第六十五話:タッグファイト! アイ&藍①

「お待たせしました〜……って、あれ? アイちゃん達は?」


 アイとらんがファイトステージに行くと、入れ替わりでソラと卯月が戻ってきた。

 ちなみに卯月はソラの後ろで大量の屋台飯を抱えている。


「いや、それが……色々ありまして」


 俺はここまでの経緯を二人に話した。


「で、お兄は黙って待つことになったと」

「面目ない。圧がすごかったんだ」

「大丈夫ですよ。アイちゃんも藍ちゃんも強いですから」


 ソラの言う通り、楽々勝てれば良いんだけどなぁ。

 俺がそう考えていると、近くのモニターにファイトステージの様子が映し出された。

 どこでもファイトが観戦できる仕組みなんだな。


「とりあえず私たちはご飯を食べながら待ってましょう」


 そう言ってソラは早速たい焼きを頬張り始めた。

 いやソラはただ食べたいだけだろ。


「お兄、始まりそう」


 卯月に言われて、再びモニターの方を見る。

 マス目状の足場の上に、アイと藍、そしてナンパ男二人が立っていた。


「せっかく二対二なんだ。タッグファイトにしようぜ!」

「私はなんでも良いわよ」

「アタシも同じ!」


 ロン毛の男の提案で、タッグファイトをする事になった。

 珍しいな。


「ねぇお兄、タッグファイトってなに?」

「その名の通り、二対二で戦うルールだ」


 通常のファイトと違う点は以下の通り。

 ・初期ライフは10点をチームで共有

 ・モンスターは通常と同じく最大3体まで出せるが、フィールドと墓地はチームで共有。

 ・ターンは「チームA1」→「チームB1」→「チームA2」→「チームB2」という順番で行われる。

 ・ドローと攻撃は「チームB1」から行う事ができる。


「なんか複雑じゃない?」

「慣れればどうって事ない」


 あと今回はファイトステージの特別ルールが適用されるらしい。

 具体的には、足場が崩れてプールに落ちたプレイヤーはその時点で脱落してしまう。

 タッグファイトの事を考えると、ライフ2を下回るとかなりピンチになるな。


「……バラエティ番組の企画?」

「卯月、それは俺も同じ事を考えた」


 まぁ盛り上がりはするだろうけどね。

 さぁ、ステージ上で四人が召喚器を手に取ったぞ。


「「「「ターゲットロック!」」」」


 四つの召喚器が無線接続され、さらにタッグファイトモードへと移行する。



「「「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」」」


 アイ&藍:ライフ10 手札5枚

 ナンパ男①&②:ライフ10 手札5枚


 ターンの順番がランダムに決められる。


「私のターンね。スタートフェイズ」


 最初はアイのターンか。


「メインフェイズ。まずはこの子〈ナルキッソスプラント〉を召喚」


 アイの場に水仙の化物が召喚される。

 見た目怖いからちびっ子の泣き声が聞こえてくるよ。


 〈ナルキッソスプラント〉P5000 ヒット0


「〈ナルキッソスプラント〉の召喚時効果発動。自分のデッキを上から4枚墓地に送るわ」


 まずは【樹精】に必須の墓地肥やし。良い滑り出しだ。

 ……不平等契約、もう禁止になったもんね。

 これでも良い初動だぞ。


 墓地に送られたカード:〈アルストロメリアプラント〉〈ヴァイオレットプラント〉〈ピーアニープラント〉〈ガトリングシード!〉


「私はこれでターンエンドよ」



 アイ:ライフ10 手札4枚

 場:〈ナルキッソスプラント〉



 まずは無難に様子見するアイ。

 次はロン毛なナンパ男のターンだけど、どんなデッキなのやら。


「オレのターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」


 ナンパ男①:手札5枚→6枚


「メインフェイズ! オレは〈ジシャック・アメーバ〉を召喚!」


 ロン毛の場に、灰色のネバネバモンスターが召喚される。


 〈ジシャック・アメーバ〉 P5000 ヒット2


「うわぁ、マジかよあいつ」

「お兄、もしかしてアレ面倒なデッキ?」

「まぁ初見殺し的なところはあるけど……単にシチュエーションとビジュアルがね」


 ちなみにロン毛のナンパ男のデッキは系統:《粘水ねんすい》で固めたものと思われる。

 攻略法さえ理解すれば、倒せない敵じゃない。


「さらにオレは〈レッド・アメーバ〉を召喚!」


 ロン毛の場に、今度は真っ赤なネバネバモンスターが召喚された。


 〈レッド・アメーバ〉 P4000 ヒット2


「〈レッド・アメーバ〉が場に存在する限り、俺の系統:《粘水》を持つ他のモンスターはパワー+2000となる!」


 〈ジシャック・アメーバ〉 P5000→P7000


 まずは無難な感じで行くんだな。

 地元で最強は自称とも言い切れないか。


「アタックフェイズ! まずは〈ジシャック・アメーバ〉で攻撃だぁ!」

「〈ナルキッソスプラント〉でブロックするわ」


 灰色のネバネバに全身を被われて、ドロドロに溶かされてしまう水仙の化物。

 いや絵面が怖いよ。近くでちびっ子達が号泣してるよ。


「続けて〈レッド・アメーバ〉で攻撃!」

「ライフで受けるわ」


 赤色のネバネバモンスターがアイの身体に張りついて攻撃する。


 アイ&藍:ライフ10→8


 ライフが減ったので、アイ達の足場となっていたパネルが2枚崩れてプールに沈む。

 なるほど、こういう演出なんだな……と言いたいところなのだが。


「お兄?」

「ツルギくん?」


 恐らくプールにいる男は全員言葉を失っただろう。

 だってね……セクシーなビキニの美少女にね、ネバネバのアメーバが付着する絵面ってその……めっちゃエロいんです。

 なので卯月とソラよ、どうかそんな目で見ないでくれ。

 これも全部、男の本能が悪いんだ。


「オレはこれでターンエンドだ。全身アメーバまみれでドボンさせてやるぜ!」

「俗物ね」


 ナンパ男①:ライフ10 手札4枚

 場:〈ジシャック・アメーバ〉〈レッド・アメーバ〉


 ナンパ男を心底冷めた目で見るアイ。

 まぁそれが普通の反応だよな。

 だからギャラリーのお父様方、ナンパ男チームを応援するのはやめとけ。

 後ろを見ろ! お母様方の視線がやべーくらい怖いぞ!


「アタシのターンだね。スタートフェイズ。ドローフェイズ!」


 藍:手札5枚→6枚

 

 おっ、藍のターンが始まったか。


「メインフェイズ! 出番だよ〈ブイバード〉! 〈ブイ・ラブスネーク〉!」


 藍の場に炎を纏った鳥と、可愛らしい着物のお姫様が召喚される。


〈ブイバード〉P4000 ヒット2

〈ブイ・ラブスネーク〉P3000 ヒット1


 バードは入試で見たけど、姫様の方は今回初登場か。


「次はこの子! 〈ブイ・フルーツクラブ〉を召喚!」


 藍の場にオレンジ色の蟹が召喚される。

 いや、元ネタ的に柿色と言った方がいいのか?


〈ブイ・フルーツクラブ〉P3000 ヒット0


「〈ブイ・フルーツクラブ〉の召喚時効果発動! ライフを2点払って、デッキから系統:《合戦》を持つ魔法カードを1枚手札に加えるよ。アタシは〈ボンバー・マロン〉を手札に加える」


 アイ&藍:ライフ8→6


 ライフコストによって、アイと藍の足場が更に崩れる。


「あっ、ごめんアイちゃん! ついいつも通りにしちゃった」

「大丈夫よ。最後に勝てば問題ないわ」


 慌てる藍を、アイは落ち着いてフォローする。

 確かに藍のデッキは自分のライフを減らしてなんぼだからな。

 ……冷静に考えるとタッグファイト向けとは言い難いな。


「気を取り直して、アタックフェイズ! 〈ブイ・ラブスネーク〉で攻撃!」


 ナンパ男の場にはブロック可能なモンスターはいない。

 これなら確実にダメージが入りそうに見えるけど……


「この瞬間、オレは手札から魔法カード〈爆散する粘水〉を発動!」


 やっぱり対抗札は握ってたか。


「このカードはオレの場に存在する系統;《粘水》を持つモンスターを全て破壊する!」

「えっ、全部!?」

「更に破壊したモンスター1体につき、相手に1点のダメージを与える。いけぇ! アメーバ爆散!」


 魔法カードの効果で、ロン毛の場にいた〈ジシャック・アメーバ〉と〈レッド・アメーバ〉が破壊される。

 そして爆散したアメーバは粉々になって、アイと藍の身体に付着してダメージを与えた。


「きゃっ!?」

「うわーん! ネバネバするー!」


 アイ&藍:ライフ6→4


 二人の足場が崩れるが、それ以上に……その、粘液が水着の女子二人に付着してですね。

 すごく……スケベな絵面です。


「お兄?」

「ツルギくん、しばらく目を閉じててください」


 いやどす。本能には逆らえないんだよ。

 あと二人が結構ピンチになるから、目を離せないんだよ。

 ロン毛の男も嬉々とした感じになってるだろ。


「この瞬間、破壊された二体の【粘着ねんちゃく】を発動!」

「えっ、粘着?」


 どうやら藍は初見の能力らしい。

 地味に面倒なんだよな、アレ。


「系統:《粘水》を持つモンスターは、相手ターン中に破壊されると【粘着】の能力を発動するんだよ! まずは〈ジシャック・アメーバ〉の【粘着】だ! 相手モンスター全てのパワーを-4000してヒットを-2だぁ!」

「マイナス4000って……あっ!?」


 しまったという表情になる藍。

 それもそうだろう、だって今藍の場に居るモンスターは全部パワー4000以下だからな。


〈ブイバード〉P4000→P0

〈ブイ・ラブスネーク〉P3000→P0

〈ブイ・フルーツクラブ〉P3000→P0


 そしてパワーが0になったモンスターは、問答無用で破壊されてしまう。

 これで藍の場は壊滅してしまった。


「〈レッド・アメーバ〉の【粘着】効果で、オレはカードを1枚ドローする」


 ナンパ男①:手札3枚→4枚

 

「うぅ……ターンエンド」


 藍:ライフ:4 手札4枚

 場:なし



「ごめんアイちゃん、失敗した」

「構わないわ。それよりも、少し面倒なデッキね」


 しょんぼりする藍と、冷静に状況を分析するアイ。

 残りライフ4で場はがら空きか……手札があるとはいえ、ちと不味いな。


「俺っちのターン。スタートフェイズ! ドローフェイズ!」


 ナンパ男②:手札5枚→6枚


 次はスキンヘッドのターンか。

 堪え切れれば良いんだけどなぁ。


「メインフェイズ! 〈パープル・アメーバ〉と〈グリーン・アメーバ〉を召喚!」


 スキンヘッドの場に紫色と緑色のネバネバモンスターが召喚される。

 とりあえずギャラリーの男どもよ、変な歓声を上げるな。


 〈パープル・アメーバ〉P2000 ヒット2

 〈グリーン・アメーバ〉P2000 ヒット1



 パワーは低いけど、効果が面倒な奴らだな。


「そしてこれはダメ押し。魔法カード〈粘り気〉を発動! 相手に1点のダメージだ!」


 粘水の魔法か。場に粘水が2体いれば相手モンスターを1体疲労できるけど、今は対象がいないな。


「ちょっ、またネバネバなの」

「もうネバネバやだー!」


 アイ&藍:ライフ4→3


 ライフが削られて、更に足場がなくなる二人。

 アイと藍は狭くなった足場で身を寄せあうのだが……その際に思わず互いに抱き着いてしまいまして。


――むにゅぅん――


 ギャラリーから野太い歓声が響く。

 俺はただ、その光景に感動を覚えていた。

 そうか……これが伝説の、乳合わせなんだな。

 

「お兄、今流している涙に関して申し開きは?」

「ツルギくん? その目、まだ必要ですか?」


 許してください、世界中の男の夢が目の前で展開されているんです。

 それはそうとして、流石に二人がピンチだな。

 スキンヘッド野郎も露骨に舌なめずりしてやがる。


「アタックフェイズだ! 〈パープル・アメーバ〉で攻撃!」


 攻撃を全部通してしまうと負けてしまう。

 それだけじゃない、この攻撃が通るとアイか藍のどちらかが脱落だ。


「魔法カード〈ポイズン・オア・ヒーリング〉を発動! お互いに手札を1枚捨てて、デッキから1枚ドローする」


 アイが魔法カードを発動した。

 この場合のお互いは全てのプレイヤーに適用されるので、四人全員が1枚捨てて1枚ドローする。

 ……ん? 藍が何か良いカードを引いたような表情をしているな。

 それはそうと、一見するとこのタイミングでは意味のない行為。

 だがアイのデッキに関しては例外だ。


「手札を捨てたことが引き金となり、墓地から【再花さいか】を発動!」

「なにぃ!?」

「さいか?」


 驚くスキンヘッドと、よく理解していない藍。

 あぁそうか、藍はアイの戦い方を知らないんだったな。


「墓地から系統:《樹精》を持つモンスターを復活させるわ。再び咲きなさい、可愛い私の花たち!」


 能力によって、アイの場に3体の樹精モンスターが召喚される。

 

 〈アルストロメリアプラント〉P6000 ヒット2

 〈ヴァイオレットプラント〉P3000 ヒット1

 〈ピーアニープラント〉P4000 ヒット2


「まずは〈アルストロメリアプラント〉の召喚時効果発動。ライフを2点回復するわ」


 アイ&藍:ライフ3→5


 回復した事で、二人の足場がプールの底から浮上してくる。

 あれそういうシステムなんだ。


「続けて〈ヴァイオレットプラント〉の効果発動。墓地から系統:《樹精》を持つカードを1枚手札に戻す。私は〈ガトリングシード!〉を手札に戻すわ」


 おっ、良い引導火力カードを回収した。

 さて、まだ相手の攻撃中なわけだけど。


「〈ヴァイオレットプラント〉で〈パープル・アメーバ〉をブロック」


 返り討ちにあって、消滅する紫色のネバネバ。

 ちなみに【粘着】は相手ターン中に破壊されないと発動しないから、今回は何も起きないぞ。


「ちっ! だったら〈グリーン・アメーバ〉で攻撃だ!」

「〈ピーアニープラント〉でブロックよ」


 爆散する緑色のネバネバ。

 これで相手の場はがら空きになったけど……スキンヘッド野郎の手札がまだあるな。

 嫌な予感がする。


「だったらよぉ、追撃だぁ! 俺っちは魔法カード〈リバイバル・アメーバ〉を発動!」


 スキンヘッド野郎が発動した魔法の名前を聞いた瞬間、俺は思わず「げっ」と声を漏らしてしまった。


「お兄、もしかしてヤバいカード?」

「一番嫌な粘水のカードだ」


 多分、粘水でデッキを組む最大の理由となるカード。


「コストでライフを2点払って、手札を1枚捨てるぜぇ」


 ナンパ男②:ライフ10→8、手札2枚→1枚


「〈リバイバル・アメーバ〉の効果! 墓地から系統:《粘水》を持つモンスターを好きなだけ復活させるぜー!」

「なんですって!?」


 驚くアイをよそに、スキンヘッド野郎は墓地から三体のアメーバを復活させた。


 〈レッド・アメーバ〉 P4000 ヒット2

 〈ジシャック・アメーバ〉 P5000→P7000 ヒット2

 〈グリーン・アメーバ〉P2000→P4000 ヒット1


 不味いぞ、全部回復状態で復活してる。

 しかも〈レッド・アメーバ〉の効果でパワーも上がってるぞ。


「耐えきれるかぁ!? 〈ジシャック・アメーバ〉で攻撃!」

「くっ……〈アルストロメリアプラント〉でブロック」


 灰色のネバネバに包まれて、アルストロメリアが溶かされてしまう。

 これで再び二人のブロッカーがゼロになってしまった。


「続けェ! 〈レッド・アメーバ〉で攻撃だぁ!」


 赤色のネバネバモンスターがアイに襲い掛かろうとする。

 不味い、防御札がなくなったのか。


「魔法カード〈カサ乱舞地蔵!〉を発動!」


 藍が魔法カードの発動を宣言すると、アイの前に一体の地蔵が出現した。

 地蔵は傘をばら撒いて、レッド・アメーバの攻撃を完璧に阻む。


「魔法カード〈カサ乱舞地蔵!〉の効果で召喚した〈地蔵トークン〉でブロック。これで防ぎ切ったよ」


 〈地蔵トークン〉P8000 ヒット0


 なるほど、ヒットはゼロだけど防御向けのトークンを呼び出すカードか。

 地蔵に反撃されたレッド・アメーバはそのまま爆散して消滅した。


「チッ! ブロッカーは残しておくか、ターンエンド!」


 ナンパ男②:ライフ8 手札1枚

 場:〈グリーン・アメーバ〉〈ジシャック・アメーバ〉


 スキンヘッド野郎がターンを終える。

 とりあえず生き残ったけど、流石にドキドキしたな。


「ありがとう、藍」

「タッグだもん。とーぜんとーぜん!」


 アイに笑顔でそう言うと、藍はすぐにナンパ男達に視線を向ける。


「さぁアイちゃん。ここまでのお礼、アイツらにたっぷりお返ししちゃお!」

「そうね、反撃開始よ!」


 二人の目には確かな闘志が宿っていた。

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