第九十五話:二つに一つ、試練獣!

 さて、鬼ヶ崎おにがさき和尚とのファイトが始まったのはいいんだけど。

 やっぱり逆じゃない?

 主人公は藍よ? ファイトロイドと戦うのは俺じゃない?


「先攻はワシじゃ! スタートフェェェェェェェェェェズ!」


 当の和尚は全く気にしてないな。

 あと一々うるさく叫ばないでくれ。


「メインフェイズッ! ワシは〈シレンの玄武げんぶ〉を召喚ッ!」


 〈シレンの玄武〉P7000 ヒット1


 和尚の場に巨大な亀のモンスターが召喚される。

 やっぱりアニメで使用したデッキと同じか。

 系統:《試練獣しれんじゅう》のデッキ。ただし第一の試練でファイトロイドが使ったものとは違う。

 こっちは前の世界でも通常のカードとして登場した、ちゃんとしたデッキだ。

 時期的に今の試練獣なら……普通に勝てそうだな。


「続けてワシは、ライフを1点支払い〈シレンの朱雀すざく〉を召喚ッ!」


 和尚:ライフ10→9


 〈シレンの朱雀〉P5000 ヒット2


 次に召喚されたのは、紅い翼を広げた不死鳥のモンスター。

 四神がモチーフなんだよな。

 とはいえ、ちょっとヤなのが召喚されたな。


「ワシの場に〈シレンの朱雀〉が存在する限り、系統:《試練獣》を持つワシのモンスターは全てパワー+2000となァァァァァァァァァるッ!」


 〈シレンの玄武〉P7000→P9000

 〈シレンの朱雀〉P5000→P7000


 だから一々叫ばんでくれ。ご近所迷惑だぞ。

 アニメの時も思ったけど、なんでこの和尚が叫んでるのに、寺で寝てる奴らは一人も起きてこないんだ?


「ワシはこれでターンエンドじゃ!」


 和尚:ライフ9 手札3枚

 場:〈シレンの玄武〉〈シレンの朱雀〉


 まずは手堅くブロッカーを並べて様子見か。

 アニメでもそんな感じで動いてたなこの人。

 ……カードの能力的には、そんなに堅実さは無いんだけど。


「俺のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ!」


 ツルギ:手札5枚→6枚


 とりあえずは自分のターンを始めますか。

 俺はドローしたカードを確認する。

 うん、様子見には悪くないな。


「メインフェイズ。俺は〈コボルト・ウィザード〉を召喚!」


 久々の登場。俺の場にモフモフな獣人の魔術師が現れた。


 〈コボルト・ウィザード〉P2000 ヒット1


「召喚時効果で、俺はカードを1枚ドローする」


 ツルギ:手札5枚→6枚


「続けて〈コボルト・エクスプローラー〉を召喚!」


 こちらは初登場。

 俺の場にモフモフ獣人の探検家が召喚された。


 〈コボルト・エクスプローラー〉P5000 ヒット1


「〈コボルト・エクスプローラー〉の召喚時効果発動! 自分のデッキから『コボルト』と名の付くカードを1枚選んで、墓地に送る」


 俺はデッキを確認して、〈コボルト・ライブラリアン〉を墓地に送った。


「次はコイツだ! 〈コボルト・ウォリアー〉を召喚!」


 これまた久しぶりの登場。

 モフモフ獣人な剣士の登場だ。


 〈コボルト・ウォリアー〉P3000 ヒット2


 さーて、お次は少しギャンブルをしてみますか。


「俺はライフを2点支払って、墓地の〈コボルト・ライブラリアン〉の効果を発動!」

「ほう、墓地から発動するモンスター効果か」

「ライブラリアンを除外して、俺はデッキを上から3枚墓地に送る!」


 そしてその中に魔法カードがあれば発動できるって効果だ。

 前のように仕込みをしていないから、今回は完全にギャンブルだけどな。

 俺はデッキの上からカードを3枚掴んで、墓地に送る。


 墓地に送られたカード:〈コボルト・ガードナー〉〈トリオ・スライム〉〈コボルトの団結〉


「よっしゃラッキー! 墓地に送られた〈コボルトの団結〉を発動!」


 これは最高の落ちだぞ。いつもこれくらい最高の落ちだったらいいのになー!

 と、八つ当たりは我慢して効果処理だ。


「このカードは、自分の場に『コボルト』と名の付くモンスターが3体存在するなら発動できる魔法カード!」

「中々の強運だな、小僧」

「自分でもそう思うよ。〈コボルトの団結〉の効果! 俺の場のコボルトは全てパワー+4000、ヒット+1になる!」


 〈コボルト・ウィザード〉P2000→P6000 ヒット1→2

 〈コボルト・エクスプローラー〉P5000→P9000 ヒット1→2

 〈コボルト・ウォリアー〉P3000→P7000 ヒット2→3


 うーん、前の世界ぶりに発動したけど、相変わらず豪快な強化だな。

 これ『コボルト』縛りが無かったら確実に禁止送りだな。発動条件はあってもコストはないし。


 さーて、いきなり派手にいきますか!


「アタックフェイズ! 〈コボルト・ウォリアー〉で攻撃!」


 普通ならパワーの高い順から攻撃するのがセオリーだ。

 その場合ライブラリアンからなんだが、〈コボルト・ウォリアー〉には効果がある。


「〈コボルト・ウォリアー〉の攻撃時効果発動! 俺の墓地に存在する系統:《幻想獣》を持つモンスター1枚につきパワーを+1000する!」


 今俺の墓地には2枚の幻想獣がいる。よってパワー+2000だ。


 〈コボルト・ウォリアー〉P7000→P9000


 これなら〈シレンの玄武〉にブロックされても相打ちにできる。

 あとは派手に追撃だ!


「いっけー!」

「魔法カード〈瀑布ばくふの試練〉を発動ォ!」


 げっ! 和尚が発動したあのカードは……


「このカードは二つの効果から一つを相手に選ばせて発動する魔法カードじゃ!」

「うげぇ……試練獣の本領発揮かよ」

「ほう、その様子では試練獣の特性を知っているようじゃな」


 あぁ知ってるよ。前の世界では何度か大会で相手したからな。

 系統:《試練獣》の最大の特徴。

 それは相手に選択を迫る効果の数々だ。

 大抵のカードがどちらを選んでも厄介だからな。最小限の被害で済む方を的確に判断しなければならない。

 使うのはいいけど、使われると面倒なデッキだ。


「さぁ、二つに一つ! 選ぶがいいッ!」


 俺の前には二つの効果が表示された、仮想モニターが出現した。

 

 ①アタックフェイズを終了させる。

 ②相手は攻撃中のモンスターをデッキに戻す。

 

 さぁて……どっちも厄介なんだけど。今一番被害を少なくできる選択肢は……


「……①の効果を選択」

「ではアタックフェイズは強制終了じゃな」


 魔法カードによる強化が無駄になってしまったけど、これでいい。

 ②の効果でモンスターをデッキに戻されると盤面の頭数が減ってしまう。

 そして和尚の手札は残り2枚。②を選んだ後に追撃しても良いんだけど……カウンターを警戒するなら、ここで攻撃を終えた方が良さそうだな。


「ターンエンド」


 ツルギ:ライフ8 手札3枚

 場:〈コボルト・ウィザード〉 〈コボルト・エクスプローラー〉〈コボルト・ウォリアー〉


 コボルト達の強化も解除されてしまう。

 だが今はこれでいい。

 流石はアニメでも上位の強さだった和尚だ。一筋縄ではいかない相手だな。

 でも、その方が楽しくなってくる。


「ワシのターンじゃ! スタートフェイズ……ドロォォォォォォォォォォォォォォォォフェェェェェェェェェェイズッッッ!」


 だからうるさいんだよ! もう少し静かにやってくれ。

 アンタはどこぞの風紀委員の総番か!?


 和尚:手札2枚→3枚


「メインフェェェェェイズ! ワシは魔法カード〈岩戸いわどの試練〉を発動!」


 あれは場に試練獣が2体以上あれば2枚ドローできる魔法カードだな。

 和尚の場には2体の試練獣が無傷で残っている。発動条件はクリアしているな。


 和尚:手札2枚→4枚


 ドローしたカードを確認した和尚が笑みを浮かべた。

 なにか良いカードを引いたなこれは。


「ワシはライフを2点支払い〈シレンの青龍せいりゅう〉を召喚ッ!」


 和尚:ライフ9→7


 〈シレンの青龍〉P8000 ヒット2


 ライフを犠牲に、和尚の場に青色鱗を持つ龍が召喚された。

 ちとステータスが高めだな。面倒だ。


「続けて魔法カード〈牙の試練〉を発動ォォォ!」

「ゲッ、そんなカードまで」

「このカードはワシの場に試練獣が存在する場合に発動可能となる! 効果でヒット2以下のモンスター〈コボルト・エクスプローラー〉を破壊じゃァァァ!」


 何処からか飛来してきた牙に、モフモフの探検家が身体を貫かれる。

 破壊されてしまう〈コボルト・エクスプローラー〉だけど……問題はこの後だな。

 たしか〈シレンの青龍〉の効果は……


「相手モンスターが破壊されたことで〈シレンの青龍〉の効果発動ォォォ! 貴様に1点のダメージじゃァァァァァァァァァ!」


 だからうるせぇ。

 そして効果を発動した青龍が、こちらにエネルギーを溜めた口を向けてきた。

 俺は青龍が放ったエネルギー弾を食らってしまう。


 ツルギ:ライフ8→7


「アタックフェェェイズ! ワシは〈シレンの朱雀〉で攻撃ィィィ!」


 不味いな、攻撃宣言に入ったということは、試練獣の専用能力が発動する。


「攻撃したこの瞬間! 〈シレンの朱雀〉の【試練】を発動!」


 試練獣の専用能力【試練】。

 攻撃時に二者択一の効果を迫って来る能力だ。

 もちろん先ほどの魔法のように、選ぶのは俺だ。


 また俺の前に二つの仮想モニターが出現する。

 

 ①相手は2点のダメージを受ける。

 ②自分はライフを2点回復する。


 これは比較的判断を下しやすい能力だな。

 今2点も余計なダメージを受ける理由は無いし、2点分のライフなら削るのに苦労はしない。


「②の効果だ!」

「ならワシは2点のライフを回復じゃ!」


 和尚:ライフ7→9


 ただなぁ、これで回復が終わらないんだよなぁ。


「ワシのモンスターが【試練】を発動したことで〈シレンの玄武〉の効果を発動! 更にライフを1点回復じゃァァァ!」


 和尚:ライフ9→10


 あっという間に初期ライフに戻ったよこの人。

 ソラの聖天使程じゃないけど、めんどくせぇ!

 さて、まだ〈シレンの朱雀〉の攻撃が終わってないんだよな。

 ここで変にライフ差をつけられたくないので、このカードを使います。


「魔法カード〈トリックミラージュ〉を発動!」


 俺は仮想モニターに魔法カードを投げ込む。

 そして発動コストで〈コボルト・ウィザード〉を破壊した。

 このカードも久しぶりに使ったな。


「〈トリックミラージュ〉の効果でこのターン俺が受けるダメージは全て相手が代わりに受ける」

「ほう」

「そして俺のモンスターが破壊されたから〈シレンの青龍〉が効果を発動する」

「そうじゃな。1点のダメージを与えたいところじゃが」

「青龍のそれは強制効果。そのダメージは和尚が受ける」


 青龍が再びエネルギー弾を俺に撃ち込もうとする。

 しかし俺の前に出現した巨大な鏡によって、それは跳ね返されてしまった。

 エネルギー弾は和尚に着弾する。


 和尚:ライフ10→9


「そして朱雀の攻撃はライフで受ける」


 ブロックはしない。

 本来なら2点のダメージを俺が受けるが、今は〈トリックミラージュ〉の効果適用中。

 朱雀の突進は鏡で跳ね返され、その身体は後方の和尚に激突した。


 和尚:ライフ9→7


「これで回復分は帳消しです」

「ククク……クハハハハハハハハハハハハ! 面白い、面白いぞ小僧!」


 嬉々とした様子でそう言ってくる和尚。

 そうなんだよな、面白いんだよなサモンって。

 なにより強い相手と戦うのは楽しいんだよ。


「どうやらワシの見込みは間違ってなさそうじゃな!」

「だったら光栄ですよ」

「だが貴様はそれ以上に、この戦いを楽しんでおるな?」

「当然」

「余裕。己の強さを理解しておるな……じゃが反面、その強さの先を何も見ていない」


 おっと、これは痛い言葉を言われてしまったな。

 いやまぁ、この世界基準だとそうなるんだろうな。

 強さの果てなんて、到達した時に考えればいいと思うし。


「天川ツルギ。これは老人からの忠告じゃ」

「ん?」

「強さの果てを想像しろ。それを怠れば、いずれ道を外すことになるぞ」


 道を外すか……それは避けたいけど、強さの果てとかよくわからねぇ。


「まぁ、今の貴様に言っても理解はできんじゃろうな。だがこの言葉を忘れるでないぞ」

「まぁ、善処しておきます」

「そうしておけ……さて、このターンはもう攻撃しても無駄じゃな。ターンエンド!」


 和尚:ライフ7 手札2枚

 場:〈シレンの玄武〉〈シレンの朱雀〉〈シレンの青龍〉


 和尚のターンが終わったので、次は俺のターン。

 それはそうとして……強さの果てかぁ。


(サモンで勝ち続ける事は容易だ。だけど、勝ち続けた先……何があるんだろうな)


 ちゃんと考えた事もなかったし、想像もつかない。

 心に不安のようなものが芽生えるけど、今は目の前のファイトに集中だ。


(とりあえずは、できる事をやっておく!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る