第百六話:俺は悪くない
さて、合宿後の振替休日も終わり、今日から学校再開となった。
これからウイルスカード関係の事件が起きてくるとはいえ、しばらくは準備期間もある。
とりあえずは普通の学園生活をしながら、周りを魔改造できれば最高だな。
「ツルギくんおはよー!」
「
「アハハ、そこは間に合ったから許して欲しいなぁ」
教室に猛ダッシュで入ってきた藍。
ギリギリ間に合ってはいるが、寝癖のついた髪が説得力を無くしている。
「もう藍ったら、寝癖直してあげるからこっち来なさい」
「エヘヘ、面目ない」
アイに寝癖を直してもらう藍。
なんてことの無い日常の光景……なのだが。
(窓の外から小型ドローンが見えるけど……気のせいという事にしちゃダメかな?)
校庭の木々に紛れてはいるけど、アレどう見てもカメラ付きドローンだよな。
いや、時期的に犯人とターゲットはわかるよ。
どうせ藍に目をつけた
アレもただの盗撮コレクションのやつだろ!
(本人に伝えても良いんだけど……ここで音無先輩に消えられても後に響くんだよなぁ)
だから迂闊に止められねぇ。
相手が地味に主要キャラだからこそ、触れねぇ。
モブだったら今すぐ通報しているのに、残念だ。
「皆の者、席に着くでござる!」
鎧武者こと
気づけばチャイム鳴ってたんだな。
窓の外からはドローンの姿も消えている。
(……回収されたか)
本当に……本ッッッ当にモブキャラだったら良かったのになー!
◆
で、それから数日経過したんだが。
俺達の……というよりは藍の周辺では着実に異変が起き始めていた。
具体的には藍曰く「なんか視線を感じる事が増えた」とか、藍曰く「下駄箱に謎のポエムが入っていた」とか色々。
いや不審者にも程があるだろ音無ツララ。
完全にヤベー奴じゃねーか……いや元からヤベー女だったわ。
ちなみに今も小型ドローンによる盗撮は続いている。
多分気づいているのは俺だけ。
(……そろそろ音無先輩がいなくなったパターンも想定しようかな)
ちょっと俺の想定以上に異常である。
どうしよう、大真面目に警察に通報しようかな。
でも相手は六帝評議会だからな……余裕で揉み消されそうだな。
「あぁ……どうしようか」
「ツルギ疲れてるっプイ?」
現在昼休み。
俺は校内を適当に歩きながら、考え事をしている。
まぁ結果的にカーバンクルの言うような、疲れた表情をしているんだろう。
やだなー。
「身体は無事でも心が疲れてるんだよ」
「プイ?」
「人間にも色々あるって事だ」
「それって、あの人間みたいにっプイ?」
俺の頭上でカーバンクルが何かを指さす。
そちらに視線を向けると、そこには茂みの向こうでしゃがみ込んでいる女子生徒がいた。
黒髪ロングの女子生徒が鼻息を荒くしている……。
「はぁ……はぁ……ら、藍たんの……ハンカチ……スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」
……神様、見なかった事にして良いですか?
「ツルギ? すごい顔になっているっプイ」
相棒、世の中には関わってはいけない人間もいるんだ。
具体的にはお前が指差した不審者こと音無ツララとかだ!
嫌だよ、なんでコイツ主要キャラなんだよ。
助けてよ国家権力さん。今すぐコイツを入院させてくれ。
「あっ、アレもしかしてさっき藍が落としたって言ってたハンカチっプイ? やったプイ、拾ってくれた人がいたっプイ」
知ってるかカーバンクル。
アレは拾ったのではなく、盗んだと表現するのが正しいパターンだぞ。
つーかあの女、こんな所で隠れてハンカチの匂い嗅いでたのかよ。
「っ! 誰!?」
うわ見つかった。
最悪だよ。
「……先輩、見なかった事にして良いですか?」
「目撃者は消す。基本だと思わないかしら?」
「俺の案に同意してください。でないと俺は貴女を通報する事になる」
「国家権力に止められる愛があってたまりますか!」
「止められるレベルなんだよアンタは!」
頼むから自分を客観視してくれ。
アンタのせいでアニメはモザイク不可避だった場面もあるんだぞ!
「貴方……天川ツルギね」
「そうですよ【氷帝】の音無先輩」
「藍たんのお隣に住んでいるっていう羨ま、憎悪を超えた憎悪を抱く他ない腐れ男!」
酷い言われようだ。
しかも後から引っ越して来たのあっちだし。
「しかも私の藍たんと仲良くして……合宿でも藍たんと協力をして……」
助けてください、不穏な空気が漂っています。
あと音無先輩から殺意がオーラ化して浮かんでいます。
「きっと合宿中だって藍たんに【自主規制】や【自主規制】な事して、挙句【自主規制】もしたんでしょ!?」
「先輩、冤罪って言葉知ってますか?」
「この破廉恥オオカミ!」
「人の話聞けやドピンク脳」
ヤベー女だとは思っていたけど、ここまでとは。
これもう通報した方がいいかな?
俺がスマホを手にろうとした、次の瞬間。
「ターゲットロック!」
召喚器が接続されてしまった。
うわぁ……ここまで心底嫌なファイトは始めてだぞ。
「先輩……やる気無いんでお断りして良いですか?」
「ダメよ。私が勝ったら」
音無先輩はスゥゥゥと息を吸い……
「貴方が持っているであろう藍たんの秘蔵画像を全て寄越しなさい!」
「そんなモノは無い」
無いモノ要求されても困るよ。
どうしろってんだ。
俺が滅茶苦茶対応に困っていると、後ろから聞き慣れた声が響いてきた。
「あっツルギくんもここにいたんだ!」
「天川君もお弁当?」
藍と
最悪のタイミングで来ちゃった。
なんで今登場しちゃうんだよ。
「アレ? 音無先輩?」
「あっ【氷帝】の先輩だ!」
無邪気にそう言う藍。
やめとけ、お前がコイツに声をかけるとな……
「ら、藍たんに認知されてた……無理、好き、孕む」
良かったな限界の小声で。
コレがハイテンションだったら藍のメンタルが削られていた。
「あれ? 先輩が召喚器を持ってるって事は……ツルギくん【氷帝】とファイトするの!? いーなー!」
「待ってくれ藍。俺は今からそれを断ろうと」
断ろうとしているんだ。
俺がそう言うよりも早く、音無先輩はやらかした。
「私が負けたら……私の身体を自由にしても良いわ!」
「お断りします」
嫌だよ趣味じゃないし。というか大声でなんて事言いやがるんだ。
「えっ、ツルギくん……そういうのはちょっとどうかと……」
「天川君って、そういう趣味あったんだ……」
「見事に勘違いされてんじゃねーか! ド畜生め!」
なんでこうなるんだよ!
誤解解くにも、どうせこの世界ではファイトしないとダメなパターンなんだろ!
ふざけんな、トンチキ世界め。
「さぁどうするの? 私は
「やだよぉ、なんでコイツとファイトしなきゃなんないんだよぉ」
「逃げるの? 女を手籠に出来ずに敗走したファイターになるのがご希望かしら?」
「それが嫌だからファイトするしか無いんだよ! クソッタレ!」
もう腹は括った。
頭上のカーバンクルにはデッキに戻ってもらってから、オートシャッフル。
俺は召喚器から初期手札を引いて、ファイトの準備を整えた。
「まだ見ぬ藍たんのために……いざ」
「今からでも逃げたい。助けておまわりさん」
それでも誰も助けてはくれません。
現実は厳しいので、頑張ってサモン脳的解決をするしかないのです。
「いくわよ、サモンファイト!」
「レディー……ゴー……」
かつて無い程にやる気のない俺のかけ声で、音無先輩とのファイトが始まった。
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