第九十四話:番外試練! 頑張れ……俺?

 財前ざいぜんから総取りしちゃったポイントでホテルランチを楽しんだ俺達。

 俺と速水はやみは先程のファイトの影響か、無意識にスマホでロボット玩具の通販を眺めていた。

 ……女子達からは呆れた目で見られていた気がする。


「あっ、コレかっこいい! このドリルいっぱいのグラサンロボット!」


 らん、お前は男子達の希望の柱になれ。

 

 そんなこんなで時間が経過していったわけだが。

 結局あの後俺達に挑んでくる生徒は誰もおらず。

 気がつけばホテルのロビーにはポイントを貯め終えた生徒が集まり始めていた。

 時計を見れば午後4時50分、もう試練終了直前だ。


 で、試練終了。お疲れ様でしたー。

 ホテルの出入り口の向こうからは、クリアできなかったであろう生徒の嘆きの声が聞こえる。

 まぁ成績に直結するもんね。あと合宿で心折れて退学する奴が出るとか聞くけど、安易な退学はダメよ。


 それはともかくとして、召喚器に浮かび上がる仮想モニターには第二の試練クリアのメッセージが表示されていた。

 ポイントが全て吸い取られて、代わりに俺の召喚器には18/109という数字が表示されている。


「なんでしょう、この数字?」


 隣でソラが首を傾げている。

 彼女の召喚器には21/109と表示されていた。

 あぁ……そういう事ね、想像以上に落ちたんだな。

 アニメ知識のおかげで数字の意味は分かるけど、コレは今言うのは無粋だろう。

 なので詳細だけは黙っておきます。


「このタイミングで表示されたんだ。どうせ次の試練に関係する数字だろ」

「そうかもですね〜」


 まぁ無難なところだけ言及しておこう。

 別に嘘は言ってないし。

 ちなみにコレは第二の試練をクリアした生徒の数と、その中での暫定順位である。

 つまり俺は109人中の18位だ。最後の方は受け身戦法取ってたから、まぁ妥当な順位だよな。

 ……109人しか生き残ってないんだな。

 3クラス分も生き残ってねぇんですが。

 アニメでも思ったけど、この学校厳しすぎんか?


「そういえば、今回は誰も現れないんだな」


 俺はふと疑問を抱いたので口にする。

 政帝せいていは開始でのみの登場だったみたいだな。


「言われてみればそうですね。先生も出てきてないです」

「まぁ先生はクリアできなかった奴らを見てるんだと思うけど……政帝さんは〆の挨拶とかしてくれないんだな」


 意味深に登場したんだから、責任もって〆もやれよ。

 まぁどうせ裏ラスボスのお仕事でもしてるんだろうけどな!

 とはいえ、政帝が動き出すのは合宿終わりからだし、今はのんびりとしますか。

 ……いや、和尚から強化アイテムもらうイベント(予定)があったわ。

 それだけ頑張りますか。


 つーか先生方よ、第二の試練が終わったら「各自寄り道せずに宿へ戻るように」ってメッセージを表示するだけなのはどうなんだよ!

 仕事が雑にも程があるわ!


「はぁ……寺に戻って飯食うか」


 そして俺達、第二の試練をクリアした生徒達は各自宿に戻るのであった。





 で、召臨寺に戻ってきたのだけど。

 夕食は初日と変わらずめざし定食。

 いや問題はそこじゃない。


「あら、案外美味しいわね」

「魚は脳に良いからな。ファイターにとって理想的な食事だ」


 アイと速水は今日も寺にいた。

 いやお前ら洋室組だっただろ。


「こっちの方が楽しそうだったから、ポイントで宿を予約しておいたのよ」


 箸で挟んだ沢庵片手にそう言うアイ。

 い、いつの間にそんな事してたんだ。

 という事は速水も同じパターンか。

 で……もう一人。


「……さ、さかな」


 九頭竜くずりゅうさん、魚苦手なんだな。

 めざしとバチバチに睨み合っている。

 その隣で藍はご飯をもりもり食べているな。


真波まなみちゃん、好き嫌いはダメだよ」

「うぅ……でも、お魚」

「メッ」


 九頭竜さん、敗北。

 藍に見守られ、涙目になりながら頑張ってめざしを食べていた。

 えらいぞ〜。


「おかわりお願いします!」


 ソラ、お前本当に食べた栄養どこに消えてるんだよ。





 そして夜が来る。

 皆が寝静まった深夜、小さな足音が廊下から聞こえてくる。

 うん、今夜も時が来たようだ。

 むしろ今夜こそが本命かもしれないな。

 俺は足音を消すように努力して、大部屋を後にした。


 そして寺を出て、森に入る。

 夜空を見上げると……うん、また出ているな麒麟型モンスター。

 いや、化神けしん……ロードキリンと言った方が良いのかな?

 うん、やっぱり今夜はアニメでもあった重要イベントの日らしい。


 それがズバリ、藍と鬼ヶ崎おにがさき和尚のファイトである。

 このファイトで藍は和尚に勝利して、パワーアップをするのだ。

 やっぱりね、アニメのファンとしては生で見たいじゃん。

 俺今ウキウキが天元突破よ。

 頑張ってニヤケないようにしないとな。


「で、藍は今夜もここに来ていると」

「あっ、ツルギくん!」


 俺はたまたまを装う男だ。


「ブイドラも深夜によく起きれるな」

「オイラはあんまり寝なくても大丈夫なんだブイ!」

「そうだったのか。夜とか暇じゃね?」

「ダイジョウブイ! 藍のゲームで遊んでるブイ!」


 なら安心だな。

 さて、藍も上にいるアイツに気づいたようだな。


「ねぇ、ツルギくん」

「昨日から俺らを見張ってるな、あの化神っぽいやつ」

「えっ!? 昨日もいたなら教えてよ!」

「忘れてた」


 いや本当に、ファイトに夢中で忘れてたんだよ。


「で……アレの主人は貴方ですか、鬼ヶ崎和尚?」


 俺は後ろでこちらを観察していた和尚に声をかけた。

 だって不自然に後方から音聞こえまくってたんだもん。

 上のロードキリンも合わさればバレバレよ。


「ほう? ワシとロードキリンに気づくとは、面白い小童じゃな」

「ただの勘ですよ」


 そう言った方がカッコいい気がした。

 ちなみに藍は全く気づいていなかったようで、随分と驚いているな。


「ツルギくんって……忍者?」

「違う」


 誰が忍者だ。そんなトンデモ背景は持っていない。

 ただの擬似未来視だ。チートらしいチートですよ!


「で、和尚はなんで無言で見てたんですか? 大人として連れ戻しに来たようには見えないんですが」

「ガハハ。そこまで察したか、ますます面白いわい」

「だって連れ戻すなら昨日の段階でやってますもんね」


 故に別の目的があるのは明白。

 そしてここにサモン脳を添えれば、答えが簡単に……見えちゃうんだよなぁ。


「俺達の何を値踏みしてたんですか?」

「値踏み?」


 藍が首を傾げて疑問符浮かべる。


「多分和尚は俺達の何かを見たかったんだと思う。そのために意図的に泳がされた」

「な、なんか大人の頭脳バトルっぽい」

「絶対違うからな」


 こんなショボい大人の頭脳バトルがあってたまるか。

 だが俺の言葉は和尚に届いたようだ。


「ガハハハハハハ! 良いぞ小僧! 今一度名前を聞かせろ」

天川てんかわツルギ。こっちは武井ぶい藍」

「ふむ。お前たちの値踏みをした事は認めよう」


 不敵な笑みを浮かべる和尚。

 やはり、アレが来るんだろうな。


「じゃが、お前達の真価はまだ見えておらん。お前達が力を手に入れるだけの心を持つか否か」

「力……ってなに?」

「コレじゃよ」


 理解できていなかった藍に、和尚は3枚のカードを手に取って見せた。

 俺はそれが見えた瞬間、固唾を飲んで、背筋に電流走るような感覚を味わった。

 和尚が手にしたカードはただのカードではない。

 3枚のカード、その全てが白紙なのだ。


「それ……白紙のカード?」


 藍も初めて見るカードに驚いている。

 だがアレはただの白紙ではないんだ。


「これの名はブランクカード。無限の希望であり、世界を破壊する邪悪でもある」

「……どういうこと?」

「ブランクカードはただの白紙にあらず。ファイターの魂に感応し、所有者が最も必要とする姿に変化する奇跡のカードじゃ」


 ここまで聞いて、藍もその価値を理解したようだ。

 どんな姿にもなる可能性を持つカード。

 それはつまり、この世界においては文字通り反則級の代物だ。

 アニメではこの後、藍は和尚とファイトをする。

 そして和尚に勝利して、3枚のブランクカードを入手するのだ。

 もちろんブランクカードは物語の要所で覚醒するぞ。


「小童達よ! このブランクカードを賭けて、ワシらとファイトをしろ!」

「えぇぇぇ!? そ、そんなスゴいカードを賭けるの!?」

「ワシが負ければ、ブランクカードはお前達のものだ。無論、ワシも手加減はせんがな」


 そう言うと和尚は召喚器を取り出した。


「コレは番外試練。お前達が力を得るに相応しいファイターなのか、その実力で示してみせよ!」


 やっぱり、深夜の番外試練の流れだったか。

 この後和尚は藍とファイトをするから……俺は後でいいか。

 そんな事を考えていると、森の奥から何か巨大な機械が現れた。


「…………え?」


 俺は思わずそんな声が漏れてしまう。

 なんでコレがここにあるんだ?

 藍も口をあんぐりと開けている。


「ねぇツルギくん、あれって……」

「あぁ、第一の試練で出てきたファイトロイドだな」


 あれ? アニメにこんな展開なかったぞ。

 和尚は俺達をスルーして、ファイトロイドにデッキをセット。

 そして3枚のカードをファイトロイドの中にしまい込んだ。


『ピピピ……ターゲットロック』


 ファイトロイドから無線電波が飛び……藍の召喚器に接続された。

 ……あれ?


「小娘、お前はこのファイトロイドに勝ってみせろ。勝てば中に入れたブランクカードはお前の物だ!」

「えっ、勝つだけでいいの!?」

「そうじゃ。だが生半な戦略で勝てると思うな。このファイトロイドにはワシのデッキと思考パターンをインストールしてある!」


 あの……和尚さん?

 貴方は誰とファイトを?


「……ブイドラ、いける?」

「もちろんブイ!」

「アタシね、今テンション爆上げてきた!」


 うん、やる気満々なのは良いんだよ藍さん。

 で、なんか流れがおかしいんだけど。

 あっ和尚がこっち向いた。


「タァァァァァァァァァァゲットォォォォォォォォォ! ロォォォォォォック!」


 うるせぇ!

 じゃなくて、和尚の召喚器が俺の召喚器に接続されたんだが。

 えっ……もしかして俺が和尚とファイトするの?


「小僧、お前はワシとファイトじゃ」

「……藍と交代じゃダメですか?」

「そう腰を抜かすな。お前もワシに勝てばブランクカードをくれてやろう」


 そう言うと和尚は、新たに3枚のブランクカードを取り出した。

 なるほど……流れは変わってしまっているが、目的の代物は入手できそうだ。

 ならこのファイト、拒否する理由もない。


「じゃあ、俺も全力で行きますよ!」

「遠慮はするな、ワシが胸を貸してやるわ!」


 俺は初期手札を引いて、鬼ヶ崎和尚とのファイトに臨んだ。


「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」

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