第六十三話:藍のVギア
猛ダッシュで観客席に戻った俺。
もう息も絶え絶えだ。
「ツルギくん、おかえりなさい……どうしたんですか?」
「いや、その、
「それで走ってきたわけか」
「ツルギ、少し呼吸を整えなさいな」
アイに言われて、俺は呼吸を整える。
「それにしても、ツルギくんまた派手な勝ち方してましたね」
「アレが最善手だっただけだよ……それより藍のファイトは?」
「さっき始まったばかりだ」
「今は後攻の武井のターンが終わったところね」
うん、確かに藍がファイトしているな。
ちなみに藍の盤面はこんな感じ。
藍:ライフ9 手札4枚
場:〈ブイドッグ〉〈ブイモンキー〉
犬型モンスターと猿型モンスターがいるな。
とりあえず様子見したところか?
で、対する試験官は……
「!?」
俺は変な声が出るのを必死に抑えた。
何故なら藍の対戦相手が鎧武者だったからだ。
正確には鎧武者の姿をした学園の先生。
アニメでは何度も見たことがあるキャラクター。そしてアニメ第一話の対戦相手だ。
「ターンエンド。お侍さんの番だよ!」
「ファーッハッハ! この程度で余裕をかますとは、片腹痛し! その半人前根性を、この
高笑いする鎧武者こと、伊達権左衛門先生。
信じられるか? あれ先生なんだぜ。
変人だけど人は良い先生なんだ。俺アニメで観た!
ちなみにキャラクター人気も結構ある人だぜ。
「拙者のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」
権左衛門:手札3枚→4枚
「メインフェイズ! 拙者は〈ニノタチ〉を召喚!」
がら空きだった伊達先生の場に、一体の侍が召喚される。
これが伊達先生の【
「続けて拙者は〈ウイノタチ〉と〈サンノタチ〉を疲労状態で召喚!」
「えっ?」
追加で二体の侍が召喚されたが、両方疲労状態だ。
藍が驚きの表情を見せている。
それは観客席のソラ達も同じだ。
「あれって、疲労状態で召喚できるモンスターなんですか?」
「しかし何のために?」
「回復した時に効果を発動するんだよ」
「ツルギ、よく知ってるわね」
「カード知識なら誰にも負けないからな」
たしかここからが伊達先生の本領発揮だったはず。
「拙者はライフを2点払い、魔法カード〈サムライドロー〉を発動! 場の系統:〈侍〉を持つモンスター〈ニノタチ〉を疲労させて2枚ドロー!」
権左衛門:ライフ9→7 手札0枚→2枚
「更に拙者は魔法カード〈セップク!〉を発動! このカードは自分の場のモンスター1体を破壊できるでござる!」
「えぇ!? 自分のモンスターを破壊するの!?」
「拙者は〈ニノタチ〉を破壊!」
切腹して爆散するニノタチ。
恐らく初見だと何をしているのか意味が分からないだろう。
実際、俺の隣でソラ達が疑問符を浮かべている。
だが大事なのは、ニノタチが破壊された事だ。
「破壊された〈ニノタチ〉の効果発動! 拙者の場の系統:〈侍〉を持つモンスターを全て回復させる!」
起き上がるウイノタチとサンノタチ。
さぁ始まるぞ。
「カード効果で回復した事により〈ウイノタチ〉と〈サンノタチ〉の【
「【居合】!? ってなに?」
「【居合】を持つモンスターがカード効果で回復した時、それぞれの能力が発動する! まずは〈ウイノタチ〉の効果発動! ヒット1以下のモンスター〈ブイドッグ〉を破壊でござる!」
ウイノタチが放った居合切りにより、藍のブイドッグは破壊されてしまった。
「〈ブイドッグ〉!」
「更に〈サンノタチ〉の効果により、拙者はカードを1枚ドローでござる」
権左衛門:手札1枚→2枚
ドローしたカードを見て、伊達先生が露骨にニヤついている。
あっ、切り札引いたなこれ。
「拙者は、系統:〈侍〉を持つモンスター〈ウイノタチ〉を進化!」
伊達先生が1枚のカードを仮想モニターに投げ込むと、ウイノタチは巨大な魔法陣に飲み込まれていった。
「いざ刮目せよ! これぞ風林火山極めし剣豪の中の剣豪! 〈【
魔法陣が切り裂かれ、中から一体の巨大な武士が出陣する。
あれが伊達先生の切り札。アニメでは何度も見てきた、ムサシだ!
〈【大剣豪】ムサシ〉P11000 ヒット4
素でヒット4という数字を前に、流石の藍も少し焦っている。
「ヒット4か、流石にちょっと面倒かな〜」
「ではその真価をとくと見せてやろう。アタックフェイズ!」
歌舞伎のようなポーズでアタックフェイズ宣言をする伊達先生。
うーん、これもアニメでみた光景だ。
「〈【大剣豪】ムサシ〉で攻撃!」
「流石に4点のダメージはダメ。〈ブイモンキー〉でブロック!」
ムサシに立ち向かうブイモンキー。
しかしブイモンキーのパワーは5000。ムサシには遠く及ばない。
そのまま太刀で切り裂かれてしまった。
しっかし不味いなぁ、モンスターを破壊したという事は、ムサシの能力が発動する。
「モンスターを戦闘破壊した事で〈ムサシ〉の効果発動! このカードは回復する!」
「うそっ!? もう一回攻撃してくるのー!?」
「それだけではない! 効果によって回復した事により〈ムサシ〉の【居合】が発動する!」
ムサシは太刀を鞘に納めるや、素早く抜刀した。
斬撃が飛び出し、藍の手札を襲う。
「〈ムサシ〉の【居合】効果により、お主の手札を1枚ランダムに墓地へ捨てる!」
「あぁ、手札が!」
藍:手札4枚→3枚
手札破壊効果。これがあるからムサシは怖いんだよなぁ。
だってこのゲーム、ルール的に手札破壊めっちゃ強いんだもん。
「再び〈ムサシ〉で攻撃!」
「うぅ〜ライフで受ける」
ムサシの太刀が、藍に振り下ろされる。
藍:ライフ9→5
「続けて〈サンノタチ〉で攻撃!」
「それもライフ」
藍:ライフ5→3
これで攻撃は終わった。
藍は無事耐え抜いたことに、ほっとしているようだけど……
「魔法カード〈リブート!〉を発動でござる。効果で〈ムサシ〉を回復」
「えぇ〜、まだ攻撃くるの〜」
げっそりした顔でそう口にする藍。
だが現実は非情だ。効果でムサシが回復したという事は……
「この瞬間〈ムサシ〉の【居合】を発動! 手札を1枚捨ててもらうでござる」
再び藍の手札に斬撃が襲い掛かる。
藍:手札3枚→2枚
「そしてこれがとどめー! 〈ムサシ〉で攻撃!」
太刀を構えて藍に突っ込んでいくムサシ。
これを食らえば、藍の負けだ!
とは言っても、大丈夫なの俺知ってるんだけどな。
「魔法カード〈イージーガード〉を発動! 相手モンスター1体の攻撃を無効にするよ!」
振り下ろされた太刀を、薄いバリアが防御する。
ムサシの攻撃はもう届かない。
そして伊達先生の手札は0枚。もう追撃は不可能だ。
「グヌヌ。ターンエンドでござる」
権左衛門:ライフ7 手札0枚
場:〈【大剣豪】ムサシ〉〈サンノタチ〉
さぁて。伊達先生の場には疲労状態のモンスターが2体。
手札は0枚。
対する藍の場にはモンスター0体。手札は1枚。
「
「試験官の手札が0枚とはいえ、このターンで決着をつけないと負けるわよ」
「大丈夫だろ、アイツなら」
「そうなんですか、ツルギくん?」
「あぁ大丈夫。だって藍の奴……まだ諦めてないだろ」
俺はファイトステージの藍を指さす。
そう、藍は諦めていない、むしろこの状況を楽しんでいる。
さぁ見せてくれ主人公。カッコいい逆転劇を。
「へへっ。やっとアタシの魂も温まってきた」
「ふむ。この状況でも諦めないでござるか。見事なり!」
「ありがとうお侍さん! じゃあお礼に見せてあげる。アタシ達の本当の力を!」
藍の目に闘志が宿る。
始まるぞ。
「アタシのターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」
藍:手札1枚→2枚
ドローしたカードを確認して、藍は笑みを浮かべる。
「メインフェイズ! 来た来たキタァァァ!」
テンションぶち上げる藍。
ライフも5以下になってる。ここからが主人公劇場だ!
「テンション爆上げ! ブイブイいってきたァァァ!」
キター! 主人公の決め台詞だー!
生で聞くと感慨深いな。
「アタシのライフは5以下。よって【Vギア】を発動ー!」
「ぶ、ぶいぎあ?」
「【Vギア】は系統:〈
「な、なんだと!?」
「まずはこの子! アタシは〈ブイバード〉を召喚!」
藍の場に、炎を纏った鳥が召喚される。
〈ブイバード〉P4000 ヒット2
「【Vギア】を達成した〈ブイバード〉が存在する限り、アタシの場の系統:〈勝利〉を持つモンスターは全てパワー+3000される」
〈ブイバード〉P4000→P7000
「まだまだいくよ! アタシは魔法カード〈ビクトリードロー〉を発動!」
出たなインチキムーブのクソ魔法カード。
「デッキの一番上をオープンして、それが系統:〈勝利〉を持つカードなら手札に加える」
オープンされたカードは〈ビクトリーオーラ〉。
系統:〈勝利〉を持つカードだ。
だがあの魔法のインチキ挙動はこの後なんだよ。
「さらに【Vギア】を発動! アタシの場に場に系統:〈勝利〉を持つモンスターが存在するなら、デッキからカードを2枚ドローする!」
なんでノーコストで3枚ドローしてるんだよ!
ふざけんなよ!
「なぁ天川……あの魔法カード」
「言うな、俺もあれはスペックおかしいと思ってる」
速水だけじゃななくて、ソラやアイも同じ感想を抱いていそうだ。
藍:手札0枚→3枚
ドローしたカードを確認した藍は、あからさまに明るくなった。
「やった! 来てくれたんだね」
決意を瞳に宿して、藍は1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。
「燃える炎で勝利をつかむ! 熱く弾けてアタシのバディ!」
藍の場に、赤く燃える魔法陣が出現する。
さぁ来るぞ。アニメの顔にもなっていたモンスターが!
「〈【
『ブイブイー!』
魔法陣が弾け、中から赤い身体の小さなドラゴンが召喚される。
あれが藍の相棒、ブイドラだ。
〈【勝利竜】ブイドラ〉P5000 ヒット2
「今日もお願いね、ブイドラ」
『任せるブイ!』
ん? 今ブイドラが喋ったような……気のせいか?
「アタックフェイズ! いって〈ブイドラ〉! 〈ムサシ〉に指定アタック!」
「何!? パワー5000のモンスターで、パワー11000の〈ムサシ〉を攻撃だと!?」
「パワーが足りないなら補えばいい! アタシは魔法カード〈ビクトリーオーラ〉を発動!」
魔法効果で、ブイドラの身体に赤いオーラが纏わる。
「〈ビクトリーオーラ〉の効果で〈ブイドラ〉をパワー+5000。更に〈ブイバード〉の効果も合わせれなパワー+8000!」
〈【勝利竜】ブイドラ〉P5000→P13000
「む、〈ムサシ〉のパワーを超えただとォォォ!?」
「いっけー〈ブイドラ〉! ビクトリーフレアー!」
ブイドラの吐き出した大量の炎が、ムサシを飲み込む。
必死に抵抗するムサシだが、ブイドラのパワーを前にしては無力であった。
大きな音を立てて、ムサシは爆散する。
「グヌヌ、だが! 〈ムサシ〉には【ライフガード】がある! 回復状態で場に戻るでござる!」
爆炎の中から、ムサシが復活する。
あーあ、それやめた方がいいのに。
「いいのかな〜お侍さん。【ライフガード】使っちゃって」
「ぬぬ?」
「この瞬間〈ビクトリーオーラ〉の【Vギア】が発動! 〈ブイドラ〉が戦闘破壊したモンスターのヒット数だけ、相手にダメージを与える!」
「な、なんだとォォォ!?」
伊達先生の目の前に移動するブイドラ。
そのまま先生に炎を吐いた。
「アチアチ! アッチー!」
権左衛門:ライフ7→3
ムサシのヒット数分、4点のダメージを受ける先生。
この後残ってるのはヒット2のブイバードのみ。
これではギリギリ伊達先生を倒しきれない……って思うじゃん?
「さぁ最後だ! 〈ブイドラ〉の【Vギア】を発動!」
「そのカードも持ってるでござるか!?」
「アタシのライフが5以下なら〈ブイドラ〉は【2回攻撃】を得る!」
「……ということは」
恐らく観客席にいた全員が同じ方向を見ただろう。
だって伊達先生の場にはヒット4のムサシが残っているのだ。
「いっけぇ、ブイドラ! 〈ムサシ〉に指定アタック!」
「ちょ、ちょっと待って欲しいでござる!」
必死に手を振る伊達先生だが、もう遅い。
ブイドラはムサシの眼前に来ていた。
『くらうブイ! ビクトリーフレアー!』
爆散するムサシ。
破壊された事で、ビクトリーオーラの効果も発動する。
ブイドラの炎はそのまま、伊達先生を飲み込んだ。
「ノォォォォォォォォォン!」
権左衛門:ライフ3→0
藍:WIN
ファイト終了のブザーが鳴り響く。
立体映像は消えるが、何故か伊達先生の頭はアフロになっていた。
「やったぁぁぁ! 勝ったぁぁぁ!」
飛び跳ねて喜ぶ藍。
観客席の俺達に気付くと、笑顔でブイサインを送ってきた。
「まったく。一時はどうなるかと思ったぞ」
「でも藍ちゃんもすごかったですね」
「そうね。流石はツルギが認めたファイターね」
うん。ゼラニウムのみんなも藍の力を認めてくれたようだ。
良かった良かった。
「さてと。俺はステージではしゃいでる藍を迎えに行きますかね」
俺は観客席からステージに向かい、藍を連れ出すのであった。
その後の入試ファイトでは、ソラ達も無事試験官を倒していた。というか3人とも派手に勝っていた。
こうして俺達の入学試験は幕を閉じた。
後は結果を待つばかり。
発表までの一番ドキドキな時間が始まるのだ。
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