第六十四話:プールで水着でのんびりタイム

 聖徳寺しょうとくじ学園の入試も終わり、あとは合否発表と卒業式を待つだけになった俺達。

 ようやく暇ができたのだから、みんなで遊びに行こうという話になった。

 で、ゼラニウムの面々で話し合っているとアイが……


「実家から良いものを貰ってきたわ」


 と言って、有名な温水プールの優待券を持ってきた。

 季節は二月下旬だが、これはもう速攻で行き先が決まった。


 というわけで、現在俺達は華やかな温水プールに来ていた。

 チーム:ゼラニウムのメンバーに加えて、試験会場で仲良くなった原作主人公こと、武井ぶいらんも一緒にいる。

 ……あと卯月も一緒です。


「お兄、なんか申し訳ないんだけど」

「仕方ないさ……速水が風邪ひいて欠席だからな」


 あまりにも間の悪い男速水。

 まさか当日に風邪をひくとは……。

 一応俺達は日程変更もできると伝えたが、速水が頑なに行けというもんなので、代わりに卯月を連れてきた。

 帰りにいいお土産を買っていこう。


「ところでさ、お兄」

「なんだ」

「お兄以外全員女子って……ハーレムでも築く気?」

「そんなつもりは無いし、これは結果論だ」


 ジト目で俺を見る卯月。

 ちなみに卯月は小学生らしくなのか……スク水である。

 胸のところに書かれた「てんかわ」の文字が子供らしく、微笑ましい。


「というか卯月、スク水それ以外に水着無かったのか」

「お兄……スク水も、お洒落だからね」

「さいでっか」


 妙なセンスを持つ妹である。

 ロリを狙う悪い虫から守らねばならんな。


 そんな事を考えていると、着替えに行ってた女子組が戻ってきた。


「ツルギくん! お、お待たせしました」

「おぉソラ、やっとき……!?」


 目の前にいたソラは、あまりにも可愛い過ぎた。

 水色のワンピースタイプの水着。

 ソラ自身の白い長髪も相まって、なんというか……めちゃくちゃ綺麗です、はい。


「あ、あの……ツルギくん?」

「はっ!? 少し意識が飛んでた」

「うぐぅ、意識が飛ぶほど似合ってませんでしたか」

「違う違う! 似合ってるし、可愛いからそうなったの!」


 俺がそう言うとソラの顔が真っ赤に染まった。

 多分俺も顔が真っ赤だと思う。

 うん、慣れないことは言うもんじゃないな。


「うわぁ……お兄がラブコメしてる」


 やかましいぞ妹よ。

 兄だって少しは女の子とドキドキしたい。

 ……ハッピーエンドなんて期待してないけどなッ!


「あら、ソラに抜け駆けされたかしら?」

「ツルギくん、お待たせー!」


 残り二名も来たみたいなので、俺がそちらへと向くと……


「ブフォ!?」

「どうしたのツルギ?」


 アイぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!

 元とはいえアイドルの破壊力ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!

 えっ、ビキニ!? その巨大なお山を黒いビキニで覆ってます!?

 卒業前とはいえ、中学生がやっていいラインを棒高跳びで超えてませんか!?

 というかアイさん前々から思ってたけど、絵に描いたようなスタイルの良さだな。

 そりゃファンが付きますわ。


「お兄、鼻の下伸びてる」

「許せ卯月。ここで伸びねば男ではない」

「ねぇねぇツルギくん! アタシはどうかな?」

「……似合ってます、すごく」


 もうね、一周回って頭が冴えてくるよ。

 藍さんや、バンドゥタイプの水着はよく似合ってます。

 でもね……胸がデッッッッッッッッッッッッッッッッッッカいんだよ!!!

 なにそれ!? 中学三年生のサイズじゃないよね!?

 今登場と同時に揺れたよ。ボヨンって音が聞こえた気がしたよ。

 えっ、俺今日この女子達と一緒にプールなの?

 人生始まったな。


「お兄……悪いこと言わないから、後ろ見てみ」


 卯月に言われて我に返ると、背後から妙な寒気がする。

 俺は恐る恐る後ろを見ると、そこには何やらどす黒いオーラを放っているソラがいた。


「ソ……ソラさん?」

「ツルギくん。どこを見てデレデレしてたんですか?」

「ひぃ!」


 落ち着いた口調なのに、びっくりするほど冷気と圧がある。

 怖い。素直に怖いし、逆らいたくない。


「あ、あのソラ、これはですね」

「大きいのがそんなに好きなんですか? 脂肪の塊ですよ?」

「本能、じゃなくて! 完全に誤解なのでして」


 ソラさん急に無言でこっち見るのもやめてね。

 圧がスゴいんですよ。

 あとアナタはまだ成長期かと思います。今すぐ牛乳に相談してね。


「ソラ、安心しなさい」

「アイちゃん?」


 ハイライトが消え去っているソラの肩に、アイが手を置く。


「世の中、貴女にも需要はあるわ」

「それなんのフォローにもなってませんよ!?」


 アイ……唐突にトドメを刺すのはやめてやれ。

 だけどとりあえず有耶無耶にはできた。

 今日の俺は紳士に過ごすぞ。

 水着美少女になんて、絶対に負けない!


「お兄、なんかフラグ立ててない?」


 人の心を読むな、妹よ。





 さて、人気の温水プールなだけあって色々ある。

 普通のプールから流れるプール。

 派手なスライダーもある。

 ……中央でめっちゃ目立っているファイトステージからは、目を逸らす。


「卯月ちゃん、いっしょに行きましょう」

「うん」


 ソラは卯月の手を引いて底の浅いプールへ。

 パチャパチャ遊んでいる姿は非常に微笑ましい。


「ひゃぁぁぁ!」


 藍は声を上げながらスライダーで遊んでいる。

 というか何回目だお前、どんだけスライダー好きなんだよ。


「ツルギは泳がないのかしら?」

「俺はこうして流されるのが一番好きなんだよ」


 俺は現在、流れるプールで浮き輪の上にいる。

 アイはそれに掴まって一緒に流れている状態だ。


「な〜んか久しぶりなんだよな。こうやって全身の力抜くの」

「そうね……私も同じよ」


 そう言って、どこか哀愁のある表情を浮かべるアイ。

 まぁそれもそうだろうな。

 JMSが終わってから、アイドル引退やらなんやらで大変だっただろうし。

 ようやくアイは自分の道を選んだんだ。少しくらい休憩してもバチは当たらないだろう。


「そういえば、ミオと夢子は元気にしてるのか?」

「えぇ。まだ少し時間はかかりそうだけど、二人とも同じ事務所で地方営業からコツコツと頑張ってるわ」

「そっか、良かったな」


 テレビでも全然見なかったから少し心配だったんだ。

 でも元気にしているなら安心だ。


「あら、もうすぐお昼ね」

「一度上がって、みんなで飯食うか」


 俺とアイはプールから上がり、集合場所に行く。

 流石は大規模施設と言うべきか、売店のラインナップも色々と揃っていた。


「ここの優待券を持って来れるって、アイもスゴいなぁ」

「すごいのは私じゃなくて実家だけどね」


 少し待っていると、他の三人もやってきた。


「ひゃー、いっぱい滑ってきた!」

「だろうな。藍の声めっちゃ聞こえてきたからな」


 満足そうな笑みを浮かべる藍に、思わず淡々とした対応をしてしまう。

 しかし満足ならきっと良い事なのだろう。


「お兄、お腹空いた」

「売店行ってこい」

「じゃあ卯月ちゃん、いっしょに売店行きましょう!」

「待ってソラさん、それ荷物持ちも兼ねてるんじゃ!?」


 そう言うとソラは卯月の手を引いて、猛ダッシュで売店へと向かって行った。

 あーあ卯月のやつ、絶対山盛りの売店飯を運ぶ事になるな。


「……ねぇツルギ。どうしてソラはあんなに食べても太らないの?」

「むしろ俺が知りたい。あの物量をどこに消化してるんだ」

「えっ? ソラちゃんそんなに食べるの?」

「藍も覚悟しとけ。ちょっとしたマジックショーが見れるぞ」


 それはそうとして、ソラの買い物は絶対に時間がかかるだろうな。

 今のうちに俺らの昼飯の目星をつけとくか。


「藍、アイ、俺が場所取っとくから二人も売店行ってこい」


 そう言って二人を売店に送り出そうとすると……こちらにガラの悪そうな男が近づいてきた。


「おっ、君達可愛いね〜」

「よかったらオレらと遊ばない?」


 いかにもな風貌のナンパ男が二人。

 方や金髪ロング、方やスキンヘッド。

 わざとらしいピアスがとてもカッコ悪い。

 あとお前ら大学生っぽいけど、ナンパ相手は中学生だぞ。

 ……スタイルに関しては中学生とは思えないけど。


「じゃあ売店の種類は後でツルギに伝えるわね」

「アタシ焼きそば食べたい!」

「いや君ら全スルーするの!?」


 一応ピンチのシチュエーションよ。

 年頃の女の子なんだから、もう少しリアクションってものがあるでしょ。


「ツルギ、この世には相手をする価値もない俗物ってのはすごく多いのよ」

「ナンパより焼きそばが大事」

「優先順位ぃ」


 焼きそば以下とか、流石にナンパ男に同情するぞ。

 ……気持ちだけだがな。

 とりあえず俺が対応するか。


「あ〜申し訳ないんだけど、焼きそば以下って事だから諦めてもらえます?」

「ざっけんな! 焼きそばよりは魅力持ってるわ!」

「モブ顔のガキはすっこんでろ!」


 あぁコレは面倒だな。

 さっさとサモンで〆て終わらせるか。


 そんなナチュラルサモン脳な事を考えて、持ち込んでいた召喚器を取り出そうとすると……


「待ちなさい。私をどうこう言うのはいいけど、ツルギを侮辱するのは見過ごせないわね」

「アイ?」

「アタシも、焼きそばへの侮辱はNG!」

「藍?」


 なんかアイと藍の殺気が強まっている。

 あと藍、アイツら別に焼きそばは侮辱してないと思うぞ。


 というか二人とも、いつの間に召喚器取り出したんだ!?

 もう手に持ってるし。

 えっ、ナンパされた女子二人が始末する流れ?


「そんなに私達が欲しいなら、まずは強さを示しなさいな」

「焼きそば食べたいから速攻で終わらせる!」


 いやいや二人とも、とりあえず俺が時間稼ぐから下がって欲しいんだけど。

 あとこんな人混みの中でファイトなんてできないから移動を……


「いいぜぇ、オレらこう見えて地元じゃ最強のファイターだからな」

「オレと兄貴に勝てると思うんじゃねーぞ」


 うわぁテンプレみたいな三下の台詞。

 というかナンパ男共、お前らもいつの間に召喚器取り出したんだ。


「ちょうど2対2なんだ、最適のステージに移動しようぜ」

「いいわよ。派手に散らしてあげる」


 そう言ってロン毛のナンパ男とアイが向いた先には……施設中央に設置されているファイトステージ。

 あぁ、そういえばあったな。ずっと目を逸らしてたわ。


「特設のプールステージ。ライフが減ると足場が崩れて、ゼロでドボンだ!」

「そんなの、そっちを先にドボンさせてやるー!」


 スキンヘッドの男に、プンプンと頬を膨らませて怒る藍。

 いや待て、なんだそのファイトステージ。

 バラエティ番組じゃないんだぞ。


「ツルギ、場所取り任せるわ」

「ツルギくん! 暇だったら焼きそば買ってきて」

「りょ、了解」


 女子二人のヤる気に圧倒され、思わず了承してしまう俺。

 するとアイと藍は、二人のナンパ男と共に中央のファイトステージへと移動した。


「……大丈夫なのかな?」


 一人取り残された俺は、思わずそう呟いてしまった。

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