第六十六話:タッグファイト! アイ&藍②

「私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」


 アイ:手札4枚→5枚


 アイのターンが始まった。

 さぁ、どうやって逆転するのか。


「メインフェイズ。私は魔法カード〈マリオネットシード〉を発動!」


 あれは、樹精じゅせいデッキ専用のコントロール奪取カードか。

 アレで厄介なモンスターを奪うつもりだな。


「発動コストとして、私は場の〈ヴァイオレットプラント〉と〈ピーアニープラント〉を破壊」


 爆散する植物モンスター2体。

 だから絵面が怖いんだって、ちびっ子がまた泣いてるぞ。


「効果で〈グリーン・アメーバ〉のコントロールを貰うわ!」


 マリオネットの糸のように、植物の根がグリーン・アメーバにとびかかる。

 だけどダメだ、通らない。

 何故ならグリーン・アメーバの能力は……


「この瞬間〈グリーン・アメーバ〉の効果発動! 相手ターン中に相手が魔法を使った時、自爆する事で無効化する!」

「なんですって!?」


 グリーン・アメーバは爆散して、魔法効果を打ち消す。

 これだからカウンター系のモンスターは面倒なんだ。

 それだけじゃない、相手ターン中に破壊された事で【粘着】が発動する。


「破壊された〈グリーン・アメーバ〉の【粘着】を発動。このターンの間、俺っち達の粘水ねんすいモンスターは魔法効果で選ばれなくなる」

「くっ、だったらこれよ。私は〈パンジープラント〉を召喚!」


 アイの場に出てくるパンジーの化物。

 よし、手札交換カードだ。


 〈パンジープラント〉P3000 ヒット2


「〈パンジープラント〉の召喚時効果発動。1枚ドローして、手札を1枚捨てるわ」


 効果で手札を捨てたという事は……


「さぁ、再び咲き乱れなさい! 【再花さいか】発動!」


 現在アイ達の場には2体のモンスターがいる。

 出せるのは1体だけだが、何を出すのか。


「来なさい〈シスタスプラント〉!」


 アイ&藍:ライフ5→4


 〈シスタスプラント〉P8000 ヒット2

 

 召喚コストで、アイはデッキを上から5枚除外、ライフを1点支払う。

 なるほど、確実に相手のライフを削るカードを選んだのか。


「〈シスタスプラント〉が【再花】で召喚された事により、相手に1点のダメージを与えるわ」


 シスタスプラントが種を銃弾のように発射して、ナンパ男たちのライフを削る。


 ナンパ男①&②:ライフ8→7


「アタックフェイズ! アナタ達にブロッカーはいないわ! 〈パンジープラント〉で攻撃!」


 ヒット2のパンジープラントが攻撃を仕掛ける。

 もしこの攻撃が通れば、相手のライフは残り5点。

 シスタスプラントの攻撃も通れば、残りライフは3点。

 今アイの手札には〈ガトリングシード!〉がある。

 それを使えば、アイと藍の勝ちだ!


 しかし、俺がそう考えた次の瞬間……


「魔法カード〈粘着ウォール〉を発動! 場の〈ジシャック・アメーバ〉を破壊して、このターンオレ達が受けるダメージを全て0に減らすぜ!」


 ロン毛の発動した魔法によって、ジシャック・アメーバが爆散。

 パンジープラントの攻撃は通らなくなってしまった。

 それだけではない、相手ターン中に破壊されたという事は……


「〈ジシャック・アメーバ〉の【粘着】を発動! モンスター全員パワー-4000だぁ!」


 灰色のネバネバがモンスターに襲い掛かる。


〈パンジープラント〉P3000→P0

〈シスタスプラント〉P8000→P4000 ヒット2→0

〈地蔵トークン〉P8000→P4000


 パワーがゼロになったパンジープラントは破壊される。

 それだけではない。

 ヒットを下げられた事でシスタスプラントが無力化されてしまった。

 これでは〈ガトリングシード!〉でダメージを与えられない。

 そもそもこのターンのダメージが0にされてしまったんだけどな。


「……ターンエンドよ」


 アイ:ライフ4 手札3枚

 場:〈シスタスプラント〉〈地蔵トークン〉


 ブロッカーは残っているが、あまり良い状況じゃないな。

 アイもそれを理解しているのか、苦々しい表情を浮かべている。


「オレのターンだ。スタートフェイズ。ドローフェイズ!」


 ナンパ男①:手札3枚→4枚


 ロン毛のターンが始まったが……あの野郎、今露骨にニヤけたな。


「メインフェイズ! さぁ派手にドボンさせてやるぜぇ! オレは魔法カード〈粘王降臨の儀式〉を発動!」


「うわ出た」

「えっ、お兄あのカード大丈夫なの?」

「え~っと大丈夫というかなんと言うか……」


 滅茶苦茶ロマンカードと言いますか、微妙と言いますか。

 俺が言葉を濁していると、ロン毛が効果処理に入っていた。


「このカードは俺達の墓地から系統:《粘水》を持つモンスターを4種類除外する事で、手札から〈キング・オブ・アメーバ4世〉を召喚する!」

「〈キング・オブ・アメーバ4世〉……なんか強そうな名前」


 藍が滅茶苦茶警戒しているが……多分お前なら簡単に攻略できるぞ。


「オレは、墓地のアメーバ4種を除外して! 〈キング・オブ・アメーバ4世〉を召喚!」


 そしてロン毛の場に降臨する巨大なネバネバの怪物。

 ご丁寧に王冠までつけてるな。


 〈キング・オブ・アメーバ4世〉P12000 ヒット3


 今の環境ではかなり高めのパワーが出てきたことで、ギャラリーが騒然としている。

 だけど俺達は冷静だ。

 慣れてるもん。


「ねぇお兄、あのネバネバのパワー高くない?」

「高いな……高いだけだけどな」

「あっ、もしかして耐性とか」

「あったらアイツはSRだ」


 その言葉で卯月は全てを察したらしい。

 ハッキリ言って召喚条件の割に、性能が微妙なんだよ。

 でも前の世界でもファンは多かったな、粘水。


「アタックフェイズ! 〈キング・オブ・アメーバ4世〉で攻撃!」


 微妙とはいえ、攻撃時効果は厄介なんだけどな、アレ。


「この瞬間〈キング・オブ・アメーバ4世〉の攻撃時効果発動! 手札の粘水モンスターを好きなだけ捨てることで、そのモンスターの【粘着】を即座に発動できる!」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? またネバネバ!?」

「オレは手札から〈ジシャック・アメーバ〉を2枚捨てるぜ!」


 うわぁ、一番強い動きしてきやがった。

 ロン毛のナンパ男のくせに、なんて事しやがる。


 キングの身体から、灰色のネバネバが大量に飛び散って来る。

 その効果でアイ達の場のモンスターは酷い弱体化を受けてしまった。


〈シスタスプラント〉P8000→P0

〈地蔵トークン〉P8000→P0


 2体のブロッカーがパワーを失って破壊されてしまう。

 またアイ達の場ががら空きになってしまった。


「お兄、アレ!」

「あぁ不味いぞ。ここでダメージを受けたら、どっちかはプールに沈んでしまう」


 何としても防御したい場面だけど……アイは完全に目を伏せているな。

 だが今二人のライフは5以下……となれば。


「アタシは墓地から魔法カード〈カサ乱舞地蔵〉の【Vギア】を発動!」

「なにぃ!?」


 藍の本領発揮だ。


「自分のライフが5以下の時〈カサ乱舞地蔵〉を墓地から除外することで、相手モンスターの攻撃を無効化できる!」


 二人の前に地蔵が現れて〈キング・オブ・アメーバ4世〉の攻撃を防いだ。


「大丈夫、アイちゃん?」

「えぇ。おかげで命拾いしたわ」


 流石のアイも冷や汗をかいたらしい。

 というか藍の余裕がすごいな。


「舐めるなよぉ~〈キング・オブ・アメーバ4世〉は【2回攻撃】を持っている! いけぇ!」


 そうだった!

 アイツ地味に2回攻撃持ちだった!


「魔法カード〈勝利のお札-1、2、3ワンツースリー-〉を発動! その攻撃を無効にする!」


 藍は手札からもう1枚の防御魔法を発動した。

 キングの顔に1枚のお札が貼られて、攻撃をやめてしまう。

 これでロン毛野郎は、もう何もできない。


「クソが! ターンエンドだ!」


 ナンパ男①:ライフ7 手札0枚

 場:〈キング・オブ・アメーバ4世〉


 さて、なんとかターンが回ってきたわけだけど。

 藍は上手くやれるのか?

 俺がそう思って藍の方を見ると……うん、問題なさすだな。

 藍は滅茶苦茶ワクワクしているような顔をしていた。


「スゴいわね、藍は」

「そうかな?」

「楽しんでるんでしょ、この状況を」

「とーぜん! だってサモンが大好きだもん!」


 天真爛漫な笑みで、そう答える藍。

 やっぱ主人公なんだなぁ~。


「さぁいくよ! スタートフェイズ。ドローフェイズ」


 藍:手札4枚→5枚


「キタァァァ! テンション爆上げ、ブイブイいってきたー!」


 ステージ上で飛び跳ねる藍。

 あの、やめてください。

 大きな果実が二つ、めっちゃ暴れてるんです。


「メインフェイズ! いくよ! 燃える炎で勝利をつかむ! 熱く弾けてアタシのバディ! 〈【勝利竜しょうりりゅう】ブイドラ〉を召喚!」

『ブイブイー!』


 赤く燃える魔法陣が弾け、中から赤い身体の小さなドラゴンが召喚された。

 俺にはおなじみ藍の相棒、ブイドラだ。


〈【勝利竜】ブイドラ〉P5000 ヒット2


「今日もお願いね、ブイドラ!」

『プールでも頑張るブイ!』


 ……やっぱりブイドラ喋ってないか?


「エ、SRカードだと!?」


 滅茶苦茶驚いているナンパ男二人。

 あぁそうだった、SRって貴重品だったわ。

 完全に感覚おかしくなってたわ。


「アイちゃん。さっき発動してくれた〈ポイズン・オア・ヒーリング〉のおかげで手札に来たカード。使わせてもらうよ!」


 そう言うと藍は、1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。


「魔法カード〈道成寺どうじょうじの燃え鐘〉を発動!」


 おっ、藍のやつ最高の1枚引いてるじゃん。


「発動コストでアタシは2点のダメージを受ける」


 アイ&藍:ライフ4→2


 二人の足場が半分になってしまう。

 必然的にアイと藍は寄り添う形になるので、ギャラリーの男どもが大興奮している。

 だが俺はそれよりも、この先の展開が気になって仕方なかった。


「魔法カード〈道成寺の燃え鐘〉は墓地からヒット1以下のモンスターを復活させる」

「脅かしやがって、ヒット1じゃ大したモンスターじゃねーだろ」


 小馬鹿にするスキンヘッド野郎。

 だが残念、お前たちはとんでもないモンスターを見る事になる。


「アタシが復活させるモンスターは〈ブイ・ラブスネーク〉!」


 藍の墓地から着物姿のお姫様が復活した。


 〈ブイ・ラブスネーク〉P3000 ヒット1


「この子は普通に召喚するとそんなに強くない……だけど〈道成寺の燃え鐘〉で復活した時だけ、真の姿になるの」


 そうだ、見せてやれ藍。

 お姫様の本当の力を。


「〈ブイ・ラブスネーク〉の効果発動! このターンの間パワー+10000、ヒット+3になる!」


 可愛らしいお姫様は顔を覆い涙を流す。

 そして怒りの炎に燃えて、巨大な蛇の怪物となるのだ。


 〈ブイ・ラブスネーク〉P3000→P13000 ヒット1→4


「バ、バカな……パワー13000、ヒット4だと!?」


 とんでもないスペックを前にして、怯むロン毛野郎。

 でもスキンヘッド野郎が冷静だという事は、何か持ってるな。


「安心しろ兄貴。こんな事もあろうかと取っておいた魔法がある!」


 そう言うとスキンヘッド野郎は仮想モニターにカードを投げ込んだ。


「魔法カード〈誘導粘着剤〉を発動! このターンの間〈キング・オブ・アメーバ4世〉は疲労状態でブロックができる!」


〈キング・オブ・アメーバ4世〉P12000→P14000

 

 なるほど、確かにこれなら致死量のダメージは受けずに済むな。

 問題は藍がどう対処するかなんだけど……


「疲労ブロッカー……それはちょっと不味いかも」


 対抗札が来てなかったか。

 これじゃあ負けてしまう……俺がそう考えそうになった瞬間、アイが動いた。


「魔法カード〈パラライズ・パラン〉を発動」

「アイちゃん!」

「墓地にある系統:《樹精》を持つモンスターを好きなだけ除外することで、除外した枚数1枚につき、相手モンスター1体のパワーを-1000するわ」


 よし! 今墓地にはそれなりに樹精のモンスターがあったはずだ!


「私は5枚のモンスターを除外。〈キング・オブ・アメーバ4世〉のパワーを-5000!」


 魔法効果で散布された花粉が〈キング・オブ・アメーバ4世〉の身体を麻痺させる。


 〈キング・オブ・アメーバ4世〉P14000→P9000


「ふふ、さっき守ってくれたお礼よ。これでなんとかできるかしら?」

「アイちゃん……うん、ありがとう!」


 切り札が弱体化して、ナンパ男たちは目に見えて焦っている。

 さぁ藍、詰めにいってやれ。


「アタシは魔法カード〈パワードおむすび〉を発動! 〈ブイドラ〉のパワーを+5000、ヒットを+1するよ!」

『おむすび食べて元気満タンブイ!』


 大きなおむすびを食べて、ブイドラがパワーアップする。

 やっぱり喋ってる気がするなぁ。


〈【勝利竜】ブイドラ〉P5000→P10000 ヒット2→3


「さぁいくよ。アタックフェイズ! いっちゃえ〈ブイ・ラブスネーク〉!」


 恐ろしい形相をした蛇の怪物が、ナンパ男達に襲いかかる。


「4ダメージは通さねぇ! ブロックだ!」

「残念だけど〈ブイ・ラブスネーク〉は【Vギア】で、アタシのライフが5以下の間はブロックされない」

「なんだとぉぉぉ!?」


 蛇の怪物は口から火を吐いて、ナンパ男達を焼いてしまう。


「「あっちちちちちちちちち!? アッチー!?」」


 ナンパ男①&②:ライフ7→3


「邪魔なブロッカーにもここでサヨナラ! 〈ブイドラ〉で〈キング・オブ・アメーバ4世〉に指定アタック!」

『ネバネバ怪獣なんて、燃やしてやるブイ!』


 ブイドラが口から放った炎を受けて、アメーバの王は王冠すら残さず蒸発してしまった。


「ひぃ! 俺っち達の切り札がぁ!」

「慌てんな! もうアイツらに攻撃できるモンスターはいねぇ!」

「……って思うじゃん?」


 藍の言葉にナンパ男達は「へ?」と情けない声を漏らす。


「〈ブイドラ〉は【Vギア】を達成していると、2回攻撃ができる」

「……ということは」

「3点ジャストっす、兄貴……」

「大正解。プールの底で反省しなさい! 〈ブイドラ〉で攻撃!」

『お仕置きのビクトリーフレアー!』


 ブイドラの放った凄まじい火炎放射が、ナンパ男達を飲み込んだ。


「「ぎゃァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?」」


 ナンパ男①&②:ライフ3→0

 アイ&藍:WIN


 足場が全て崩壊して、ナンパ男二人はそのままプールに沈んでいくのであった。


「見事な勝利だったな」

「うん……でも二次被害すごくない?」


 卯月がそう言って後ろを見るようにジェスチャーしてくる。

 俺は恐る恐る後ろを見ると、そこには女性陣に〆られている男どもの姿があった。

 同情はするよ、本能には逆らえないもん。


「そういえばソラは? ずっと静かだった……」


 何気なくソラの方を見ると、そこには大量の空容器に挟まれながら飯を食う彼女がいた。

 えっ、ずっと食べてたの?

 というかその物量どこに入ってるの?


「モグモグ、ごっくん……あっ、ファイト終わりました?」

「あぁ、勝ったよ……色々とな」


 その後戻ってきたアイと藍も、ソラの食事量の多さに驚いていた。

 そして同時に、俺は心の中でこう思ったのだ。


 なんでそのカロリーが成長に役立ってないんだ。


 そんな珍妙な出来事が降り注ぐ、休日なのであった。

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