第百十話:【雑談枠】CHIYOちゃんねる【蛇姫さまも】
放課後、
智代の両親は共働きで家を空けがちらしく、卯月は一度も顔を見た事がない。
慣れた様子で智代の部屋まで案内され、カメラ等の調整を手伝う。
流石に制服のままでは不味いので、智代から上着を借りる卯月。
ちなみに卯月も最初は驚いたが、この世界では顔出しの配信が主流である。
正体を隠すのはVtuberくらいだ。
(配信の準備が完了。ということは……)
蓋画像とBGMが流れている配信画面。
リスナーは集まり始めているが、まだこちらの声は流れていない。
智代は大きく深呼吸をすると、小さく「よし」と呟いた。
そして蓋画像が消えると同時に……卯月は指で耳を塞いだ。
「みんなぁぁぁ! おはこんCHIYOー!」
「うるさい、音量さげて」
凄まじきハイテンションと絶叫で挨拶をする智代。
そしてジト目で耳を守る卯月。
普段は内気な智代であるが、何故か配信の時はスイッチが入りテンションが高くなるのだ。
始めてその状態を見た時、卯月は驚きのあまり口をあんぐりとさせてしまった。
”おはこんCHIYO〜“
”開幕絶叫たすかる“
”どうして、ミュートをしたんです? 静かでなにも聞こえませーん“
”↑お前もここのリスナーなら鼓膜の予備くらい用意しろ“
”↑ドイツの医学薬学は世界一なんだろ?“
流れてくる配信コメントに目を通す智代。
ちゃんと全て把握できるあたり、上手いものだと卯月は関心をしている。
「今日は雑談枠! 蛇姫ちゃんと一緒にお話しするよ!」
「はいどーも」
ちなみに蛇姫は卯月のハンドルネーム……ではあるが、智代が勝手につけたものである。
蛇姫名義で出る羽目になった事に関して、卯月はやや不満であった。
”蛇姫ちゃんだぁぁぁぁぁぁ!“
”ほぼ週刊
”げぇ、蛇姫!?“
”蛇姫ちゃんこっち向いて!“
”蛇姫ちゃんデッキ破壊して!“
”デッキ破壊系サディスティック美少女JC配信者とか属性盛り過ぎじゃね? 二郎系ラーメンかよ“
”↑お前蛇姫ちゃんを舐めるなよ。妹属性もあるらしいからな“
”↑二郎超えたな“
「誰が週刊LOだ」
「そうだよ! 蛇姫ちゃんは日刊LOだよ!」
「そもそもLOって呼ぶやめてくれない? 如何わしい雑誌を思い浮かべちゃうから」
“日刊LOは草超えて森”
“蛇姫ちゃん日刊デッキ破壊については否定しないんだ”
“絶対今日もデッキ破壊しただろこれ”
“当たり前だ。ボクが彼女愛を受け止めたんだぞ”
“↑【このユーザーはBANされました】”
“てかLOってエロ雑誌もあるってなんで知ってるんだ女子中学生”
“普通LOといえば月刊
“蛇姫ちゃん……正体現したわね”
「ねぇ、蛇姫ちゃん? そういう雑誌のLOって、あるの?」
「忘れて」
「でもコメントに」
「 忘 れ な さ い ! 」
「ぴぃ!?」
“蛇姫ちゃん圧強ッ!?”
”あぁ〜^ ^涙目のCHIYOちゃん可愛いんじゃ〜“
“こんなんデッキ破壊される前に俺らの命が破壊される”
“でも蛇姫ちゃんになら破壊されても良いかも”
“↑お巡りさぁぁぁん!”
“JCぞ? 相手JCぞ?”
”処す? 処す?“
”蛇姫ちゃんの忘れろビーム。相手は死ぬ“
”↑デッキも死ぬ“
”↑フィールドも死ぬ“
”↑ライフも死ぬ“
”どうせみんな破壊される“
”↑どうしてこんなコメントを書いた! 言え!“
「前から思ってたんだけど、ここのコメント欄って元気すぎない?」
「どこもこんな感じだと思うよ〜」
「配信文化ってマリアナ海溝くらい奥深いんだね」
”褒めるなよ、照れるだろ“
”↑待て待て、褒められてはないと思うぞ“
”↑呆れられてるだけだぞ“
”突発的な蔑みたすかる【5000円】“
”蛇姫ちゃん! 罵って!“
”↑ポリスメェェェェェン!“
”じゃあCHIYOちゃん! 罵って!“
”↑お前は、この世に存在してはいけない生き物だ“
”↑貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ“
”↑お前ライン超えって知ってる?“
「不届者? 大丈夫? デッキ破壊される?」
「蛇姫ちゃん、顔が怖いから落ち着いてね」
「CHIYOはアタシが守護る」
「心強すぎるから落ち着いてね!?」
”CHIYOちゃんっていつもはテンション高めでハジけてるけど、蛇姫ちゃん登場回では絶対にストッパーだよね“
”CHIYOちゃんをハジけさせないヤベー女“
”↑実際ヤベー女なんだよなー“
”↑呼吸するようにデッキ破壊する女がヤバくないとでも?“
”↑デッキ破壊の呼吸を使う、LO柱だぞ“
「だからLOって言うな!」
「リスナーさん、一つだけ訂正しておくよ」
「言っちゃえCHIYO」
「蛇姫ちゃんはね……デッキ破壊できない相手にはエクストラウィンをしてくるからね」
「違うそっちじゃない」
”待って、特殊勝利とか私聞いてない“
”ハハハご冗談を! 冗談だよね?“
”デッキ破壊してくるJCかと思ったら〜、特殊勝利されました〜“
”チクショー!“
”↑意味がわかる。0点“
”デッキ破壊を対策しても特殊勝利かまされるん? 無理ゲーじゃね?“
”確か二人の通ってる学校には蛇姫ちゃんに挑み続ける男子がいるって……“
”↑名も知らぬ男子に敬礼!!!“
”↑ (`・ω・´)ゞ“
”↑ (`・ω・´)ゞ“
”↑ (`・ω・´)ゞ“
”↑ (`・ω・´)ゞ“
”男には、戦わねばならぬ時があるんだよッ“
「ねぇ、なんであのバカの好感度が上がってるの?」
「まぁ……勇気だけなら評価はしても……」
「偉い人は言いました。勇気と蛮勇は違うと」
「アレに関しては否定できないかなーって」
”諦めなければ、いつか真実には辿り着くんだよ!“
”↑良い言葉っぽく見えるけど、冷静に考えたらストーカーの理論じゃね?“
”↑それは言わないお約束“
”俺も諦めずに気になる女子にアタックしようかな“
”↑頑張れ! CHIYOちゃん蛇姫ちゃん、そして俺達が応援するぞ!“
”できるかな!? 俺、女の子に話しかけられるかな!?“
”↑ム”
“↑リ”
“↑ムリ”
“ぶっ●してぇ”
「気持ちは尊重するけど、アタシらに背中押されるより早く行動しなよ。話はそれから」
「蛇姫ちゃん、その辺にしてあげて! 事実陳列が刺さりすぎてコメント欄で泣き叫んでる人が多発してるから!」
”ゔぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!“
”どぼしでぞんなひどいこと言うのぉぉぉぉぉ!“
”たびにでます。さがさないでください“
”メディーック! メディーック!“
”よくよく考えたらCHIYOちゃんも追撃してきて草“
“死屍累々じゃねーか”
“流石は週刊LO。リスナーという名のデッキさえ破壊し尽くしたか”
“もうやめて! リスナーのライフとデッキは0よ!”
「ウチのお兄でさえ女子とちゃんと交流してるってのに。それでもサモンファイターなの?」
「蛇姫ちゃんの中にあるサモンファイター像が少し気になるけど、確かに先生は女の子との交流ちゃんとしてるもんね」
「うん。だけどほぼ全部向こうから来た女子ばっかだけど」
“CHIYOちゃんの先生で、蛇姫ちゃんの兄……だと?”
“は? 蛇姫ちゃんの兄では飽き足らず、女子の方から話しかけてくる男ですと?”
“↑処す? 処す?”
“↑俺が許す。デリート許可だ”
“↑お前らカードをかき集めろ。ヤるぞ”
“でも相手は蛇姫ちゃんのお兄さんだぞ。勝てる算段あるの?”
“↑やらずにする後悔より、やってする後悔だ!”
“↑確かお兄さん高一だろ? 若造がなんぼのもんじゃ!”
“↑俺達『チーム三十路系無職』が成敗してくれる!”
“↑冷静考えなくても最低のチーム名だな”
「あらら、先生の命が狙われてる」
「大丈夫でしょ。お兄が負ける相手とか滅茶苦茶限られてるし」
「それは……本当にその通りなんだよね〜」
“任せてくれ二人とも。おじさんが不届者に世界をわからせてくるよ”
“ねぇ待って。蛇姫ちゃんのインパクトで忘れてるかもだけど、CHIYOちゃんも普通に強いからね?”
“↑……それの先生?”
“↑あれ? 俺らヤベーのに喧嘩売ろうとしてる?”
“お、俺は最後まで逃げねーぞ! 若造がなんぼのもんじゃー!“
”↑おい、下半身が笑ってるぞ“
「そうだ! ねぇ蛇姫ちゃん」
「なにかリンクでも貼るの?」
「うん。去年のJMSカップのアーカイブ配信」
「あー、なるほど〜」
”蛇姫ちゃんメッチャ悪い顔してて草“
”なんならCHIYOちゃんも悪い子の顔“
”↑悪い子JCが二人……くるぞ!“
”↑何が来るかはわからないけど阻止はするぞ“
”↑来るというか、いくじゃね?“
”↑大丈夫? パトカー乗る?“
”あっ、リンク来た“
”本当に去年のJMSの試合中継じゃん“
”おい待て、まさかとは思うんだけど蛇姫ちゃんのお兄さんって……“
”↑やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ“
”↑その可能性を示すな。目を背けさせろ“
”↑逃げるなぁ! 現実から逃げるな! これは命令だ!“
「はーい、みんなアーカイブ動画は見たかな〜? 蛇姫ちゃんのお兄さんは誰でしょー?」
「ヒントはメテオを落としたアホです」
”あっ“
”あっ“
”あっ“
”あっ“
”あっ“
”あっ“
“蛇姫ちゃん、それヒントじゃなくて答え”
”俺ちょっとポンポン痛くなってきた“
”俺も持病の五月病が“
”ご先祖様が危篤なので欠席します“
”【速報】『チーム三十路系無職』爆速で解散www“
”嫌だ、俺だけチームに残るなんて、やだぁぁぁぁぁぁ!“
”↑ちゃんと責任もって挑んでこい“
”↑お前のまいた種だろ! 大人しく爆死してこい!“
”↑リア充に嫉妬なんてカッコ悪いと思わないのか!“
”ひどい手のひら返しを見た“
”てか蛇姫ちゃんのお兄さんってヤベー奴なのね“
”↑予想通りというか予想の斜め上を超えたというか“
”↑俺達は人の域に留まっているお兄さんに挑みたかったのであって、バケモノを出せとは言ってないんよ“
”この人ってたしか色んな大会で緑のウサちゃん過労死させてる人だよね?“
”↑これで思い出したわ。『キュップイ殺し』のツルギだわ“
”↑あぁ〜見覚えあると思ったら『殺戮兵器』のツルギか“
”↑俺が聞いた通り名は『無慈悲』のツルギだな“
「お兄の二つ名多すぎでしょ」
「さすが先生だよね。蛇姫ちゃん」
「ねぇ今の呼び方はハンドルネームよね? アタシの二つ名の方じゃないよね?」
”蛇姫ってマジの二つ名だったの!?“
”↑何故だろう、納得しかない“
”マジの二つ名だったの笑う“
”てかお兄さんがヤバい。ここの人達コレに喧嘩売ろうとしてたの?“
”↑今さっき撤回されたぞ“
”↑俺は逃げる。俺は賢いんだ“
”↑置いてくなぁぁぁ! お前も道連れだぁぁぁ!“
”三十路の無職ははよ仕事探せ“
”お兄さん一緒のチームいた白髪の女の子めっちゃ可愛かったんだけど。誰か詳細知らん?“
”↑自分で調べろ“
”↑スマホで調べろ“
“美少女と同じチーム。決勝戦ではアイドルと熱戦を繰り広げて、妹は蛇姫ちゃん、教え子はCHIYOちゃん? は?”
“↑これが俺らとの差や。恐れ慄くぞ”
“↑ここまで格差がデカいと嫉妬も湧かないな”
“↑神は理不尽だ。俺には女子を当てがわないくせに”
“神「知らんがな」”
「見て蛇姫ちゃん。リスナーのみんなが混乱してる。大佐もこんな気持ちだったのかな?」
「アタシは別にリスナーをゴミだとは思ってないけど」
なんだかで和気藹々とした雑談配信が続く。
その時であった、卯月はコメント欄に来た一つの書き込みが目に入った。
“お兄さんと同じチームの男の子、なんかプロ選手の速水リュウトに似てない?”
「……」
「蛇姫ちゃん?」
“↑言われてみれば似てる。苗字も同じだし兄弟じゃね?”
“↑それはない。リュウト選手は雑誌インタビューとかで一人っ子って言ってたぞ”
“あれ? 蛇姫ちゃん静かになっちゃった”
「大丈夫?」
「あぁ、うん大丈夫。気にしないで」
なんとか取り繕って智代との雑談配信を続ける卯月。
だがその脳裏には、先程のコメントがどうしても張り付いていた。
卯月はどうしても前の世界での出来事を思い出してしまう。
それは兄であるツルギが高校一年生の時の事。
酷く雨が降っていた日に関わらず、ツルギは傘も刺さずに制服姿で帰宅してきた。
当時の様子を卯月はハッキリと覚えている。
無力感に飲み込まれたような表情で無言だった兄の姿を。
友人の葬儀から帰ってきた、ツルギの傷心を。
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