたんだ」
「その通りよ。そして〈エリザベート・ファング〉は【セブンブラスト】によって2回攻撃が可能となる」
疲労状態であった令嬢が、瞬く間に回復状態になる。
「いきなさい! 〈エリザベート・ファング〉でもう一度攻撃!」
「今は、ライフを守る! 魔法カード〈スリップ・コンブ〉を発動!」
藍が発動した魔法カードによって、フィールドに1枚の昆布が出現する。
攻撃を仕掛けていた〈エリザベート・ファング〉は昆布を踏んで、その場で転んでしまった。
「〈スリップ・コンブ〉の効果で、相手モンスター1体のヒットを0にする。これでアタシにダメージはこない」
「あら、貴女Aクラスの割にはやるのね。ならターンエンドよ」
茉莉花:ライフ8 手札4枚
場:〈【絢爛令嬢】エリザベート・ファング〉〈従者トークン〉
茉莉花がターンを終了したので、次のプレイヤーの番になる。
だが次のターンは誰かというと……
「………………」
人の形に戻ったが、まだ露骨に不機嫌オーラを出している真波であった。
他の三人は「ちゃんとプレイできるのかな?」と心底心配していた。
「ボクの……ターンッ!」
最早怨嗟すら感じる声で、真波がターン開始を宣言する。
「スタートフェイズ! ドローフェイズ!」
真波:手札5枚→6枚
「メインフェイズゥ!」
「真波ちゃん! 落ち着いて、冷静にファイトしようね!」
「ボク、アイツラ、マルカジル」
「深呼吸だよ、真波ちゃ~ん!」
藍が必死に落ち着くように言うが、真波の目はどす黒い闇しか宿っていなかった。
「ボクは魔法カード〈キングダムドロー〉を発動! デッキを上から3枚オープンして、その中に系統:《
真波のデッキから3枚のカードが公開される。
オープンされたカード:〈【王子竜】シルドラ〉〈ホークナイト〉〈フレイムナイト〉
「全部ゥ手札ァ!」
「いつも思うのだけど、そのドローは反則じゃないの!? あと声が怖いのよ貴女!」
「シャァァァ」
「祟り神みたいな声漏れてるデス」
少し震える茉莉花に対して、鈴音は率直な感想を述べていた。
藍は……何も否定できなかった。
一方真波にはそんな言葉は一切届いておらず、ただ目の前の敵を始末するために動いていた。
「ボクはァ〈【王子竜】シルドラ〉〈ホークナイト〉〈フレイムナイト〉を召喚!」
銀色のチビ竜、鷹の騎士、炎の騎士を一気に召喚した。
なお〈フレイムナイト〉の召喚コストで、ライフを1点支払っている。
藍&真波:ライフ8→7
〈【王子竜】シルドラ〉P6000 ヒット2
〈ホークナイト〉P5000 ヒット2
〈フレイムナイト〉P7000 ヒット3
場に出たシルドラは、心配そうに真波を見る。
「マナミ……大丈夫なのか?」
「ダイジョウブ。テキ、タオス」
「ダメそうだな。もう少し落ち着いて冷静なファイトを――」
「ボクの場に系統:《王竜》を持つ〈シルドラ〉がいることで、〈フレイムナイト〉の【ロードストライク】発動!」
「全く聞いてないな」
シルドラの言葉すら聞こえず、真波は闇そのものと化したような様子で効果処理を行う。
フレイムナイトの効果で場のモンスターはパワー+3000となった。
〈【王子竜】シルドラ〉P6000→P9000
〈ホークナイト〉P5000→P8000
〈フレイムナイト〉P7000→P10000
「さらにィ〈ホークナイト〉の【ロードストライク】によってェ、ボクの場の系統:《輝士》を持つモンスターは指定アタックが可能になるゥ」
「あら、厄介な能力ね」
優秀な除去性能を発揮するも、茉莉花は冷静であった。
それに気づかず真波は戦闘に入ってしまう。
「アタックフェイズ! 〈フレイムナイト〉で〈エリザベート・ファング〉を指定アタック!」
パワー1万のフレイムナイトは、炎を帯びた剣でエリザベートを斬りつけようとする。
しかし、茉莉花には想定内の攻撃であった。
「魔法カード〈ノーブルカーテン〉を発動!」
「っ!? それは」
その魔法カードが発動された瞬間、真波は自身の迂闊な行動を悟ってしまった。
しかしもう遅い。
「〈ノーブルカーテン〉の効果で〈フレイムナイト〉の攻撃を無効にするわ!」
純白の美しいカーテンが出現し、フレイムナイトの視界を遮る。
カーテンが消えた頃には、エリザベートの姿は消えていた。
「さらに、このカードの発動時に攻撃対象となっていたモンスターで、相手プレイヤーを直接攻撃するわ」
フレイムナイトが振り返ると、エリザベートは真波の眼前に迫っていた。
もう守りには間に合わない。
エリザベートは凄まじい勢いの蹴りを、真波に叩き込んだ。
「くっ!」
藍&真波:ライフ7→4
ライフが削られてしまい、真波に僅かな焦りが生まれる。
だが仮にも相手はSRカード。
この程度では終わらない。
「自身が相手にダメージを与えた瞬間、〈【絢爛令嬢】エリザベート・ファング〉の効果発動。与えたダメージと同じ数値分のライフを回復するわ」
エリザベートが手のひらを向けると、藍と真波からライフを吸収した。
茉莉花&鈴音:8→11
「っ! なら〈シルドラ〉で攻撃!」
「王からライフを奪うとは、無礼極まる!」
シルドラは茉莉花に飛び掛かり、その身体を引っかく。
ダメージは与えたが、戦況を変えるほどではない。
茉莉花&鈴音:ライフ11→9
真波は少し考える。
ここで〈ホークナイト〉による攻撃もできるが、それをすればブロッカーがいなくなる。
残りライフは4。
今は耐えるべき時だと、真波は判断した。
「……ターンエンド」
真波:ライフ4 手札5枚
場:〈【王子竜】シルドラ〉〈ホークナイト〉〈フレイムナイト〉
ターンを終えた真波の顔は、酷く青ざめていた。
唇を噛み、息も荒くなっている。
激情に身を任せて、失敗してしまったという事実が、真波の心を痛めつけていた。
(せっかく、お友達ができたのに……ボクはッ!)
とにかく挽回する方法を考えないといけない。
真波は必死に思考するが、どんどんグチャグチャになっていく。
それが更に真波の心を痛めつける。
(ダメだ……ボクは……)
真波が右手で拳を強く握りしめた、その時であった。
「真波ちゃん!」
藍が、声をかけてきた。
真波が恐る恐るその顔を見ると、彼女は何故か笑顔だった。
「大丈夫大丈夫! 次のターンがあるよ!」
「でも……ライフが」
「ライフなんて1あれば十分! それに今はアタシがパートナーなんだから」
「っ!」
「頼って、信じて。真波ちゃんの背中は、アタシが守るから!」
藍は先日、真波に大敗したばかりだ。
その際も真波は、藍の事を少し面白いファイターくらいにしか思っていなかった。
だが今は違う。
独りよがりなんかじゃない。
二人で手にする勝利を、心から信じている。
それを感じ取った瞬間、真波の心は温もりに包まれた。
「……うん。じゃあ、任せるね藍」
「名前で呼ばれたからには、まかされたー!」
少し赤面気味で名前を呼ぶ真波。
藍は彼女の思いに応えようと、満面の笑みを浮かべた。
「さー真波ちゃん! 頑張って勝って、みんなで美味しいご飯たべるよ!」
「うん!」
目には見えなくとも、藍と真波の心は確実に重なっていた。
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