第四十五話:必ずつなげる! ソラの戦い

 倉庫の中では、ツルギが必死に脱出を試みていた。


「こなくそ!」


 近くにあった機材で扉を破壊しようと試みるが、鉄の扉はびくともしない。


「不味い。もう試合始まってる頃だぞ」


 時間の経過が、ツルギに焦りを覚えさせる。

 その直後であった、扉の隙間から、ステージアナウンスが聞こえてきたのだ。


『先鋒戦。勝者、佐倉さくら夢子ゆめこ!』


 先鋒戦が終わった、しかもゼラニウムの敗北だ。

 これは不味い。ツルギは更なる焦りを覚える。


「不味いってもんじゃねーぞ。これ大将戦に進むの確定じゃねーか!」


 きっと速水とソラが先鋒と次鋒で出ている筈。

 そうなれば大将戦はツルギだ。

 早くこの倉庫を脱出しなくてはならない。

 だけど方法が思いつかない。


「人気もなかったし、助けも来そうにない……マジでどうするんだコレ!?」


 ツルギは頭を抱えるが、答えは出ない。

 時間は残酷にも、刻々と進んでいた。





 JMSカップ決勝戦第一戦。

 速水は夢子に敗北した。

 ベンチに戻る速水を、ソラが出迎える。


「お疲れ様です。速水くん」

「すまない。負けてしまった」

「大丈夫です。次鋒戦で勝ちますから……それよりも」

「わかっている。必ず天川を探し出す。だから少しでも時間を稼いでくれ」

「はい!」


 速水はツルギを探し出すために、足早にベンチを去っていった。

 残されたのはソラただ一人。


 ソラは深呼吸を一回すると、覚悟を決めてファイトステージへと上がった。


『JMSカップ決勝戦第二戦。戦うのはこの二人! チーム:ゼラニウムからは赤翼あかばねソラ!』


 ステージに立つソラに歓声が浴びせられる。

 少し腰が引けそうになるソラだが、なんとか我慢した。


『そして! チーム:Fairysフェアリーズからは日高ひだかミオ!』


 続けてファイトステージに上がってくるミオ。

 その表情は、お世辞にも自然な明るさがあるとは言えない。

 だがソラが全てを察するには、ミオの表情だけで十分であった。

 彼女が今抱えているものも、吐き出したいものも察した。

 だからこそソラは、こう口にする他なかったのだ。


「ミオさん! 良いファイトにしましょうね!」


 精一杯まっすぐ前を見て、ソラが声を上げる。

 それを聞いたミオは、恐る恐る目を見開いた。


「……なんで」

「私達はファイターです。何があろうとも全力でファイトをするのが使命なんです」


 それに……とソラが続ける。


「ツルギくんも、きっとそう言いますから」


 その目に恐れはない。

 その心に迷いはない。

 ソラは純粋に、ツルギが来る事を信じていた。

 それを感じ取ったミオは、自分の召喚器を手に取り視線を落とす。


「……仲間を信じてるんだ」

「はい。だからファイトしましょう。大切な人達のためにも」

「うん……そうだね!」


 ミオの中で絡みついていた迷いが僅かに晴れた。

 今はできる事をしよう。

 そして精一杯の力を出してファイトをしよう。

 二人の少女の心は、ステージ上で一つになった。


「手加減なんてできないけど、いいよね!?」

「もちろんです! 全力で戦います!」


 ならばもう、余計な会話は必要ない。


『それでは決勝戦第二戦、開始してください!』


「「ターゲットロック!」」


 ソラとミオの召喚器が無線接続される。


「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」


 歓声が巻き起こる中で、二人の少女が戦いを始めた。

 召喚器がランダムに先攻後攻を決める。

 先攻はソラだ。


「私のターン。スタートフェイズ。メインフェイズ!」


 ツルギを間に合わせるためにも、時間をかけてファイトをする。

 ソラは自分を落ち着かせながら、カードを仮想モニターに投げ込んだ。


「私は〈キュアピッド〉を召喚します!」


 ソラの場に召喚されたのは、いつも初動となっているキューピットだ。


〈キュアピッド〉P3000 ヒット1

 

「〈キュアピッド〉の召喚時効果で、私はライフを2点回復します。更に〈キュアピッド〉は【天罰】の効果でパワーが+6000されます!」


 ソラ:ライフ10→12

〈キュアピッド〉P3000→P9000


「そして魔法カード〈エンジェルドロー〉を発動します! 手札から系統:〈聖天使〉を持つモンスター、〈ジェミニエンジェル〉を捨てて、デッキからカードを2枚ドローします!」


 ソラ:手札2枚→4枚


 ソラはドローしたカードを確認する。

 望んだカードは来た。


「私は〈シールドエンジェル〉を召喚します」


 大盾を手にした天使が、ソラの場に召喚される。


〈シールドエンジェル〉P7000 ヒット2

 

 ひとまず防御は固まった。これである程度は時間を稼げると、ソラは考えた。


「ターンエンドです」


 ソラ:ライフ12 手札3枚

 場:〈キュアピッド〉〈シールドエンジェル〉


 ライフ回復と防御に適したモンスターの展開。

 後はミオがどう出てくるかが問題だ。


「アタシのターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ」


 ミオ:手札5枚→6枚


「メインフェイズ。アタシは〈ウインドピクシー〉と〈トリックフェアリー〉を召喚!」


 迷いなくカードを仮想モニターに投げ込むミオ。

 その場には緑髪の妖精と、ツインテールの妖精が召喚された。


〈ウインドピクシー〉P2000 ヒット1

〈トリックフェアリー〉P3000 ヒット2


「続けて、アタシの場の〈トリックフェアリー〉を手札に戻すことで〈シャインフェアリー〉を召喚!」


 トリックフェアリーが場から消え、入れ替わるように美しい金髪の妖精が召喚された。


〈シャインフェアリー〉P8000 ヒット3


 パワーとヒットが高めのモンスターを前に、ソラは警戒心を高めた。


「この瞬間〈ウインドピクシー〉の効果発動! 1ターンに1度、このカード以外のモンスターが手札に戻った時、デッキを上から2枚確認できる!」


 ミオはデッキからカードを2枚引いて、その内容を確認する。


「確認したカードは、1枚を手札に加えて、残りは墓地に送る。更にアタシはライフを1点回復!」


 ミオ:ライフ10→11 手札4枚→5枚


 一気に三つのアドバンテージを稼いできたミオ。

 ソラは事前に【妖精】デッキの要警戒カードをツルギから聞いていた。

 当然〈ウインドピクシー〉の事も聞いている。


「いざ目の前にすると、強烈なカードですね」


 仮にも決勝まで上がってきただけの実力者。そのテクニックは確かだ。


「〈トリックフェアリー〉を再召喚」


 再び召喚される〈トリックフェアリー〉。


〈トリックフェアリー〉P3000 ヒット2


「アタックフェイズ! 早速攻めるよ! 〈トリックフェアリー〉で攻撃!」

「〈キュアピッド〉でブロックします!」


 ぶつかり合う妖精とキューピット。

 パワーはキュアピッドの方が圧倒的に高い。

 しかしミオは、それすらも織り込み済みであった。


「〈トリックフェアリー〉の効果発動! 相手モンスターと戦闘する時、このカードを手札に戻す! 戻ってきて〈トリックフェアリー〉!」


 キュアピッドとの戦闘を中断して、トリックフェアリーは場から手札にとんぼ返りする。

 キュアピッドのブロックは無駄に終わってしまった。

 だがそれだけではない。


「モンスターが手札に戻ったことで〈シャインフェアリー〉の効果発動!」

「やっぱりこのタイミングなんですか」

「〈シャインフェアリー〉の効果で、ライフを1点回復。更に相手モンスター全てのパワーを-2000だ!」


 シャインフェアリーがファイトステージを光で包み込む。

 ミオには恩恵を、ソラの場には弱体化を授けた。


 ミオ:ライフ11→12


〈キュアピッド〉P9000→P7000

〈シールドエンジェル〉P7000→P5000


「続けて〈シャインフェアリー〉で攻撃! そして〈シャインフェアリー〉の攻撃時効果【悪戯いたずら】を発動!」


 妖精の専用能力が発動する。

 シャインフェアリーの【悪戯】によって、ミオの場から〈ウインドピクシー〉が手札に戻った。


「モンスターが手札に戻ったから〈シャインフェアリー〉の効果が発動! ライフ1点回復。更にパワー-2000!」


 再び光がファイトステージを包み込む。


 ミオ:ライフ12→13


〈キュアピッド〉P7000→P5000

〈シールドエンジェル〉P5000→P3000


 モンスターが大幅に弱体化された。シャインフェアリーの攻撃は目前まで迫っている。

 ソラは悩んだ。

 ここでダメージを受ければ【天罰】が解除されてしまう。

 しかしブロックをすれば、シールドエンジェルを失ってしまう。


 数秒考えた後、ソラは決断を下した。


「……ライフで受けます!」


 シャインフェアリーの放った光の玉が、ソラの身体を貫く。


 ソラ:ライフ12→9


 【天罰】が解除されたことにより〈キュアピッド〉はパワー0で破壊される。


「アタシはこれでターンエンド」


 ミオ:ライフ13 手札6枚(内2枚ウインドピクシー、トリックフェアリー)

 場:〈シャインフェアリー〉


 いきなり【天罰】を解除されてしまったソラは、少し焦りを覚える。

 とにかく回復をしなければ先に進めない。

 なによりファイトを早々に終わらせるわけにはいかないのだ。


「とにかく先に進めないと……私のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」


 ソラ:手札3枚→4枚


 ソラはドローしたカードを確認する。


「このカードなら。メインフェイズ! 私は魔法カード〈Reキューピット〉を発動します!」

「〈Reキューピット〉? 初めて見るカード」

「このカードは、手札の系統:〈聖天使〉を持つカードを相手に見せることで、私の墓地から〈キュアピッド〉を復活させます! 更にその後カードを1枚ドローします! 手札から〈ソードエンジェル〉を見せて、蘇って〈キュアピッド〉!」


 ソラの墓地から魔法陣が展開され、中からキュアピッドが復活した。


〈キュアピッド〉P3000 ヒット1


 ソラ:手札3枚→4枚


 Reキューピットのデメリット効果で、キュアピッドは召喚時効果を発動できない。


「来てくれた! 私は魔法カード〈スーパーポーション〉を発動します。〈キュアピッド〉を破壊して、ライフを5点回復です!」


 ソラ:ライフ9→14


「更に魔法カード〈フューチャードロー〉を発動です! ライフを2点払って、2ターン後のスタートフェイズ開始時にデッキからカードを2枚ドローします」


 ソラ:ライフ14→12


「〈ソードエンジェル〉を召喚します」


 ソラの場に、二振りの剣を手にした天使が召喚される。


〈ソードエンジェル〉P5000 ヒット3


 モンスターを召喚したが、まだパワーは足りない。

 何よりまずはミオの場にいるシャインフェアリーを対処しなくては、先に進めない。


「魔法カード〈パニッシュメントポーション〉を発動します! このカードは手札から系統:〈聖天使〉を持つカードを1枚捨てることで、相手モンスターを1体破壊します!」

「うそぉ!?」

「私は〈アンカーエンジェル〉を捨てて、ミオさんの〈シャインフェアリー〉を破壊します!」


 パニッシュメントポーションの効果で、シャインフェアリーが破壊される。

 だが魔法効果はここで終わらない。


「〈パニッシュメントポーション〉の効果で、破壊したモンスターのヒット数分のライフを回復します」


 ソラ:ライフ12→15


 これでライフを上回った。ソラは再び【天罰】状態に突入する。


「アタックフェイズです! まずは〈シールドエンジェル〉で攻撃!」

「うーん、ライフで受ける」


 シールドエンジェルの大盾が、ミオに襲い掛かる。


 ミオ:ライフ13→11


「続けて〈ソードエンジェル〉お願いします!」

「うーんヒット3は痛いけど……それもライフ」


 ソードエンジェルの剣撃が、ミオを切り裂く。


 ミオ:ライフ11→8


「相手にダメージを与えた瞬間〈ソードエンジェル〉の効果が発動します!」

「うわー、それが発動条件だったかー」

「〈ソードエンジェル〉が与えたダメージだけ、私のライフを回復します」


 ソラ:ライフ15→18


「私はこれでアタックフェイズを終了。そしてアタックフェイズ終了時に〈シールドエンジェル〉の効果で、ライフを1点回復します」


 ソラ:ライフ18→19


「エンドフェイズ。〈シールドエンジェル〉の【天罰】によって、私の場のモンスターは全て回復します」


 疲労状態から回復する二体の聖天使。

 これで防御も万全だ。

 時間も稼げるはず。


 ソラはやや不安そうな表情で、ベンチの方へと振り向く。


「(ツルギくん……早く来てください)」


 ツルギの姿はまだ見えない。

 だが彼がここで逃げるような存在でない事を、ソラは知っていた。

 ならば今は信じるだけ。信じた上で、このファイトを勝つだけだ。


「私はこれでターンエンドです」


 ソラ:ライフ19 手札0枚

 場:〈ソードエンジェル〉〈シールドエンジェル〉


 必ずツルギにつなげる。

 ソラは一人で、ファイトを続けるのだった。

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