第三十三話:花言葉は「信頼」「真の友情」
JMSカップ本番に向けて、着々と準備を進める俺たち。
日々の特訓のおかげで、速水とソラはデッキの調整も進んできた。
あとは俺のデッキの調整が問題。
……と言いたいところなのだが、別件で大きな問題が残っている。
「チーム名、どうしよう」
大会に向けてのデッキ調整は順調だけど、肝心のチーム名がまだ決まっていなかった。
だってこういうの名付けた経験ないんだもん!
試しに家で卯月にアイデアを募ったところ「アタシにネーミングセンスを求めないで」と返されてしまった。
名付けという文化から遠い兄妹である。
だが時間も有限だ。ここ数日は学校でも、そればっかり考えている。
今日も俺はチーム名の参考にと、サモン専門の週刊誌を読み耽ったりしている。
色々なチーム名が出てくるが、どうにも良い刺激がこない。
「名付けってこんなに難しいんだな〜」
「随分頭を悩ませているようだな。天川」
「そうだな。速水はなんか良いチーム名思いついたか?」
「お前たちの期待に添えそうなものは、まだだな」
「せっかくだし、なんかカッコいいチーム名をつけたいよ」
「それは俺も同感だ」
だがそこは流石のサモン至上主義世界。
いい感じの名前は大体プロが既に使っていたりする。
速水に聞いたところ、例年だと中学生チームは自分の所属する学校の名前をチーム名に採用する事がほとんどらしい。
……チーム:丘井西中学か……カッコよく無いな。
「俺ら三人になんか共通点とかあったか?」
「共通点? 同じ学校同じクラスだな」
「他の要素は?」
「……無いな。デッキも戦術もバラバラ。性格性別も統一性が無い」
「チーム名考えるのが難しくなってきました」
いっそチーム:勉強会とかにするか?
でもそれだとメガネキャラの速水の要素が強烈すぎる気がする。
「そういえば天川、お前のデッキ調整はどうなんだ?」
「ん? 順調だよ。なにもチーム名の事しか考えてないわけじゃない」
「そうか。ならよかった」
「勿論派手に暴れる事も可能なデッキに仕上げるつもりだ」
「……一気に不安になったな」
冷や汗をかきながら、速水はメガネの位置を合わせる。
なんだよ! 暴れてもいいじゃんか!
だってテレビ中継されるんだぞ!
派手派手にいきたいじゃん!
どうでもいいけど、俺の考え随分変わったな。
「ツルギくん、相手にトラウマ植え付けるのだけはやめてくださいね」
「あっソラ。いやいや、そんな事はしないよ」
「説得力が薄いです」
ソラさん、真顔で言わないでください。
流石にくるものがあります。
まぁソラや速水の言うように、やりすぎは良くないな。
「今度の大会は、正統派な戦い方で勝ちにいくつもりだ」
俺は召喚器から1枚のカードを取り出す。
「なんですか、そのカード?」
「簡単に言えば、俺の新しい切り札だ」
取り出したカードをソラと速水に見せる。
すると二人は目を見開いて驚いた。
「ツ、ツルギくん! それって」
「2枚目のSRカードか」
「そういう事。しかも俺の相棒の進化形態だ」
まぁ本当はSRカードってだけなら、山ほど持ってるんだけどね。
ややこしくなるから言わないけど。
それはそれとして。
今回俺がデッキに入れたのは、いい感じの1枚だと思っている。
「〈カーバンクル・ドラゴン〉……すごく強そうなカードですね」
「実際強いからな。これでJMSカップを制覇してやる予定だよ」
「それは頼もしい限りだな」
「あぁ、大いに信頼してくれ」
絵面が恐ろしいループコンボからは程遠いカードだからな。
正統派な勝利をお届けするぜ!
「それでツルギくん。デッキの方はいいんですけど……チーム名って、何か閃きました?」
ソラの一言に、俺と速水は即座に俯いてしまった。
それで全てを察したのか、ソラの苦笑いが聞こえてくる。
「ソラ、何か良いアイデアはないか?」
「すまない。俺たちにはネーミングセンスが皆無らしい」
「そうですねぇ……私もこういうのは初めてなので」
三人で頭を捻る。
カッコよくて、プロと被らない、いい感じのチーム名。
うん、ハードル高いな。
「神話に出てくるモンスターの名前とかはどうですか?」
「それはもうプロに制覇されてるな」
「流石にチーム:オークを見つけた時は変な笑いが出たぞ」
「マイナーどころも制覇されてるんですか」
そうなんだ。マイナーでカッコいい名前は大体制覇されてる。
「じゃあドイツ語で何か探すのはどうでしょうか!」
「赤翼、何故ドイツ語なんだ?」
「語感がカッコいい単語が多いからだろ」
ボールペンをグーゲルシュライバーって言ったり。
水をヴァッサーって言ったり。
「なるほどな。ところで二人はドイツ語をどのくらい知っている」
「俺はほとんど知らないぞ。ソラは?」
「……ノーコメントです」
「じゃあドイツ語案は保留だな」
そもそも中学生に第二外国語はハードルが高すぎる。
もう少しハードルが低いものはないのか?
すると速水がこんな事を言ってきた。
「そうだな。灯台下暗し。案外身近なところにヒントは転がっているかもしれない」
「と、いうと?」
「最近出会ったものの中にヒントはないか、三人で探してみるんだ」
「最近、ですか?」
最近の出来事ねぇ。
俺は記憶を引っ張り出す……が、出てくる印象的な出来事は一つしかない。
「アイと知り合ったこと」
「そうですね。最近だと一番印象が強いですね」
「連想ゲームのように、何か出てこないか?」
連想ゲーム。
アイから連想できる要素といえば……アイドル。
だけどアイドルはチーム名に使えないだろ。
というか、アイドルのインパクトが強すぎる。
他に連想できる要素なにかないのか!?
だけど俺と速水が悩んでいる中、ソラは何かに行き着いたらしい。
「……花」
「えっ、花?」
「アイちゃんが使っていたカードです。花がモチーフのモンスターだったなって」
「まぁ、系統:〈樹精〉だしな」
「私、花言葉は結構知ってるんですよ」
「すると赤翼、花の名前をチーム名するという事か?」
「はい!」
花の名前か。
確かにプロチームではあまり見かけなかったな。
案外良いアイデアかしれない。
問題があるとすれば、どの花にするかなんだが。
「ソラ、何かいい感じの花知ってるか?」
「ちょっと待ってくださいね。私たちのチームにピッタリの花は……」
額に人差し指を当てて、ソラは考え込む。
「なぁ速水。花言葉って何か知ってるか?」
「有名なものなら幾つかは」
「俺は薔薇くらいしか知らない」
流石にチーム:ローズは情熱が過ぎる。
そんな事を話していると、ソラが何かに行き着いたようだった。
「信頼、真の友情」
「それ、花言葉か?」
「はい。私たちにピッタリだと思って」
「なるほど。確かに俺たちの始まりは天川に対する信頼。そして今は友情で繋がっているな」
「速水。なんか小っ恥ずかしくなるからやめてくれ」
「事実を述べたまでだ」
そういうのが小っ恥ずかしいんだよ!
気持ちは嬉しいけどね!
「仲間への信頼。そして友情。私たちのチームを表すのに一番だと思うんです」
「俺は同意だな。天川はどうだ?」
「まぁ、その、俺もそういう意味の言葉なら賛成だな」
なんかカッコ良い感じもするし。
「で、ソラ。その花の名前は?」
一番大事な事。
ソラは「よくぞ聞いてくれました」といった感じで胸を張り、俺たちに花の名前を告げてくれた。
「ゼラニウム。それが花の名前です」
「つまり俺たちのチーム名は」
「チーム:ゼラニウムか……カッコいいじゃん」
うん。気に入った!
意味もカッコ良いし、語感もいい感じ!
「速水、お前はどう思う」
「俺は良いと思うぞ。天川は?」
「当然賛成だ」
「それじゃあ」
「サンキュー、ソラ。これでチーム名決定だ!」
速水が取り出した、大会申し込み用紙にチーム名を記入する。
これで正式に、チーム結成だ!
「俺たちは、チーム:ゼラニウムだ」
これで残すはデッキ調整のみだ。
大会までに最高の状態に仕上げてやる!
勿論、ソラと速水も強化するぜ。
目指すは三人で大会制覇だ!
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