第十八話:開幕する予選! 100回死んだカーバンクル!

 あれからも俺は学校や放課後の公園で、赤翼さんを鍛え続けた。

 少なくとも俺が見ている分には、赤翼さんのメンタルは大丈夫そうだ。

 ちなみに卯月とは激しい喧嘩をした後、俺が敗北した。解せぬ。


 そしてあっという間に二週間が経過。

 ついに『校内サモンランキングトーナメント』の当日がやってきた。


 全校生徒が校庭に集められている。

 気のせいか、なんか殺気がすごい。


「なぁ速水。みんなピリピリしすぎじゃね?」

「しかたないさ。校内ランキングの成績は、そのまま受験にも影響するからな」


 相変わらずサモン至上主義は怖いな~。

 大学入試の共通テストみたいなもんだと思えば、聞こえはいいかもしれない。

 だけど公立の中学校でこれだからな。皆さまのメンタル面が不安で仕方ないです。


「ところで赤翼さんは?」

「あぁ、赤翼ならそこで……」


 速水が指さした方を見ると、そこには手の平に「人」の字を書いて飲みまくっている赤翼さんの姿があった。


「人、人、人、人、人、人……まだ足りません」

「いやいや、赤翼さん緊張しすぎだろ」

「ひゃあ!? て、天川くん」


 後ろから肩触るまで、全く俺の存在に気付いてなかったらしい。

 どんだけ緊張してるんだ。


「そんなに緊張してたらプレイミスするぞ。もっと気楽に構えようぜ」

「天川、流石に今の赤翼にそれは酷だ」

「ひゃわわわわ」


 完全にパニック状態だなこれ。

 まぁランキング1位を目指してるんだし、そんなもんか。


「ほれ」

「はひゅ!?」


 俺は赤翼さんの両頬を手の平で挟み込む。


「落ち着け。大丈夫だ。赤翼さんは強い」

「だ、だけど。万が一を考えるてしまうと不安でしかたなくって」

「その不安を乗り越えて戦うのが、俺達ファイターだ」

「そ、そうなんですけど」

「前にも言ったけど、そのデッキはもう赤翼さんのデッキなんだ。自分のデッキと、赤翼さん自身を信じろ」


 赤翼さんの顔から手を離す。

 数秒の間の後、赤翼さんは自分の顔をパンパンと叩いた。


「はい! 頑張ります!」

「よしきた! じゃあ心構えも分かるな?」

「はい! 楽しんで、勝つです!」

「大正解。じゃあ赤翼さん、決勝で会おうか」


 それだけ言い残して、俺は速水の元へと戻った。

 のだが、妙に速水が不機嫌そうだ。


「なんだよ」

「お前、俺の事を忘れてただろ」

「決勝の事か? 大丈夫だ。速水は準決勝で俺が倒すから」

「俺もそう簡単に負けるつもりはないぞ」


 バチバチと火花が散る。

 きっとライバルとはこういうのを指すんだろうな。


 そうこうしている内に、先生の号令がかかった。


「とうとう始まるな」

「暴れてやるぜ」

「お前が言うと冗談に聞こえん」

「本気だぞ」


 全校生徒が校庭に綺麗に並び先生の話を聞く。

 まぁ話の内容は所謂対戦時のマナーやら、禁止事項やらだ。

 特に語るようなものでもない。

 長い長い校長の話を、あくびを堪えながら聞いてると、ようやく実のある話に移った。


「えー、午前中は主にトーナメント進出者を決める予選を行います。午後のトーナメント本戦に進出できるのは16名です」


 全校生徒が720人くらいだった筈だから……結構絞るんだな。


「本戦出場者を決める予選は、ガンスリンガーを行います」

「おっ、珍しいな」


 ガンスリンガー。

 簡単に言えば、制限時間内での勝利数を競う試合方式だ。

 沢山ファイトはできるが、時間がかかるのが難点。


「制限時間は3時間。その間の勝利数が多い、上位16名を本戦出場者とします」

「校長からの説明は以上だ。何か質問のある生徒はいるか?」

「はい」

「はい、2年の天川」

「召喚器のバトルロイヤルモードを使って、10人くらいまとめて倒したら、勝ち点10点もらえますか?」


 俺の質問を聞いた瞬間、全校生徒がザワッとした。

 というか教師もザワついた。

 なんだよ、シンプルな質問だろ。


「えっと、その、システムの仕様上、倒したファイターの数がそのまま勝ち点として加算されます」

「じゃあバトルロイヤルモードの使用は?」

「特に禁止はされてない」

「ありがとうございます」


 よし。今さっき思いついた素晴らしい作戦が実行できそうだ。

 なんか周りがスゲーざわざわしてるけど。


「おい、天川マジでやる気か?」

「アイツならやりかねない」

「でも一度に10人も倒せるの?」

「大丈夫だ。天川への対策はちゃんと練ってきた」


 オイお前ら聞こえてるぞ。

 あと最後の奴。俺が対策の対策を考えていないと思うなよ。


「そ、それでは。ただいまより本年度の『校内サモンランキングトーナメント』の開催を宣言します」

「制限時間3時間。ガンスリンガー、始めぇ!」


 先生の宣言で3時間のカウントが始まる。

 周りの生徒は次々に相手を見つけて、対戦を始めた。

 速水と赤翼さんも同様だ。


「二人ども気合入ってるな~。俺も負けてらんない」


 俺は腰に下げていた召喚器を手に取り、捜査をする。

 多人数戦『バトルロイヤル』をする為のモードへ切り替えた。


「相手決まってない奴、10人くらいいるよなぁ?」


 視界にそれらしき生徒が何人か映る。

 よし、今だ!


「ターゲット! フルロック!」


 俺の召喚器から飛ばされた電波が、対戦していない10人の生徒へと無差別に接続された。


「えっ!?」

「ちょっ、アイツ本当にやる気かよ!」


『バトルロイヤルモードの起動を確認しました』


「さぁ、先輩後輩同級生。まとめて全員かかってこい!」

「やるしかないのか」

「大丈夫だ。10人がかりならきっと倒せる」

「天川への対策は練ってきたんだ!」


 とりあえず全員やる気になってくれたようで嬉しい。

 俺は召喚器から初期手札5枚をドローする。

 さぁ、10対1のバトルロイヤルを始めようか!


「「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」」


 初めてのバトルロイヤルモードだからか、召喚器からメッセージが表示される。


『バトルロイヤルルールでは、全てのプレイヤーが1ターン目のドローフェイズとアタックフェイズができません』

「全く問題なしだ」


 ターンの順番が自動で決まる。

 俺が最初か。


「俺のターン! スタートフェイズ」


 手札を確認する。

 ふむ……これは。


「俺は何もせずにターンエンドだ」


 俺のターンエンドを聞いた10人は、皆驚愕の表情を浮かべた。


「天川、お前舐めてるのか!?」

「あるいは手札事故を起こしたかだな」

「これなら私達にも勝機はある!」


 さぁ、どうでしょうね?

 口には出さないけど。


 順番に対戦相手のターンが始まる。

 とは言っても、ルールで攻撃できないから、皆モンスターを召喚するだけで終わった。ライフ変動もない。

 最終的な盤面はこんな感じ。


 生徒①:〈カエン竜〉 P5000

 生徒➁:〈スカーレット・マジシャン〉 P6000

 生徒➂:〈大岩マジロ〉 P8000

 生徒④:〈拾われたにゃんこ〉 P3000

 生徒⑤:〈リトルデビル〉 P5000

 生徒⑥:〈ライナーロボX5〉 P7000

 生徒⑦:〈ゴブリンシールダー〉 P7000

 生徒⑧:〈河童〉 P1000

 生徒⑨:〈マッスル原人〉 P6000

 生徒⑩:〈ミリオンライター〉 P1000


 揃いも揃って少しパワーの高いバニラか、戦闘ダメージを数点減らすコモンカードばかり。

 最後の奴に至っては、弱小バニラだ。

 まぁ、その方が楽でいいんだけどな。


「やっと一周か、長いな。俺のターン! スタートフェイズ。ドローフェイズ」


 手札5枚→6枚


 改めて手札を確認する。

 よし、これで防御札が出なければ俺の勝ちだな。


「メインフェイズ! 俺は〈スナイプ・ガルーダ〉を召喚!」


 俺の場に、ライフル銃を背負った鳥が召喚される。


 〈スナイプ・ガルーダ〉 P3000 ヒット1


「更に俺はライフを3点払って〈アサルト・ユニコーン〉を召喚!」


 続けて登場したのは、雄々しき角を生やした、青鹿毛のユニコーンだ。


 ツルギ:ライフ10→7

 〈アサルト・ユニコーン〉 P10000 ヒット0


「パワー10000だと!?」

「でもヒットは0。これなら戦闘ダメージは与えられない」

「それはどうかな?」


 俺の発言に、10人の生徒の顔が凍りつく。

 一度言ってみたかったんだ~このセリフ。


「さぁ出番だ! 奇跡を起こすは紅き宝玉。一緒に戦おうぜ、俺の相棒! 〈【紅玉獣】カーバンクル〉を召喚!」


 もふもふとした緑の体毛が可愛らしい、ウサギ型モンスター。

 そして、俺の相棒が召喚される。


『キュップイ!』


 〈【紅玉獣】カーバンクル〉 P500 ヒット1


「悪いな相棒。今日も過労死要因だ」

『キュ!?』

「〈アサルト・ユニコーン〉の効果発動! 自分の場に系統:〈幻想獣〉を持つ他のモンスターが召喚された時、そのモンスターを破壊する」


 召喚されて早々、アサルト・ユニコーンの効果で破壊される俺の相棒。

 マジですまん。でもこれが勝利への鍵なんだ。


「おい、天川がカーバンクルを破壊したぞ」

「もう嫌な予感しかしない」

「大正解だ。〈アサルト・ユニコーン〉は破壊したモンスターのヒット数だけ、自身のヒット数を上げる」


 カーバンクルのヒット数は1。

 よってアサルト・ユニコーンのヒットも1上がる。

 だが当然これでは終わらない。


「ご存知だろうけど〈【紅玉獣】カーバンクル〉は、破壊されても手札に戻る」

「おい天川、その〈アサルト・ユニコーン〉の効果って」

「ターン中1回とかの制限はないぞ」

「「「やっぱりー!?」」」


 とりあえずこれで無限にヒット数を上げられるわけだが。

 流石に無限にするのは疲れる。


「とりあえず100回くらいヒット数上げとくか」


 そして100回破壊される俺の相棒。

 すまない。だが大義の為には必要な犠牲だ。


〈アサルト・ユニコーン〉 ヒット0→100


「ヒ、ヒット100ってなによ」

「おい天川、サモンの初期ライフは10点だぞ!」

「俺達を10回殺す気か!」


 ご安心ください。一撃で終わらせます。


「で、でも。私達の場にはブロックできるモンスターがいるから。そんな大ダメージ受けなくても」

「〈アサルト・ユニコーン〉は【貫通】を持ってるから、モンスターを戦闘破壊したらヒット数分のダメージを与えるぞ」

「だ、だけど! アタックできるのは1回。倒されるのは1人だ!」

「そうだ。残りの9人で総攻撃すれば」

「まぁ……そうなるよな」


 だけど。


「俺が何も考えてないとでも思ったのか?」


 言った筈だ。俺は10人まとめて倒すと。


「ライフを2点払って、魔法カード〈千手連撃〉を発動!」


 ツルギ:ライフ7→5


「効果で〈アサルト・ユニコーン〉を指定。このターンの間、俺は〈アサルト・ユニコーン〉でしか攻撃できない。その代わり戦闘で相手モンスターを破壊すれば、〈アサルト・ユニコーン〉は何度でも回復する!」

「なんだって!?」

「それで全員倒す気か!」

「でも、最初の攻撃をブロックしなければ、倒されえるのは1人だけで済むわ」

「それはどうかな? パート2」


 当然そんな事見越しているに決まっている。


「〈スナイプ・ガルーダ〉の効果で、俺の場の系統:〈幻想獣〉を持つモンスターは全て【指定アタック】を持っている」

「なん……だと」

「さぁみんな。防御魔法の準備はいいか?」

「ちょ、ちょっと待って!」


 待つわけないだろ。


「アタックフェイズ。行け〈アサルト・ユニコーン〉! まずは〈カエン竜〉に指定アタックだ!」


 角に力を込めたアサルト・ユニコーンが、真っ赤な竜に突撃する。

 そもそも皆が召喚したモンスターはP10000未満しかいないからな。

 全員〈アサルト・ユニコーン〉の射程圏内だ!


「だ、ダメだ! 戦うな!」


 モンスターに命令するがもう遅い。

 真っ赤な竜は、アサルト・ユニコーンの角に貫かれて破壊されてしまった。


「【貫通】の効果で〈アサルト・ユニコーン〉のヒット数分のダメージを受けてもらうぜ」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 生徒①:ライフ10→0


「モンスターを戦闘破壊したので〈千手連撃〉の効果で回復」


 さて次は、誰がいいかな?


「ひぃ!」

「天川、たのむ。手加減してくれ!」

「ダメだ。もう目についた奴から倒す。〈アサルト・ユニコーン〉で〈スカーレット・マジシャン〉に指定アタック!」


 そして始まる蹂躙劇。

 1人くらい防御札持ってるかと思ってたけど……別にそんなこと無かったぜ!


「うわぁぁぁぁぁぁぁ」


 生徒➁:ライフ10→0


「きゃぁぁぁぁ!」


 生徒➂:ライフ10→0


「「「あべしッ!」」」


 生徒④~➉:10→0


 これぞ男の夢、男のロマン。

 ワンターン10キルゥ!


 ツルギ:WIN 勝ち点10


 うーん、これは中々気持ちいいぞ。

 勝ち点も派手に稼げる。

 ……なんか周りの視線がすごい突き刺さって来るけど。

 みんな俺とファイトしたいのかな?


「さぁて。次は誰が相手してくれるんだ? まとめて来てくれてもいいぞ」

「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」


 ファイトにお誘いしたら、蜘蛛の子散らすように逃げられた。

 悲しい。俺の心は傷ついたぞ!


「天川」

「先生……」

「せめて1人づつ戦ってやってくれ」


 なんか知らんがバトルロイヤルモードの使用が禁止されてしまった。

 仕方ない。各個撃破でいくか。


 その後は通常のファイトで順調に勝ち点を稼いでいった俺。

 速水と赤翼さんも順調に勝ちを稼いでいった。


 そして、3時間が経過。


「タイムアップ! 予選ガンスリンガー、そこまで!」


 先生の合図で、全ての試合が終了。

 召喚器の仮想モニターには、上位16名の名前が表示された。


「おっ、これは」

「天川くん! 私、予選通過できました!」

「今見たよ。おめでとう」


 小走りで駆けつけてきた赤翼さんが報告をくれる。


「天川くんはどうでした?」

「もちろん予選通過だ」


 ちなみに速水も通過している。

 そうでなきゃ面白くない。


「じゃあ、私達トーナメントで」

「あぁ、戦うだろうな」


 理想は決勝の舞台で出会う事。

 赤翼さんは足が震えながらも、その眼に戦う意志を宿していた。


「私、絶対負けません」


 それは、俺もだ。

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