第百五話:六帝評議会

 ツルギとソラがサーガタワーを出た頃。

 聖徳寺学園の会議室では、四人の帝王が円卓を囲んでいた。


「すまないね、急に呼び出したりして」


 そう切り出したのは金髪と優しい笑みが特徴的な序列第一位。

 【政帝せいていまつり誠司せいじだった。

 その隣には序列第二位である【嵐帝らんてい風祭かざまつりなぎが立っている。


「構わないよ、去年もこのくらいの時期に召集をかけられたからね! それよりも手短かに頼むよ。今日もボクのためにレディ達が待っているからね!」


 ハハハと円卓に座りながら笑い声を上げる三年生の男子。

 序列第三位【暴帝ぼうていワン牙丸きばまるだ。

 女子達からの連絡が絶え間なく来ているのか、彼のスマートフォンからは通知音が鳴り止まない。


「王先輩、スマホの音消してください」

「それは出来ない相談だね〜ツララちゃん! ボクにとってレディからのラブコールは決して拒否できないものだからね!」

「だからって会議室でも通知音を鳴らさないでください」

「冷たいね〜ツララちゃんは。なんなら今夜はボクが温めてあげようか?」

「死ね」


 牙丸に情け容赦のない蹴りを入れながら、そう吐き捨てたのは序列第四位。

 二年生の女子【氷帝ひょうてい音無おとなしツララである。

 彼女に足を蹴られても、牙丸は「おぉ〜怖い怖い」と飄々としたものであった。

 

 円卓に集まったメンバーを見渡し、風祭凪は一人足りない事に気づいた。


「黒崎さんの姿が見えませんが」

「あぁ、彼ならボクに『細かい事には興味が無い』って言い残して先に帰ったよ」

「あ、あの人はまた……」


 牙丸から【裏帝りてい】の欠席報告聞いた凪は、その場で頭を抱えてため息をついた。

 序列第五位、黒崎くろさき勇吾ゆうご

 会議や公的行事もサボりがちな、評議会一の問題児でもある。


「ふむ、じゃあこれで全員集まったという事だね」

「おいおい誠司。まだ九頭竜くずりゅうちゃんが来てないぜ」

「今回彼女は欠席だ。休日に呼び出すのも申し訳ない」

「政帝様はご立派だね〜」

「実際のところ、今回は我々上級生から見た新一年生に関する話だからね。参加しても彼女には退屈な内容になるだろう」


 政誠司の言葉を聞いた牙丸は「あぁ、やっぱりソレか」と呟いた。

 毎年五月に行われる新一年生の強化合宿。

 それが終わるとこうして六帝りくてい評議会が集まり、次期帝王となりそうな生徒について語り合うのが通例となっているのだ。


「今年は誠司が直々に見に行ったんだろ? さぞ豊作なんだろうね」

「そうだね。今年の一年生は素晴らしい実力者が集まっているよ」


 そう言うと政誠司は凪に指示をして、モニターに合宿のデータを映し出した。

 それを見た牙丸は「ほう……」と声をこぼす。


「僕が合宿で目星をつけた、次期帝王候補の生徒達だよ」

「これはこれは。今年の一年生は随分と鍛えてきたんだな」


 牙丸も興味津々な様子でデータを眺める。

 表示されているデータは合宿おける各試練のクリアデータや、これまでの戦績。

 他にも入学前の公式戦での成績も出ている。

 その中でも牙丸が気になったのは……


天川てんかわツルギ……入学の時から気になってはいたけど、まさか九頭竜ちゃんより早く試練をクリアしたとはな」

「あぁ……今年の一年生の中では、彼が頭一つ抜けて実力があるようだ」

「誠司にそこまで言わせるとはな。これは時期評議会加入は確定だろう」


 新たな実力者の登場にワクワクしている牙丸。

 そんな彼とは異なり、凪はどこか苛立った様子であった。


「おやおや? どうした凪ちゃん。随分とご機嫌ナナメみたいだけど」

「気にしないでください。ただこの一年生が気に入らないだけです」

「そりゃまた、随分珍しい反応をするんだな……なんかあったのか?」


 牙丸がそう言うと凪は吐き捨てるように、合宿での一幕を話した。

 それを聞いた牙丸は腹を抱えて大笑いするのだった。


「ギャハハハ! 誠司お前、フラれたのかよ!」

「残念ながら、ね」

「いや〜笑った笑った。まさか誠司のお誘いを断る一年生がいるとはな」

「あのような無礼者、評議会に相応しくありません」

「凪ちゃんもそんなに怒るなって」


 相当腹に据えかねているのか、凪は額に青筋浮かべている。

 そんな彼女を牙丸は軽く笑い飛ばしていた。


「で、次の生徒は……ほうほう、これはなかなかのレディだね」


 牙丸が次のデータに目を通す。

 アイとソラだ。


「宮田愛梨。中学の頃はアイドルをしていた強者か……良い子じゃないか」

「王先輩、事前に調べてたでしょ?」

「レディの情報は常に仕入れているからね」

「キモい。死んで」


 冷めた目でツララは牙丸に苦言をぶつける。

 それはそうとして牙丸は純粋にアイやソラのデータを見て、その実力に関心していた。


「九頭竜ちゃん程ではないにしても、二人とも中々の実力者じゃないか」


 その一方で牙丸は内心、ソラの苗字を見て何か引っ掛かりを覚えていた。


「で、次は……なんだ男か」

「うわぁ、露骨にテンション下げてる」


 速水のデータを見た瞬間、牙丸は露骨に興味を失っていた。

 隣にいたツララがドン引きする。


「彼の兄はプロシーンで活躍中のサモンファイター、速水リュウトだ。実力は兄譲りなのだろうね」

「速水リュウト……あぁ、確か今度学園に特別講師で呼ぶ選手か」

「そうだ。牙丸も失礼がないようにするんだぞ」


 政誠司にそう言われると、牙丸は「ヘイヘイ」とやる気のない声で返答した。

 ツララも特に興味は無さそうに、データを目を通すだけに留める。


「そして次が最後なのだが……」


 政誠司がそう言うと、凪がモニターを操作して最後の生徒のデータを表示する。

 最後は武井藍であった。

 無名ながらも入学後の戦績は素晴らしく、合宿でも良い成績を出している生徒。

 スタイルの良い女子生徒という事で、牙丸は興味抱いていたが……それ以上に衝撃を受けている者がいた。

 音無ツララである。

 ツララは藍の写真と動画を見た瞬間、時が止まったように固まってしまった。

 いつものクールな様子からはかけ離れた目の開き方。

 ツララはモニターに映る藍に文字通り釘付けになっている。

 そんな彼女の異常に気づいた牙丸だったが、何故か今茶化せば「殺される」と本能で理解してしまった。


「ツ、ツララちゃん?」

「……きゃ」

「きゃ?」

「きゃッッッッッッッッッッッッわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 何この子天使!? 天使なんでしょそうなんでしょ!? なにこの語彙力が消し飛ぶ尊さの極みは! こんなの顔面国宝さんに認定するしかないじゃない! あぁ無理ダメ、お持ち帰りしたくなっちゃう! お家に連れ込んで【自主規制】してその【自主規制】を【自主規制】してグフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」

「誠司、ツララちゃんが壊れたんだけど」

「放っておけば良いんじゃないか?」

「私も誠司様に同意します」

「えぇ……」


 突如壊れてしまったツララの放置が決まり、牙丸は何とも言えぬ表情を浮かべる他なかった。


「ねぇ、他に動画とか画像とか無いの!? 私の藍たんを待ち受けにしたいんだけど!」

「個人情報保護の観点から却下です」

「何よケチ!」


 冷静に凪から却下を突きつけられて、ツララは歯軋りをする。

 同時にツララは心の中で「じゃあ私が自分で藍たんの写真を撮るのはOKなのよね」と、計略を立て始めていた。

 そして円卓から立ち上がる音無ツララ。


「……急用を思い出したわ。私は帰る」


 そう言い残すとツララは、早足で会議室を後にした。


「……誠司、ボクは物凄く不安だから早退しても良いかい?」

「許可するよ」

「サンキュ」


 それだけ言い残すと、今度は牙丸もツララを追うように会議室を出ていくのであった。

 会議室に残されたのは政誠司と風祭凪の二人のみ。

 凪はガランとした会議室を見て「ハァ……」とため息をついた。


「自由人しかいませんね」

「そうだね……だが今はその方が都合が良い」


 政誠司は腕時計で時間を確認する。


「ちょうど合宿で良いデータが取れたんだ。報告も兼ねて、次のカードを発注しないといけないね」

「では、人払いをしましょうか?」

「その必要はない。この時間の会議室に近づく者なんてそう居ないさ」


 政誠司は「それに」と続ける。


「防音もしっかりしているからね。うっかりコレからの運命を知る不幸な生徒なんて一人も生まれないさ」

「そうですか……では、通話の準備を始めます」

「頼んだよ、凪」


 凪はパソコンを操作して、秘匿回線に繋がるようにする。

 そんな彼女の姿を眺めながら、政誠司はコレからの未来に思いを馳せていた。


(もうすぐだ……ウイルスが広がれば……僕の悲願は叶う)


 あまりにも自分勝手な願望を描きながら、政誠司は口元に笑みを浮かべていた。

 そして、パソコンの操作が終わり、会議室のモニターにはビデオ通話が映し出された。

 相手は政誠司にとって、ウイルスカードを与えてくれるスポンサーであり、素晴らしき盟友である。


「こんにちは。今日もよろしくお願いします






 









 








 三神みかみ博士」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る