第九十七話:まだ伝えられぬ真実

 さ、流石に今回は危なかったな。

 無事に和尚に勝てたけど、正直運が良かったとしか言えない。

 とはいえ、これで無事にブランクカードはゲットだ。


「で、らんの方は……」


「〈ブイドラ〉でトドメ!」

『ピピピ……ファイト終了です』


 ファイトロイドのライフが0になっている。

 ちょうど今勝ったところらしいな。

 ファイトロイドのボディが開いて、3枚のブランクカードが露わになっている。

 これで藍も無事にゲットだ。


「あっちも試練クリアか」

「己の勝利より嬉しそうじゃな」

「そういう性格なんですよ」

「そうか……受け取れ、小僧!」


 和尚が3枚のカードを投げてきたので、俺はそれをキャッチする。

 自分でやっといてなんだけど、俺よく今のキャッチできたな。

 それはそうとして、手に入れたのは白紙のカード。


「これが……ブランクカード」


 何にでも成る可能性を秘めたカード。

 所有者が本当に必要とした時に、その姿を変える切り札。

 多少計画していたとはいえ、まさか本当にコレを入手する日が来るとはなぁ……。

 一瞬「売却価格」という言葉が浮かんだけど、数字が怖いから考えないようにしよう。


「ツルギくん! 勝ったよー!」

「同じくだ」

「スゴいカードゲットー! なにになるのかなー?」


 藍はブランクカードを手にして、無邪気にはしゃいでいる。

 大事に使えよ。それこの先の事件で主人公であるお前を助けるんだからな。


(まぁ俺は、サポート役兼保険としての所持なんだけどな)


 うっかり変なのにしないよう気をつけないとな。


 その時であった、ふと和尚が俺に話しかけてきた。


天川てんかわツルギ、一つ聞いてもよいか?」

「ん、なんすか?」

「天川ナガレという男に、覚えはないか?」


 その名前を聞いた瞬間、俺の胃が急激に冷たくなっていった。

 同時に混乱が頭を巡る。

 なんで今、和尚の口から、その名前が出てきたんだ。


「その様子じゃと、やはり知っておるな」


 俺は無言で頷く。

 それもそうだ。和尚が名前を出したその男は……


「父親です……俺の」

「そうか、やはりか」

「とは言っても、俺が4歳の頃に行方不明になったんですけど」


 俺がその事実を言うと、和尚は何かを考えるような素振りを見せた。

 いや、そもそも的な問題がある。


「なんで、その名前を?」

「なぁに、昔縁があっただけじゃ……色々とな」

「一応聞いておくんですが……今の居場所を知ってるなんてことは」

「…………いや、知らんな」


 まぁ、そうだよな。

 法的にはもう死亡扱いだし。

 正直、生きていたとしても、正体を知る人には近づかないだろう。


「父親の面影がある。だが父とは異なる道や因果を背負っておる」

「まぁ、同じ道には行かないと思いますよ」

「そうか……」


 なんか残念そうな和尚。

 というか今思ったけど、和尚が言っているのはこの世界の父さんなのでは?

 だったら俺も何も分からないぞ。

 ……てか冷静に考えたら、アイツこっちの世界でも行方不明じゃねーか。

 異世界でも行方不明ってどういう事だよ。


「天川ツルギ、強さを知れ。それが貴様の未来を変える」

「……まぁ、善処します」


 正直ブランクカードを入手した時点で、半分無敵状態みたいなもんだけど。

 まぁ、こういう忠告は覚えておくべきだよな。


「ふわぁ〜、さすがにねむい」

「じゃあ今日はもう戻るか」

「そうするがいい。ファイトロイドの片付けはワシがやろう」


 ならお言葉に甘えて。

 俺は目をこする藍を連れて、召臨寺へと戻っていくのだった。





「……行ったか」


 ツルギと藍が去って行った事を確認した和尚。

 鋭い目で彼らの背を見送るや、近くの切り株に座り、満月を見上げる。

 そんな和尚に、化神けしんロードキリンは語りかける。


『よかったのか?』

「よい。あの小僧にはまだ、真実に耐えられる心が無いわ」

『断片だけでも伝えては良かったと思うがな』

「半端な真実なんぞ、ただの迷いにしかならんわ」

『だがあの様子だと、何も知らないのだろうな……己が父親が世界のために死んだ事すらも』


 目を閉じて、数秒の静寂の後、和尚は「そうじゃろうな」と呟く。


「天川ナガレ。人と化神の友好のために戦った男。じゃがいつの世も悪を成そうとする者は現れる」

『それは人や化神だけでなく、神ですら当てはまる事』

「まったく、タチの悪い話じゃ……人の悪意に手を貸す神なんぞ、碌でもないわい」

『天川ツルギは、いずれその悪と戦う……そう確信しての、此度の試練ではなかったのか?』

「……願望じゃ。ワシの馬鹿馬鹿しい願望じゃよ」


 自嘲気味に、和尚はそう呟く。

 ロードキリンは、それを決して咎めはしなかった。


『彼の元にいる化神……〈カーバンクル〉はやはり不完全であったな』

「じゃろうな。見るからに過去の件でエネルギーを使い果たしとるわい」

『だが言語能力の復活くらいなら、そう遠くはないだろう……あるいは、その時にこそ、天川ツルギは真実を知るのかも知れないが』

「だとすれば、ただの残酷じゃろうて」


 和尚は懐から出したスキットルの蓋を開けて、中身を飲む。

 度数の高いウイスキーが、過去についた心の傷を癒してくれる気がしたのだ。


「世界は残酷じゃ。だがその先にある希望を掴むのは、未来ある若者の役目じゃ」

『では我々は何をする?』

「簡単なことじゃ。邪魔な小石を退かす、それがワシら大人の義務じゃわい」

『此度の試練も、その一環か』

「無論じゃな」


 口元に笑みを浮かべると、和尚は再びウイスキーを飲み始めた。

 そしてロードキリンは夜空を見上げた。

 目を睨ませ、天に叛逆の意思を向けている。


『何度邪悪を企てようと……何度厄災をもたらそうとも……必ずや、討たせてもらうぞ……ソラナキよ』


 いずれ訪れるであろう大戦を思い浮かべて、ロードキリンと和尚は覚悟を決めるのであった。

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