第五十話:大会の終わりと後始末
『決勝戦最終試合! 勝者、天川ツルギ!』
『よって本年度JMSカップの優勝は、チーム:ゼラニウムだァァァ!』
審判が勝者が誰か明言する。
すると会場からは耳をつんざく程の大歓声が鳴り響いた。
「うひゃ〜、スゴい歓声」
「ツルギくん!」
「天川!」
ベンチから出てきたソラと速水がステージに上がってきた。
二人は喜びのままに俺に抱きついてくる。暑いよ。
でもまぁ、気持ちはスッキリとしたものだ。
「ツルギくん、ツルギくん! 優勝ですよ! 私達が!」
「あぁ。ソラが頑張って繋げてくれたおかげだ」
「感無量とはこの事だな。一時はどうなるかと思ったが」
「本当にな……あっ、そうだ!」
速水の言葉で大切な事を思い出す。
俺はとりあえずソラと速水を剥がして、アイ達の方へと向かった。
チーム:Fairysのベンチでは、黒岩が怒り狂っていた。
アイが【樹精】デッキを使った事が相当気に入らなかったようだ。
だが当のアイドル3人はというと、どこ吹く風なのがここからでも分かる。
きっともう、みんな覚悟が決まってるんだろう。
もはやどれだけの脅迫や高圧を使っても、3人の少女には通じない。
それを察したのか黒岩は、わざとらしく壁を蹴りベンチを去って行った。
俺は入れ替わるように、アイ達の元へ行く。
「アイ」
「ツルギ……」
「えっとさ、俺が今言うのも変だと思うんだけど……良かったんだよな?」
「えぇ……これで、良かったのよ」
まだ少しの迷いは残っているかもしれない。
だけどアイは全て納得したような表情をしていた。
「そういえば他の2人は大丈夫なのか? あのプロデューサーに人質にされてたって聞いたけど」
「心配ご無用! アタシもユメユメも大丈夫」
「はい。事務所は辞めさせられるかもしれませんけど、また一から出直すだけです」
「そゆこと。だからアイっちも心配しなくて良いんだよ」
「ミオ、夢子……」
どうやら3人まとめて大丈夫らしい。
これから先、色々大変な事はあるだろうけど、今のアイ達なら乗り越えられる気がする。
特にアイは今日のファイトで、きっと自分というものを取り戻したはずだ。
「ツルギくん! アイちゃん!」
「天川。あのプロデューサーはどこに行ったんだ?」
ソラと速水もやって来た。
って、あっ!
「そうだ! 俺あのプロデューサーに一言文句言おうとしてたんだ!」
「ツルギ、やっぱり黒岩に何かされたの?」
「倉庫に閉じ込められた。まぁギリギリでゼウスCEOが助けてくれたんだけど」
「そうなの……私のせいで、ごめんなさい」
謝るアイ。だけどその必要なんか無いんだ。
「悪いのはあのプロデューサーだ。アイが謝る必要なんてない」
「でも」
「アイとファイトができた。アイが自分を取り戻せた。今日はそれでいいじゃんか」
そうだ、それで良いんだ。
今日はせっかくの大会なんだ。最後くらい綺麗に終わらせよう。
「……ふふ。本当にツルギはお人好しね」
「そうかな?」
「私もツルギくんはお人好しだと思います」
「赤翼に同じくだな」
うーん、完全に数で負けたな。
俺はただ好き放題動いてるだけなんだけどなぁ。
「まっ、いいか」
俺はアイに向かって手を差し出す。
「ありがとうな、アイ。良いファイトだった」
「……えぇ、こちらこそありがとう」
アイが俺の手を握り返す。
それに倣って、ソラとミオ、速水と夢子も握手をした。
互いにその勝負を讃えあう。
その精神は観客席の人々にも伝わり、華やかな拍手が俺達に贈られた。
『それではこれより表彰式行います。選手の皆様はステージに集まってください』
アナウンスが聞こえる。
もう一仕事あるのを忘れてた。
「アイ、行こうぜ」
「えぇ。エスコートしてくだるかしら?」
「流石に手繋いだままはファンに殺されそうなんだけど」
「ツルギくん? なんか鼻の下伸びてませんか?」
ソラさん。お願いだから急に殺気を向けないでください。
「あぁもう! 面倒だからみんなまとめて行くぞ!」
俺はアイとソラの手を掴んで、ステージへと進んだ。
ライトで照らされるステージは、まるで俺達の未来を照らし出す太陽のように思えた。
◆
ツルギ達が表彰式をしている頃。
ドーム内の通路では黒岩が苛立ちながら歩いていた。
「クソッ、クソッ! あのガキ共め! ただで済むと思うなよ!」
黒岩はこれから先の事を考える。
日高ミオと佐倉夢子はとりあえずクビだ。根回しもして、二度とアイドル活動をできなくしてやろう。
宮田愛梨は……バックが強い。腹立たしいが芸能関係では諦めるのが得策だろう。
ならば芸能に関係無い方向から痛めつけるだけだ。
黒岩の脳裏には知り合いの少女趣味の金持ちが浮かんでいた。
「アイツらだけじゃねぇ。ゼラニウムのガキ共にもわからせてやらなきゃな」
一般人の中学生三人。潰す策はいくらでもある。
黒岩はどれが一番自分を気持ちよくしてくれるか思考を巡らせていた。
気づけば辿り着いたのは人気の無い駐車場。
とりあえず車の中で知り合いに電話でもするか。
黒岩がそう考えた瞬間であった。
目の前に二人の男性が立ちはだかった。
その片割れを見て、黒岩は驚愕する。
「もうお帰りかね? ミスター黒岩」
「ゼ、ゼウスCEO」
黒岩の前に現れたのはゼウスと三神であった。
なぜここに居るのか、黒岩には全く分からなかった。
「君のアイドル表彰されるところを見届けなくて良いのかね?」
「あ、アイツらはさっき解雇しました」
「ほう、それは酷い。特にミス宮田は素晴らしいファイトを魅せてくれたというのに」
愛梨の事に触れられて、黒岩は歯ぎしりをする。
とにかく苛立ちが強くなっていった。
そもそも何故ゼウスが自分の前に今更現れたのか、それも解らなかった。
「CEOは、私に何の用で?」
「いやなに。少し見てもらいたい映像があってね……ドクター三神」
「はい」
ゼウスが指示すると、三神は一台のダブレットPCで動画を再生し始めた。
それを黒岩に見せる。
「残念だが。倉庫の中にも監視カメラが隠してあるのだよ」
黒岩は呆然その動画を見ていた。
ほんの数秒の動画。黒岩がツルギを倉庫に閉じ込めた瞬間の動画だ。
「な、何故」
「うーん、これはいかんな。これでは監禁罪で警察に通報せねばならない」
「黒岩さん。貴方が金で雇ったスタッフなら、我々の尋問で全て白状しましたよ」
「なっ!? あのドブネズミめ!」
会場スタッフに裏切られた事を知り、黒岩は本性を剥き出しにする。
だがゼウスも三神も動じる事はない。
「さて、ミスター黒岩。私がこの動画を警察に渡せば、君は間違いなく捕まるだろう」
「そ、それだけはやめてくれ! 金なら払う! いくらだ、いくら払えば良い!?」
ここで警察に捕まってしまえば自分の人生は完全に終わってしまう。
それだけは何としても避けなければならない。
黒岩は必死にゼウスに懇願した。
だがゼウスは余裕のある表情を変えず、静かに黒岩を見つめる。
「まぁまぁミスター黒岩。そんなに慌てなくても良い。私はね君にチャンスを与えようと思うんだよ」
「チャ、チャンス?」
「そうだ。人間誰しもチャンスが必要だ。無論君にもだ」
そう言うとゼウスは一台の召喚器を三神に渡し、少し後ろへと下がった。
「君には今からゲームをしてもらうよ」
「ゲーム、だと」
「なぁに簡単な話だ。今からミスターには、ここに居るドクター三神とサモンファイトをしてもらう」
三神は静かに黒岩の鞄に入っている召喚器へとターゲットロック済ませる。
「君が勝てば動画は削除し、この件は忘れる約束しよう」
それを聞いた瞬間、黒岩の中で光明が見えた。
勝てばいいんだ。それだけで明日につながるのだ。
「ただし。君が負ければ警察へ通報。罰ゲームも受けてもらおう」
「ば、罰ゲームだと?」
「どうなるかは、負けた時のお楽しみだ」
さぁ、どうする?
ゼウスは黒岩に問うた。だが黒岩答えはただ一つだ。
鞄から召喚器を取り出す黒岩。
ここで勝てば全て無かった事にできる。
ここで勝たなくては、復讐の機会も無くなる。
「勝ってやる……勝てば俺の明日来るんだ!」
「では、始めようか……ドクター」
「はい。ゼウス様」
黒岩と三神は初期手札5枚を手に取る。
「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」
黒岩の運命を賭けたサモンファイトが始まった。
だが、その戦いは……明記するに値せず。
必要なのは、その末路だけだ。
黒岩の場にはモンスターが2体。
機械モンスター〈ディフェンダー・マンモス〉が2体並んでいる。
高いパワーを持つ防御モンスターだ。
これだけ厚い壁があれば問題ないだろう。黒岩はそう考えていた。
「ターンエンド!」
黒岩:ライフ6 手札0枚
場:〈ディフェンダー・マンモス〉×2
そして迎える三神のターン。
ゼウスは静かに、こう告げた。
「ドクター。そろそろ彼に新世界を見せてあげなさい」
「はい。ゼウス様」
三神の場にはモンスターがいない。
三神はデッキからカードを1枚引くと、メインフェイズに入った。
「メインフェイズ。僕は手札を1枚捨てて〈ピリオド・リザードマン〉を召喚」
三神の場に黒い皮膚に覆われた竜人が召喚される。
〈ピリオド・リザードマン〉P10000 ヒット0
「それでは黒岩さん。今から貴方に新世界をお見せしましょう」
そう言うと三神は仮想モニターにカードを1枚投げ込んだ。
「パワー10000以上のモンスター。〈ピリオド・リザードマン〉を進化」
黒い竜人は苦しみ声を上げながら魔法陣に飲み込まれていく。
そして魔法陣弾け飛ぶと、中から一体の巨大な武装竜人が出現した。
「〈【
〈【起源武装竜】ソードマスター・ドラゴン〉P13000 ヒット3
「え、SRカードだとッ!? だがそれのどこが新世界なんだ」
「これは序章です。新世界はここから始まる……僕は〈ソードマスター・ドラゴン〉の召喚時効果を発動!」
効果発動を宣言した三神は、1枚のカードを仮想モニターに投げ込んだ。
「このカードが召喚に成功した時、僕は手札からアームドカード1枚を、
「ア、アームドカードだと!? なんだそれは!?」
アームドカード。それはまだ誰も知らない、未公表のカードタイプであった。
未知のカードタイプを宣言された事で、黒岩は混乱する。
「ミスター黒岩。今から君が目撃するのは、モンスター・サモナーの新時代だ」
「僕は手札からアームドカード〈【
魔法陣が現れ、中から一振りの宝剣が姿を見せる。
その宝剣は自我を持つように飛翔した後、三神のモンスターゾーンに突き刺さった。
〈【黎明剣】ビギニング〉Pなし ヒットなし
「パワーもヒットも無いだと?」
「これはこう使うんですよ……僕は〈【黎明剣】ビギニング〉を〈【起源武装竜】ソードマスター・ドラゴン〉に
ソードマスター・ドラゴンはビギニングを引き抜くと、文字通り武装状態となった。
「モ、モンスターと合体するカードなのか!?」
「そうです。そしてその試運転の切れ味、その身で味わってもらいましょう」
ソードマスター・ドラゴンが宝剣の切先を黒岩に向ける。
「アタックフェイズ。〈ソードマスター・ドラゴン〉で攻撃! この瞬間、
「なんだと!?」
「〈ビギニング〉を武装したモンスターの攻撃は、可能であれば必ずブロックしなければならない」
「クソッ! 〈ディフェンダー・マンモス〉でブロックだ!」
守りに入るディフェンダー・マンモス。
だがアームドカードの前には全てが無力であった。
ビギニングの刃によって容易に両断されるディフェンダー・マンモス。
だが攻撃はこれでは終わらない。
「〈ソードマスター・ドラゴン〉は【貫通】を持っています。3点ダメージを受けて貰いますよ」
「グアっ!」
ソードマスター・ドラゴンの斬撃が、黒岩に襲いかかる。
黒岩:ライフ6→3
「〈ソードマスター・ドラゴン〉の更なる効果。武装状態であれば、ターン中1度だけ回復できます」
「な、なんだって!?」
起き上がるソードマスター・ドラゴン。
勿論ビギニング武装している状態である。
次の攻撃で黒岩は、残る1体のディフェンダー・マンモスで強制ブロックをする他ない。
それはつまり、貫通ダメージによる敗北を意味していた。
「た、頼む、やめてくれ! 見逃してくれ!」
「……だそうですよ、ゼウス様」
「フフフ、ミスター黒岩。答えは……NOだ」
「嫌だ嫌だ嫌だァァァ!!!」
必死に叫ぶ黒岩。その場から逃げようとするが、何故か足が動かない。
まるで何かに両足を固定化されているようであった。
「あ、足が動かない」
「逃すわけにはいかないからね。少し小細工をさせてもらったよミスター」
「な、なんなんだよ! お前はなんなんだァァァ!?」
黒岩が叫びながら問うと、ゼウスはニヤリと笑った。
「私は、デウスエクスマキナだ」
「ゼウス様、そろそろ終わらせてもよろしいですか?」
「あぁ済まない。続けてくれ、ドクター」
「はい。僕は回復した〈ソードマスター・ドラゴン〉で攻撃! 当然〈ディフェンダー・マンモス〉はブロックせざるを得ない」
ソードマスター・ドラゴンの前に出るディフェンダー・マンモス。
黒岩は必死に「下がれ」と叫ぶが、全て無駄。
ソードマスター・ドラゴンの剣撃を前に、破壊されてしまった。
そしてモンスターを戦闘破壊したという事は……
「〈ソードマスター・ドラゴン〉の【貫通】発動」
黒岩の前に歩み寄るソードマスター・ドラゴン。
巨大な竜に見下ろされた黒岩は、泣き叫びながら失禁した。
そして……ソードマスター・ドラゴンの剣が、黒岩に振り下ろされた。
黒岩:ライフ3→0
三神:WIN
ファイトが終わり、立体映像消滅していく。
その場に倒れ込んだ黒岩に、ゼウス歩み寄った。
「君の負けだね、ミスター黒岩」
ゼウスは黒岩の頭をおもむろに掴み取る。
「君の物語は、これで終わりだ」
ゼウスの手が一瞬光を放つ。
黒岩の意識は、完全に闇の底へと落ちていった。
「ドクター、スタッフを呼んで後片付けをさせてくれ」
「かしこまりました。ゼウス様は?」
「私は少し疲れた。もう帰るよ」
そう言い残し、ゼウスは鼻歌歌いながら駐車場去るのだった。
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