第九十八話:第三の試練と暗黒感染

 ブランクカードを無事入手した俺。

 朝になると同時に、合宿も4日目に突入した。

 今回も2日目の朝と同じくホテルのロビーに集まり……なんて事はなく。

 召喚器のメッセージで集合時刻と場所を指定された。

 ……とりあえず一つだけ文句を言わせてくれ。


「朝7時にメッセージ送って、1時間後に集合とか言うんじゃねぇぇぇ!」


 第二の試練をクリアした俺達は現在、大急ぎで飯を食べていた。

 白米と納豆に、生卵とお新香、味噌汁つきだぞ。

 こんな状況じゃなければ味わってやるのによ!


「うみゅ〜、眠い〜」

「寝るならん! 寝たら落第だぞ!」

「やっぱりこの学校のスケジュールっておかしくないですか!?」


 お隣でソラも文句を言っている。

 そうだそうだもっと言ってやれ。

 ……タワー盛りの白米に関しては突っ込まないからさ。


「先に行ってるわね」

「早っ!?」

「アイドルの朝はもっと戦場なのよ」


 アイはもう準備完了して、優雅に寺を出て行った。

 流石元アイドル……俺達とは格と経験が違うな。


速水はやみ、都合よく早食いに目覚める方法とか」

「あるわけないだろ」


 世知辛いなぁ。

 ……ところで。


「……九頭竜くずりゅうさん? 何してんの?」

「納豆……ボクの天敵がいる」

「はよ食え」


 どうも九頭竜さんは好き嫌いが多いらしい。

 そんなんじゃ大きな子に育ちませんよ!

 ……今意図せずセクハラ発言を心の中で叫んだ気がする。

 錯覚だろうか? いや違うな、たくさん食べても大きくならない例もあるもんな。


「はふはふもぐもぐ」


 ソラさん、本当に君が摂取した栄養ってどこに行ってるの?


 そんなこんなで騒がしい朝食を終えた俺達は、大急ぎで集合場所へと向かった。





「おはよう諸君。まずは第二の試練クリアおめでとう」


 即席の演説台に立って、政帝せいていことまつり誠司せいじが挨拶をしている。

 うん、また登場するんだな。

 どうせ今は先生方で他の試練を見ているから、人手が足りないとかそんな理由なんだろ。

 で、それはそうとして朝から集合呼びかけたのはお前か?

 お前だったら数ヶ月後覚悟しとけよ。

 俺が藍を怒りの魔改造状態にして送り込むからな。

 綺麗な朝日なんて見れないと思え!


「さて、ここまで来た君達であれば……もう察しがついているだろう」


 はいはい、試練試練。

 と……言いたいところなんだけど。


「質問をしても良いですか?」

「どうぞ」


 速水が手を挙げて質問する。

 そうだそうだ言ってやれ!


「何故集合場所が、山の中なのですか?」


 そうなんだよ、何故か山の中なんだよ!

 いや待てこれアニメでやってたわ。

 今思い出した。

 その上で言うぞ、なんでだよ!

 オラッ政帝、答えろ!


「それはね、ここが次の試練会場の入り口だからだよ」


 そうなんだよな〜、家に帰ったら卯月と一緒に今日の事を突っ込みまくってやる。


なぎ、参加生徒はこれで全員かい?」

「はい、過不足無しです」


 黒髪ショートボブの先輩……もとい政帝の女。

 じゃなかったわ、嵐帝らんてい風祭かざまつり凪も出てきたな。

 どうせ政誠司の手伝い兼、イチャコラ旅行なんだろ!

 この不純異性交遊評議会め!

 ……まぁ今のは二次創作脳による思考なんだけどな。


「では諸君。中央に集まってくれたまえ……間違っても、取り残されたりしないように」


 意味深な表情でそう告げる政誠司。

 はいはい、皆さんおしくら饅頭状態になりましょうね。

 下手に離れるとね……マジで怪我するから。


「うぎゅ、ちょっとくるしいです」

「ほらソラ。俺のとこ来い」


 ソラが苦しそうだったので、俺が腕で少しスペースを作る。

 そこにスッポリ収まったソラ。

 うん、小さきことも良いことだ。


「……」


 それはそうとソラさん。無言で頭を押しつけないで。

 その……この前の露天風呂帰りの事思い出しちゃうから。


「よし、全員収まったね」


 あっ、政帝がなんかスイッチを取り出した。

 あの野郎、めっちゃいい笑顔で押しやがったぞ。


 政帝がスイッチを押すと、地面が「ガコンッ!」という音を立てた。

 そして強い振動と共に、地面ごと下り始めた。


「えっ!? なんですかコレ!?」

「あぁ……うん……学園のトンチキ設備だと思う」


 ちょっと混乱しているソラに、俺は虚無すら感じそうな声で答える。

 だってそう表現する他ないもん!

 あとね、この施設自体が結構なトンチキだからね。

 今更地面が下がる事くらいで驚かねーわ!


 ゴゴゴゴゴゴゴ、と音を鳴らしながら降りていく。

 二分程度で地面は下降をやめた。

 真っ暗だった周辺も、明かりが点いて視界がクリアになる。

 俺達の前には、地下通路が広がっていた。


「さぁ、僕たちについてくるんだ」


 政帝と嵐帝の誘導に従って、俺達は地下通路を進む。

 ふと視線を横に逸らすと……無機質な地下通路に目を輝かせている財前ざいぜんの姿があった。

 分かるよ、秘密基地っぽいもんな。

 いやそれよりお前……あの後ちゃんと試練クリアしたのかよ!

 普通にスゴいな。


「到着だ」


 おっと、気づけば到着らしいな。

 真っ暗な空間に出てきたわけだけど……政帝が手を挙げると、一斉に明かりが点いた。

 なんだよそのギミック……カッコいいじゃないか。


 で、到着した場所なんだけど。


「なんと言うか……メチャクチャ広い……」

「ファイトステージ、みたいですね」


 第一の試練で使用したドームなど比ではない広さ。

 もはや頭の悪さすら感じる空間に、サモンファイト用のファイトステージが並んでいた。


「まるでここに居る全員でファイトをするみたいですね」

「その通りだよ」


 ソラの呟きに、政帝が反応した。

 すると政帝こと政誠司は、風祭凪と共にゴンドラに乗って上に上がり始めた。

 いや待て、そのゴンドラってアレだろ。

 結婚式とかで使うというヤツだろ。なんでこんな場所にあるんだよ。

 生徒諸君、黙ってないで突っ込んでくれ。

 このままではトンチキに全てを染められてしまう。


「第三の試練、それは『エクスチェンジファイト』だ」


 あっ、そのまま説明するのね。

 男女でゴンドラに乗って説明とか……その、絵面がシュールじゃない?


「エクスチェンジファイト?」

「エクスチェンジは日本語で交換って意味だな」


 俺がそう答えると、隣でソラが「へぇー」と声を出した。

 まぁ高一には分からんよな。

 とりあえず説明を聞くか。


「エクスチェンジファイトとは、その名の通り順位を交換するファイトだ」


 順位の交換。

 ここは流石に皆ピンと来てないみたいだな。

 みんな首を傾げている。


「昨日第二の試練終えた直後に、君達の召喚器には順位が表示された筈だ」


 そう言われて皆、自分の召喚器を取り出す。

 俺も取り出して仮想モニターを展開すると「18/109」と表示されていた。

 うん18位だな。そして他の皆も数字の意味を察したようだ。


「ルールは簡単だ。ここに居る109人でファイトをしてもらい、5位以内に入った状態から更に5回勝利すればクリアだ」

「ただしこの試練では、自分より順位の高い生徒に勝利した場合、相手と順位が入れ替わります」


 風祭凪の言葉で察しのいい奴はおおよその内容を理解しただろう。

 要するにこういう試練だ。

 ・ここに居る109人でファイトをする。当然挑まれたら拒否はできない。

 ・自分より順位が高い相手に勝てば、その相手と順位を入れ替わってしまう。

 ・そして5位以内に入った状態で5回勝てばクリア


 ちなみに誰かがクリアした場合、その都度順位は繰り上がるらしい。


「この試練での成績。すなわちクリアした順番は、そのまま二学期のランキング戦における暫定順位となります」


 おっと嵐帝さん、それ言われると俺ら燃え上がっちゃうよ。

 ランキング戦は六帝への挑戦の近道だからな。

 やっぱり最強は目指したいじゃん。

 ほら、少し離れたところで藍がメチャクチャ燃え上がっている。

 まぁ……今回は九頭竜さんいるしな。

 今回は全員がライバルだ、余計に気合いも入るってもんだよ。


「では、試練を始めようか」


 政帝の合図によって、第三の試練が始まった。

 俺達は散り散りになって、ファイトステージに移動する。

 さぁて、俺も……派手に頑張りますか!





「〈カーバンクル・ドラゴン〉の【無限槍むげんそう】発動! 終わりだァ!」

「ぐあァァァァァァァァァァ!」


 モブ男子生徒:ライフ3→0

 ツルギ:WIN(順位18位→3位)


「〈グングニル〉の武装時効果で回復! 〈ファブニール〉で攻撃!」

「キャァァァァァァ!」


 モブ女子生徒:ライフ4→0

 ツルギ:WIN(1勝目)


「〈カーバンクル〉を100回破壊! 〈アサルト・ユニコーン〉をヒット100にして【貫通】攻撃!」

「防げるかァァァァァァ!」


 モブ男子生徒:ライフ10→0

 ツルギ:WIN(2勝目)


「魔法カード〈召喚爆撃!〉を発動! 君が負けるまで、俺は〈カーバンクル〉を破壊し続ける!」

「やめてぇぇぇ! 酷いことしないでぇぇぇ!」


 モブ女子生徒:ライフ10→0

 ツルギ:WIN(女子からの人気を犠牲に3勝目)


「…………」

「…………その、なんだ……誰にだって、手札事故を起こす事はあるさ」


 財前:手札事故により普通に敗北。

 ツルギ:WIN(4勝目)





 で。

 順調過ぎるほどに俺は試練を勝ち進んできたわけだが。

 いや本当順調だったな。

 主にゼラニウムメンバーや、藍と九頭竜さんに当たらなかったからかな?

 まぁこのままいけば、あと1勝してクリアだ。

 一つ問題があるとすれば……挑戦者が現れないなぁ。

 うーん仕方ない、こちらから狩りにいくか。


「天、川ァァァ」

「……お前もここに居たんだな」


 秒速で忘れたかったのに、また出たよ。

 ドレッドヘアが特徴的なSクラスのクソ野郎。

 確か坂主さかぬしだったか?


「ターゲットロック……」


 おっと、向こうから挑んできたよ。

 まぁ良いさ、どうせ後一人倒す必要があったんだ。


「リベンジか? だったら軽く終わらせてやるぞ」

「ツブす……俺が……絶対だと……証明してヤル」


 なんだか様子がおかしいな。

 危ないクスリでもキメたか?

 お巡りさん呼ぼうか?


「……いや、まさかな」


 今ほんの一瞬だったけど、坂主の目が赤く染まった気がした。

 そんな筈はない……アレは合宿終わりからの登場予定だ。

 とにかく今はファイトを始めよう。

 どうせこのクソ野郎の事だ、自分が勝ったら碌でもない要求をするつもりなんだろう。

 俺は一度深めに呼吸をしてから、初期手札を引いた。


「「サモンファイト! レディーゴー!」」


 うん、ファイトは普通に始まったな。

 そして先攻は俺だ。


「俺のターン! スタートフェイズ!」


 手札を確認する。

 坂主は効果ダメージを駆使してくるデッキだった。

 本当は効果ダメージメタを使いたいところだけど、残念ながら今は坂主の【怒号】を封殺できるシステムモンスターがいない。


「メインフェイズ。俺は魔法カード〈ザ・ファンタジーゲート〉を発動」


 となれば、まずは手堅く防御だ。

 俺は〈ザ・ファンタジーゲート〉の効果でデッキから系統:《幻想獣》を持つモンスターを1枚選んで相手に見せる。


「〈ドッペルスライム〉を公開して、手札に加える」


 やっぱりこういうサーチカードは入れ得よね。

 そして手札に加えたコイツはそのまま召喚。


「俺はそのまま〈ドッペルスライム〉召喚!」

『ドッペル!』


 〈ドッペルスライム〉P4000 ヒット1


 俺の場に黒色スライムが召喚される。

 まずはこいつで守備を固めるんだ。

 あとの行動は、相手の動き次第という事で。


「俺はこれでターンエンド」


 ツルギ:ライフ10 手札4枚

 場:〈ドッペルスライム〉


「オレ、俺の、タァァァァァァン!」


 坂主が叫ぶようにターン開始する。

 やっぱり何かおかしい。

 いくらなんでも様子が変わり過ぎている。

 この前ファイトしたアイツは、ここまで露骨なおかしさは無かったぞ。


「スタートフェイズ! ドローフェイズ!」


 坂主:手札5枚→6枚


「メインフェイズ! 俺は〈妖艶ようえんなるスレイヴ〉と〈毒刃どくじんのスレイヴ〉を召喚ッ!」


 色気全開の奴隷女性、そしてダガーを手にした包帯だらけの奴隷少年。

 前回も召喚された2体モンスターが姿を現した。


 〈妖艶なるスレイヴ〉P4000 ヒット1

 〈毒刃のスレイヴ〉P4000 ヒット1


 一見すれば前回と何も変わらない動き。

 やっぱり俺の思い過ごしだったか?

 流石に今アレが出てくるなんてないよな。


「さらに俺はァ! 〈没落のスレイヴ〉を召喚ッ!」


 坂主の場に、いかにも元はお嬢様でしたといった感じの奴隷が召喚される。

 うん、だからデザインが悪趣味なんだよ。


 〈没落のスレイヴ〉P6000 ヒット0


 パワーは高めだけど、ヒットは無い。

 ブロッカー向けであると同時に、破壊時効果も持っているカードだな。

 便利カードだけど、コレだけでは驚異じゃないな。


「オ、俺は場の〈没落のスレイヴ〉をコストで破壊ッ!」


 いきなり切り札を出すのか。

 早出しはいいけど、手札消費すごい事になってるぞ。


「〈【怒号鬼どごうき】タイラント・オーガ〉を召喚!」


 奴隷少女を握り潰して、またあの赤鬼が召喚される。

 だから演出が悪趣味なんだよクソ野郎。


 〈【怒号鬼】タイラント・オーガ〉P13000 ヒット3


 おっと、コレだけじゃ終わらないよな。


「破壊されタ〈没落スレイヴ〉の効果発動! ライフを2点回復して、カードを1枚ドローするゥ!」


 坂主:ライフ10→12 手札2枚→3枚


 うん、動きとしては良い感じだな。

 対処方法が簡単に思いつくけど。

 そもそも手札の数は防御札を想像させる数なんだぞ。

 激し過ぎる手札消費は、トドメのターン以外では極力避けたいもんだ。


「ヒヒヒ、魔法カード〈懲罰の鞭〉を発動!」


 あっ、ちょっと嫌なカードだ。


「俺の場に系統:《隷刃レイジ》を持つモンスターが2体以上あるなら、相手に1点のダメージ! さらに俺は1枚ドロー!」


 どこからか鞭が飛んできて、俺のライフを削っていく。

 効果ダメージとドローの合わせ技は、相手にすると面倒だな。


 ツルギ:ライフ10→9

 坂主:手札2枚→3枚


「ヒッ、ヒヒヒ……あぁ、そうだ、コレなら」


 ドローしたカードを確認するや、坂主が気味の悪い喜び方をしている。

 切り札をドローしたのか?

 でも隷刃の切り札なんか、他に無いだろうに。


「相手にダメージを与えたことで〈毒刃のスレイヴ〉の【怒号】を発動!」


 おっと、そうだった。

 連鎖してダメージを与えてくるんだった。

 毒の刃が投擲されて、俺の身体に刺さる。


 ツルギ:ライフ9→8


「相手がダメージを受けたことで〈タイラント・オーガ〉の効果発動! テメェの〈ドッペルスライム〉を破壊だァァァ!」


 タイラント・オーガは、相手が効果ダメージ受けるたびに、相手のモンスターを破壊する。

 巨大な赤鬼の拳を食らって、ドッペルスライムは簡単に爆散してしまった。

 とはいえ、簡単には破壊されないからな。


「破壊された〈ドッペルスライム〉の効果発動! ゲーム中1度だけ、このカードは復活できる!」


 再び俺の場に、黒色のスライムが姿を現す。

 これで防御が完了すれば良かったんだけどなぁ。


「続けて〈妖艶なるスレイヴ〉の効果発動ォ! 相手が【怒号】でダメージ受けたなら、追加ダメージだァ!」


 前回もこんな追撃食らったよな俺。


 ツルギ:ライフ8→7


「そしてもう一度〈タイラント・オーガ〉の効果発動ォォォ! テメェの〈ドッペルスライム〉をもう一度破壊だァァァ!」

「げっ、そういえばターン1制限ないんだった」


 コレがあるからカードゲームは怖いんだ。

 再び赤鬼の拳で潰されてしまったドッペルスライム。

 もう復活効果は使えない。

 防御札を持っているとはいえ、流石にちょっと面倒だな。


「ク、ククククククククク……クハハハハハハハハハハ!」


 坂主が突然笑い声を上げ始めた。

 やっぱりこいつ違法な何かやってないか?


「天川ァツルギィ! テメェだけは、どんな手を使ってでも、潰してヤルからなァァァァァァァァァ!」


 そう叫びを上げる坂主の目は、赤く染まっていた。

 今度は絶対に見間違いじゃない。

 俺は慌ててファイトステージの周りを見る。


「……ウッソだろ」


 薄っすらとだが、黒い霧のようなものが発生している。

 黒い霧と、目が赤く染まったプレイヤー。

 間違いない、坂主はあのカードを……ウイルスカードを持っている。


「コレが俺のォォォ! 新しい力だァァァ!」


 そう叫ぶと、坂主は仮想モニターにそのカードを投げ込んだ。


「魔法カード〈【暗黒感染あんこくかんせん】カオスプラグイン〉を発動!」

「使うな馬鹿野郎! 今すぐファイトを中断させて――」


 俺がそう言い切る前に、坂主の身体に異変が発生していた。

 身体のあちこちから血管が浮かび上がり、坂主本人は恍惚とした表情すら浮かべている。

 アレは……もう手遅れだ。


「このカードは、自分の場のモンスターを1体除外して、ゲーム外部から対応する系統:《感染》を持つモンスターを召喚する!」

「あぁ……知っているよ」


 散々アニメで見たからな。

 だがあのカードの最も厄介な点は「絶対に発動と効果が無効化されない」という点だ。

 あとゲーム外部から召喚とか言ってるけど、俺の記憶が正しければ対象カードをマジで書き換えてた気がするんだが。


 ……いや待て、隷刃のモンスターに対応カードは無かったはず。


「俺は〈タイラント・オーガ〉を除外!」


 まさか、本当に対応モンスターに書き換える気か!?


 真っ黒な魔法陣が現れ、タイラント・オーガに邪悪なエネルギーを感染させていく。

 あの悪どそうな赤鬼が、聞くに耐えない苦悶の声を上げている。


「闇に染まりて今こそ目覚めよ! 汝が使命は世界の終焉なり!」


 邪悪なエネルギーに全身を飲み込まれて、タイラント・オーガは新たな姿へと作り変えられていった。


「カオスライズ! 現れろ〈【隷刃の感染】ジェノサイド・カオス・オーガ〉!」


 どす黒いエネルギーを破り、新たなモンスターが姿を現す。

 赤鬼の原型はどこへやら。

 邪悪さを体現するような黒い身体に、鋭利な棘や角が生えた怪物が召喚されてしまった。


 〈【隷刃の感染】ジェノサイド・カオス・オーガ〉P21000 ヒット4


「パワー……21000……!?」


 想像以上の高いステータスには驚いた。

 だがそれ以上に驚いた事がある。

 今坂主が出したカードが……前の世界には存在しなかったカードだ!

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