第三十話:聖天使VS樹精

 何故かファイトをする事になったソラとアイ。

 いや本当になんでだろうね?

 でもまぁ、アイは強いからソラにはいい刺激になるかもしれない。

 前向きに考えよう。そうしよう。


 フリーファイトスペースで、お互いに距離をとる二人。


「「ターゲットロック!」」


 ソラとアイは同時に召喚器を起動させた。

 そして間髪入れずに、初期手札5枚をドローする。

 やる気満々だなおい。


「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」


 ソラ:ライフ10 手札5枚

 アイ:ライフ10 手札5枚


 さぁて、ソラからすれば未知の強者なわけだけど。

 上手く立ち回れるか?


「先攻は私です。スタートフェイズ」


 先攻はソラか。


「メインフェイズ。魔法カード〈ホーリーポーション〉を発動します。手札の系統:〈聖天使〉を持つカード〈アリエスエンジェル〉を見せて、ライフを3点回復し、1枚ドローします」


 ソラ:ライフ10→13 手札4枚→5枚


 いい感じの初動だな。公開したカードも防御寄りのモンスターだ。


「そして、今公開した〈アリエスエンジェル〉を召喚します!」


 ソラの場に、モフモフの毛に包まれた羊型天使が召喚される。

 中々可愛いな。


〈アリエスエンジェル〉P7000 ヒット1


 様子見にはいいカードだ。

 アリエスエンジェルは【天罰】状態だと、カード効果では破壊されないモンスター。

 しかもブロック時にはパワーが上がるオマケもある。


「私はこれでターンエンドです」


 下手に展開しない辺り、俺の教えが役立っているらしいな。

 先生感動しちゃうよ。


 ソラ:ライフ13 手札4枚

 場:〈アリエスエンジェル〉


 さぁ、注目のアイのターンだ。


「まずは様子見ってところかしら? でもその程度じゃ、私を止める事は難しいわよ。私のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ」


 アイ:手札5枚→6枚


「メインフェイズ。まずはこの子よ、〈ナルキッソスプラント〉を召喚」


 アイの場に水仙の化物が召喚される。

 眼玉がぎょろぎょろしてて……ちと怖いよ。


〈ナルキッソスプラント〉P5000 ヒット0


「〈ナルキッソスプラント〉の召喚時効果発動。私自身のデッキを上から4枚墓地に送るわ」

「自分のデッキを破壊……墓地活用戦術ですか」

「あら、よくわかってるじゃない。伊達にツルギから教わっている訳じゃないのね」

「当然です」


 可愛らしく頬を膨らませるソラ。

 なんか空気がピリピリしている気がするよぉ。


「なら貴女には、少し派手なものを見せてあげる。私は魔法カード〈プラントドロー〉を発動するわ」


 出たな、系統:〈樹精〉専用のドローソース。


「私は場の〈ナルキッソスプラント〉を破壊して、カードを2枚ドローするわ」


 爆散するナルキッソスプラント。

 お願いだからその眼玉を吹っ飛ばす演出はやめてください、怖いです。


 アイ:手札4枚→6枚


「あら? いいカードを引いたわ」


 アイが口元に笑みを浮かべる。

 なんかスゲー嫌な予感がする……


「私はライフを3点払い、魔法カード〈不平等契約〉を発動するわ」


 アイ:ライフ10→7


 ぎゃぁぁぁ! アイのやつ、なんてカード使いやがる!

 多分この場であのカードの危険性を理解しているのは、俺とアイだけだ。

 ソラは明らかに知らなさそうな顔してるし。


「〈不平等契約〉の効果で、私はデッキを上から8枚墓地に送るわ」

「8枚も墓地にカードを!?」

「それだけじゃないわよ。相手の場のモンスターの数が自分よりも多ければ、追加効果で墓地からモンスター1体を手札に戻せるわ」

「なんですかそのトンデモ効果!?」


 ソラが仰天するのもおかしくはない。

 だって〈不平等契約〉は制限カード。前の世界に至っては禁止カードに指定されてた代物だ。

 どう考えてもコストに対して効果が強すぎるんだよ!

 またの名を「相手にとって不平等契約」だぞ。

 本当になんでまだ制限なんですかね、この世界。


「私は墓地から〈ベビーシード〉を手札に加えるわ」


 アイさんや、さらっと墓地から制限カードを回収しないでください。

 凶悪が過ぎます。

 いや、今はそれどころじゃないか。

 ベビーシードが手札に来たという事は、ソラ大ピンチだぞ。


「私は手札から〈ベビーシード〉の効果を発動するわ。手札からこのカードを捨てる」

「……えっ、それだけですか?」

「えぇ、捨てるだけよ」


 目が点になるソラ。

 まぁ初見だとそうなるよな。意味わからないよな。

 だけど〈樹精〉デッキは、手札を捨てる事がトリガーになる。


「私が手札を捨てた事で、墓地の〈樹精〉モンスターが持つ【再花さいか】を発動するわ」

「【再花】!?」

「手札を捨てる事がトリガーとなり、私の花々は墓地から開花するわ」


 アイの場に3つの魔法陣が出現する。

 墓地から3体も出す気なんだ!


「さぁ来なさい! 〈シスタスプラント〉〈チューリッププラント〉〈ピーアニープラント〉」


 出現したのは3体の花の化物。

 ゴジアオイの化物。チューリップの化物。芍薬の化物。

 ……我ながらよく花の種類わかったな。


〈シスタスプラント〉P8000 ヒット2

〈チューリッププラント〉P4000 ヒット1

〈ピーアニープラント〉P4000 ヒット2


「〈シスタスプラント〉の召喚コストで、デッキを上から5枚除外して、ライフを1点払うわ」


 アイ:ライフ7→6


「一気に3体もモンスターを召喚した……」

「召喚だけじゃ終わらないわ。この瞬間〈シスタスプラント〉の効果発動。このカードを含むモンスターが【再花】で召喚される旅に、相手に1点のダメージを与えるわ」

「召喚されたモンスターは3体」

「3点のダメージを受けて貰うわ」


 シスタスプラントが種の弾丸を三発、ソラに向けて撃ち込んだ。


 ソラ:ライフ13→10


「更に〈チューリッププラント〉の召喚時効果を発動。貴女の場の〈アリエスエンジェル〉を疲労させるわ」


 チューリッププラントが伸ばした蔦によって、アリエスエンジェルが拘束されてしまう。

 召喚時効果の連鎖と、横への展開。これが〈樹精〉デッキの強みだ。

 しかし不味いな、ソラの場にブロックできるモンスターが居なくなった。


「さぁ攻めましょうか。アタックフェイズ。まずは〈シスタスプラント〉で攻撃!」

「……ライフで受けます」


 ソラ:ライフ10→8


「次は〈チューリッププラント〉で攻撃よ」

「ライフです」


 ソラ:ライフ8→7


 不味いぞ、あと1点ダメージを受けたら【天罰】が解除されてしまう。


「続きなさい〈ピーアニープラント〉」

「そこです! 魔法カード〈ヒーリングウォール〉を発動です!」


 ソラの前に純白のバリアが展開される。


「このカードは、自分場に系統:〈聖天使〉を持つモンスターが存在する時に、相手モンスター1体の攻撃を無効化します」


 これでアイの〈ピーアニープラント〉の攻撃を無効化するつもりなのだろう。

 しかし、それは叶わなかった。

 突如場に吹き荒れた、紫色の花粉によって、ソラを守ろうとしていたバリアが溶かされてしまった。


「〈ヒーリングウォール〉が、無効化された!?」

「魔法カード〈ポイズンパラン〉を発動させてもらったわ」

「〈ポイズンパラン〉?」

「このカードは自分の場の〈樹精〉を破壊する事で、相手の魔法を1つ無効にできるのよ。私は〈チューリッププラント〉を破壊して、貴女の〈ヒーリングウォール〉を無効化したわ」


 これでもう、ソラを守るものは無くなった。

 ピーアニープラントの攻撃が、ソラに襲い掛かる。


 ソラ:ライフ7→5


 ライフ差が逆転されてしまった。

 これでソラの【天罰】状態は解除されてしまう。


「うぅ……」

「ターンエンド。もう少し楽しませてくれないかしら」


 アイ:ライフ6 手札4枚

 場:〈シスタスプラント〉〈ピーアニープラント〉


 アイの猛攻で大ダメージを受けたソラ。

 まぁ1KILLされなかっただけ、まだマシか。運が良かったか。

 今のところアイは淡々とした感じだけど……ソラはこれをどう巻き返すのかな。


「私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」


 ソラ:手札3枚→4枚


「私も、簡単に負けるつもりはありません! メインフェイズ。〈ヒーラーエンジェル〉を召喚します!」


〈ヒーラーエンジェル〉P4000 ヒット1


「召喚時効果を発動します。墓地から系統:〈回復〉を持つ魔法カード〈ホーリーポーション〉を除外して、その効果をコピーします!」


 よし、これでライフ回復ができる。


 ソラ:ライフ5→8 手札3枚→4枚


 再びライフ量がアイを上回った。これでソラは【天罰】を使える。


「私は〈ジェミニエンジェル〉を召喚します!」


 ソラの場に、男女の双子天使が召喚される。


〈ジェミニエンジェル〉P5000 ヒット2


「更に〈シールドエンジェル〉を召喚します」


〈シールドエンジェル〉P7000 ヒット2


 これで役者はだいたい揃ったな。


「アタックフェイズです! まずは〈ヒーラーエンジェル〉で攻撃です! そして攻撃時に【天罰】の効果を発動! デッキからカードを1枚ドローします」


 ソラ:手札2枚→3枚


 ひとまず手札の補充には成功したソラ。

 だけどアイはそう簡単に攻撃を通すようなファイターじゃないぞ。


「魔法カード〈プラントウォール〉を発動。貴女のアタックフェイズを強制終了させるわ」


 無数の蔦が地面から生え、ソラの聖天使たちに絡みつく。

 このままでは全員攻撃不能になってしまうが……


「魔法カード〈シールドキャンセル!〉を発動します!」

「そのカードは!?」

「発動コストとして〈シールドエンジェル〉を疲労させることで、相手が発動した系統:〈防御〉を持つ魔法カード1枚を無効にします!」


 上手いぞソラ! アイの使った〈プラントウォール〉は〈防御〉を持つ魔法だ。

 魔法カードの効果で、聖天使を縛ろうとしていた蔦は次々に朽ちていった。


「さっきのお返しです」

「……やってくれるじゃない」

「さぁ、この攻撃どうしますか?」

「ライフで受けるわ」


 ヒーラーエンジェルの攻撃が、アイに通る。


 アイ:ライフ6→5


「次は〈ジェミニエンジェル〉で攻撃です!」

「それもライフよ」


 双子の天使が、アイに蹴りを入れる。

 そうやって攻撃するんだ。


 アイ:ライフ5→3


「〈ジェミニエンジェル〉は【2回攻撃】を持っています! もう一度攻撃!」

「魔法カード〈デストロイポーション〉を発動。デッキを上から5枚墓地に送って、その中にあるモンスターの数だけライフを回復するわ」


 あっ、俺が教えた汎用カードだ。

 アイのデッキが5枚墓地に送られる。


 墓地に送られたモンスター→〈ローズプラント〉〈キャクタスプラント〉〈ナルキッソスプラント〉

 墓地に送られた魔法カード→〈プラントウォール〉〈ガトリングシード!〉


「墓地に送られたモンスターは3枚。よってライフを3点回復するわ」


 アイ:ライフ3→6


「そしてその攻撃は、ライフで受けるわ」


 アイ:ライフ6→4


「耐えられましたか」

「私もそう簡単に倒されるファイターじゃないのよ」

「うぅ……アタックフェイズ終了時に〈シールドエンジェル〉の効果で、ライフを1点回復します」


 ソラ:ライフ8→9


「エンドフェイズ。〈シールドエンジェル〉の【天罰】で、私の場のモンスターは全て回復します」

「あら、ブロッカーが増えたわね。ちょっと厄介だわ」

「ターンエンドです」


 ソラ:ライフ9 手札2枚

 場:〈ヒーラーエンジェル〉〈ジェミニエンジェル〉〈シールドエンジェル〉


 ひとまずライフ差はつける事ができたソラ。

 有利に立てたからか、少し余裕を見せている。

 ちと危なっかしい気もするけど。


 で、アイの方はというと……


「フフ。貴女、少しはやるみたいじゃない」


 こっちも余裕だな。

 ライフ差はつけられているから、この世界のファイターなら焦りそうな気もするのに。


「少しじゃないです。ツルギくんの顔に泥は塗りたくないですから」


 ソラさんや、そこまで背負わなくてもいいからね。

 純粋にファイトを楽しんでね。


「言うじゃない。気が変わったわ、貴女の事は本気で倒してあげる」


 アイの空気が変わった。

 多分ソラを認めたのだろう。故に本気を出そうとしているのだ。

 これは……かなり白熱したファイトになりそうだな。


「私のターン!」


 そして、アイのターンが始まった。

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