第四十九話:未来につながれ! カーバンクル・ドラゴン覚醒!

「私のターン。スタートフェイズ。ドローフェイズ!」


 アイは勢いよくカードを引く。


 アイ:手札4枚→5枚


「メインフェイズ。まずはこのカードよ。魔法カード〈プラントドロー〉を発動。私は場の〈チューリッププラント〉を破壊して、デッキからカードを2枚ドローするわ」


 爆散するチューリッププラント。

 これでアイの場にはモンスターを召喚できる隙間ができたわけだ。


 アイ:4枚→6枚


「更に私は魔法カード〈ダブルハリケーン !〉を発動!」


 あれは自分のモンスターを犠牲にして、相手モンスターを破壊するカードだ。

 これは間違いなく【再花さいか】の準備ができているってわけか。


「私は〈アルストロメリアプラント〉を破壊して、ツルギの場の〈ファブニール〉を破壊するわ!」

「悪いけどそうはいかない! 〈ファブニール〉の【ライフガード】を発動! 〈ファブニール〉は回復状態で場に残る!」


 とりあえずこれでブロッカーは増えた。


「あら、耐性持ちだったのね」

「残念ながらな」

「でも無駄よ。さっきの〈ポイズンオアヒーリング〉の効果で、私は切り札を手にしたわ」


 オイオイオイ、それマジかよ。

 それは本当に不味いぞ。


「墓地にモンスターカードは5枚以上。私は系統:〈樹精〉を持つ〈パンジープラント〉を進化!」


 アイが1枚のカードを仮想モニターに投げ込むと、パンジープラントは巨大な魔法陣に飲み込まれた。


「命の風が舞いし時、大樹より聖なる獣が生誕する。咆哮せよ我が神! 〈【獣神樹じゅうしんじゅ】セフィロタウラス〉を進化召喚!」


 魔法陣が弾け飛び、樹精の神が姿を現す。

 アイの場に召喚されたのは、無数の木の根で構成された巨大なミノタウロスだった。


『BUOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』


 圧倒的な存在感と共に、セフィロタウラスはファイトステージで咆哮を上げる。

 強力なSRカードの登場により、観客席の盛り上がりも凄まじいものになっていた。


〈【獣神樹】セフィロタウラス〉P13000 ヒット3


 うん。これはピンチかも。


「ぼうっとしてる暇はないわよツルギ。私は魔法カード〈ポイズンオアヒーリング〉を発動」

「2枚目持ってたのかよ」


 それは非常に不味い。

 だってセフィロタウラスには【再花】のコストを踏み倒す効果があるんだもん!


「お互いに手札を1枚捨てて、1枚ドロー」


 俺は手札を捨てて、1枚ドローする。

 頼む、何か防御カード来てくれ!


 恐る恐るドローしたカードを確認するも、来たのは〈コボルト・ウォリアー〉だった。

 嘘だろ……防御カードじゃないのは不味いよ。

 そしてアイは手札を捨てている。


「私は墓地から〈シスタスプラント〉と〈ラフレシアプラント〉の【再花】を発動!」


 不平等契約で墓地に送っていたカードか。

 アイの墓地から、ゴジアオイとラフレシアの化物が召喚される。


〈シスタスプラント〉P8000→P10000 ヒット2

〈ラフレシアプラント〉P9000→11000 ヒット5


 そうだ、忘れてた。

 セフィロタウラスって樹精のパワーを2000上げる効果があった。

 いや、それより観客はラフレシアプラントのヒット数に驚いているな。

 まぁ当然か。素でヒット5のカードなんかそうそう無いもんな。


「〈ラフレシアプラント〉って確か召喚コスト重かったはずだよな?」

「えぇ。普通に召喚しようとすればライフ2点と自分場のモンスター2体を犠牲にしなくちゃいけないわ」

「それを踏み倒すのがセフィロタウラスの効果」

「その通りよツルギ」

「ハハ、冗談じゃねーや」


 しかもこれで終わらないんだよな~。

 効果の連鎖って怖い。


「樹精が召喚された事で〈シスタスプラント〉の効果発動! 【再花】で召喚された樹精1体につき、ツルギに1点のダメージを与えるわ」


 これなぜかシスタスプラント自身もカウントするんだよな。

 今【再花】で召喚されたモンスターは2体。

 よって俺は2点のダメージを受けた。


 シスタスプラントが種の弾丸を俺に撃ち込んでくる。


 ツルギ:ライフ7→5


「アタックフェイズ」


 盤面が完全に完成したアイは、攻撃を仕掛けてきた。


「まずは〈ラフレシアプラント〉で攻撃!」

「そのダメージを受けるのは不味いんだよ! 〈ファブニール〉でブロックだ!」


 ラフレシアの怪物とファブニールが激突する。

 しかしセフィロタウラスの効果で強化されたラフレシアプラントに、ファブニールはパワー負けしてしまった。

 爆散するファブニール。もう【ライフガード】も残っていない。


「続けて〈シスタスプラント〉で攻撃よ」

「それもブロックだ! 頼む〈トリオ・スライム(B)〉!」


 シスタスプラントが種の弾丸を乱射してくる。

 その弾丸に貫かれて、トリオ・スライム(B)はあっさりと爆散してしまった。


「さぁ華々しくいくわよ! 〈【獣神樹】セフィロタウラス〉で攻撃!」


 セフィロタウラスは凄まじい咆哮を上げながら、巨大な斧を振り下ろしてくる。

 これも流石に喰らったら不味い。


「〈トリオ・スライム(A)〉でブロックだ! これでライフは守った」

「残念ね、こういうカードもあるのよ。私は魔法カード〈エヴォジャベリン〉を発動!」

「げぇ!? 強化魔法!」

「〈エヴォジャベリン〉は自分の進化モンスター1体のヒットを1上げて、更に【貫通】を与えるわ」


 魔法効果でセフィロタウラスが強化される。


〈【獣神樹】セフィロタウラス〉ヒット3→4


 ヤバい、これは防げない!

 トリオ・スライム(A)はセフィロタウラスの大斧に両断されてしまった。


「【貫通】のダメージも受けてもらうわ」

「ぐっ!」


 セフィロタウラスのの攻撃の余波が、俺に襲いかかる。


 ツルギ:ライフ5→1


 ギリギリで耐え抜いた。けど状況はかなり不利。

 一応エヴォジャベリンには、ターン終了時に強化したモンスターを自壊させるデメリットがあるけど……


「エンドフェイズ。〈セフィロタウラス〉は破壊されるけど、手札1枚を身代わりにするわ」

「まぁ、そうするよな」


 セフィロタウラスは身代わり効果で生き残った。

 これがあるから強いんだよ。


「更に私は魔法カード〈ディフェンスシフト〉を発動。モンスターを全て回復させるわ」


 アイの樹精が全て回復する。

 これで防御もOKってわけか。

 

「私はこれでターンエンドよ。次がきっとラストターンね」


 アイ:ライフ7 手札1枚

 場:〈【獣神樹】セフィロタウラス〉〈シスタスプラント〉〈ラフレシアプラント〉


 ターンは回って来たけど、アイの言う通りだった。

 俺のライフは僅か1点。手札は今この状況では役に立たない〈コボルト・ウォリアー〉1枚。

 場にはモンスター0体。アイの場には3体でライフは7点。

 次のドローで全てをひっくり返さないと、俺に勝機は無い。


 だけど、恐れるわけにはいかないんだ。

 ここで恐れたら、全てを手放してしまう気がする。


「俺の……ターン!」


 観客席も、ベンチのソラと速水も、固唾を飲んで俺を見守る。

 絶対につなげるんだ。俺達の未来に!


「スタートフェイズ! この瞬間〈トリックカプセル〉に封印していたカードが俺の手札に加わる!」


 俺は効果で除外していた魔法カードを手札に加えて発動した。


「効果で手札に加わった魔法カード〈ダイヤモンドボックス〉の効果発動! このカードをデッキの下に戻して、デッキから3枚ドロー!」


 ツルギ:1枚→4枚


 ドローしたカードを確認する。

 引いたのは〈スナイプ・ガルーダ〉〈グウィバー〉〈【紅玉獣】カーバンクル〉。

 ダメだ! このカードだけじゃ勝てない!

 今の状況をひっくり返すには、次の通常ドローで何とかするしかなくなった。


「ドローフェイズ……」


 今まで感じた事のない、凄まじい緊張が俺を襲う。

 だけどドローするしかないんだ。このドローで、光を手にするしかないんだ。

 だから応えてくれ! 俺の〈幻想獣〉!


「ドロォォォォォォォォォォ!!!」


 俺は覚悟を決めて、勢いよくカードをドローする。

 そして手にしたカードをすぐさま確認した。


「……そうか。お前が来てくれたんだな」


 デッキが俺の思いに応えてくれた。

 俺の手札には、最高の切り札がきた。

 ありがとう。本当に、そんな言葉しか頭に浮かんでこない。


 俺はアイの方をまっすぐ見据える。


「アイ! このターンで決めるぞ!」


 最終ターン宣言を聞いたアイは、一瞬驚いた顔をするが、すぐに期待に胸を躍らせているような表情になった。


「きなさい、ツルギ!」

「あぁ! メインフェイズ。〈スナイプ・ガルーダ〉を召喚!」


 まずはコンボパーツだ。

 俺の場に、ライフル銃を背負った鳥が召喚される。


 〈スナイプ・ガルーダ〉 P3000 ヒット1


「続けていくぜ! 奇跡を起こすは紅き宝玉。一緒に戦おうぜ、俺の相棒! 〈【紅玉獣こうぎょくじゅう】カーバンクル〉を召喚!」


 仮想モニターにカードを投げ込むと、俺の場に巨大な紅玉が出現する。

 その紅玉が砕けると、中から緑の体毛が可愛らしい、ウサギ型モンスターが召喚された。


『キュップーイ!』


〈【紅玉獣】カーバンクル〉 P500 ヒット1


 あまりのステータスの低さに、観客席からは驚きの声が聞こえるが、気にはしない。

 これで……全ての準備は整った。

 俺は手札から1枚のカードを仮想モニターに投げ込む。


「いくぞ……相棒!」

『キュプイ!』

「進化条件は自分のライフが3以下であること! 俺は系統:〈幻想獣〉を持つモンスター〈【紅玉獣】カーバンクル〉を進化!」

「SRカードを進化素材に!?」


 驚愕するアイ。だがこれで良いんだ。


 カーバンクルは蒼く巨大な魔法陣に飲み込まれて、その身体を進化させていく。


『キュゥゥゥップイィィィ!!!』


 これが俺の、新しい切り札だ!


「蒼穹に風舞しとき、竜の槍が天地を貫く! 今こそ覚醒しろ、俺の相棒!」


 魔法陣が弾け飛び、中から巨大な蒼の宝玉が出現する。

 その宝玉が砕けると、中から長いロップイヤーと雄々しき翼を持つ、巨大な蒼色の竜人が召喚された。


「進化召喚! 来い〈【幻蒼竜げんそうりゅう】カーバンクル・ドラゴン〉!」

『グォォォォォォォォォォ!!!』


 勇猛、偉大、美麗。

 様々な言葉が似あう、2体目のSRカード登場に、会場の人々は一瞬言葉を失った。


〈【幻蒼竜】カーバンクル・ドラゴン〉P20000  ヒット3


「パワー……2万ですって!?」

「そうだ。最弱のSRカードなんて言われるけど、カーバンクルは進化する事で最強になる!」

「そうなの……それが、貴方が相棒に選んだ理由なのね」

「大正解だ!」


 そして、コイツで全てを終わらせる。


「アタックフェイズ! 〈カーバンクル・ドラゴン〉で〈シスタスプラント〉を指定アタックだ!」


 スナイプ・ガルーダの効果で、俺の幻想獣は全員【指定アタック】を得ている。

 カーバンクル・ドラゴンはどこからか巨大な槍を取り出し、シスタスプラントに攻撃を仕掛けた。

 槍に貫かれて、爆散するシスタスプラント。

 だがカーバンクル・ドラゴンの本領はここからだ!


「戦闘で相手モンスターを破壊した事により〈カーバンクル・ドラゴン〉だけが持つ能力【無限槍むげんそう】を発動だ!」

「【無限槍】ですって!?」

「〈カーバンクル・ドラゴン〉が戦闘で相手モンスターを破壊した時、相手に3点のダメージを与える」


 カーバンクル・ドラゴンは大槍でアイを薙ぎ払う。


 アイ:ライフ7→4


「更に! このダメージを与えた後、相手の場にモンスターが残っていた場合〈カーバンクル・ドラゴン〉は回復する!」

「なんですって!? それじゃあそのドラゴンは」

「相手モンスターがいる限り、無限に攻撃できる」


 無限攻撃。その規格外の性能に、会場にいる人々は驚愕した。

 じゃあその驚愕を上回ってやるよ!


「次の攻撃だ! 〈カーバンクル・ドラゴン〉で〈ラフレシアプラント〉に指定アタック!」

「流石にそれを通すわけにはいかないわ! 魔法カード〈プラントウォール〉を発動! アタックフェイズを強制終了させるわ!」


 無数のツタがカーバンクル・ドラゴンの攻撃を阻もうとする。

 だけど無駄だ。

 カーバンクル・ドラゴンは槍を振るい、ツタの壁を破壊してしまった。


「なっ!? 魔法カードが効いてない!?」

「〈カーバンクル・ドラゴン〉の能力だ。このカードが〈【紅玉獣】カーバンクル〉から進化している場合、相手は俺のアタックフェイズ中に魔法カードを発動できなくなる」

「そんな」

「さぁ行け〈カーバンクル・ドラゴン〉!」


 ツタの妨害をものともしなかったカーバンクル・ドラゴン。

 大槍を構えて、ラフレシアプラントを一気に貫き爆散させた。


「【無限槍】発動!」


 アイにダメージが入り、カーバンクル・ドラゴンが回復する。


 アイ:ライフ4→1


 アイの手札はこれで0枚。ブロッカーももういない。

 次の一撃で決着がつく。


「……私の、負けね」


 残念そうに俯くアイ。だけどその顔は、どこか憑き物が落ちたようにも見えた。


「アイ!」


 俺は無意識にアイの名を呼ぶ。

 どうしても伝えたい事があったから。


「また、ファイトしようぜ!」


 絶対に手は離さない。君がサモンを好きでいてくれるなら。

 アイは少しポカンとした後、すぐにクスっと笑った。


「次は負けないわよ。ツルギ」

「あぁ!」


 芽生えたものは友情。乗り越えたものは闇。

 ゴールは見えた、後は全てを終わらせるだけだ!


「いけ〈カーバンクル・ドラゴン〉! 〈【獣神樹】セフィロタウラス〉に指定アタックだァ!」

「迎え撃ちなさい〈セフィロタウラス〉!」


 2体のSRカードが主人の命を受けて、ぶつかり合う。

 カーバンクル・ドラゴンは大槍を振るい、セフィロタウラスは斧でそれを防ぐ。

 何度も何度も激しいぶつかり合いを展開し、火花が散る。

 だが翼のおかげで空を飛べるカーバンクル・ドラゴンの方が有利だ。


『グォォォォォォォォォォン!』

『BUOOOOOOOOOOOOOOOOO!』


 空を飛ぶカーバンクル・ドラゴンに対して、セフィロタウラスは斧を投げる。

 だがそれをカーバンクル・ドラゴンは大槍で弾き飛ばした。

 後方に吹き飛ぶ斧。これでセフィロタウラスの武器はもうない。


「とどめだ〈カーバンクル・ドラゴン〉! 蒼穹幻槍そうきゅうげんそうドラゴン・フィニッシュ!」


 カーバンクル・ドラゴンの槍に光が集まる。

 光り輝く大槍を構えて、カーバンクル・ドラゴンはセフィロタウラスに突撃した。


『グォォォォォォォォォォン!』


 成す術なく、槍に穿たれるセフィロタウラス。

 数秒火花を散らした後、その身体は爆発四散した。


 セフィロタウラスを倒した事で【無限槍】が発動する。


「……本当に、楽しかったわね」


 アイ:ライフ1→0

 ツルギ:WIN


 ファイト終了を告げるブザーが鳴り響くと同時に、最高潮の歓声が俺達を包み込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る