第七十七話:効果無効ファイト!?

 ファイトロイドの場にはスキルキャンセラーが3体。

 アイツが場に居る限り俺の場のモンスターは効果を無効化される。

 面倒臭さの極みみたいな状況だぞ。

 だけどターンを開始しなきゃ、何も始まらない。


「俺のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ!」


 ツルギ:手札5枚→6枚


 さて、まずは落ち着いて状況を確認しよう。

 さっきも言った通り、相手の場にはスキルキャンセラーが3体。

 パワーは11000と高め。ヒットも3ある。

 スキルキャンセラーが1体でも場に居る限り、俺の場のモンスターは効果を使えない。

 

 そして何より厄介なのは、スキルキャンセラーのもう一つの能力だ。

 俺は召喚器を操作して、スキルキャンセラーのテキストを確認する。


 スキルキャンセラーが破壊または除外された場合、次のスタートフェイズ開始時に場に戻ってくる。

 つまり倒しても倒しても無限に蘇ってしまうのだ。

 とはいえ、抜け道が無いわけではない。


 除去を受けてから復活するまでにタイムラグがある。

 スキルキャンセラーは場に居なければ無効化効果を適用できない。

 そして俺の【幻想獣げんそうじゅう】デッキはモンスター効果を重要視する性質を持つ。


 つまり攻略法はこうだ。

 魔法カードを使って、スキルキャンセラーを一瞬だけ全て除去する。

 それでできた1ターンの隙を突いて、1ターンで決着をつける。

 これしかない。


 俺は手札を確認する。

 勝利への道すじは見えた。だけど必要なパーツが揃っていない。

 ならまずは落ち着いて、パーツを揃えるんだ。


「メインフェイズ。俺は魔法カード〈トリックカプセル〉を発動!」


 発動コストで、ライフを2点払う。


 ツルギ:ライフ10→8


「デッキからカードを1枚除外。2ターン後のスタートフェイズ開始時に、除外したカードを手札に加える」


 俺はこの効果で〈グウィバー〉を除外した。

 勝利に必要なパーツだ。

 

 とはいえ、このターンで決着はつけられない。

 今必要なのは、時間稼ぎだ。


「俺は〈ドッペルスライム〉を召喚!」

『ドッペル!』


 俺の場に黒色のスライムが召喚された。

 まずは壁を揃える。


〈ドッペルスライム〉P4000 ヒット1


「続けてコイツだ! 奇跡を起こすは紅き宝玉。一緒に戦おうぜ、俺の相棒! 〈【紅玉獣こうぎょくじゅう】カーバンクル〉を召喚!」


 毎度おなじみ俺の相棒が召喚される。

 今回は時間稼ぎのブロッカー要因だ。


『キューップイ!』


〈【紅玉獣】カーバンクル〉P500 ヒット1


 当然ながら、今攻撃しても返り討ちにされるだけだ。


「ターンエンド」


 ツルギ:ライフ8 手札3枚

 場:〈ドッペルスライム〉〈【紅玉獣】カーバンクル〉



 とりあえず時間稼ぎはできそうだけど、問題は相手のカードだな。

 仮にもこれは【ボスファイト】。相手は特殊カードを多用するルールだ。

 厄介な除去が飛んでこなければ良いんだけど。


『ワタシのターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ』


 ファイトロイド:手札2枚→3枚


『メインフェイズ。ワタシは魔法カード〈知恵の試練〉を発動。効果で相手の場のモンスターの数だけ、デッキからカードをドローします』


 俺の場にはモンスターが2体。つまり2枚のドローか。


 ファイトロイド:手札2枚→4枚


 つーかコスト無しでドローするなよ。

 特殊カードとはいえ、強すぎるぞ!

 クソボスですよクソボス!


『アタックフェイズ。〈【試練獣一型しれんじゅういちがた】スキルキャンセラー〉(A)で攻撃します』


 早速攻撃してきたか。

 さて、ここはモンスターを温存して。


「ライフで受ける」


 メカ鹿ことスキルキャンセラーの角が、俺の身体に襲い掛かる。


 ツルギ:ライフ8→5


『続けて〈スキルキャンセラー〉(B)で攻撃』

「それは〈ドッペルスライム〉でブロックだ!」


 黒色のスライムが、スキルキャンセラーの角に貫かれて爆散する。

 だけどただでは倒されないぞ。


「破壊された〈ドッペルスライム〉の効果発動! ゲーム中1度だけ、破壊されても墓地から復活する!」


 魔法陣が場に現れて、墓地からドッペルスライムが復活した。


〈ドッペルスライム〉P4000 ヒット1


 この光景を目撃した周りの生徒がざわつき始める。

 まぁ普通に考えたらドッペルスライムの効果も発動できないように思えるもんな。

 だけど実は、ドッペルスライムの効果はスキルキャンセラーによって無効化されないのだ。


 何故ならスキルキャンセラーが無効にするのは「場に存在する」モンスターの効果だけだ。

 効果発動時点で墓地に送られているドッペルスライムは、スキルキャンセラーの効果範囲から逃れているという扱いになる。

 うーん、我ながら面倒臭い裁定だな。


『続けて〈スキルキャンセラー〉(C)で攻撃』

「〈カーバンクル〉でブロックだ!」

『キュップイ!』


 スキルキャンセラーとカーバンクルが一騎打ちをする。

 とは言ってもパワー差は歴然。

 カーバンクルは一瞬にして、メカ鹿の足に踏みつぶされてしまった。


「破壊された〈カーバンクル〉の効果発動! 場から墓地に行く場合、代わりに手札に戻る」


 俺の手札に戻ってくるカーバンクル。

 実はカーバンクルの効果もスキルキャンセラーの効果で無効化できない類なのだ。


 通常、モンスターの破壊処理はこうだ。

 場で破壊判定を下す→墓地に移動する処理をする→破壊時効果があれば発動する。


 しかしカーバンクルの場合、破壊判定が下ったあと、墓地に行く前に「場でも墓地でもない空間」またの名を「どこでもないゾーン」に移動する。

 カーバンクルの手札に戻る効果はこの「どこでもないゾーン」で発動と処理をする。

 だからスキルキャンセラーの効果を受けないのだ!

 うーん、クソ裁定。


『エンドフェイズに移行します。〈スキルキャンセラー〉の効果発動。場の〈スキルキャンセラー〉を全て回復させます』


 そういえばそんな効果もあったな。

 ボスだからって効果盛りすぎだろ。


『ワタシはこれでターンエンド』


 ファイトロイド:ライフ10 手札4枚

 場:〈【試練獣一型】スキルキャンセラー〉(A、B、C)


 流石に攻撃性も高いな。

 やっぱり面倒な敵だよ。


「俺のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」


 ツルギ:手札4枚→5枚


 ドローしたカードを確認する。

 来たのは〈ルビー・イリュージョン〉か……良いカードだ。

 だけど使うのは、今じゃない。


「メインフェイズ。〈【紅玉獣】カーバンクル〉を再召喚」

『キュップイ!』


〈【紅玉獣】カーバンクル〉P500 ヒット1


 まだ耐えの時だ。今は耐えるんだ。


「ターンエンド」


 あと少し。


『ワタシのターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ』


 ファイトロイド:手札4枚→5枚


『メインフェイズ。ワタシは魔法カード〈破壊の試練〉を発動。相手モンスター1体を破壊します。ワタシは〈ドッペルスライム〉を破壊』


 魔法効果で爆散するドッペルスライム。

 もう復活効果は使えない。

 というかノーコストでモンスター1体の破壊かよ。

 コストパフォーマンス良すぎだろ。


『更にワタシは二枚目の〈破壊の試練〉を発動。〈【紅玉獣】カーバンクル〉を破壊します』


 二枚目も握ってるのかよ!? ふざけんな!

 まぁこっちもタダでは倒されないけどな!


「魔法カード〈ギャンビットドロー〉を発動! 〈カーバンクル〉を破壊して、デッキからカードを2枚ドロー!」


 これで〈破壊の試練〉は対象不在で不発。

 俺の魔法効果でカーバンクルを破壊だ!

 そしてカーバンクル自身は手札に戻って来る。


 ツルギ:手札3枚→5枚→6枚


 とりあえず手札は増えたけど、俺の場はがら空きになってしまったな。


「アタックフェイズ。〈スキルキャンセラー〉(A)で攻撃』


 メカ鹿が俺に角を向けて突進してくる。

 だけどその攻撃を受けるつもりはない。


「魔法カード〈トリックゲート〉を発動! 〈スキルキャンセラー〉(A)の攻撃対象を〈スキルキャンセラー〉(B)に変更する!」


 突如開いたゲートに、スキルキャンセラーが飲み込まれる。

 そのまま攻撃はスキルキャンセラー(B)へと移される。

 二体のスキルキャンセラーは正面衝突し、相打ちとなった。

 大きな音を立てて、メカ鹿二体が爆発する。


 まぁ次のスタートフェイズに復活するんだけどな。


『続けて〈スキルキャンセラー〉(C)で攻撃』


 三体目のスキルキャンセラーが突進してくる。

 この攻撃は無効化できない。

 無効化は、だけどな。


「手札から〈コボルト・エイダー〉の効果発動!」


 俺の場にナース服を着た雌コボルトが出現する。


「相手モンスターの攻撃時にこのカードを捨てる事で、俺はライフを3点回復し、デッキからカードを1枚ドローする!」


 コボルトの持っている注射器を刺されて、俺はライフを回復する。


 ツルギ:ライフ5→8 手札4枚→5枚


 そしてスキルキャンセラーの攻撃を受ける。

 さっきの回復と合わせてプラスマイナスゼロだ。


 ツルギ:ライフ8→5


『エンドフェイズ。〈スキルキャンセラー〉(C)は効果で回復します。ワタシはこれでターンエンド』


 ファイトロイド:ライフ10 手札3枚

 場:〈【試練獣一型】スキルキャンセラー〉(C)


 さて、ターンが回って来たわけだけど。

 そろそろ決着をつけないと不味いな。


「俺のターン! スタートフェイズ開始時に〈トリックカプセル〉の効果で除外されていたカードが手札に加わる!」


 除外していた〈グウィバー〉が手札に加わる。

 だがこれだけじゃないんだよな。


『この瞬間〈【試練獣一型】スキルキャンセラー〉二体の効果発動。ワタシの場に復活します』


 墓地から蘇るメカ鹿二体。


〈【試練獣一型】スキルキャンセラー〉(A、B)P11000 ヒット3

 

 本当に面倒だな。でも倒さなきゃ勝てない。

 俺は指先に力を込めて、カードをドローする。


「ドローフェイズ!」


 ツルギ:手札6枚→7枚


 ドローしたカードを確認する。

 このカードは……そうか、今来てくれたか!


「よし! メインフェイズ!」


 これなら行ける。


「まずは魔法カード〈フューチャースティール〉を発動! ライフを3点払って、デッキからカードを2枚ドローする!」


 ツルギ:ライフ5→2


 JMSカップでも使ったカードだ。

 デメリット効果で、相手に追加ターンを与えるけど、このターンで勝てば問題ない。

 俺はドローしたカードを確認する。

 よし、パーツが全部揃った。


「もう一度頼むぜ。俺は〈【紅玉獣】カーバンクル〉を召喚!」

『キュ、キュップイ』


 本日三回目の召喚。

 心なしかカーバンクルが疲れている気がする。

 だけどこれで除去の条件が揃った。


「俺は魔法カード〈ルビー・イリュージョン〉を発動!」


 カーバンクルの周りに無数の紅玉が浮かび上がる。

 これもお馴染みの必殺魔法だ。


「自分の場に〈【紅玉獣】カーバンクル〉が存在するなら、相手の場に存在するモンスターを全て、パワーマイナス無限にする!」


 紅玉の光に照らされて、スキルキャンセラー三体のパワーを減少させる。


〈【試練獣一型】スキルキャンセラー〉(A、B、C)P11000→0


 パワーが0になったスキルキャンセラーは存在を維持できず、破壊される。

 だがこのままでは次のターンに復活してしまう。

 その前に勝つんだ。


「〈コボルト・エイダー〉を召喚!」


 手札にいたもう一枚も仮想モニターに投げ込む。

 すると俺の場に、ナース服を着た雌コボルトが召喚された。


〈コボルト・エイダー〉P4000 ヒット1

「そして! 系統:〈幻想獣〉を持つ〈コボルト・エイダー〉を進化!」


 巨大な魔法陣に、コボルト・エイダーが飲み込まれる。

 魔法陣が砕けると、そこに現れたのは純白の鱗を持つ美しいドラゴンであった。


「来い! 〈グウィバー〉!」


〈グウィバー〉P3000 ヒット1


 もうスキルキャンセラーはいない。これで効果使いたい放題だ!


「〈グウィバー〉の召喚時効果発動! デッキから系統:〈幻想獣〉を持つカードを1枚選んで手札に加える。俺はデッキから〈ジャバウォック〉を手札に加える」


 これで今回の切り札が手札に来た。


「俺は〈グウィバー〉を素材にして、〈ジャバウォック〉を進化召喚!」


 今度はグウィバーが魔法陣に飲み込まれる。

 召喚されたのは恐ろしい外見をした黒いドラゴンだ。

 

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


〈ジャバウォック〉P8000 ヒット3


「この瞬間〈グウィバー〉の効果発動! このカードを進化素材としたモンスターは、ヒットが1上がる」


〈ジャバウォック〉ヒット3→4


 これで〈ジャバウォック〉自身の効果も合わせて、ヒット4の2回攻撃を叩き込める。

 だけどそれだけでは8点のダメージ。ファイトロイドのライフ、10点を削り切れない。


 だけどそれは数ヶ月前の環境ならだ。

 今は違う。今のサモンには、アームドカードがあるんだ。


「手札を1枚捨てて、ライフを1点払う」


 ツルギ:ライフ2→1 手札3枚→2枚


「蒼き風と共に来たれ。アームドカード〈【王の幻槍げんそう】グングニル〉を顕現!」


 魔法陣を突き破り、俺の場に巨大な槍が姿を見せる。

 うーん、アームドカードも演出がカッコいいな。

 さてさて、ギャラリーはSRアームドカードの登場に湧いてるけど、本番はここからだ。


「俺は〈【王の幻槍】グングニル〉を〈ジャバウォック〉に武装アームド!」


 巨大な槍は意思を持つように飛翔し、ジャバウォックの手に握られる。

 大槍を構えた武装ジャバウォックの誕生だ。

 さぁ攻めるぞ!


「アタックフェイズ! 〈ジャバウォック〉で攻撃!」


 グングニルを構えて、ジャバウォックがファイトロイドに突撃する。

 しかし……

 

『魔法カード〈防壁の試練〉を発動。アタックフェイズを強制終了します』


 アタックフェイズの強制終了。

 これを通しては、もう勝ち目はない。

 通すわけないだろ!


「魔法カード〈ディスペルイリュージョン〉を発動! 相手の発動した魔法カードを無効化する!」


 ファイトロイドのアームの中で砕け散る〈防壁の試練〉。

 ちなみに〈ディスペルイリュージョン〉は本来、発動コストとして手札1枚とライフ2点を払う必要がある。

 しかし俺の場に〈カーバンクル〉がいるなら話は別だ。

 俺の場に〈カーバンクル〉が存在する場合、〈ディスペルイリュージョン〉の発動コストは無くなる。


 これで攻撃が通るはずだ!


 ジャバウォックの手にしたグングニルが、ファイトロイドを貫く。


 ファイトロイド:ライフ10→6


「進化モンスターから進化している場合〈ジャバウォック〉は【2回攻撃】を得る。もう一度攻撃しろ!」


 更にグングニルを使って、ジャバウォックはファイトロイドを穿つ。


 ファイトロイド:ライフ6→2


 相手の残りライフは2。

 攻撃権が残っているカーバンクルのヒットは1。

 これでは最後のトドメまでいけない……って思うじゃん?

 俺が何のためにグングニルを武装したと思う?


「この瞬間〈【王の幻槍】グングニル〉の武装時効果を発動! 自分のデッキを上から8枚除外することで、ターン中1度だけ回復できる!」


 疲労状態から起き上がるジャバウォック。

 これで最後の攻撃が可能になった。


「行けェ〈ジャバウォック〉! ファイトロイドに直接攻撃だ!」

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』


 咆哮を上げるジャバウォック。

 手にしたグングニルに力を込めて、ファイトロイドに投擲した。

 巨大な槍が、ファイトロイドを貫通する。


 ファイトロイド:ライフ2→0

 ツルギ:WIN


 ファイト終了のブザーが鳴る。

 それと同時に、ファイトロイドから音声ガイダンスが聞こえてきた。


『ファイト終了。天川ツルギ、第一の試練クリアです』

「よし!」


 まずは最初の試練クリアだ。

 この後は宿となる寺に行く……前に、他のみんなのファイトを見ていくか。

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