第九十九話:闇を撃ち抜け【無限砲】発動!

 ウイルスカード『【暗黒感染あんこくかんせん】カオスプラグイン』。

 その名の通りカード内部に特殊なウイルスプログラムが含まれていて、使えばモンスターをカオス化させる事ができる。

 前の世界でも流通したカードだけど、流石に現実的な効果処理になっていた。

 間違ってもカードを一時的に変質させるなんて事はない。


 だがここはアニメ世界。そんな常識は通用しないし、今目の前で本当にカードが変化していた。

 いや……問題はそこじゃ無いな。


 ウイルスカード最大の問題点は、その中毒性と使用者の精神汚染だ。

 使えば強大な力を得られるウイルスカード。

 しかし一度でも使えばウイルスに感染して精神を蝕まれる。

 中毒性の高さから、自覚症状があっても使用をやめられない。


 そしてウイルスカードを使ったファイトに敗北すると、その敗者もウイルスに感染してしまう。

 

 ……改めて考えたら、とんでもない代物だな。


(で、今俺の目の前にいるのが……)


 〈【隷刃レイジの感染】ジェノサイド・カオス・オーガ〉P21000 ヒット4


 前の世界には存在しなかった感染モンスター。

 パワーはカーバンクル・ドラゴンを超える、驚異の21000。

 俺はすかさず召喚器を操作してテキストを確認しようとするが……


「クソっ! ノイズだらけで読めねぇ!」


 恐らくウイルスの影響か、テキストが極端に読みにくくなっていた。

 これじゃあ能力を把握できない。


「アタックフェイズ!」

「ちっ!」


 坂主さかぬしが攻撃に入った。

 仕方ない、まずは相手の動きを見極めよう。


「〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉で攻撃ィ!」


 どす黒い怪物が、巨大な腕をこちらに向けて振り上げる。

 流石にヒット4の攻撃は受けられない。

 俺は魔法カードを発動しようとしたが……


「モンスターが攻撃した事で〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉の【怒号】発動ォォォ!」

「攻撃だけでダメージ!?」


 それは流石に緩過ぎるだろ!

 どす黒い怪物の口から瘴気が放たれて、俺のライフを削っていく。


 ツルギ:ライフ7→6


「さらにィィィ! 1ターンに1度、相手がダメージを受けた事で〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉は回復するゥ!」

「そのヒットとパワーで連続攻撃とかふざけんな!」


 【怒号】がターン中1回の制限がなかったら禁止行き不可避だぞ!

 ……いや、俺のカーバンクル・ドラゴンも大概な効果か。


 それはそうとして、この攻撃は通せない!


「魔法カード〈ダイレクトウォール〉を発動! 俺の場にモンスターが存在しないなら、相手のアタックフェイズを強制終了させる!」


 透明なバリアに阻まれて、ジェノサイド・カオス・オーガは攻撃を終了した。

 これで坂主はもう攻撃できない。


「チッ、ターンエンドォ!」


 坂主:ライフ12 手札3枚

 場:〈【隷刃の感染】ジェノサイド・カオス・オーガ〉〈毒刃のスレイヴ〉〈妖艶なるスレイヴ〉


 なんとか凌いだけど、問題は何も解決していない。

 とにかく今は試せる手を打つしかない。


「俺のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」


 ツルギ:手札3枚→4枚


「メインフェイズ! まずはコレだッ〈コボルト・ウィザード〉を召喚!」


 〈コボルト・ウィザード〉P2000 ヒット1


 俺の場に獣人の魔術師が召喚される。

 そして召喚時効果で1枚ドローした。


 ツルギ:手札3枚→4枚


 ドローしたカードを確認する。

 よし、まずはこれを試すか。


「パワー3000以下のモンスター〈コボルト・ウィザード〉を進化!」


 モフモフ魔術師が魔法陣に飲み込まれていく。

 そして魔法陣が弾け飛ぶと、新たに黒く巨大な竜が召喚された。


「進化召喚! 来い〈ファブニール〉!」


 〈ファブニール〉P10000 ヒット?


 久々の登場だけど……上手く決まってくれよ。


「〈ファブニール〉の召喚時効果発動! 相手モンスター1体を破壊する。俺は〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉を破壊!」


 ファブニールが口から凄まじい炎を吐く。

 ジェノサイド・カオス・オーガは抵抗する事なく、それを食らい破壊された。

 対象には選べるみたいだな。

 これなら問題なくいける!


「自身の効果で破壊したモンスターのヒット数が〈ファブニール〉のヒット数になる」


〈ファブニール〉ヒット?→4


 強化されるファブニール。

 だが切り札が破壊されたにも関わらず、坂主は焦っていなかった。

 むしろ坂主は、ニヤついた顔でこちらを見ている。


「この瞬間〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉の効果発動!」

「やっぱり何か持ってんのかよッ!」

「場を離れる時、自分のデッキを上から6枚除外することでェェェ! 〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉は回復状態で場に残る!」


 黒く巨大な魔法陣から、再び〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉が場に現れる。

 オイオイオイ、場を離れる時って。

 耐性としては上位のやつじゃねーか! そのスペックでその耐性はダメだろ!

 というか復活コスト軽いなオイ!


(クソッ、結局破壊判定は下っても場に戻るんじゃほとんど意味がない)


 とはいえモンスターの頭数は減らしておきたい。


「……〈スナイプ・ガルーダ〉を召喚」


 〈スナイプ・ガルーダ〉P3000 ヒット1


 ひとまずこれでファブニールは【指定アタック】を得た。

 流石に〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉は倒せないけど、それ以外のモンスターならいける。


「アタックフェイズ! 〈ファブニール〉で〈妖艶なるスレイヴ〉を指定アタック!」


 黒く巨大な竜が、女奴隷に牙を向ける。

 しかし……そう単純にはいかなかった。


「モンスターで、攻撃したなァァァ?」

「なッ!? まさか」

「モンスターの攻撃によって〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉の【怒号】を発動!」


 嘘だろ、俺の攻撃にも反応するのかよ。

 慌てて召喚器を操作してテキストを確認する。

 どうやら発動した効果はノイズが消えるらしい。面倒な仕様だなオイ。

 だが確かに、【怒号】の条件には「自分の攻撃」とは書いていない。


 ジェノサイド・カオス・オーガの吐き出した瘴気を食らって、俺のライフが削れる。


 ツルギ:ライフ6→5


「テメェのダメージに反応して〈毒刃のスレイヴ〉の【怒号】も発動! 更に〈妖艶なるスレイヴ〉の効果で追加の1ダメージだァ!」

「クソッタレな連鎖め!」


 ツルギ:ライフ5→4→3

 

 合計で2点の追撃ダメージ。

 流石に食らい過ぎてしまったか。

 だけど〈ファブニール〉の攻撃自体は止まっていない。


「いけ、ファブニール!」


 黒く巨大な竜は、女奴隷を頭から食らう。

 そのまま丸呑みして、破壊してしまった。


 一応〈スナイプ・ガルーダ〉が攻撃可能だけど……今攻撃したところで返り討ちにされて終わりだ。

 ならブロッカーとして残しておこう。


「ターン……エンド」


 ツルギ:ライフ3 手札2枚

 場:〈ファブニール〉〈スナイプ・ガルーダ〉


 不味いな、流石にダメージを受け過ぎた。

 相手の手札次第ではあるものの、最悪の覚悟とかしたくないぞ。


「俺のタァァァン! スタートフェイズ! ドローフェイズゥ!」


 坂主:手札3枚→4枚


 で、始まってしまった相手ターン。

 手札4枚か、ちと最悪だな。


「メインフェイズ! 〈嘆きのスレイヴ〉を召喚!」


 〈嘆きのスレイヴ〉P3000 ヒット1

 

 坂主の場に召喚された奴隷少女。

 あれは破壊時に1ダメージを与えてくるモンスターだったはず。

 流石に2枚目の〈タイラント・オーガ〉は無いと思うけど……自壊系のカードを使う気か?


「これで! これで俺の勝ちだァァァ! 魔法カード〈搾取さくしゅのポーション〉を発動!」

「やっぱり自壊系のカードか!」

「このカードのコストとして、俺は〈嘆きのスレイヴ〉と〈毒刃のスレイヴ〉を破壊ィ!」


 2体の奴隷が苦悶しながら死滅する。

 うん、悪趣味だ。

 だがこの後魔法効果も来るから、更に悪趣味だな。


「〈搾取のポーション〉の効果! 破壊したモンスター1体につきライフを2点回復する!」


 坂主:ライフ12→16


 4点も回復した坂主。流石にライフ16点は一気に削るの難しいぞ。

 ……で、確かあのカードは追加効果があったよな。


「効果でライフを4点以上回復した事で〈搾取のポーション〉の追加効果発動ォォォ! 2点のダメージを食らえェェェ!」


 完全にイってる目だし、充血した目だし。

 そんな顔で叫ぶな、ホラーじゃねーんだぞ。

 とはいえ、流石にこのダメージは不味いな。


 ツルギ:ライフ3→1


 次は、アレのダメージが控えている。


「破壊された〈嘆きのスレイヴ〉の【怒号】を発動ォォォ! これで、終わりだァァァ!」

「終わらせねーよ! 魔法カード〈スーパーポーション〉を発動!」


 ソラも使っている回復魔法だ。

 デッキに入れておいて正解だったよ。


「コストで〈ファブニール〉を破壊して、ライフを5点回復する!」


 そして回復直後に【怒号】のダメージが俺に着弾する。


 ツルギ:ライフ1→6→5


「っ! 破壊された〈ファブニール〉は【ライフガード】の効果で回復状態で場に戻る」


 再び俺の場に現れる黒く巨大な竜。

 回復状態になった事で、ブロッカーにもなれる。

 トドメを刺し損ねたからか、坂主が分かりやすく憤怒している。

 そのまま額の血管弾けるんじゃないか?


てんかわァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 凄まじい絶叫だけど、一応アタックフェイズに入ったらしい。

 仮想モニターに表示してくれるの便利ね。


「今度こそ殺せェェェ! 〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉!」


 俺に狙いを定めて、どす黒い怪物が咆哮を上げた。

 そして巨大な腕を振り上げる。


「【怒号】発動ォォォ!」

「やっぱりそれ条件緩すぎないか?」


 ツルギ:ライフ5→4


 効果ダメージを受けてしまったという事は……


「〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉の効果発動ォォォ! 回復しろォォォ!」


 もう一度攻撃可能になる怪物。

 だからそういう連続攻撃はやめてくれ。

 考え方がブーメラン? 知るか!

 とはいえ、これを受けたら負ける。


「手札から〈コボルト・エイダー〉の効果発動!」


 俺は1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。


「〈コボルト・エイダー〉は、自分の墓地に系統:《幻想獣》が存在する場合に手札から捨てる事で効果を発動する!」

「そんなクズカードでェェェェェェェェェ!」

「効果発動! ライフを3点回復して、カードを1枚ドローする!」


 ゲーム中一度しか使えないとはいえ、優秀な防御カードだ。

 モフモフなナース獣人に注射器を刺されて、俺のライフは回復する。


 ツルギ:ライフ4→7 手札0枚→1枚


 俺はドローしたカードを確認する。


(……これなら!)


 まずは目の前の攻撃だ。


「その攻撃は〈ファブニール〉でブロック!」


 黒く巨大な竜と、どす黒い怪物がぶつかり合う。

 とはいえパワー差はありすぎる。

 必死に抵抗するファブニールだが、ジェノサイド・カオス・オーガに首を引き千切られて爆散してしまった。

 もう【ライフガード】による耐性も残っていない。

 

 それに対して〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉はまだ攻撃ができる。


「さっさと死ねやァァァ! 〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉!」


 2回目の攻撃だから【怒号】は発動しない。

 とはいえ高いパワーとヒット。

 まともに食らう必要は無い。だから〈スナイプ・ガルーダ〉でブロックする。

 ……なんて、普通なら考えるんだろうな。

 俺は思わず口元に笑みを浮かべて、それを宣言した。


「ライフで受ける!」


 怪物の剛腕が俺を襲い、ライフを大きく削り取る。


 ツルギ:ライフ7→3


「クソがよォォォ! テメェは今ここで死ななきゃダメだろうがよ!」

「悪いけど、最大限の抵抗はさせてもらうぞ」

「俺が、俺が頂点なんだぞ! その事実に逆らってんじゃねェェェェ!」

「なら反逆しよう……お前の攻撃を引き金にしてな」


 俺は1枚のカードを仮想モニターに投げ込む。


「魔法カード〈リベンジバースト!〉を発動」

「な、なんだそのカードは」

「マイナーカードさ。このカードは一度に4点以上のダメージを受けた時に発動できる魔法。その効果でカードを2枚ドローする!」


 ツルギ:手札0枚→2枚


「さらに、このターン俺が受ける全てのダメージは3点減少する」


 これで追撃の魔法カードを使われても、俺が生き残る可能性が大幅に上がった。

 それを理解したのか、坂主はさらに狂気じみた目つきになっている。


「テメェ……何考えてやがんだ……ただの駒の分際でよぉ」

「駒?」

「俺が頂点。俺が王。だったらテメェらみたいなクズは俺の所有物、駒になる事が栄誉だろうがァァァ!」


 なるほど、これが坂主の本音か。

 ウイルスに感染した影響もあるとはいえ……


「どこまでも、クソ野郎だなお前」

「あぁん!?」

「お前は教科書のお勉強よりも先に人間を学べ。今ならまだ小学生レベルからやり直せるかもしれないぞ」

「偉そうなんだよAクラスがァァァ!」

「じゃあそのAクラスの俺が、お前を2回潰してやる」

「黙れッッッ! 俺の〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉は無敵だ、テメェなんかに倒せるもんかァァァ!」


 無敵、ねぇ。

 カードゲームなんか大抵どこかに攻略法があるって知らないのかな?


「ターンエンド……次のターンで嬲り殺しにしてやる……テメェの親兄弟も覚悟しておけよ!」


 坂主:ライフ16 手札2枚

 場:〈【隷刃の感染】ジェノサイド・カオス・オーガ〉


 どこまで口が悪いのやら。これはもう親の教育が悪いな。

 とはいえ、俺もどうやってこの状況を打開しようかね。


(単純に考えれば〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉の動きを封じてライフを削るべきなんだろうけど……)


 そもそもアレのパワーが高すぎるから戦闘破壊は難しい。

 疲労状態にしてブロックをすり抜けようにも、坂主のあの性格だ。

 精神汚染されていても、疲労ブロッカーを作る魔法カードは握っていそうだな。


「俺のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ」


 ツルギ:手札2枚→3枚


 とりあえずドローしたカードを確認する。

 ……〈【紅玉獣こうぎょくじゅう】カーバンクル〉か。

 残りの手札は〈トリックシード〉と〈スペルリカバー〉。

 〈スペルリカバー〉は墓地の魔法を全てデッキの下に戻して、ライフを3点回復するか、1枚ドローするかを選べる。

 一応〈トリックシード〉と組み合わせればデッキから任意のカードを手札に加える事が可能。

 ただ問題は何を持ってくるかなんだよな。


(……あれ?)


 ふと、俺はある事に気が付いた。

 坂主のデッキ枚数が少なくなっている。

 同時に、ある可能性が俺の頭に浮かび上がった。


(もしかして……あのカードは)


 召喚器を操作して〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉のテキストを確認する)

 そして、可能性が確信に変わった。

 これなら、途中妨害をされなければ勝てるぞ!


「メインフェイズ! 頼むぞ!」


 俺は相棒のカードを仮想モニターに投げ込む。


「奇跡を起こすは紅き宝玉。一緒に戦おうぜ、俺の相棒! 〈【紅玉獣】カーバンクル〉を召喚!」

『キュプイ! キュプイ!』


 紅玉が砕けて俺の相棒が姿を現す。

 緑のロップイヤーウサギが今日は一層逞しく見えるな。


 〈【紅玉獣】カーバンクル〉P500 ヒット1


「次だ! 魔法カード〈トリックシード〉を発動! デッキから任意のカードを1枚選んで、デッキの1番上に置く」


 妨害カードは……来ない。

 俺は心の中で安堵しながら、キーカードをデッキの上に置いた。

 そして次のカード、これも通ってくれよ。


「魔法カード〈スペルリカバー〉を発動! 自分の墓地に魔法カードが3枚以上あるなら、その魔法カードを全てデッキの下に戻す事で発動可能!」

「無駄な事を」

「俺は魔法カードをデッキの下に戻して、カードを1枚……ドロォォォ!」


 気合を入れてドローしてしまった。

 だがこれで、切り札が俺の手札にやってきた。

 あとはトドメに持っていくのみ!


「行くぜぇ、相棒!」

『キュイキュイ、キュップイ!』

「進化条件は自分のライフが4以下であること!」


 初めて聞く進化条件なのだろう。坂主は僅かに首を傾げている。


「俺は系統:《幻想獣》を持つモンスター〈【紅玉獣】カーバンクル〉を進化!」

『キュゥゥゥゥゥゥップイィィィィィィ!』


 深紅の魔法陣が出現し、カーバンクルの身体が飲み込まれていく。

 そして魔法陣の中央には巨大な深紅の宝玉が浮かび上がっていた。


「勇猛なるタテガミをなびかせ、真紅の砲弾が戦乱を鎮める! 燃え上がれ、俺の相棒!」


 魔法陣が消滅し、深紅の宝玉が砕け散る。

 すると中から姿を現したのは、巨大な獅子のようなモンスター。

 勇猛を象徴するような紅蓮のタテガミと、背負った巨大なキャノン砲が特徴的な、相棒の新たな進化形態。


「砲撃せよ〈【幻紅獣げんこうじゅう】カーバンクル・ビースト〉!」

『ガオォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!』


 〈【幻紅獣】カーバンクル・ビースト〉P15000 ヒット2


 紅き獅子が、戦場で雄叫びを上げる。

 だが坂主は嘲笑をしていた。


「パワー15000? そんなカードで俺の〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉を相手しようってのか?」

「できるって言ったら、どうする?」

「なに?」

「確かにパワーとヒットは劣る……だけど〈カーバンクル・ビースト〉には専用能力があるんだよ!」


 さぁ、派手派手にお仕置きタイムだ。

 いくぜ相棒!


「〈【幻紅獣】カーバンクル・ビースト〉を疲労させて、専用能力【無限砲むげんほう】を発動!」

「【無限砲】だぁ?」

「メインフェイズ中に〈カーバンクル・ビースト〉を疲労させる事で、コイツは相手モンスターを全て破壊する!」

「なに!?」

「ぶちかませ! 〈カーバンクル・ビースト〉!」


 背中のキャノン砲にエネルギーを充てんする相棒。

 そしてターゲットロックをし、足についていた鎖が反動対策で地面に突き刺さる。


「【無限砲】発射ァァァ!」


 凄まじい光を帯びたエネルギーの噴流。

 それが〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉の全身を飲み込んで消滅させた。

 勿論、これだけで終わる効果ではない。


「【無限砲】でモンスターを破壊した場合、1体につき相手のデッキを上から3枚除外する」

「たかが3枚、くれてやるよ」


 坂主:デッキ残り23枚

 

 坂主のデッキが3枚、エネルギーの余波で消滅する。

 だが当然のように、坂主は余裕そうにしていた。


「だから無駄なんだよォォォ! デッキを上から6枚除外して〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉を復活!」


 坂主のデッキを食らい、場に戻る怪物。

 だが……俺は見逃していないぞ。

 今のコストで、坂主のデッキが残り17枚になった事。

 そして……


「全部全部全部! テメェみたいなクズのする事なんてなぁ! 全部無駄なんだよォォォ!」

「へぇ……ところでさぁ1つ質問していいか?」

「あぁん?」

「〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉って本当に無敵なのか?」

「あたりまえだ。俺が支配しているモンスターだぞ!」

「じゃあもう一つ聞くけどさ……そいつの場に残る効果って、だろ?」


 坂主は一瞬、その言葉の意味が解らなかったらしい。

 だが理解した瞬間に、顔を青ざめさせた。


 そう、〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉はデッキを上から6枚除外する事で場に残る強力な耐性を持つ。

 だがそれは強制効果であり、必ずデッキを削らないといけない。

 さらに俺がテキストを確認した限り、このカードは自分のデッキが6枚未満の場合に除去された場合、デッキのカードを全て道ずれにしてしまうのだ。

 強い力には相応の代償がつく。

 このカードも例に漏れなかったらしい……いや、普通に代償軽い気がするけどな。


「だ、だがテメェの場にはもう攻撃可能なモンスターはいねぇ! そのライオン野郎だって――」

「回復、してるぞ」


 そう、既に〈カーバンクル・ビースト〉は回復状態になっている。

 それを認識した瞬間、坂主の顔から気力が抜け落ちていた。


「な、なんで……」

「〈カーバンクル・ビースト〉の【無限砲】はな、発動後に相手の場にモンスターが残っていた場合、何度でも回復状態に戻るんだよ」

「ば、バカな!?」

「まだまだぶち込むぞ! 【無限砲】発射ァァァ!」


 カーバンクル・ビーストの放つ攻撃エネルギーの噴流が、ジェノサイド・カオス・オーガを破壊する。

 そして坂主のデッキを3枚除外する。


 坂主:デッキ残り14枚


 場を離れた事で〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉は坂主のデッキを6枚食らって復活する。


 坂主:デッキ残り8枚


「これで最後だ……〈カーバンクル・ビースト〉!」

「させるかァァァ! 魔法カード〈隷属れいぞく口枷くちかせ〉を発動ォォォ! 相手モンスター1体の効果を無効に――」


 坂主は慌てて発動した魔法カードで、カーバンクル・ビーストの効果を無効化しようとする。

 たしかにそうすれば負ける事はないな。

 無効化できればの話だけど。


『ガオォォォォォォォォォン!』


 カーバンクル・ビーストの咆哮によって、魔法カードの効果が霧散してしまう。


「な、なんで無効にならねーんだよ!?」

「〈【紅玉獣】カーバンクル〉を進化素材にした〈カーバンクル・ビースト〉は、効果が無効化されないんだよ」

「あ、あぁ……」


 後退る坂主。だが容赦はしない。

 カーバンクル・ビーストの方もエネルギーの充填は十分だ。


「ありえない……俺が……選ばれた人間の、俺が」

「まずはその驕りを捨てろよ」

「俺は……俺はァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

「ターゲットロック」


 カーバンクル・ビーストのキャノン砲が狙いを定める。

 さぁ、終わらせるぞ!


「【無限砲】フルファイアー!」

『ガオォォォォォォォォォォォォォォォォン!』


 解き放たれる最大火力のエネルギー。

 それは〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉ごと、坂主のデッキを焼いた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 坂主:デッキ残り5枚


 そして……最後の効果処理が入る。

 黒い魔法陣から手を伸ばした〈ジェノサイド・カオス・オーガ〉は、坂主に目を付けた。


「や、やめろ……俺はテメェの主人だぞォォォ!」


 そんな声もむなしく、どす黒い怪物は強制的に代償を支払わせてきた。


「やめろ……やめろォォォォォォォォォォォォォォォォ!」


 強制効果によって、坂主のデッキは全て食われてしまった。

 デッキを失った者は、ファイトを続行できない。


「ターン、エンド」


 スタートフェイズにデッキが0枚のプレイヤーは、ゲームに敗北する。


 坂主:デッキアウト

 ツルギ:WIN


 ファイト終了のブザーが鳴ると同時に、黒い靄は消え去っていた。

 ウイルスを使ったファイトで敗北したせいか、坂主はその場に倒れ込んでしまった。

 口から泡を吹いて、白目を剥いている。


「ん?」


 よく見ると、坂主の近くに例のウイルスカード『【暗黒感染】カオスプラグイン』が落ちていた。


「危ないなぁ」


 それは、本当に他意はなかった。

 ただ他の誰かが拾ってはいけないと思っての行動だった。

 俺はウイルスカードを拾って……


「とりあえず誰か呼んで、コイツ片づけてもらうか」


 無意識に、それを召喚器に入れてしまっていた。

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