第四十五話:必ずつなげる! ソラの戦い
倉庫の中では、ツルギが必死に脱出を試みていた。
「こなくそ!」
近くにあった機材で扉を破壊しようと試みるが、鉄の扉はびくともしない。
「不味い。もう試合始まってる頃だぞ」
時間の経過が、ツルギに焦りを覚えさせる。
その直後であった、扉の隙間から、ステージアナウンスが聞こえてきたのだ。
『先鋒戦。勝者、
先鋒戦が終わった、しかもゼラニウムの敗北だ。
これは不味い。ツルギは更なる焦りを覚える。
「不味いってもんじゃねーぞ。これ大将戦に進むの確定じゃねーか!」
きっと速水とソラが先鋒と次鋒で出ている筈。
そうなれば大将戦はツルギだ。
早くこの倉庫を脱出しなくてはならない。
だけど方法が思いつかない。
「人気もなかったし、助けも来そうにない……マジでどうするんだコレ!?」
ツルギは頭を抱えるが、答えは出ない。
時間は残酷にも、刻々と進んでいた。
◆
JMSカップ決勝戦第一戦。
速水は夢子に敗北した。
ベンチに戻る速水を、ソラが出迎える。
「お疲れ様です。速水くん」
「すまない。負けてしまった」
「大丈夫です。次鋒戦で勝ちますから……それよりも」
「わかっている。必ず天川を探し出す。だから少しでも時間を稼いでくれ」
「はい!」
速水はツルギを探し出すために、足早にベンチを去っていった。
残されたのはソラただ一人。
ソラは深呼吸を一回すると、覚悟を決めてファイトステージへと上がった。
『JMSカップ決勝戦第二戦。戦うのはこの二人! チーム:ゼラニウムからは
ステージに立つソラに歓声が浴びせられる。
少し腰が引けそうになるソラだが、なんとか我慢した。
『そして! チーム:
続けてファイトステージに上がってくるミオ。
その表情は、お世辞にも自然な明るさがあるとは言えない。
だがソラが全てを察するには、ミオの表情だけで十分であった。
彼女が今抱えているものも、吐き出したいものも察した。
だからこそソラは、こう口にする他なかったのだ。
「ミオさん! 良いファイトにしましょうね!」
精一杯まっすぐ前を見て、ソラが声を上げる。
それを聞いたミオは、恐る恐る目を見開いた。
「……なんで」
「私達はファイターです。何があろうとも全力でファイトをするのが使命なんです」
それに……とソラが続ける。
「ツルギくんも、きっとそう言いますから」
その目に恐れはない。
その心に迷いはない。
ソラは純粋に、ツルギが来る事を信じていた。
それを感じ取ったミオは、自分の召喚器を手に取り視線を落とす。
「……仲間を信じてるんだ」
「はい。だからファイトしましょう。大切な人達のためにも」
「うん……そうだね!」
ミオの中で絡みついていた迷いが僅かに晴れた。
今はできる事をしよう。
そして精一杯の力を出してファイトをしよう。
二人の少女の心は、ステージ上で一つになった。
「手加減なんてできないけど、いいよね!?」
「もちろんです! 全力で戦います!」
ならばもう、余計な会話は必要ない。
『それでは決勝戦第二戦、開始してください!』
「「ターゲットロック!」」
ソラとミオの召喚器が無線接続される。
「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」
歓声が巻き起こる中で、二人の少女が戦いを始めた。
召喚器がランダムに先攻後攻を決める。
先攻はソラだ。
「私のターン。スタートフェイズ。メインフェイズ!」
ツルギを間に合わせるためにも、時間をかけてファイトをする。
ソラは自分を落ち着かせながら、カードを仮想モニターに投げ込んだ。
「私は〈キュアピッド〉を召喚します!」
ソラの場に召喚されたのは、いつも初動となっているキューピットだ。
〈キュアピッド〉P3000 ヒット1
「〈キュアピッド〉の召喚時効果で、私はライフを2点回復します。更に〈キュアピッド〉は【天罰】の効果でパワーが+6000されます!」
ソラ:ライフ10→12
〈キュアピッド〉P3000→P9000
「そして魔法カード〈エンジェルドロー〉を発動します! 手札から系統:〈聖天使〉を持つモンスター、〈ジェミニエンジェル〉を捨てて、デッキからカードを2枚ドローします!」
ソラ:手札2枚→4枚
ソラはドローしたカードを確認する。
望んだカードは来た。
「私は〈シールドエンジェル〉を召喚します」
大盾を手にした天使が、ソラの場に召喚される。
〈シールドエンジェル〉P7000 ヒット2
ひとまず防御は固まった。これである程度は時間を稼げると、ソラは考えた。
「ターンエンドです」
ソラ:ライフ12 手札3枚
場:〈キュアピッド〉〈シールドエンジェル〉
ライフ回復と防御に適したモンスターの展開。
後はミオがどう出てくるかが問題だ。
「アタシのターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ」
ミオ:手札5枚→6枚
「メインフェイズ。アタシは〈ウインドピクシー〉と〈トリックフェアリー〉を召喚!」
迷いなくカードを仮想モニターに投げ込むミオ。
その場には緑髪の妖精と、ツインテールの妖精が召喚された。
〈ウインドピクシー〉P2000 ヒット1
〈トリックフェアリー〉P3000 ヒット2
「続けて、アタシの場の〈トリックフェアリー〉を手札に戻すことで〈シャインフェアリー〉を召喚!」
トリックフェアリーが場から消え、入れ替わるように美しい金髪の妖精が召喚された。
〈シャインフェアリー〉P8000 ヒット3
パワーとヒットが高めのモンスターを前に、ソラは警戒心を高めた。
「この瞬間〈ウインドピクシー〉の効果発動! 1ターンに1度、このカード以外のモンスターが手札に戻った時、デッキを上から2枚確認できる!」
ミオはデッキからカードを2枚引いて、その内容を確認する。
「確認したカードは、1枚を手札に加えて、残りは墓地に送る。更にアタシはライフを1点回復!」
ミオ:ライフ10→11 手札4枚→5枚
一気に三つのアドバンテージを稼いできたミオ。
ソラは事前に【妖精】デッキの要警戒カードをツルギから聞いていた。
当然〈ウインドピクシー〉の事も聞いている。
「いざ目の前にすると、強烈なカードですね」
仮にも決勝まで上がってきただけの実力者。そのテクニックは確かだ。
「〈トリックフェアリー〉を再召喚」
再び召喚される〈トリックフェアリー〉。
〈トリックフェアリー〉P3000 ヒット2
「アタックフェイズ! 早速攻めるよ! 〈トリックフェアリー〉で攻撃!」
「〈キュアピッド〉でブロックします!」
ぶつかり合う妖精とキューピット。
パワーはキュアピッドの方が圧倒的に高い。
しかしミオは、それすらも織り込み済みであった。
「〈トリックフェアリー〉の効果発動! 相手モンスターと戦闘する時、このカードを手札に戻す! 戻ってきて〈トリックフェアリー〉!」
キュアピッドとの戦闘を中断して、トリックフェアリーは場から手札にとんぼ返りする。
キュアピッドのブロックは無駄に終わってしまった。
だがそれだけではない。
「モンスターが手札に戻ったことで〈シャインフェアリー〉の効果発動!」
「やっぱりこのタイミングなんですか」
「〈シャインフェアリー〉の効果で、ライフを1点回復。更に相手モンスター全てのパワーを-2000だ!」
シャインフェアリーがファイトステージを光で包み込む。
ミオには恩恵を、ソラの場には弱体化を授けた。
ミオ:ライフ11→12
〈キュアピッド〉P9000→P7000
〈シールドエンジェル〉P7000→P5000
「続けて〈シャインフェアリー〉で攻撃! そして〈シャインフェアリー〉の攻撃時効果【
妖精の専用能力が発動する。
シャインフェアリーの【悪戯】によって、ミオの場から〈ウインドピクシー〉が手札に戻った。
「モンスターが手札に戻ったから〈シャインフェアリー〉の効果が発動! ライフ1点回復。更にパワー-2000!」
再び光がファイトステージを包み込む。
ミオ:ライフ12→13
〈キュアピッド〉P7000→P5000
〈シールドエンジェル〉P5000→P3000
モンスターが大幅に弱体化された。シャインフェアリーの攻撃は目前まで迫っている。
ソラは悩んだ。
ここでダメージを受ければ【天罰】が解除されてしまう。
しかしブロックをすれば、シールドエンジェルを失ってしまう。
数秒考えた後、ソラは決断を下した。
「……ライフで受けます!」
シャインフェアリーの放った光の玉が、ソラの身体を貫く。
ソラ:ライフ12→9
【天罰】が解除されたことにより〈キュアピッド〉はパワー0で破壊される。
「アタシはこれでターンエンド」
ミオ:ライフ13 手札6枚(内2枚ウインドピクシー、トリックフェアリー)
場:〈シャインフェアリー〉
いきなり【天罰】を解除されてしまったソラは、少し焦りを覚える。
とにかく回復をしなければ先に進めない。
なによりファイトを早々に終わらせるわけにはいかないのだ。
「とにかく先に進めないと……私のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ!」
ソラ:手札3枚→4枚
ソラはドローしたカードを確認する。
「このカードなら。メインフェイズ! 私は魔法カード〈Reキューピット〉を発動します!」
「〈Reキューピット〉? 初めて見るカード」
「このカードは、手札の系統:〈聖天使〉を持つカードを相手に見せることで、私の墓地から〈キュアピッド〉を復活させます! 更にその後カードを1枚ドローします! 手札から〈ソードエンジェル〉を見せて、蘇って〈キュアピッド〉!」
ソラの墓地から魔法陣が展開され、中からキュアピッドが復活した。
〈キュアピッド〉P3000 ヒット1
ソラ:手札3枚→4枚
Reキューピットのデメリット効果で、キュアピッドは召喚時効果を発動できない。
「来てくれた! 私は魔法カード〈スーパーポーション〉を発動します。〈キュアピッド〉を破壊して、ライフを5点回復です!」
ソラ:ライフ9→14
「更に魔法カード〈フューチャードロー〉を発動です! ライフを2点払って、2ターン後のスタートフェイズ開始時にデッキからカードを2枚ドローします」
ソラ:ライフ14→12
「〈ソードエンジェル〉を召喚します」
ソラの場に、二振りの剣を手にした天使が召喚される。
〈ソードエンジェル〉P5000 ヒット3
モンスターを召喚したが、まだパワーは足りない。
何よりまずはミオの場にいるシャインフェアリーを対処しなくては、先に進めない。
「魔法カード〈パニッシュメントポーション〉を発動します! このカードは手札から系統:〈聖天使〉を持つカードを1枚捨てることで、相手モンスターを1体破壊します!」
「うそぉ!?」
「私は〈アンカーエンジェル〉を捨てて、ミオさんの〈シャインフェアリー〉を破壊します!」
パニッシュメントポーションの効果で、シャインフェアリーが破壊される。
だが魔法効果はここで終わらない。
「〈パニッシュメントポーション〉の効果で、破壊したモンスターのヒット数分のライフを回復します」
ソラ:ライフ12→15
これでライフを上回った。ソラは再び【天罰】状態に突入する。
「アタックフェイズです! まずは〈シールドエンジェル〉で攻撃!」
「うーん、ライフで受ける」
シールドエンジェルの大盾が、ミオに襲い掛かる。
ミオ:ライフ13→11
「続けて〈ソードエンジェル〉お願いします!」
「うーんヒット3は痛いけど……それもライフ」
ソードエンジェルの剣撃が、ミオを切り裂く。
ミオ:ライフ11→8
「相手にダメージを与えた瞬間〈ソードエンジェル〉の効果が発動します!」
「うわー、それが発動条件だったかー」
「〈ソードエンジェル〉が与えたダメージだけ、私のライフを回復します」
ソラ:ライフ15→18
「私はこれでアタックフェイズを終了。そしてアタックフェイズ終了時に〈シールドエンジェル〉の効果で、ライフを1点回復します」
ソラ:ライフ18→19
「エンドフェイズ。〈シールドエンジェル〉の【天罰】によって、私の場のモンスターは全て回復します」
疲労状態から回復する二体の聖天使。
これで防御も万全だ。
時間も稼げるはず。
ソラはやや不安そうな表情で、ベンチの方へと振り向く。
「(ツルギくん……早く来てください)」
ツルギの姿はまだ見えない。
だが彼がここで逃げるような存在でない事を、ソラは知っていた。
ならば今は信じるだけ。信じた上で、このファイトを勝つだけだ。
「私はこれでターンエンドです」
ソラ:ライフ19 手札0枚
場:〈ソードエンジェル〉〈シールドエンジェル〉
必ずツルギにつなげる。
ソラは一人で、ファイトを続けるのだった。
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