第二十七話:あの子はアイ……
「オイ、さっさと奪ったカード出せ。約束だろ」
「グヌヌ……誰がテメェの言うことなんか」
「嫌ならもう一戦するか? 俺は何度でも相手してやるぞ」
「……わかった」
懐から数枚のカードを取り出して、差し出してくるギャング。
本当に聞き分けのいい悪党でよかったよ。
……聞き分け良すぎる気もするけど。
「貴方もよ。奪ったカード返しなさい」
「敗者は勝者に絶対服従。これを守るのはファイターとしての誇りだ」
アイが戦っていたギャングも、素直にカードを差し出した。
いや本当に素直だな。ファイターとしての誇りを持つのは結構だけど、悪党としての誇りとかは無いのかな?
「畜生、テメェら覚えてろよ!」
「ファイトの相手ならいつでもしてやるぞ」
一応負けてプライドに傷はついたのか、ギャング二人はやたら悔しそうにその場去っていった。
いや本当にサモン脳で良かったよ!
普通の喧嘩になった勝ち目ないもん!
それはともかく。
「はい、取り返したぞ。どれが誰のカードだ?」
「こっちもあるわよ」
さっきまで泣いていた子供達に笑顔が戻る。
俺とアイは手分けして、子供達にカードを返してあげた。
「ツルギ兄ちゃん、ありがとう!」
「お姉ちゃんもありがとう!」
「カードを盗られたらいつでも言え。悪い奴は俺が倒してやるから」
子供の笑顔を守るのは大人の使命です。
……俺今中学三年生だけど。
俺が子供達の相手をしていると、一人の女の子がアイの顔をじっと見ていた。
どうしたんだ?
「あら、どうかしたの?」
「おねえちゃん……どこかで見たことある気がする」
「え!? き、気のせいじゃないかしら?」
「そうなのかな?」
「きっとそうよ」
アイさん。なんか一瞬スゲー動揺してませんでしたか?
というかまるで、滅茶苦茶顔バレしたくないような……そんな感じがする。
日差し強くもないのにサングラスしてるし。
いや、目が弱いのか?
まぁいいや。
とりあえず子供達のカードを取り返せたし、一件落着。
カードを受け取った子供達を解散させると、彼らはカードショップの中へと入っていった。
「お疲れ様。貴方、私より早く終わらせてたわね」
「まぁ相手が弱かったからな。それより悪かったな、変な事に巻き込んじまって」
「いいのよ。誰かの夢を守るのは得意なの」
「面白いこと言うな」
「フフ、貴方も面白そうなファイターだったわよ」
強そうなファイターにそう言ってもらえると、嬉しくなる。
これはショップ大会で当たるのが楽しみだ。
……ん? ショップ大会?
「あっ! 今何時だ!?」
「今は12時30分ね……あっ」
「大会受付! 12時30分までだ!」
「急ぐわよ」
「がってんでい!」
俺とアイは大急ぎでカードショップの中に入る。
しかし、遅かった。
「それではこれにて、ショップ大会の参加受付を締め切らせていただきます」
入店と同時に締め切られた受付。
無情、あまりにも無情すぎる。
「お、遅かったか……」
「ふぅ、これは仕方ないわね」
「畜生、あのギャングめ〜」
次に会ったら、滅茶苦茶トラウマ植えつけてやる!
それはそれとして。
「アイ、マジですまん。俺が巻き込んだせいで」
「謝る必要はないわ。私が自分で選んだ結果だもの」
「でも遠征さんだろ?」
「問題ないわ。遠征の楽しみは大会だけじゃないのよ」
そう言うとアイは「フフ」と小さく笑った。
「フリーファイトも遠征の醍醐味よ」
「まぁ、そうだな」
「貴方、名前はツルギだったわよね?」
「そうだけど」
「中々強そうなファイターじゃない。憂さ晴らしも兼ねて、私とファイトしてくれないかしら?」
これは思わぬお誘い。
大会では是非アイと戦ってみたいと思っていた俺には、嬉しい展開だった。
「それ、むしろ俺の方から誘いたかったやつだよ」
「あら、殿方を立てたほうが良かったかしら?」
「そんな大層なことはしなくていいよ。お互いファイターなんだ。デッキで語り合おうぜ」
「フフフ。素敵な考え方じゃない。気に入ったわ」
「じゃあ、ファイトスペースに行こうぜ。久々に骨のあるファイターと戦えそうだ」
「あら、私は簡単に攻略される女じゃないわよ」
「なお楽しみだ」
俺はアイを連れてフリーファイトスペースへと移動した。
余分な言葉は必要ない。
フリーファイトスペースで、俺とアイは10回程ファイトをした。
帽子とサングラスで表情は上手く見えなかったけど、ファイト中のアイは本当に楽しそうで、俺まで楽しさが込み上げてくる重いだった。
そして思った通りアイは強かった。
俺でさえ何回か苦戦させられる程の、腕前を持っている。
ファイトが終わった後に感想戦をしたけど……カードの知識も、この世界の人間にしては中々のものだった。
俺もついつい、色々と〈
「ツルギ、貴方カードに詳しいのね」
「それくらいしか取り柄の無い人間なんだ」
「面白い人ね」
それから夕方になるまで、俺はアイとカードについて語り明かした。
最終的にはアイの方が時間切れとなってしまったが、意気投合した俺達は、お互いのSNSのIDを交換する事になった。
うん、こうしてサモン仲間が増える事はとても嬉しいことです。
「ん、アイリ? こっちが本名?」
「あっ、えっと、そうね。そんな感じよ」
「じゃあアイリって呼んだ方がいいのかな?」
「……ややこしくなるから、アイでお願い」
なんかよく分からないけど、とりあえず了解しておいた。
アイはまたこちらに来るとのことだ。
俺達は再びファイトをする約束をして、その日は別れる事にした。
◆
で、帰宅する俺。
「ただいまー」
「お兄、おかえり」
リビングでお菓子を食べながら、卯月が出迎えてくれる。
「ショップ大会はどうだったの?」
「色々ありすぎて、今日は出られなかった。でも新しいサモン仲間ができたぞ!」
「へぇー」
露骨に興味なさげだな、我が妹よ。
ちなみに卯月もたまに大会に出て、成績を稼いでいる。
まぁデッキがデッキだから、対戦相手泣かせまくりだけど。
「ところでさお兄。その新しいサモン仲間って男? 女?」
「女の子だけど、それがどうした?」
「……お兄さぁ、ソラさんの事といい、サモンでハーレムでも築きたいの?」
「なんでそうなるんだよ」
そんな下心断じてありません!
……本当にないよ。
「お願いだから、刺されるのだけは勘弁してね」
「……善処します」
多分大丈夫だろ。多分。
そんな会話をしながら、卯月はテレビのチャンネルを適当に変える。
最終的に行き着いたのはグルメロケの番組だった。
芸人やアイドルが、色んな料理を食べてリアクションをとっている。
「そういえば卯月。お前の推しアイドル達はどうだった?」
「全員もれなくサモン脳。ちょっと推し続けるか迷ってる」
「諦めて受け入れた方が早いと思うぞ」
どうあがいても、この世界でサモン脳からは逃れられないのだ。
そんな事を言っていると、テレビに新しい人達が登場した。
『続いてのロケをしてくれるのは、今人気急上昇中のアイドルグループ! 『
『『『こんにちはー!』』』
テレビに映っているのは、三人組のアイドルグループ。
正直俺はアイドルの事なんて全く分からないし、八割同じ顔に見える。
だけど今日は違った。テレビに映った女の子の一人が、妙に気になったのだ。
『それでは簡単な自己紹介をお願いします』
『はじめまして! 『Fairys』の日高ミオでーす!』
『同じく『Fairys』の佐倉夢子です。よろしくお願いします』
三人の内二人が自己紹介する。
だが気になってるのはこの二人じゃない。
最後の一人が前に出て、自己紹介をする。
『はじめまして。『Fairys』のセンターをしている、
ユニットのセンターを名乗った女の子。
栗色のツインテールに、出るとこ出たスタイル。
そして何より、滅茶苦茶聞き覚えのある声!
「……えっ?」
いや待て、気のせいかもしれない。
ただのそっくりさんかもしれない。
俺はじっくりとテレビを見る。
『今日は買い物ロケだけど、どうする? 変装しちゃう?』
『もうミオちゃん。ロケで変装したら怒られちゃうよ~』
『あら、私サングラスなら持って来てるわよ』
『愛梨ちゃん!?』
天然ボケ(?)にスタジオ大爆笑。
だが重要なのはそこじゃない。
あのサングラス……滅茶苦茶見覚えがあるんだけど。
『ちなみにグラサンつけるとどんな感じなの?』
『こんな感じよ』
そしてサングラスをつけた姿が披露される。
……え? マジで?
「……そういえば」
俺は今日交換したSNSのIDを確認する。
アイのアカウント名は、アイリ。
愛梨→アイリ→アイ……あぁ、なるほどね。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」
「お兄、うるさい」
いやいや我が妹よ、驚かない方が無理あるぞ!
そりゃ子供の中に見覚えがある子がいるよ!
そりゃサングラスと帽子で顔隠すよ!
「この展開、まさか過ぎるだろ……」
出会ったあの子は、アイドルでした。
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