第四十四話:どうする!? 始まった決勝戦!
ツルギが倉庫の中で頭を悩ませている頃。
控室では速水とソラが焦りを覚えていた。
「天川は何をしているんだ! もうすぐ決勝戦が始まってしまうぞ!」
「ツルギくん、どうしたんでしょう?」
念のため速水が男子トイレを確認しに行ったが、ツルギの姿はない。
ソラも近くを探してみたが同様だ。
二人の中で何かよくない予感が生まれる。
「もしかして……あのプロデューサーの人になにかされたんじゃ」
「……可能性はゼロ、とは言えないな」
速水の脳裏には黒岩の悪い噂が浮かび上がる。
噂通りの男だとすれば、ツルギに何かをしても不思議ではない。
そんな不安と焦りの中、控室に大会スタッフがやって来た。
「もうすぐ決勝戦が始まります。チーム:ゼラニウムの皆さんはベンチ入りしてください」
速水は時計を確認する。
確かにもうすぐ試合開始時間だ。
速水は数秒悩んだ末に、一つの覚悟を決める。
「赤翼、ベンチに行くぞ」
「えっ、でもツルギくんが」
「アイツは必ず来る。天川ツルギは、ここで逃げ出す男ではない」
「それは、そうですけど」
「俺と赤翼で先鋒と次鋒を担う。天川を大将戦に据えれば、時間は稼げる」
それに……と速水が続ける。
「天川とアイを必ず戦わせる。俺達はその使命を全うした上で、この大会を優勝するんだ」
「速水くん……はう、そうですね」
「俺が先鋒で出る。試合が終わればすぐに天川を探しに行く。だから赤翼、その後は任せるぞ」
「はい! がんばります!」
その場しのぎの計画。だが無いよりはましだ。
速水は姿を消したツルギの事を信じながら、ソラと共にベンチへと向かった。
◆
ドーム内のステージはライトアップされている。
観客席は満席。歓声も鳴り響いている。
片方のベンチにはチーム:ゼラニウムの二人が。
もう片方のベンチにはチーム:Fairysの三人と黒岩が座っていた。
Fairysの三人は、チーム:ゼラニウムの異変にすぐに気が付いた。
「ねぇ、ミオちゃん」
「うん。ツルギって子がいないよね。なんで?」
ミオと夢子は混乱していた。
愛梨をあれほどまでに気にかけてくれていた少年が、ここにきて姿を見せていない。
逃げたとは到底思えない。あの少年には逃げる選択をするほどの弱さは無かった。
ではなぜ居ないのか。
考えれば考えるほど、ミオと夢子は分からなくなっていった。
だが一方で、愛梨は黒岩の顔を無意識に見やった。
そこには下種な笑みを浮かべた黒岩の姿があった。
「プロデューサー。ツルギに何かしたの?」
愛梨は圧を込めた声で、黒岩を問いただす。
「ん~。少し大人の話をしただけさ。交渉は決裂したけどね」
「ちゃんと答えなさい」
「彼なら今頃、どこかで道に迷ってるのではないかな? まぁ、試合には間に合わないだろうね」
それは最早自白であった。
ミオと夢子は顔を青ざめさせ、愛梨は静かに怒りを覚える。
「プロデューサー、なんで、そんなことを」
「全ては君達Fairysが羽ばたくためだよ。この大会で優勝できれば、箔も付く」
「だからって、決勝戦の相手に危害を加えるなんて」
「証拠はない。金で買った協力者もいる。仮に訴えられたとしても、私とたかが中学生。世間が信用するのはいったいどちらだろうなぁ?」
純然たる悪意とどす黒さ。
それを目の当たりにしたミオと夢子は言葉を失った。
「どうしようミオちゃん」
「探しに行こう! 決勝戦なんてやってる場合じゃないよ!」
「それを俺が許すとでも?」
ドスの効いた声で、二人を制する黒岩。
「お前たちはこの決勝戦に出て、勝つ。それがシナリオだ」
「でもプロデューサー!」
「日高。そんなに引退したいか?」
「ッ! アタシは、アイドル辞めてでも」
「よしなさいミオ」
ミオの言葉を愛梨が制する。
「アイっち!」
「貴女が無茶をする必要は無いわ。夢子もよ」
「愛梨ちゃん……」
「流石宮田だな。聞き分けが良い」
「勝てば良いんでしょ。いつもみたいに」
「そうだ」
「なら私が先鋒で出るわ。早く終わらせ」
「「ダメ!」」
先鋒で出ようとした愛梨を、ミオと夢子が制止する。
「アイっちは大将戦で出て!」
「そうだよ! だってセンターなんだよ!」
「……でも大将戦には誰も来ないわ」
「そんなことない」
「ミオ」
「絶対来る。だって、アイっちの友達でしょ。絶対来るよ」
少し震えた声で、ミオは愛梨にそう告げる。
「ミオちゃん、愛梨ちゃん。先鋒は私が行くね」
「うん。アタシは次鋒で出る。だからアイっちは大将」
「……わかったわ。好きにしなさい。プロデューサーもいいでしょ」
「そうだな。勝利という結果を得られれば十分だ」
黒岩が許可を出した。ミオと夢子は静かに胸をなでおろす。
これで時間稼ぎの口実はできた。
「じゃあユメユメ。先鋒お願いね」
「うん。任せて」
夢子は先鋒としてファイトステージに上がる。
ミオと愛梨は、その背中を静かに見送っていた。
だが愛梨の中には、形容しがたい空虚さと、ドロドロの黒さがかき混ざっていた。
仲間のお膳立ては何となく察している愛梨。
感謝の気持ちはあるが、それ以上に恐怖が芽生えていた。
「……ツルギ」
今の自分は、本当にツルギと戦うに値するファイターなのか。
愛梨は答えが分からぬまま、ベンチで俯いていた。
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