第二章:中学生編②

第二十五話:春がくる。出会いもくる。

 時が流れるのは、本当に早いものでして。

 我が家が異世界転移をしてから数ヶ月。

 気がつけば中学三年生の春を迎えていた。


 ついに来ましたよ、お受験シーズン。

 そして俺にとってはドキドキの一年開始だ。


 目指すはサモンの名門校、聖徳寺しょうとくじ学園。

 アニメにも出てきた、夢のある学校だ。


 そのために俺は、色々と受験準備をしたりしている。

 勉強会は主に、ソラ速水が仲間だ。


 俺の勉強会に参加した事で、二人のサモンの成績は飛躍的に上昇した。

 とは言っても、中学のサモンのテストってほとんどが基本ルールと、ちょっとした応用問題くらいしか出ない。

 正直俺からすれば簡単過ぎるんだ。

 当然ながら、俺はサモンのテスト満点である。


 とはいえ、聖徳寺学園の入試問題はもっと難しい。

 過去問集を買ってきたが、中々歯応えのある問題だった。細かい裁定とか聞かれるし。

 で、サモンの勉強をソラ速水に教えているのだが、逆に俺は二人から一般科目を教えてもらっている。

 だって英語とか数学苦手なんだもん。


 そんな忙しい受験勉強の日々なのだが、やはり息抜きは必要だ。


「あぁ、俺今解放されてる」


 外で思わずそんな事呟いてしまう。

 今日は日曜日。

 いつもなら三人で勉強会なのだが、頑張って休日をもぎ取ってきた。速水が強敵でした。

 で、俺はこの休日に何をするのかというと……


「いざ、ショップ大会へ!」


 当然サモンである。

 だってこれが一番楽しいんだもん!

 サモンの息抜きにサモンをする生活は素晴らしい!

 そんな事を以前、速水の前で言ったらドン引きされたけど。


「今日は新しく調節したデッキの試運転〜。派手に動けたら最高だな」


 いつも通り腰から召喚器をぶら下げて、俺はカードショップへ向かう。


 外の風景は相変わらずだ。

 老若男女問わずサモンをする人々がいて、それが当たり前の光景として受け入れられている。

 流石にもうこれに関しては驚かない。慣れた。

 だけど、今でもたまに異世界のギャップを感じることがある。


「おっ」


 ふと街頭テレビに目を向けると、アイドルのライブ映像流れていた。

 歌って踊るアイドル達。

 だが何がスゴいって、その周りでモンスターの立体映像が飛んでいる事だ。


「アイドルもサモン必須の世界。スゴい話だよ」


 召喚器の立体映像技術用いたパフォーマンス。

 それがこの世界におけるアイドルの当たり前らしい。

 最初にテレビで見た時は驚いたよ。


「まぁ、誰でも彼でもサモンしてる世界じゃあ当然か」


 なんだか最近、物事を受け入れる力が強くなった気がする。

 異世界転移を経験すれば、そうもなるか。


「今日はデカいショップだな。人が多けりゃ対戦回数も増える」


 いつもは隠れ家的ショップに通っているのだが、ショップ大会目当てなら話は変わる。

 規模の大きいショップには人が集まりやすい。

 故に沢山ファイトができるのだ。


「今日は新デッキの調節も兼ねてるからな〜。腕のあるやつと戦いたいぜ」


 まぁ現実はそう上手く出会えないんだけど。

 実は異世界転移をしてから何度か、大規模な大会に出場したんだ。

 最初は結構ワクワクしてたんだけど……今ではちょっと後悔してる。

 何故かって? 簡単な話だ。


「みんな……弱いんだよ……」


 大規模な公式大会でさえ、軽々と優勝できてしまう現実。

 俺の部屋には何個かのトロフィーが飾られているが、正直ありがたみが薄い。

 聞くところによると、もっとランクの高い大会なら強い奴も集まるらしいけど……


「招待制の大会がほとんどって……一般市民の俺には無理だろ」


 少なくとも今は。

 やはりコツコツ頑張るしかないらしい。


「とりあえず今日は、ショップ大会楽しむか」


 相手が誰であろうと派手に暴れてやる。

 禁止ワードはソリティアです。


「ん?」


 ふと視界に、妙な人影が目に入った。

 スマホの画面を見ながらキョロキョロと周りを見ている女の子。

 体格的に間違いなく女の子だ。

 ただ、まるで芸能人のように帽子とサングラスで顔を隠している。

 変な人もいるもんだなぁ……


「あっ」


 あっ、目があった。

 瞬間、女の子はこちらに近づいて来た。


「あの、いいかしら?」

「は、はい。なんでしょうか?」

「このカードショップへはどちらに行けばいいのかしら」


 女の子がスマホの画面を見せてくる。

 示されていた目的地は、今から俺が行く予定のショップだった。


「あぁ、ここならそこの道を真っ直ぐ行って、すぐそこだよ。というか俺が今から行く場所」

「あら、そうなの。それは幸運だわ」

「よかった案内しようか? どうせ目的地同じなんだし」

「いいのかしら?」

「いいのいいの。この時間帯に行こうしてるって事は、ショップ大会目当てだろ。ならライバルは丁重に扱わないとな」

「フフ。貴方紳士なのね」


 紳士とか生まれて初めて言われたわ。

 てかソラといい、この娘といい、この世界女の子は声が可愛いな。


「じゃあ早速案内してもらいましょうか。こっちの道だったわね」

「あの、逆なんですが」

「……ジョ、ジョークよ」


 帽子の後ろから出ている、栗色のポニーテールを揺らしながら、女の子はそう言う。

 本当かなぁ? 完全に素を感じたけど。

 まぁそれに関しては突っ込まない事にしよう。


「案内人が先行するから、それについて来てくれればいいよ」

「そうするわ」


 というわけで、俺は女の子をカードショップまで案内する事になった。

 どうでもいいけど、俺最近女の子に縁がある気がする。

 まぁ「モテ期到来!」とか自分で言うのは悲しいのでしないけど……


「貴方、この辺りに住んでるの?」

「そうだけど、君は遠征さん?」

「正解。珍しいでしょ」


 道中女の子他愛無い会話をする。

 ちなみにこの世界にはカードショップが乱立しているので、ショップ大会の出場に困ることは無い。

 故に、彼女のような遠征してショップ大会に出る人は珍しいのだ。


「珍しいけど、それ以上にワクワクする」

「ワクワク?」

「いつもとは違う人とのファイトって、新鮮な感じがするからさ、滅茶苦茶ワクワクしないか?」

「フフ……貴方、面白いこと言うのね」

「変わり者とは言われる」


 実際期待感はスゴいんだ。

 地元の大会常連者は大体顔見知りになりつつあるからな。

 新鮮なデッキで、お手合わせしてもらいたい。


「あっそうだ。君の名前は?」

「えっ」

「俺はツルギ。これから戦うライバルの名前くらい、知っておきたいんだよ」

「アイ……そう呼んでちょうだい」

「了解っと、もう見えてきた」


 目的地である大きいカードショップ。

 これで案内人の仕事は終わりだ。

 あとはアイに受付の場所を教えて……


「ん、なんか騒がしい?」


 ショップの前で、子どもの泣き声聞こえる。

 それも複数だ。

 嫌な予感がする。俺は大急ぎで、騒ぎの元へと駆け寄った。


「おい、どうした?」

「グズっ、ツルギ兄ちゃん」

「このおじさん、わたしたちのカードをとったの」


 顔見知りの子ども達指差した人物を見る。

 そこには刺青腕を晒した、いかにも悪そうな男が二人立っていた。


「オイオイ、人聞きが悪いなガキンチョよぉ」

「俺達はレアカードを正しく使ってやるだけだよ」

「お前ら、カードギャングか」


 やってる事見て、すぐにピンときた。

 カードギャング。その名の通り、カードに関する悪事ならなんでもする違法集団。

 レアカードの強奪なんか日常茶飯事だ。

 ……治安悪いなこの世界。


「だとしたら? どうするんだ?」

「奪ったカードを返してやれ」

「俺らが、はいそうですかって返す思うか?」

「おいガキ、お前も大会参加者だろ? 痛い目みたくなきゃデッキ置いてけや」


 まぁ、話し合いでどうにかなる相手じゃないよな。

 俺は喧嘩なんかできる人間じゃないけど、この世界なら最高の武器がある。


「ターゲットロック!」


 俺は召喚器を構えて、ギャングの持っている召喚器に無線接続させた。


「あぁん? どういうつもりだ」

「俺とファイトしろ。俺が勝ったら、奪ったカードを全て返せ」

「お前が負けたどうするんだ?」

「デッキでもなんでもくれてやる」

「……いいだろう。勝負だ」


 よし。ギャングもサモン脳で助かった。


「ただし、2対1だけどなぁ!」

「!?」


 気づけばもう一人のギャングも召喚器を構えていた。

 どうやら変則ファイトで、確実に俺を潰したいらしい。

 きっと普通の人なら、ここで「卑怯者!」とか叫ぶんだろうけど。


「へぇ、面白そうじゃん」


 俺にはお楽しみにしか思えなかった。

 2対1のファイト。確実に勝ってやる。


「キヒヒ。ターゲット――」

「ターゲットロック」


 ギャングその2が召喚器構えた瞬間、俺の後ろから一人女の子がターゲットロックを宣言した。


「まったく、見てられないわ」

「アイ!?」

「助太刀するわよ。ああいう男って、私嫌いなのよ」

「いや、俺一人でも大丈夫」

「強がりはよしなさいな。2対1で勝てるわけないでしょ」


 本当に大丈夫なんだけどなぁ。

 まぁ初対面だとそうなるか。


「おい女ァ。お前何を賭ける気だ?」

「なんでも良いわ。負けるつもりもないもの」

「テメェ、その言葉忘れんなよ!」


 睨み合う俺達。

 アイが少し心配だけど、さっさと終わらせてカードを取り返すか。


「「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」」

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