第五十三話:息抜きと運試し

 召喚器に映し出された謎の告知。

 それは全世界、同時刻に映し出されていたようだ。

 当然ながら、サモン至上主義であるこの世界は大混乱。

 様々な予想や憶測が飛び交い、TVのニュースでは自称専門家による考察等が連日報道されている。

 一つ俺の予想通りな事があるとすれば、あの告知メッセージが新たなカードタイプを示すものではと予想している人間がそこそこ居る事だ。


 0303 Armed


 俺にはその意味が分かる。

 0303は正式な発表の日付。

 そしてArmedは新たなカードタイプ。


 アームドカード。

 モンスター、魔法に続く第3のカードタイプだ。

 モンスターゾーンに顕現させて、モンスターに武装するカード。

 当然ながら、武装したモンスターは大きく強化される。

 前の世界では、このアームドが登場した直後に色々インフレが起きたから……嫌でも記憶に刻まれているな。良くも悪くも。


 予告編が出てから今日で2週間。

 俺とソラ、そして速水はやみは受験勉強の息抜きにカードショップへと向かっていた。

 ちなみにアイは家でホームパーティーで忙しいらしい。流石金持ち。


 街の中をのんびり歩く俺達。

 街頭テレビやビジョンには、相変わらず例の告知に関する話題が流れている。


「みんな飽きないな〜。ずーっと同じ話題繰り返してらぁ」

「当然ですよ。UFコーポレーションがああいった告知をするのは初めてなんですよ」

「間違いなく新しいカードに関する発表につながるのだろうが……その正体が不明だからな」

「その方がワクワクがあって楽しいと思うけどなぁ」

「そう都合良くはいかない。新カードの正体が欠片も分からないせいで、経済が混乱しているらしいからな」


 速水曰く、どの既存カードが活きてくるのか分からない、そもそもパワーバランスがどうなるかも分からない。

 そういった事情からか、カードの関連会社の株価が意味不明な挙動になっているのだとか。それも全世界で。


 うん……冷静に考えて大丈夫なのか、この世界。

 カードで経済が死にかけてるぞ。

 これUFコーポレーションに文句行かないのかな?

 多分行ってると思うけど。


「そういえば、カードショップもシングルカードの値段がだいぶ混乱しているらしいですね」

「色々分からない状況だからな。しばらくは続くだろう」


 そうか、シングル価格が安定してないのか。

 特価品コーナー漁ろうかな。


 そんな話をしている内に、カードショップに到着した俺達。

 相変わらず人が多い。

 聞こえてくる声は、例の告知の話題と、カードの値段の話。

 みんな素晴らしくカードゲーマーやってるな。


「フリーファイトコーナー、空いてるかな?」

「どうでしょう。今日は特に人が多いですし」

「まぁ、空いてなければ適当に時間を潰せば良い」


 速水の言う通りだ。

 カードゲーマーはカードショップで無限に時間を潰せる生き物なのだ。


 で、フリーファイトコーナーに行ったわけだが。

 ソラの予想通り、人がいっぱい。

 しかも俺らと同じ中学生くらいのファイターばかりだ。

 これはアレだな。みんな受験に向けてサモンの特訓をしているんだな。

 ……いざ文字化すると、本当にカオスだな。

 ちなみにサモンの専門学校は聖徳寺学園だけではないので、この光景は普通らしい。


「……時間、潰すか」

「私、とりあえず予約表に名前書いてきますね」

「天川はどうする? 俺はシングルカードでも眺めに行くが」

「とりあえずソラを待ってから、適当にブラつくよ」

「では時間が来たら、ここに集合しよう」


 そう言い残して速水はシングルカードコーナーへと向かって行く。

 俺はソラが来るのを待ってから、二人で適当にショップ内を巡る事にした。

 俺とソラはシングルカードはそんなに用がないので、他のものを見に行く。


「おっ、このスリーブ肌触りが良いな」

「本当ですね〜。カード同士のつきもいい感じです」


 やっぱりスリーブは良いもの使いたいよね。

 とりあえず俺とソラはスリーブを買い物かごに入れる。

 それにしても流石はサモン至上主義世界。

 カードショップのサプライコーナーも品揃えが素晴らしすぎる。


「召喚器のカスタマイズパーツねぇ……俺にはよく分からん」

「モンスターの召喚エフェクト可愛くなったりするんですよ」

「……可愛くしたいか?」


 特にアイが使うようなモンスター。

 キラキラエフェクトでグロい見た目のモンスターが出ても反応に困るぞ。


「あっ、今日発売日か」


 歩いている内に辿り着いたのは、雑誌コーナー。

 勿論売っているのはサモンの専門雑誌だ。

 その種類も豊富。完全にスポーツ雑誌のレベルである。

 とりあえず俺は最近購読している雑誌を一冊手に取り、かごに入れた。

 ちなみに内容はプロ大会の情報誌である。


「あっ、ツルギくん。あれ見てください」


 ふと、ソラが店に設置されているTVを指差す。

 映し出されているのはプロサモンファイターの活躍。

 今インタビューを受けているのは、オールバックにした黒髪の男性。年齢は20歳。

 若き強者として紹介されている男性の名は……


「速水リュウト、か」

「速水君のお兄さんですよ」


 そう、彼は速水の兄。プロのサモンファイターなんだ。

 俺はふと、とある去年の出来事を思い出す。


「(速水が超えたい相手……か)」


 俺は買い物かごに入れた雑誌の表紙を見る。

 今月の表紙は、速水リュウトであった。

 一応前の世界でも顔を見たことがあるけど、よく覚えていない。なにより俺はまだ、この人のファイトをよく知らない。

 この雑誌で何か知れたら良いんだけどな。


 番組の特集が終わると同時に、速水がこちらに来た。


「天川、赤翼あかばね

「おう速水。なんか良いカードあったか?」

「残念ながら、だ」

「そっか」


 まぁシングルカードの価格が今ぐちゃぐちゃになってるらしいしな。

 仕方ないか。


「せっかくショップに来たのだから、何かカードを手に入れたい気持ちはあるのだがな」

「あっ、それすごくわかります!」

「俺も同じく。何か出会いが欲しいよな」


 だがシングルカードはイマイチと……。

 俺は少し考え込む。

 すると、俺の頭に一つの閃きが出た。


「そうだ! いい事思いついた」


 俺はソラと速水をある場所へ連れて行く。

 目的地は、パックコーナーだ。


「パック、ですか?」

「そうだ。せっかく3人いるんだし、1パックずつ買って運試ししようぜ」

「なるほど。より高いレアリティを当てた者が勝者という事か」

「速水大正解」


 ソラも速水も乗り気みたいだ。

 俺は適当にパックを1つ選ぶ。

 ソラに至っては、天に祈るようにしてパックを選んでいた。


「速水はどれにするんだ?」

「そうだな……これにしよう」


 速水は残り1パックになっている箱からパックを手に取った。


「残りもの?」

「残りものには福があると言うだろう」


 ふむ、それもそうだな。

 パックを決めた俺達は、レジでさっさと会計を済ませた。


 俺達は休憩所にもなっているベンチの前に移動する。

 ここならゴミ箱もあるからね。


「さぁ二人とも、開けようぜ」


 一斉にパックを開けて、俺達はその中身を確認した。

 さてさて俺はというと?


「うーん、1パックじゃレアは出なかったか」


 でも便利なコモンカードは手に入ったから、儲けものかな。


「ソラはどうだ?」

「ふっふー。見てください!」

「おっ、聖天使のレアカードじゃん」

「大当たりです」


 これはソラのデッキに強化が入るな。

 で、速水はというと?


「速水はどうなんだ?」

「……」

「速水くん?」


 カードを見つめながら黙ってしまう速水。

 そんなに大ハズレだったのか?

 俺がそう思った矢先、速水は小さく笑みを浮かべた。


「天川、赤翼……この運試し、俺の勝ちだ」

「えっ?」

「速水、まさか……」


 これは、まさか!?


 速水は俺達二人に、引き当てたカードを見せてくる。

 そのカードは輝いていて、そして、元素デッキの切り札。


「速水くん、それって!」

「あぁ。SRカード、それも系統:〈元素〉のカードだ」

「これは完敗だな……でもやったな速水!」


 速水が引き当てたカードは俺も知っている元素の切り札。

 入試前に、速水のデッキは大幅な強化を得たのだ。


「どうする速水、デッキ調整するか?」

「当然だ。後で試運転に付き合ってくれ、天川」


 試運転かぁ……俺は一向に構わないんだけど。

 今俺の脳裏には、もう一つの閃きが生まれていた。


「なぁ速水、その試運転なんだけどさぁ」

「む?」

「もっと歯応えのある相手にやってもらわないか?」

「天川以上なのか?」

「手札次第ではな」


 ちょうどこの前練習相手を欲しがっていたし。


「ツルギくん、誰と速水くんをファイトさせるんですか?」

「あぁ、俺の母さん」

「「えぇ!?」」


 驚くソラと速水。

 だが甘く見るなよ。

 俺が母さんに渡したデッキは、かつての環境デッキだからな!

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