第百一話:キュップイ!
早々に全ての課題をクリアした俺達は暇を持て余していたわけだけど。
ある意味予想通りと言うべきか、学園側もこういう生徒の事は想定済みだったらしい。
ホテルのスタッフに案内されて奥に行くと、そこそこ広いゲームセンターがあった。
型は少し古いものばかりだけど、暇つぶしには最高としか言いようがない。
という事で俺達上位6名は、せっかくなので無限ゲーセン編へと突入していた。
だって全機種無料なんですよ。優しすぎるだろ。
……にしても、なんか疲れが出るな。
加齢の影響なのか? 高一ボディなのに。
あと妙に頭がスッキリしてきたな。まるで悪いものが消えてきたような感じだ。
コーヒー飲んだからカフェイン効いてきたのかな。
「はい、おしまい」
「あっ!?」
気づけば格闘ゲームでアイに敗北していた。
これで5連敗だぞ。
「アイ、強くない?」
「ツルギが下手なだけだと思うわよ」
ぐぬぬ、アクションゲームは好きだけど下手なんだよ。
某狩猟ゲームは下級で詰まったんだぞ。
「じゃあ次アタシねー!」
「
アイ藍による格闘ゲーム対決が始まったのだけど。
他のみんなはどうしてるんだろうか。
「
「ば、バカな……俺が、飛んだだと」
というか速水飛んだのかよ。
あとお前ら麻雀できるのかよ、意外すぎるぞ。
「あれ? ソラは何して……」
振り向くと、後ろにいた。
白い長髪とチンマリしたシルエットのソラが、レトロゲームの前に座っている。
無言でレバー操作してるけど、何やってんだ?
「………………」
「……ま、魔●村だと」
ソラさん、チョイスが渋すぎるぞ。
あとゲーム上手いな。俺初めて1面より先を見たぞ。
「3周目スタートです」
「すごっ」
多分この子は100円で一日中遊べるタイプだ。
そんなこんなでゲーセンで時間を潰し、俺達は合宿4日目を終えるのだった。
……いや、ゲーセンで時間潰して、あとは寺に戻るだけの合宿ってなんだよ。
◆
そして最終日の朝が来た。
長いようで短かった合宿も、今日で終わりか。
昨日は妙に疲れてたから、露天風呂から出るとすぐに寝入ってしまったよ。
「いやー、お寺ともサヨナラと考えると、なんだか寂しい感じだな」
「だよね〜」
隣で藍が相槌を打ってくれる。
それはそうと、一晩ぐっすり眠ったら身体が滅茶苦茶軽いな。
「どうじゃった、今回の合宿は?」
「あっ、和尚さん!」
後ろに
藍は笑顔でお礼と別れの挨拶をしている。
まぁ実際滅茶苦茶お世話になったもんな。
俺もちゃんと挨拶をしよう。
「和尚さん、本当にお世話になりました」
「ガハハ! ワシは大した事をしとらんよ! 成長は全て、お主らの意思が掴んだ結果じゃ!」
「例のアレも、必ず有効活用しますよ」
「そうじゃな……だからこそ、心を闇に落とすんじゃないぞ」
「はい」
ブランクカードが変化するタイミングは分からない。
だけど必ず、どこかで必要になるだろう。
だからこそ、それを託してくれた和尚には感謝しかない。
「時間は大丈夫か? 今日は突破者向けのパーティーじゃろ?」
「あっそうだった! ツルギくん、早く行こう!」
「おい藍もう少し落ち着け」
ちなみに他の皆はもう和尚に挨拶を済ませて、ホテルの会場に行っている。
じゃあなんで俺が今ここにいるかって?
俺と藍が寝過ごしたんだよ!
「和尚さーん! またねー!」
「和尚! 本当にありがとうございましたー!」
俺は藍を追うように、
そんな俺達を、鬼ヶ崎和尚は笑顔で見送ってくれた。
◆
召臨寺の屋根から、
『行ったか』
「あぁ。昨夜は妙な邪気を抱えておったが、あの天川ツルギという小僧、化神に救われたようじゃな」
『何者の企みかは分からぬが、幸か不幸か、あの化神には丁度いい餌だったようだな』
「そうじゃな……問題は、邪気の原因がコレで死んでいるかどうかじゃな」
『後の事は彼らに託そう。我らが動く必要があれば、その時はその時だ』
「そうじゃな」
◆
ホテルに到着しました。
時間ギリギリだったけど、間に合ったからセーフです。
スタッフさんに案内されて、俺はホテル最上階のパーティー会場に足を踏み入れた。
ちなみに藍は別室に行った。何故かって?
女子はパーティー用のドレスが貸し出されるんだとさ。
男子にも何か貸してくれよ。俺今制服よ。
「しっかし……スゲー広い会場だな」
昔読んだ小説に出てきた貴族のパーティーとか、こんな感じだった気がする。
なんか楽器演奏用のステージとかあるし。
ちなみにコレは最終日開始時点で全ての試練をクリアした生徒しか参加していないらしい。
まだクリアしていない生徒は今日の夕方まで試練に挑み続けてるんだとさ。
……なんでコレ教育委員会に怒られないんだろう。
冷静に考えたら本当に謎だな。
「立食パーティーで、いわゆるバイキング形式か。分かりやすくて良いな」
「あらツルギ、やっと来たのね」
声のする方を向くと、そこには大人びた黒いパーティードレスに身を包んだアイがいた。
流石は元アイドル。完璧に着こなしている。
あとこう言ってはなんだけど、高校一年生の色気じゃない。
「なんか高校の合宿でやるパーティーとは思えないな」
「ふふ、そうね」
「豪華過ぎる」
「あら、そうなの?」
うーん、金銭感覚のギャップ。
「そもそも女子がドレスを着るようなパーティーとか生まれて初めてだよ」
「私はむしろ慣れすぎて、またって感じね」
「隣の芝生は青いな」
「そうね」
クスクスと可愛らしく笑うアイ。
なんだろうな、出会った当初を思い返すと本当に言い笑顔をするようになったよな。
肩の荷が下りて、本当に気持ちよくファイトできてるだろうし。
きっとコレで良かったんだ。
「にしても、男子もタキシードくらい貸してくれたらいいのに」
「ふふ、そうね。それなら一曲お相手したかったのに」
「演奏あるか分からんし、そもそも俺ダンスの心得はないぞ」
「私がリードするわよ」
「そりゃ光栄だな」
そんな談笑をしていると、もう一人女子がやってきた。
灰色の髪をまとめて、落ち着いた色合いのパーティードレスを着ている女の子。
九頭竜さんだ。
「よっ、九頭竜さん」
「
「藍だったら更衣室に行ったところまでしか知らないぞ」
「あら、あの子一人でドレス着れるのかしら」
アイが心配の声を上げる。
ちなみに九頭竜さんも同様らしい。
「ちょっと心配ね……私と
「頼んだ。俺もなんか心配になってきた」
そう言って、アイと九頭竜さんは藍の様子を見に行くのだった。
となれば俺1人になってしまうのだけど……
「まぁ、飯食って待つか」
よく考えれば朝から何も食べてない。
俺は皿を片手に料理を盛りに向かった。
スゴいなぁ……本格的なパエリアとかがあるぞ。
和洋折衷、なんでもあるな。
あっ、豚の丸焼きだ。リンゴも咥えてる。
そっちも気になるし、あちらの北京ダックやローストビーフも捨てがたい。
「本当に、さっさとクリアして正解だったな」
とりあえず肉を盛ろう、肉を。
男子は肉を食らってなんぼだ。
ローストビーフと北京ダックと豚肉を皿に盛って……会場の隅でいただきます。
……こういう会場で、隅っこで1人飯をするの、ロマンじゃない?
なんというか、特別な強者キャラがやるムーブっぽくて良くない?
「フフフ、己が意思でやるボッチ飯……背徳ッ! 一味違うスパイスッ!」
なんて事を呟きながら、肉を食う。
うん、美味いな。他の奴らが見れば不審者かもしれないけど。
「金持ち学校は良いねぇ、美味い飯がご褒美でくるんだから」
「あっ、ツルギくんだー! お肉美味しい?」
ハイハイ、ボッチ飯終了ですね。
この騒がしさは藍だな。
肉を飲み込んで振り向くと、赤いパーティードレスを着た藍がこちらに近づいてきた。
なお手には山盛りのサラダが乗った皿を持っている。
「ちゃんとドレス着れたんだな」
「えへへ、アイちゃんと真波ちゃんに手伝ってもらったんだ〜」
「予測可能の事態だったか」
さしずめ更衣室で四苦八苦していたところを、アイと九頭竜さんに助けてもらったんだろう。
それはそうと、コレはベストタイミングだな。
俺は藍にある質問をした。
「なぁ藍。昨日の試練でさ」
「ふみゅ?」
「九頭竜さんに挑まなかったんだな」
「……うん。今じゃないなって思って」
藍の顔を見る。後悔は感じられない。
むしろ、来るべき未来への決意が伺える。
「今挑むのも一つかもしれない。でもね、アタシはせっかくだから大きな舞台で真波ちゃんと戦いたいの」
「二学期のランキング戦か?」
「うん。そこで勝ち進んで……
より強くなって、より高みを目指す。
そのための選択だと、藍は言いたいらしい。
なるほどな……アニメ通りの展開になる上、藍なりの決意だったんだな。
それなら俺から余計言葉は必要ないな。
「そっか、ならもっと強くならなきゃな」
「うん! もちろん、ツルギくんにも勝つからね!」
「やってみせろ。派手に返り討ちにしてやる」
「えへへ〜」
藍が無邪気な笑みを浮かべる。
それに釣られて、俺も笑みが溢れた。
必ず勝つ。俺も負けない。互いの意思は確かに伝わっていた。
「そう言えばブイドラは?」
「デッキで休んでるよ。流石にちょっと疲れちゃったみたい」
「九頭竜さんのシルドラと似たような状態か」
「それに比べてキミはタフだね〜、あんなにファイトしてたのに」
「……は?」
藍が視線を下に向けて妙な事を言う。
あの……誰に言ってるんですか?
「やっぱりウサギっぽいし、野菜が良いかな〜って思ったの。ドレッシングは避けてサラダ山盛りしてました〜!」
「藍、誰に向かって言ってるんだ?」
「え? ツルギくんの足元」
しゃがんで指さす藍。
えっ? なに、なにが居るの?
俺は恐る恐る、視線を足元に向けた。
「はい、サラダどーぞ」
「キュップイ! お野菜プイ!」
皿に盛られた野菜をシャクシャクと食べ始める、緑色のウサギ。
あぁ、うん……俺がよく知ってるウサギというか……モンスターだね。
……えっ? 化神?
「カ、カーバンクル?」
「キュプ!? やっとボクを認識したプイ!?」
「お前そんな喋り方だったんだな……じゃなくて、本当にカーバンクルの化神か!?」
「そうプイ! ツルギがしょっちゅう過労死させているカーバンクルはボクっプイ!」
「なんか、ゴメン」
でもカーバンクルは過労死させてなんぼだから。
これからも積極的に過労死してもらいたいです。
「てか、いつの間に化神になったんだお前」
「キュ〜、最初からプイ」
マジかよ、全く気づかなかった。
「てかそれなら早く言ってくれよ」
「むちゃ言わないで欲しいプイ。ボクもようやくエネルギーが溜まって喋れるようになったんだプ〜イ」
「エネルギー切れ? てか何処からエネルギーを――」
そこまで言いかけて俺は昨日の事を思い出した。
そう言えば昨日は妙に身体が疲れたけど。
「お前、もしかして俺からエネルギーを」
「ツルギからも吸ったプイ。でも一番吸い取れたのはツルギが拾ったカードからプイ!」
俺が拾ったカード……?
その瞬間、思い出した。
昨日の坂主とのファイト終了後、俺はウイルスカードを拾ってしまって。
「!?」
俺は慌てて召喚器からデッキを取り出して確認する。
そこには身に覚えがない、ウイルスカードが1枚入っていた。
ヤバいヤバいヤバい!
ファイトで使わない限りカードに感染しないとはいえ、人間には感染するんだぞコレ!
なんで俺デッキに入れたんだ!?
無意識か、全く覚えてないぞ!
「あっ、もう大丈夫プイ」
「……は?」
「なんか悪いエネルギーいっぱい入ってたけど、食べちゃったプイ……すごく不味かったけど」
「……食べちゃったのか」
「プ〜イ、おかげで喋れるプ〜イ」
でも、それはそれで大丈夫なのか?
化神パワー的なものでウイルスを消化してくれるんだよな?
「だからお口直しのお野菜、もっと欲しいプイ!」
「はい、たくさん献上します」
よく見たら、もうサラダが空だな。
とりあえずニンジン中心でいいのかな。
ウイルスがカーバンクルの中で消化されたと信じて!
「じゃあ藍、俺野菜盛ってくるわ」
「いってらっしゃ〜い」
皿を片手に、俺はバイキングコーナーに向かう。
足元をカーバンクルが飛び跳ねているが、人にはぶつからない。
人に当たっても幽霊のようにすり抜けている。
俺は触れるし喋れるけど、他の奴らには触れる事すらできないんだな。
なんか……幽霊を従えてるみたいで、変な感じになる。
「お野菜お野菜、ニンジンでいいのか?」
「キャベツとトウモロコシも欲しいっプイ!」
「りょーかい」
ドレッシングは避けて、お皿に野菜を盛る。
見た目ウサギなだけあって、やっぱり草食なんだな。
サラダを盛り終えたら、目立たないテーブルに移動。
流石にカーバンクルが食べている状態を見られるのは不味いからな。
というか……カーバンクルが見えない人からすれば、虚空に消えるお野菜にしか見えないだろうし。
うん、そんなのただの怪奇現象だな。
「はい、ゆっくり食べてくれよ」
「キュップーイ!」
テーブルの上でサラダを食べ始めるカーバンクル。
なんだか相棒が急に姿を現しても、想像していたよりは冷静でいられたな。
それもそうか、異世界転移に比べればどうって事はない。
「しっかし俺の手持ちカードに化神がいたとはなぁ」
そんな事を考えていると、背中をツンツンと突かれた。
うん、高さ的に誰かすぐに分かったぞ。
振り向いて答え合わせ。
「あっ、ツルギくん……えへへ」
そこには水色のパーティードレスに身を包んだ、ソラがいた。
白く長い髪も、今日はポニーテールにしている。
なんというか……いつもと雰囲気の異なる女子って、こんなにドキッとするんだな。
「……キレイだな」
「ふえっ!?」
「あぁゴメン、急に変なこと言っちゃって!」
「い、いえ私こそ急にお見苦しいものを」
お互いにワタワタしてしまう。
それが何だかおかしく感じてしまって、俺とソラは同時に「クスッ」と笑いが込み上げてしまった。
「ツルギくんはみんなのところには行かないんですか?」
「えっ!? あぁ、その……たまには隅っこも良いなぁって思って」
ちょっとだけ嘘を交える。
だってカーバンクルの食事風景は見せられないもん。
俺はできるだけ後ろのカーバンクルが見つからないように、背に隠す。
「そうなんですか……じゃあ、私もここに居ていいですか?」
「いやいや、ソラこそもっと色んな奴らとの交流をだな」
「ツルギくんの隣がいいんです」
そう言ってソラは、俺に身を寄せてくる。
急にそういうムーブしないでよ! ドキッとするでしょ!
「……なんだか夢みたいですね」
「なにが?」
「自分がこういう場所に立っている事が」
「ソラの実力だろ」
「中学生の頃は想像もできなかったですよ。ツルギくんと出会わなかったら、きっとここには居られなかったです」
ソラは微笑みを浮かべて、俺の方を見てくる。
本当に……可愛いなって。
「ありがとうございます。ツルギくんと出会えたから、色んな事ができるようになりました」
「俺は少しの手伝いしかしてないけどな」
「私にはとってもカッコいいヒーローですよ」
「だったら……良いんだけどな」
できる事はする。打てる手は打つ。
でもそれは全て、ある種のチート行為。
褒められる事なのかは、自分でも疑問に思う。
だからだろうな……どうにも褒め言葉を素直に受け入れられない。
「ツルギはなんでも難しく考えすぎだっプイ」
(うるせぇ)
でもまぁ……ソラみたいに救われた人がいるなら、少しだけ胸を張ってもいいのかな。
「あっ、ツルギくん! 演奏が始まりましたよ」
「スゲーな、生演奏まであるのか」
豪華なもんだな。そう考えていると、ソラが俺の手を掴んできた。
「もっと近くで聞きましょう!」
「あぁオイ! ちょっと待って」
ソラと手を繋いだ状態で演奏を聞きに来た集団の中に入っていく。
だけど不思議と恥ずかしいとか、嫌だとか、そういう気持ちはなかった。
ただただ、心臓がドキドキしていて、俺は少し顔に熱を感じていた。
(きっとこの先、色々な事件に巻き込まれる……だからこそ、今だけは……)
どうか平穏を。
この子の隣にいる事を、許してください。
そんな事を考えながら、合宿最終日は終わっていくのだった。
【第五章に続く】
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
第四章、後書き
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜』
第四章お読みいただきありがとうございます!
もし面白いと感じていただけたのなら、作品のフォローや★評価をしてもらえると、作者が大歓喜します。
引き続き、作品の方をよろしくお願いいたします!
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