第三十一話:【天翼神】VS【獣神樹】

 アイのターン。


「スタートフェイズ。そしてドローフェイズ、墓地に眠る〈ベビーシード〉の効果発動」

「このタイミングで発動する効果ですか!?」

「ライフを2点払う事で、通常ドローの代わりに墓地の〈ベビーシード〉を手札に加える事ができる」


 アイ:ライフ4→2


 ライフを犠牲に、墓地からベビーシードを回収したアイ。

 これこそベビーシードが制限指定を食らっている理由だ。

 一度墓地が肥えてしまえば、何度でも【再花】のトリガーを手札に持ってくる事ができる。

 シンプルに凶悪な1枚だ。


「メインフェイズ。私は魔法カード〈ギャンビットドロー〉を発動するわ」


 あっ、俺が教えた汎用カードPart2。


「その効果で〈ピーアニープラント〉を破壊して、デッキからカードを2枚ドローするわ」


 爆散するピーアニープラント。

 だから欠片を周りに飛ばす演出やめてくれ。怖いから。


 アイ:手札2枚→4枚


「更に魔法カード〈プラントドロー〉を発動。場の〈シスタスプラント〉を破壊して2枚ドローするわ」


 今度はシスタスプラントが爆散する。

 絵面が酷いよぉ。


 アイ:手札3枚→5枚


「自分のモンスターをどんどん犠牲にして……っ! そうだ、手札には〈ベビーシード〉が!」


 ソラようやく気がついたらしい。アイの戦術が秘めている凶悪さを。

 そう、【再花】を持つモンスターと手札の〈ベビーシード〉が揃ってしまえば、何度でも蘇生と展開ができる。

 故に、場のモンスターをコストにするリスクが極端に低いのだ。


「あら、いい子が来たわ。ならまずは下準備ね」

「っ! くる!」

「私は2体目の〈ピーアニープラント〉を召喚」


 アイの場に再び芍薬の化物が出現する。

 このタイミングで手札からモンスターを召喚したという事は……


「そして私は、場の〈ピーアニープラント〉を進化!」


 やっぱり進化モンスターか!


「命の風が舞いし時、大樹より聖なる獣が生誕する。咆哮せよ我が神! 〈【獣神樹じゅうしんじゅ】セフィロタウラス〉を進化召喚!」

『BUOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!』


 アイの場に召喚されたのは、無数の木の根で構成された巨大ミノタウロス。

 圧倒的な存在感を放つSRカードだ。


〈【獣神樹】セフィロタウラス〉P13000 ヒット3


「え、SRカード」


 予想外のレアカード登場に、ソラは少し動揺している。

 それにしても不味いな。セフィロタウラスの効果は、【再花】を主軸にしたデッキにとって相性が良すぎる。


「驚くのはまだ早いわよ。私はさっき手札に加えた〈ベビーシード〉の効果発動。このカードを手札から捨てるわ」

「手札を、捨てる、それじゃあ!」

「そういうこと。さぁ再び咲き誇りなさい! 【再花】発動よ!」


 アイの場に2つの魔法陣が出現する。


「来なさい! 〈シスタスプラント〉〈キャクタスプラント〉!」


 魔法陣から呼び出されたのは、ゴジアオイの化物。

 そしてもう1体は、サボテン型のモンスターだった。

 ……サボテンは割と可愛らしいな。


〈シスタスプラント〉P8000→P10000 ヒット2

〈キャクタスプラント〉P7000→P9000 ヒット2


「パワーが上昇している!?」

「これもセフィロタウラスの効果よ。自分の場に存在する他の〈樹精〉のパワーを+2000するの」

「何個効果があるんですか」

「3つよ。そして今【再花】で召喚したモンスターは、どちらもライフ1点を払うコストがあるわ」

「えっ、でも残りライフは2点じゃ」


 そうだ。普通に考えればコストの支払いで、アイのライフは尽きてしまう。

 しかし、場にセフィロタウラスが存在するなら話は別だ。


「〈【獣神樹】セフィロタウラス〉の効果で、私が発動した【再花】によって支払う召喚コストは全て消えるわ」

「コストを踏み倒すカード……」

「そしてコストを要求するカードは、その分強力な効果を持っているものよ。まずは〈シスタスプラント〉の効果発動! 合計2点のダメージを受けてもらうわ」

「きゃ!」


 シスタスプラントが種の弾丸をソラに撃ち込む。


 ソラ;ライフ9→7


 少しのダメージに見えるが、アイの攻撃はまだ始まったばかりだ。


「続けて〈キャクタスプラント〉の召喚時効果発動。ヒット2以下の相手モンスターを1体破壊するわ。〈ジェミニエンジェル〉を破壊しなさい」


 アイの命令を受けたキャクタスプラントは、全身の棘を飛ばして、ジェミニエンジェルを破壊した。

 全身に棘が刺さってたけど、痛そうだな。


「アタックフェイズよ。まずは〈キャクタスプラント〉で攻撃!」


 不味いな、素のパワーじゃソラのモンスターは全て負けている。

 都合よくパワー強化のカードを持っていれば良いんだけど。


「ライフで受けます」


 そう都合よくはいかないか。

 あと針を飛ばす攻撃を受けるの、めっちゃ痛そうだな。

 ただの立体映像ではあるんだけど。


 ソラ:ライフ7→5


「続けて〈シスタスプラント〉で攻撃」

「それもライフで受けます」


 ソラ:ライフ5→3


 どうやらソラはモンスターを温存する方向でいくらしい。

 だけど次はどうする? セフィロタウラスのヒットは3だぞ。


「〈セフィロタウラス〉で攻撃よ!」

「それは〈ヒーラーエンジェル〉でブロックします!」


 セフィロタウラスの巨大な斧によって両断される、ヒーラーエンジェル。

 なる程、防御の要になるシールドエンジェルを残したか。


「これは耐え切るのね。ちょっと面白い子じゃない。ターンエンドよ」


 アイ:ライフ2 手札2枚

 場:〈【獣神樹】セフィロタウラス〉〈シスタスプラント〉〈キャクタスプラント〉


 なんとか耐え切ったし、【天罰】状態も維持はできている。

 だけど状況は良くないな。

 どうするソラ?


「私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」


 ソラ:手札2枚→3枚


「貴女、諦めないのね。普通のファイターなら、ここまでされると投了してくる事も珍しくないのに」

「最後まで諦めなければ、逆転の可能性はあります。それが、ツルギくんに教えてもらったことですから」

「そうなの……少し羨ましいわ」

「それに私、今すごく楽しいですよ」

「……楽しい」

「はい! アイさんはどうですか?」

「そうね……今は、楽しいわよ」

「よかったです。それじゃあ、張り切っていきますよ!」


 なんだかんだい言って、ソラはこのファイトを楽しんでくれているらしい。

 うんうん。いい事だ。

 サモンを通じてお互いを認め合う。こういうのはサモン脳の良いところだよね。


「メインフェイズ。私は〈サジットエンジェル〉を召喚します!」


 ソラの場に召喚されたのは、弓矢を装備した天使。

 あれの召喚時効果は強いぞ。


〈サジットエンジェル〉P4000 ヒット1


「〈サジットエンジェル〉の召喚時効果発動です! 召喚時に【天罰】を達成していれば、相手のパワーが一番低いモンスター1体を破壊します」


 弓矢を引くサジットエンジェル。

 今アイの場で一番パワーが低いモンスターは、キャクタスプラントだ。


「パワー9000の〈キャクタスプラント〉を破壊です!」


 サジットエンジェルの射った矢が、キャクタスプラントを貫く。

 抵抗する間もなく、キャクタスプラントは爆散してしまった。


「さぁいきますよ! 私は〈サジットエンジェル〉を進化させます!」


 魔法陣に飲み込まれるサジットエンジェル。

 来るぞ、ソラの切り札が!


「天空の光。今翼と交わりて、世界を癒す輝きとなる。〈【天翼神てんよくしん】エオストーレ〉を進化召喚です!」


 魔法陣が弾け飛び、ソラの場にウサ耳の大天使が光臨した。


【天翼神】エオストーレ〉P11000 ヒット3


「貴女もSRカードを使うのね」

「はい。私の一番大切なカードです」

「そうなの。ならその力、見せてもらうわ」

「言われなくてもです! アタックフェイズ。〈エオストーレ〉で攻撃します」


 エオストーレの手の平に光が集まっていく。

 【天罰】効果を発動する合図だ。


「攻撃宣言時に、魔法カード〈ディフェンスシフト〉を発動するわ。私の場のモンスターは全て回復する」

「無駄です! 攻撃時に〈【天翼神】エオストーレ〉の【天罰】効果発動! 相手はモンスターを2体選んでデッキの下に送らなけれないけません」

「私のモンスターは2体ちょうど」

「そうです。全部デッキの下に送ります」


 エオストーレの強力な除去効果が発動する。

 普通のファイターならきっとここで酷く動揺するだろう。

 だけどアイは違った。そして俺には、アイが冷静な理由も分かった。

 セフィロタウラスの第三の効果!


「〈シスタスプラント〉と〈セフィロタウラス〉をデッキに戻すわ」

「これで場はがら空きです」

「それはどうかしら? 場を離れる瞬間、〈【獣新樹】セフィロタウラス〉の効果発動!」

「3つ目の効果!?」

「〈セフィロタウラス〉が場を離れる時、私は手札1枚を捨てる事でそれを無効にできる」


 アイ:手札1枚→0枚


 やっぱり使ってきたか、セフィロタウラスの身代わり効果。

 何が凶悪って、この身代わり効果のコストは手札を捨てるなんだよ!


「手札を捨てた事で、また【再花】が発動するわ」

「またですか!」

「さぁ再び舞台に咲きなさい、〈チューリッププラント〉〈キャクタスプラント〉」


 場に咲いたのは、チューリップの化物とサボテンの化物。

 本当に、ゾンビみたいに湧いてくる花だな。


〈チューリッププラント〉P4000→P6000 ヒット1

〈キャクタスプラント〉P7000→P9000 ヒット2


「当然このタイミングでも、召喚時効果は使えるわ。〈キャクタスプラント〉の効果で〈シールドエンジェル〉を破壊よ!」


 キャクタスプラントの棘が、シールドエンジェルの全身に突き刺さる。

 本当に痛そうだな。


「そしてその攻撃は〈チューリッププラント〉でブロックよ」


 エオストーレの攻撃を真正面から受け止める、チューリッププラント。

 あっけなく爆散したが、主であるアイは守れた。

 だがソラの方は、これ以上の追撃ができなくなってしまった。


「うぅ。ターンエンドです」


 ソラ:ライフ3 手札1枚

 場:〈【天翼神】エオストーレ〉


 正直絶体絶命のソラだけど、彼女の目にはまだ光が灯っている。


「本当に最後まで諦めない気なのね」

「もちろんです」

「良いわ貴女。本当に良いファイターだわ。だからこそ私も、本気を出せる」

「私も、アイさんの本気を見てみたいです!」

「ならその願い、叶えてあげるわ。私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」


 アイ:手札0枚→1枚


 恐らくこれが最後のドロー。

 アイはこのターンで決着をつけないと、きっと負ける。

 そしてそれは、ソラも同じだ。

 さぁどうなる。


「アタックフェイズ。〈セフィロタウラス〉で攻撃!」

「その瞬間、魔法カード〈ヒーリングウォール〉を発動します! 効果で場の〈エオストーレ〉を回復です」


 起き上がるエオストーレ。

 これでブロッカーができた。


「〈エオストーレ〉でブロックします!」


 二人の切り札が、戦場でぶつかり合う。

 セフィロタウラスは真紅の瞳に輝きを宿して、獰猛な雄たけびを上げる。

 対するエオストーレは、神々しい光を身に纏ってセフィロタウラスを見下ろしていた。


 セフィロタウラスが大斧を投げて攻撃する。

 しかしエオストーレはそれを容易に躱す。

 二体のSRカードの激突に、周りのギャラリーも大盛り上がりだ。


「パワーは〈セフィロタウラス〉が上のようね」

「だけどブロックは成功しています。そして〈エオストーレ〉は【ライフガード】を持っています。破壊されても、回復状態で場に残るんです」

「つまり次の〈キャクタスプラント〉の攻撃も防げると」

「そういうことです」

「なら……この攻撃で決着をつけてあげる」


 アイは最後の1枚である手札を、仮想モニターに投げ込んだ。


「魔法カード〈ジェノサイドソーン〉を発動! 〈セフィロタウラス〉に【貫通】の効果を与えるわ!」

「貫通!? それじゃあ」

「やりなさい! 〈セフィロタウラス〉!」


 魔法カードの効果で強化されたセフィロタウラスが跳躍する。

 瞬く間に、空中にいたエオストーレの眼前に現れ、手にした大斧を振り下ろした。

 エオストーレは防御壁を出し必死に耐えようとする……しかし、その抵抗は虚しかった。

 エオストーレの防御を突き破り、セフィロタウラスの大斧が襲い掛かる。


 エオストーレの身体は、大きな音を立ててて爆散してしまった。


「〈エオストーレ〉!」

「そしてモンスターを破壊した事で【貫通】発動」


 セフィロタウラスの大斧はそのまま、ソラに襲い掛かった。


「きゃぁぁぁ!」


 ソラ:ライフ3→0


 アイ:WIN


 とてつもない激戦。

 最後の一手でそれを制したのは、アイだった。


「ツルギ程じゃないけど、良いファイターだったわよ。ソラ」


 アイは心底嬉しそうな声で、そう呟いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る