第三十二話:芽生えた友情(?)とか仲間とか

 ファイトが終わり、二人の召喚器がスリープモードに移行する。

 立体映像は消えたが、ファイトを見ていたギャラリーからは拍手が巻き起こった。


 俺は肩を落としているソラの元へと歩み寄る。


「お疲れ様、ソラ」

「ツルギくん。ごめんなさい、負けちゃいました」

「でも良いファイトだったぞ。ソラも楽しかったんじゃないのか?」

「はい。それはもう」


 満面の笑みを浮かべるソラ。

 うんうん、やっぱり良いファイトは負けても満たされるものなのだ。

 俺は無意識にソラ頭を撫でる。


「あ、あの、ツルギくん? それはちょっと恥ずかしいのですが」

「えっ? あっ! ごめん」


 俺は慌ててソラの頭から手を離す。

 だってソラさん、ちょうど良い位置に頭があるんだもん。


「そういうのは……もっとこう、二人っきりの場面でとか……」


 顔を赤くしたソラが何か言っているが、上手く聞き取れない。

 そんな事をしていると、俺達の元にアイが歩み寄ってきた。


「あらツルギ。勝者にはご褒美が無いの?」

「えっ? 頭撫でて欲しかったの?」

「違うわよ、鈍いわね」


 頬を膨らませるアイ。

 女の子ってよくわからん。


「まぁいいわ。それよりもソラ」

「はい?」

「ありがとう、いいファイトだったわ」

「私もです、アイさん」

「さんは無くていいわよ」

「わかりました、アイちゃん」


 静かに手を差し出すアイ。

 ソラは笑顔でその手を掴んだ。


 これぞきっと、サモンで生まれる友情だ。

 良い握手だ。感動するなぁ。

 カードゲーム至上主義世界、万歳。


「でも、次は負けませんよ」

「あら、私もそう簡単にリベンジ成功させる気はないわよ」


 二人の間に燃え上がる炎。

 お互いに認め合ってはいる筈なんだけど……

 サ、サモン脳って、時々物騒に見えるよね。


「遅れてすまない……が天川、この状況はなんだ?」

「あぁ速水。簡単に言えば女子二人がサモンで分かり合ったんだ」

「いまいち理解が追いつかないんだが」

「安心しろ、俺も完全には理解できていない」


 何とも微妙なタイミングで姿を見せた速水。

 俺は理解ができた範囲で、ここまでの状況を説明した。

 しかし速水には半分も伝わっていないだろう。

 俺達は首を傾げるばかりだった。


「とりあえず、赤翼とファイトした遠征女子が強いという事は理解した」

「で、アイとソラが戦って、今さっき決着した」

「そして二人が何故か意気投合して、あぁなっていると」


 速水が指差した先、そこには和かに談笑するソラとアイがいた。

 いや仲良くなるの早いな君ら!


「俺はとりあえず特訓に入りたいのだが」

「それもそうだな。ソラー! そろそろ特訓始めようぜー!」

「あっ! ごめんなさい。つい盛り上がっちゃいました!」


 パタパタとこちらに駆け寄ってくるソラ。

 その姿をアイは少し残念そうに見ていた。


「流石に私はもうお邪魔かしら」

「あぁそれなんだけどさ。なぁ速水、アイも特訓に参加させてもいいか?」

「む? どうしたんだ唐突に」

「いやほら、俺ら三人だからファイトする時にいつも一人余るだろ? だからアイにも参加してもらおうかと思って」

「強さの方は大丈夫か?」

「安心しろ。俺が保証する」

「なら強者だな。いいだろう」

「私もアイちゃんなら歓迎です」


 よし、二人の許可は得られた。

 あとはアイの意志だな。


「という訳なんだけど、アイはどうだ? 特訓といってもファイトをし続けるだけだけど」

「……いいのかしら。私が入っても」

「いいのいいの。サモン仲間は多いに越したことはないからな」

「そうですよ。ついでに私もアイちゃんにリベンジ挑みたいです!」


 やる気満々のソラ。小動物みたいでちょっと可愛いな。


「サモンを通じて分かり合えたなら、サモン仲間だ。派手に楽しもうぜ」

「……フフ。やっぱりツルギは面白い人ね」

「そうかな?」

「そういう事にしておきなさいな」


 アイが俺達の方へと一歩出る。

 それが参加の意思表示なのは、すぐに理解できた。


「そこのメガネの人もツルギが鍛えたファイターなの?」

「まぁ、速水も一応そうなるのか?」

「そうだな。俺もツルギには色々世話になった人間だ」

「そうなの。なら戦うのが楽しみだわ」


 期待に胸を膨らませているような声で、そう言うアイ。

 楽しそうで何よりだ。


「そういえばアイちゃん。どうして帽子とサングラスをつけたままなんですか?」

「そ、それは……」

「そういうファッション……なのか?」

「そ、そうよ。そういうファッションよ」


 明らかに動揺しているアイ。

 まぁそう簡単に顔を晒せないよなぁ、アイドルだもん。

 俺は気づいているけど、ソラと速水は明らかに気がついてないな。

 ネタバラシ……は止めておこう。絶対に混乱しか起こさない。


「アイのファッションに関してはまた今度でいいだろ。早くファイトしようぜ」

「それもそうだな」

「……ほっ」


 アイさん、目に見えて安心したな。

 それはそれとして、俺達はファイトの組み合わせを決める。

 最初のファイトは俺とソラ、そして速水とアイになった。


「よーし、みんな全力全開でいこうな!」

「はいです!」

「速水君だったわね。期待してるわよ」

「あぁ、よろしく頼む」


 そして始まる特訓ファイト。

 まぁ俺からすれば純粋に楽しい時間なんだけどな。

 ひとまず俺はソラと対戦する。


「〈シールドエンジェル〉で攻撃です!」

「〈コボルト・ウィザード〉でブロック」


 立体映像のモンスター達が、激しい攻防を繰り広げる。

 ファイトを通じて分かった事は、ソラが間違いなく強くなっているという事。

 出会ってすぐの頃と違い、確実に俺のライフを減らすようになってきた。

 そして返しのターンでのケアも上手くなっている。

 だけど……俺もそう簡単には負けない!


「魔法カード〈ルビー・イリュージョン〉を発動! 更に〈ジャバウォック〉を召喚だ!」

「っ! 防ぐ手段が、ない」

「アタックフェイズ! 〈ジャバウォック〉で2回攻撃だ!」

「きゃあ!」


 ソラ:ライフ5→0


 ツルギ:WIN


 無事勝利を収めた俺だけど、以前に比べれば楽な勝利とは言えなくなった。


「あうぅ、やっぱりツルギくんは強いですね」

「ソラもかなり強くなってきてるけどな」

「えへへ」


 無垢な笑みを浮かべるソラ。

 でも強い人間が増えてきたのは事実だ。

 それはさっきのアイとの対戦でも感じた。

 きっとこの先の大会、JMSカップでは今までのデッキでは上手くいかない場面も出てくるだろう。

 となれば……やっぱり相棒の進化形態が必要になるかもしれないな。


「ツルギくん、どうしたんですか?」

「いや、ちょっと考えごとをな」


 そういえばアイと速水はどうなった?

 俺は二人のファイトに目を向ける。


 速水:ライフ3 手札1枚

 アイ:ライフ3 手札1枚


 場の方は……お互い切り札1体だけか。

 だけど、速水の手札が少ないのが心配だな。


「アタックフェイズ。〈【獣新樹】セフィロタウラス〉で攻撃」

「魔法カード〈アースエレメント〉を発動! 〈スチーム・レックス〉を回復させて、ブロックだ!」

「悪いけど、貫かせてもらうわ。魔法カード〈ジェノサイドソーン!〉を発動! 〈セフィロタウラス〉に【貫通】を与えるわ」

「なんだと!?」

「いきなさい〈セフィロタウラス〉!」


 蒸気の恐竜と、神樹の化身がぶつかり合う。

 セフィロタウラスが振りかざした大斧を、スチーム・レックスが噛み付いて防ごうとする。

 しかしパワーはセフィロタウラスの方が上だ。

 必死に抵抗を試みるスチーム・レックスだが、最後には力負けして、大斧に両断だれてしまった。


「【貫通】の効果で、〈セフィロタウラス〉のヒット数分のダメージを受けてもらうわ」

「……俺の負けか」

「でも、楽しかったわよ」


 速水:3→0


 アイ:WIN


 見事勝利を掴んだアイ。

 一方の速水は負けたものの、何か得るものはあった様子であった。


「流石はツルギが鍛えたファイターね。中々倒し甲斐のあるファイターだったわ」

「天川が規格外なだけだ。だが、俺も良いファイトができた。感謝する」


 ファイトを通じて、こちらにも友情が生まれたらしい。

 いいなぁ、俺もあぁいう演出欲しかったよ。


「アイちゃん、本当に強いですね」

「だよなぁ。意外と公式大会で優勝しまくってたりして」

「それだと私達のライバルですね」

「JMSカップで会ったりしてな」


 ワハハと笑う俺。

 だけど……本当に大会で出会ったら、アイはとてつもない強敵になるだろうな。


「さぁ、次は誰が相手をしてくれるの?」

「やる気満々だなアイ」

「当然よ。こんなに楽しいファイトは久しぶりだわ」

「なら俺達三人で、今日はとことん楽しませてやる!」


 再び対戦カードを決める俺達。

 結局その日の俺達は、日が暮れるまでファイトに明け暮れた。


 アイは終止、本当に楽しそうにファイトをしていて、戦っている俺達まで笑顔になった。

 どこか鬱憤を晴らしているような気もしたけど、それでも楽しそうなのには変わりない。

 だからこそ俺は、心の中で強い引っかかりを感じていた。


 もしも、サモンをするのが辛くなったら……


 アイが投げかけた言葉が、何故出て来たのか。

 俺には全く分からなかった。

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