第二十六話:植物使いの少女

「先攻はオレだァ! スタートフェイズ!」


 さっさと終わらせたかったけど、先攻は取られたか。

 いや、先に攻撃できるから後攻で良かったかもしれない。


「メインフェイズ! オレはデッキを上から8枚除外して、〈ディフェンダー・マンモス〉を召喚だァ!」


 ギャングの場に、巨大な機械マンモスが召喚される。

 もはや懐かしさすら感じるカードだな。


〈ディフェンダー・マンモス〉P10000 ヒット0


 どうでもいいけど、この世界の悪い奴って〈機械〉デッキを使う奴が多い気がする。


「レアカード1枚じゃ終わらせねぇぜ」

「はいはい」

「続けてオレは〈ギフトキャリアー〉を召喚だァ!」


 続けて召喚されたのは箱型ロボット。

 あれは除外してなんぼのカードなんだけどなぁ……なんで召喚したんだ?


〈ギフトキャリアー〉P2000 ヒット1


「更に! 〈ダブルランサーロボ〉を召喚だァ!」


 二本の槍を持ったロボットが召喚される。


〈ダブルランサーロボ〉P6500 ヒット2


 あれもレアカードではあるけど、先攻1ターン目で出すカードじゃないだろ。

 これアレだな。このギャングよりは、以前戦った東校の奴の方が強いな。


「そして俺は魔法カード〈オイルチャージ〉を発動! 手札を増やすぜェ」


 ギャングその1:手札1枚→3枚


「これだけのレアモンスターがいれば、もうお前に勝ち目はないだろ! ターンエンドだ!」


 ギャングその1:ライフ10 手札3枚

 場:〈ディフェンダー・マンモス〉〈ギフトキャリアー〉〈ダブルランサーロボ〉


 ドヤ顔でターンを終えるギャング。

 なんというかもう……笑いを堪える方が辛いわ。

 確かにレアカードは強いものも多いけど、それは適切なタイミングで使ってこそだ。

 あんな風に無闇やたらに召喚するもんじゃない。


 勉強会でこれをやる奴がいたら、即お説教コースだ。


「どうした、ビビッて声も出ないか?」

「呆れてるだけだよ」

「なにィ!?」

「決めた。お前にはカードの使い方の何たるかを教えてやる。俺のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」


 ツルギ:手札5枚→6枚


「メインフェイズ。最初から飛ばすぞ、相棒! 〈【紅玉獣こうぎょくじゅう】カーバンクル〉を召喚だ!」

「二つ名持ちだと!?」


 俺の場に巨大なルビーが出現して、中から相棒が姿を見せる。


『キュップイ!』


〈【紅玉獣】カーバンクル〉P500 ヒット1


「な、なんだ脅かしやがって。SRの癖にパワー500しかねーじゃねーか」

「パワーだけでカードの価値を決めるのは、雑魚のする事だぞ」

「なんだと!」

「カードってのは使い方次第なんだよ! 魔法カード〈ルビー・イリュージョン〉を発動! 俺の場に〈カーバンクル〉が存在する場合、相手モンスター全てのパワーをマイナス無限にする!」

『キュ! キュップイ!』


 カーバンクルの周りに無数の紅玉が現れて、その光を機械軍団にぶつける。

 光を浴びた機械モンスターは、そのパワーを失い、存在を維持できなくなった。


〈ディフェンダー・マンモス〉P10000→P0

〈ギフトキャリアー〉P2000→P0

〈ダブルランサーロボ〉P6500→P0


 爆散していく機械モンスターに、ギャングは目を点にする。


「お、オレのレアカードが、全滅!?」

「どうせ奪ったカードだろうに」

「テメェ、絶対に許さねえ! 次のターンで痛めつけてやる!」

「宣言しとくよ、お前に次は無い」


 子どもからカードを強奪する奴に慈悲なんて無い!


「俺は場の〈幻想獣〉モンスター〈カーバンクル〉を素材にして、〈グウィバー〉を進化召喚だ!」


 カーバンクルが魔法陣に飲み込まれて、新たなモンスターが出現する。

 俺の場に召喚されたのは、純白の鱗を持つ美しいドラゴンであった。


〈グウィバー〉P3000 ヒット1


「〈グウィバー〉の召喚時効果発動! デッキから系統:〈幻想獣〉を持つカードを1枚選んで手札に加える。俺はデッキから〈ジャバウォック〉を手札に加える」

「そんな雑魚モンスターで何ができる!」

「早まるな。まだ中継点だ。俺は〈グウィバー〉を素材にして、〈ジャバウォック〉を進化召喚!」


 今度はグウィバーが魔法陣に飲み込まれる。

 召喚されたのは恐ろしい外見をした黒いドラゴンだ。


〈ジャバウォック〉P8000 ヒット3


「この瞬間〈グウィバー〉の効果発動! このカードを進化素材としたモンスターは、ヒットが1上がる」


 〈ジャバウォック〉ヒット3→4


「更に俺は〈コボルト・マジシャン〉を召喚!」


 召喚されたのは、仔狼の頭を持つ、小さな獣人の魔術師。


〈コボルト・マジシャン〉P2000 ヒット1


「〈コボルト・マジシャン〉の効果発動。このカードを疲労させることで、自分のモンスター1体のヒットを1上げる。上げるのは徒然〈ジャバウォック〉だ!」


〈ジャバウォック〉ヒット4→5


「そしてこれが勝負の決め手だ! 魔法カード〈魂喰らいの呪術〉を発動!」


 魔法カードの対象となったジャバウォックは、どす黒いオーラに包み込まれる。


「〈魂喰らいの呪術〉の効果で、対象となった〈ジャバウォック〉のパワーはマイナス4000となる」


〈ジャバウォック〉P8000→P4000


「ギャハハハ! 馬鹿かテメェ、自分のモンスターを弱体化させてどうするんだ!」

「見てれば分かるさ。アタックフェイズ! 〈ジャバウォック〉で攻撃だ!」


 凄まじい咆哮を上げながら、ジャバウォックじゃギャングに爪を向ける。


「馬鹿が! 攻撃宣言時に、魔法カード〈ダイレクトウォール〉発動! オレの場にモンスターがいないから、テメェのアタックフェイズは強制終了だァ!」

「それはどうかな?」


 ジャバウォックが咆哮を一つ上げる。

 すると、ギャングの発動した魔法カードは粉々に砕けてしまった。


「な!? どういうことだ!?」

「〈魂喰らいの呪術〉の効果が発動したんだ。このカードは対象となったモンスターのパワーを下げる代わりに、このターン中、対象モンスターの攻撃に対して相手は魔法カードを発動できなくなる」

「なんだとォ!?」

「さぁ行け〈ジャバウォック〉!」

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


 ジャバウォックの鋭い爪が、ギャングに突き刺さる。


 ギャングその1:ライフ10→5


「クソっ! だがライフはまだ残っている」

「悪いけど、それも狩らせてもらう。進化モンスターを素材にした〈ジャバウォック〉は2回攻撃ができる」

「そ、それじゃあ……」

「これで終わりだ、〈ジャバウォック〉の2回攻撃!」

「ヒィ!」


 怯むギャングその1。

 だが手加減なんてしない。

 攻撃宣言の出たジャバウォックは、容赦なくギャングに攻撃した。


「ギャァァァァァァァァァ!」


 ギャングその1:ライフ5→0


 ツルギ:WIN


 ふぅ、ひとまず一人は倒せた。

 問題はアイの方だけど……


「大丈夫かな?」


 俺はアイとギャングその2の方を見た。

 今はファイトの途中。盤面はこんな感じだ。


 ギャングその2:ライフ10 手札0枚

 場:〈ダブルランサーロボ〉〈メカゴブリン〉〈【重装将軍】アヴァランチ〉


 アイ:ライフ5 手札4枚

 場:〈ナルキッソスプラント〉〈パンジープラント〉


 ギャングその2も〈機械〉デッキ使いらしい。

 しかも場にはP30000にまで強化されたSRカード〈アヴァランチ〉がいる。

 これは……防御カードが無いと不味いな。


「終わらせてやる! アタックフェイズ。〈アヴァランチ〉で攻撃だ!」

「魔法カード〈プラントウォール〉を発動。貴方のアタックフェイズを強制終了させるわ」


 攻撃を仕掛けた巨大ロボことアヴァランチ。

 その身体は、地面から生えた無数のツタによって阻まれてしまった。

 良かった、防御カード握ってた。これで一安心。


「〈プラントウォール〉の追加効果で、自分のデッキを上から3枚墓地に送るわ。さ、ターンを続けてちょうだい」

「チッ! クソアマが。ターンエンドだ!」


 無事に機械軍団の攻撃を逃れたアイ。

 そして気がついた。

 アイの使っているのは系統:〈樹精じゅせい〉のデッキだ。


 あれは使いこなすと、かなり強力なデッキだぞ。


「私のターンね。スタートフェイズ。ドローフェイズ」


 アイ:手札4枚→5枚


「メインフェイズ。子ども達のためにも、そろそろ終わらせましょうか」

「オイオイ、こっちのライフはまだ10点あるんだぜ?」

「そのライフを全部消してあげる。私は魔法カード〈プラントドロー〉を発動。コストで場の系統:〈樹精〉を持つ〈パンジープラント〉を破壊」


 アイの場にいた、パンジーの花を模したモンスターが爆散する。

 〈樹精〉のモンスターを立体映像で見るのは初めてだけど……なんというか、ちょっと見た目キモいな。


「効果で2枚ドロー」


 アイ:手札4枚→6枚


 ドローしたカードを見た瞬間、アイの口元に笑みが浮かんだ。


「フフ、派手に散らせてあげる。私は場の系統:〈樹精〉を持つモンスター〈ナルキッソスプラント〉を進化!」


 ナルキッソスの花を模したモンスターが、巨大な魔法陣に飲み込まれる。

 なんかこれ、スゴいカードが出る予感。


「命の風が舞し時、大樹より聖なる獣が生誕する。咆哮せよ我が神! 〈【獣神樹じゅうしんじゅ】セフィロタウラス〉を進化召喚!」

『BUOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』


 アイの場に降臨したのは、無数の木の根で構成された獣人。

 巨大な斧と、雄々しき角が特徴のミノタウロスだ。


〈【獣神樹】セフィロタウラス〉P13000 ヒット3


「え、SRカード。テメェも持ってやがったのか!」

「勿論。私の愛しい神様よ」

「だが、パワーは俺の〈アヴァランチ〉の方が上だ!」

「男って野蛮よね、すぐパワーを比べたがる」


 アイはやれやれといった様子で首を振る。

 これは……もしかすると、ヤベェ方法で勝ちに行くかもしれないな。


「私は手札から2体目の〈パンジープラント〉を召喚」


 再びアイの場に現れるパンジーの化物。

 うん……やっぱりちょっとキモいかも。


「〈パンジープラント〉の召喚時効果発動。手札を1枚捨てて、デッキから1枚ドローするわ」


 アイが手札を交換する。

 普通に見ればただの手札交換なのだが……〈樹精〉デッキにおいては話が変わる。

 あのデッキは、手札を捨てる事が最重要なんだ。


「私が手札を捨てたことで、墓地に眠る〈ローズプラント〉の【再花さいか】を発動!」


 【再花】。系統:〈樹精〉が持つ専用能力。

 自分の手札が捨てられるのをトリガーとして、墓地から復活する能力だ。


「墓地から咲きなさい〈ローズプラント〉」


 アイの場に、薔薇の怪物が召喚される。

 あいつも見た目ちょっと怖いな。


〈ローズプラント〉P7000 ヒット2


「そして私は、手札の〈ベビーシード〉の効果を発動。このカードを手札から捨てるわ」


 そう言ってアイは自分の手札を捨てる。

 俺の記憶が正しければ、ローズプラントにはもう一つ効果があった筈……


「この瞬間〈ローズプラント〉の効果発動! 私が手札を捨てた時、自分の場の系統:〈樹精〉を持つモンスター全てのヒットを1上げるわ」


 ローズプラントの効果で、アイのモンスターが強化されていく。


〈ローズプラント〉ヒット2→3

〈パンジープラント〉ヒット2→3

〈【獣神樹】セフィロタウラス〉3→4


 パワーは機械モンスターに劣る樹精たち。

 だけどヒットの合計は10。


 ……おい、確か〈樹精〉には強力な必殺魔法があったよなぁ!?


「終わらせてあげるわ。魔法カード〈ガトリングシード!〉を発動」


 やっぱり持ってたー!

 これギャングその2終わったわ。


「発動コストとして、私は自分のモンスターを全て破壊するわ」


 爆散していくアイのモンスター達。

 当然のようにギャングは馬鹿にするが……アイは不敵に笑うだけだった。


「〈ガトリングシード!〉の効果。発動時に破壊した進化モンスターと、【再花】を持つモンスターのヒット数を合計した数値分、相手にダメージを与える」

「な、なんだと!?」


 驚愕するギャングその2。

 そりゃそうだよなぁ。サモンには珍しい超高火力を撃ち込める魔法だもん。

 しかも何故か破壊前のヒット数を参照するとかいう謎裁定もある。

 喰らえば理不尽を感じる事間違いなしの1枚だ。


「さぁ喰らいなさい!」


 何処からか出現した、無数の種の弾丸。

 それが雨あられと、ギャングの身体に降り注いだ!


「グワァァァァァァァァァ!!!」


 ギャングその2:ライフ10→0


 アイ:WIN


「思った通り。つまらない男のつまらないファイトだったわ」

「……すっげ」


 アイは予想以上に強いファイターでした。

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