第七十三話:真波の王と輝士②

『アタシのターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!』


 らん:手札2枚→3枚


 藍は勢いよくドローしたカードを確認すると、ニヤリと笑みを浮かべた。


『来てくれたんだ! メインフェイズ。アタシも相棒を呼ぶね!』


 藍は1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。

 紅蓮に燃える魔法陣が、藍の場に出現する。

 

『燃える炎で勝利をつかむ! 熱く弾けてアタシのバディ! 〈【勝利竜しょうりりゅう】ブイドラ〉を召喚!』


 魔法陣が弾け、中から赤い身体の小さなドラゴンが召喚される。

 お馴染み藍の相棒、ブイドラだ。


〈【勝利竜】ブイドラ〉P5000 ヒット2


『ブイブイー! オイラの出番ブイ!』

『頼むよブイドラ!』


 やっぱりあのブイドラ喋ってるよな?

 というか真波が少し驚いた表情をしている。

 アイツもブイドラの声が聞こえているのか?


『そうか……藍、貴女もなんだね』

『どうする、真波?』

『何も変わらない。ボク達は勝ちにいくだけ』


 あの、今シルドラも喋ってませんでしたか?

 あれ? モンスター・サモナーにそんな設定あったっけ?


『へぇ、あなたのモンスターも喋るんだ』

『なんの事? ターンを続けて』

『そうだね。話はファイトが終わってから! アタシは魔法カード〈ビクトリードロー〉を発動!』


 また出たなインチキドローカード!


『デッキの1番上のカードをオープン。それが系統:〈勝利〉を持つカードなら手札に加える』


 オープンされたカードは……ブイドッグか。


『よし。アタシは〈ブイドッグ〉を手札に加える。更に【Vギア】を発動! デッキからカードを2枚ドロー!』


 藍:手札2枚→4枚


 一気に手札を強化してきたな。さぁて藍はどう出る?


『今手札に加えた〈ブイドッグ〉を召喚!』


 藍の場に炎を背負った大型犬が召喚される。

 ライフ5以下の状態なら、あれも中々便利なカードだ。


〈ブイドッグ〉P3000→P8000 ヒット1


『パワーが上昇した?』

『〈ブイドッグ〉の【Vギア】だよ。アタシのライフが5以下なら〈ブイドッグ〉はパワー+5000される』


 これだけでも便利カードなのだけど、ブイドッグの能力はまだある。


『更に〈ブイドッグ〉の召喚時効果発動! 自身よりパワーの低い相手モンスターを1体選んで破壊する! アタシは〈バレルナイト〉を破壊!』


 能力を発動したブイドッグが、バレルナイトに噛みつく。

 そのまま凄まじい炎に飲み込まれたバレルナイトは、あっけなく爆散、破壊されてしまった。

 だけどまだ真波の場にはモンスターが2体いる。

 いずれも今の藍の場にいるモンスターでは破壊できない。

 藍には何か策がありそうだけど……どうする?


『更にライフを1点払って、このカードを使うね!』


 藍:ライフ2→1


 更にライフを削った藍は、1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。

 藍の場に深紅の魔法陣が出現する。


『来て、アームドカード! 〈ビクトリーセイバー〉顕現!』


 深紅の魔法陣を突き破り、紅い刀身の剣が顕現した。

 なるほど、あのカードが藍の入手したアームドカードなんだな。

 いやアニメで知ってたんだけどね。


『いくよ! アタシは〈ビクトリーセイバー〉を〈【勝利竜】ブイドラ〉に武装アームド!』


 ビクトリーセイバーは輝きを放つと、ブイドラが持てるサイズに変化した。

 そのビクトリーセイバーをブイドラは手に取る。


『更にアタシは〈ブイバード〉を召喚! 〈ブイバード〉の能力によって、アタシの場のモンスターはパワー+3000される!』


〈【勝利竜】ブイドラ〉P5000→P8000

〈ブイドッグ〉P8000→P11000

〈ブイバード〉P4000→P7000


『一気にパワーを上げてきた』

『このままアタックフェイズ! いっけー〈ブイドラ〉! 〈シルドラ〉に指定アタック!』


 ビクトリーセイバーを構えて、ブイドラはシルドラへと突撃する。


『くっ雑種め! 王子に歯向かうのか!』

『王子様なんて、オイラの知ったことじゃないブイねー!』


 お互いの剣でつばぜり合いを行う、シルドラとブイドラ。

 うーん、やっぱり喋ってるよな。


『〈シルドラ〉のパワーは9000。貴女の〈ブイドラ〉ではパワーが足りないようだけど』

『ふっふーん、それはどうかな?』

『え?』

『攻撃した事で〈ビクトリーセイバー〉の武装時効果発動! 攻撃中、武装している〈ブイドラ〉のパワーは+10000される!』

『10000のパワー上昇!?』


 そう、これがビクトリーセイバーの本領。

 パワー+1万という破格のバフを受けれる、協力なアームドカードだ。

 流石に真波も少し動揺しているな。


『ブイブイブーイ!』


〈【勝利竜】ブイドラ〉P8000→P18000


『これなら勝てるブイ!』

『なんだと!?』

『ぶった斬ってやるブイ!』


 ブイドラはビクトリーセイバーをシルドラに振り下ろそうとする。

 しかし……


『〈フレイムナイト〉の効果を発動。輝士よ〈シルドラ〉を守りなさい!』


 真波の指示を受けたフレイムナイトは、突然シルドラの前に割って入った。

 そのままビクトリーセイバーに両断されるフレイムナイト。

 シルドラの代わりに破壊されてしまった。


『な、なにが起きたの?』

『〈フレイムナイト〉は、自分の場の系統:〈王竜〉を持つモンスターが破壊さる場合、身代わりになる事ができる』


 フレイムナイトが犠牲となり、シルドラは戦闘破壊を逃れた。

 これは……あのカードの条件が揃ったな。


『でももう〈シルドラ〉を守るナイトはいない! いけッ〈ブイドラ〉! 2回攻撃』

『今度こそ倒すブイ!』


 再びブイドラはビクトリーセイバーを構えて、シルドラに突進する。


『魔法カード〈キングダムウォール!〉を発動。ボクの場に系統:〈王竜〉を持つモンスターだけが存在するなら、アタックフェイズを強制終了させる』


 巨大な半透明の防壁が出現し、ブイドラの攻撃を阻んでしまった。

 弾き返されてしまうブイドラ。

 藍のアタックフェイズもここで終了だ。


『うーん、防がれちゃった。ターンエンド』


 藍:ライフ1 手札1枚

 場:〈ブイドッグ〉〈ブイバード〉〈【勝利竜】ブイドラ(ビクトリーセイバー武装状態)〉


 ターンを終える藍。だけど状況はかなり不味いな。

 真波相手に残りライフは僅か1。風前の灯火とはまさにこの事だ。


『ボクのターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ』


 真波:手札1枚→2枚


『メインフェイズ。少しは楽しめたけど、流石にもう終わらせよう』

『また最終ターン宣言?』

『そうだね。ボクは魔法カード〈輝士生還きしせいかん〉を発動。墓地から系統:〈輝士〉を持つモンスターカード〈フレイムナイト〉を手札に戻す』


 まずは便利カードを手札に回収してきたか。


『ライフを1点払い、〈フレイムナイト〉を再召喚』


 再びフレイムナイトが真波の場に出てくる。

 当然効果でパワーも上昇した。


 真波;ライフ9→8

〈フレイムナイト〉P7000→10000 ヒット3

〈【王子竜おうじりゅう】シルドラ〉P6000→P9000


 これでまた真波は身代わり効果を使える。

 その上シルドラには【王波おうは】もある。


『アタックフェイズ。〈シルドラ〉で〈ブイドラ〉に指定アタック!』


 キングダムセイバーを構えて、シルドラはブイドラに突撃する。


『そして〈シルドラ〉の攻撃時効果【王波】を発動。〈ブイバード〉を破壊!』


 シルドラが口から衝撃弾を出す。

 衝撃弾はブイバードの身体を貫き、破壊した。

 そしてシルドラとブイドラは、再びつばぜり合いを始める。


『先ほどのお返しをしようじゃないか。雑種!』

『雑種じゃねー! オイラにゃブイドラって名前があるブイ!』


 つばぜり合いが続くが、現在のパワーはシルドラの方が上。

 このままではブイドラが破壊されてしまう。


『ブイドラは必ず守る! 魔法カード〈ビクトリーウォール!〉を発動! アタックフェイズを強制終了!』


 藍はカードを仮想モニターに投げ込み、魔法を発動しようとする。

 しかし……その魔法カードは突如粉々に砕けてしまった。


『えっ!?』

『ライフを2点払い、魔法カード〈ディスペルスラッシュ!〉を発動』


 真波:ライフ8→6


『このカードはボクの場に系統:〈輝士〉が存在する場合に、相手が発動した魔法カードを無効化する事ができる』

『そん……な』

『これで邪魔なカードは無くなった。いって〈シルドラ〉』


 シルドラはキングダムセイバーを大きく振りかぶる。


『終わりだ、雑種!』


 そしてシルドラは、キングダムセイバーを振り下ろし、ブイドラを両断した。


『ぐわぁぁぁ!』

『ブイドラぁぁぁ!』


 ブイドラは爆散、破壊される。その場には武装していたビクトリーセイバーだけが残っていた。

 アームドカードは単体ではアタックもブロックもできない。


『モンスターを2体破壊した事で〈シルドラ〉は回復する。そのまま〈シルドラ〉で〈ブイドッグ〉を指定アタックだ!』


 キングダムセイバーを振りかざし、ブイドッグを両断するシルドラ。

 というか真波もやることがえげつない。

 普通にシルドラの【王波】でブイドッグを破壊すれば勝てるというのに。

 多分アイツは、完璧な勝利を藍に見せつけたいんだろうな。


 実際、ブイドッグを破壊された藍の場はブロッカー0体。

 手札も0枚。

 もう防御する手段は残っていなかった。


『これで終わり……〈フレイムナイト〉で攻撃!』


 炎の剣を構えて、フレイムナイトは藍に近づく。

 その光景を目にした俺は思わず食堂のモニターに向かって「藍!」と叫んでしまった。


『……ライフで受けるっ!』


 次の瞬間。

 フレイムナイトの剣が、容赦なく藍の身体を切り裂いた。


『きゃぁぁぁ!』


 藍:ライフ1→0

 真波:WIN


 ファイト終了のブザーが鳴り響き、立体映像が消滅していく。

 同時に、食堂のモニターに映っていた中継も終了した。

 モニター前のギャラリーは「やっぱりか」「予想通り」といった反応だけ残して散り散りになっていった。

 俺はモニター前で静かに立ちすくむ。


「藍ちゃん、負けちゃいましたね」

「そうだな」

「六帝の人強かったですね」

「そうだな」


 だけど……


「いつか勝たなきゃいけない相手なんだ」


 正直このファイトが藍の負けで終わる事自体は覚悟していた。

 何故ならアニメでもそうだったからだ。

 だけど……それでも何かが変わればとも思っていたけど、そう簡単にはいかないらしい。


 俺はソラに手を引かれて、モニター前から去るのだった。

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