第八十五話:それぞれの様子

 安全タイムが終わり2時間程が経過。

 現在は施設のあちこちでファイトが行われている。

 当然、俺達も例外じゃない。


「〈【幻蒼竜げんそうりゅう】カーバンクル・ドラゴン〉で攻撃! 蒼穹幻槍そうきゅうげんそうドラゴン・フィニッシュ!」

「うわぁぁぁ!」


 モブ生徒:ライフ3→0


 とりあえずは目標ポイント到達を目指して、俺はファイトを勝ち進む。

 まずは挑んできた生徒を蹴散らしていった。

 気づいたら女子達とはハグれたのに加えて、挑んでくる生徒も激減してきたので、俺は目についた奴を片っ端から狩っていた。


「うん。ポイントも順調に貯まってきたな」


 今俺が保有しているのは『15000p』だ。

 終わりが見えてきたな。


速水はやみの方は今いくら持ってる?」

「俺はようやく『10000p』だ。天川てんかわのスピードが早すぎるんだ」

「バトルロイヤルモードを使えば楽に狩れるんだけどなぁ」


 一回使おうとしたんだけど、バトルロイヤルモードは接続に少し時間がかかってしまう。

 その数秒の隙をついて逃げられてしまった。

 結局、高速で接続できる通常ファイトを挑んだ方が早いというオチだ。


「さて、人もいなくなったな。また探しますか」


 ゲームみたいに固定シンボルなら楽なんだけどな。

 流石にそこまで都合良くはいかないか。

 なるべく素早く終わらせる事を心がけて、少し余分に稼げるように頑張りますか。


「……天川」


 ふと、速水が声をかけてきた。

 なんか妙に難しい顔してるな眼鏡の委員長よ。


「何かあったのか?」

「何かって何さ。俺はいつも通り」

「そう見えない程にファイトが荒々しいから言ってるんだ」


 眼鏡の位置を直しながらそう言う速水。

 うーん、コレは見抜かれてしまったか?


「いつもの天川ならもっと余裕を持って、相手を身勝手に弄ぶ」

「酷くない? 俺そんな感じで見られてんの?」

「事実だ……それで、今のお前はあまりにも荒々しさが目立つ」

「……」

「まるで八つ当たりする獣のようだ。何かあったのか?」


 あぁ……コレは誤魔化せないな。


「ちょっと、Sクラスの奴と揉めただけだ」


 俺は九頭竜くずりゅうさんと合流するに至った経緯を話した。

 あの坂主とかいうクソ野郎の事も包み隠さずだ。

 速水は黙って俺の話を聞いて、全て聞き終わるとため息を一つついた。


「本当に、無茶をする」

「頭に来てな、ついやっちまった」

「気持ちは理解する。特に天川の背景を考慮すればな」

「そう言ってくれると助かる」

「だが一人で全てを抱えようとするな。人間には限界というものがあるんだ」

「だな」

「天川の強さは認めている。だが余計な責任まで負うな。逃げられる事は、逃げても良いんだぞ」


 速水は本当に俺を心配しているんだろうな。

 言い分は分かる。頭では理解できる。

 だから俺は「わかった」と口にする。

 ……だけど、魂は頷いていなかった。

 きっと俺は、この先も無茶な事をしてしまうだろう。

 頭じゃなくて、魂が動いてしまうから。


「そういえば天川、あの二人は大丈夫そうか?」

「ソラとアイか? あの二人の強さなら心配要らないだろ」

「違う。二人の事は何も心配していない」


 言うねぇ速水くん。

 ここに本人がいたら〆られてるぞ。

 となれば……あっちの2人か。


らんと九頭竜さんか」

「そうだ。特に武井ぶいはこの前、竜帝りゅうていに大敗しているだろ」

「メンタルも結構なダメージ負ってたな」

「変なトラブルが起きるとは思ってないが、俺は武井の精神面が心配だ」

「うーん、案外大丈夫だと思うぞ」


 俺がそう言うと、速水は「どうして言い切れるんだ」と問うてきた。

 まぁ普通ならそうなるだろうな。

 かと言って昨夜の藍の事を話すのは無粋の極み。

 だったらこう言うしかないだろ。


「お前、藍がそこまで弱いファイターに見えたか?」


 これぞサモン脳社会だから通じるやり方。

 ファイターの強さは全てに通じるのだ。

 ほーら、速水も納得しちゃってる。


「……天川の言いたい事は理解する。だが本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫。藍なら上手くやるさ」


 むしろ俺が少し心配しているのは藍じゃなく……九頭竜さんなんだよな。

 今の九頭竜さんって、まだまだ友達ZEROのコミュ力ZEROだからなぁ。

 口下手拗らせて変な行動しなけりゃ良いんだけど。


「……まぁ、なるようになるさ」


 俺は流れに身を任せる事にした。

 細かい物語は彼女達に任せよう。

 とりあえず今は、ポイント稼いで晩御飯のバーベキューを目指すのだ。


「行こうぜ速水」


 ポイント狩り再開だ。

 俺は速水と共に、他の生徒を探しに出るのだった。

 その時であった、見覚えのある女子が二人、こちらに近づいてきた。


「あっ、ツルギくんと速水くん」

「二人もここに来ていたのね」


 ソラとアイだ。

 予想通り、心配は要らなかったみたいだな。


「おう、二人もポイントは順調に増えてるか?」

「はい。今私が『13000p』です」

「私はも『13000p』よ。2人はどうかしら?」


 俺と速水も現在のポイントを告げる。

 どうやら皆順調にポイントを獲得できているらしい。


「ちなみに二人は何か特別な事でもしたのか?」

「タッグファイトで荒稼ぎです!」

「二人分のポイントを総取りできるんだから、効率が良いのよ」


 俺はハッとなった。

 そうか、その手があったか!


「速水!」

「やめろ、俺を殺戮に巻き込むな」


 拒否されてしまった。悲しい。


「となると、後は藍と真波ね」


 アイさん、相手が竜帝であっても呼び捨てなんだな。

 あの二人も順調にポイントを稼いでいる……その筈だ、信じよう。


「ツルギくん、なんだか心配そうな顔してます」


 うーん、ソラにも見抜かれてしまった。

 もっとポーカーフェイスを練習しなくてはな。


「藍は問題ないと思うんだ……その、九頭竜さんがな」

「九頭竜さん、ですか? でも六帝りくてい評議会に入る人なら問題ないと思うんですけど」

「コミュ力。トラブル」


 俺がそう言った瞬間、三人は同時に「あっ」と声を漏らした。


「この短時間で読み取れてしまう九頭竜さんの対人能力。藍が上手くそれをフォローできるか……」

「……ツルギくん、信じましょう」

「貴方が連れてきた子達でしょ。貴方が信じないでどうするのよ」


 ソラとアイに言われてしまった。

 その通りだな、あの二人なら……原作主人公組ならきっと大丈夫だろう!


「そうと決まれば、さっさと狩りに行くか!」

「はい! 私がんばります!」


 俺はソラと共に気合を入れなおした。

 それを見ていた速水とアイはというと。


「赤翼……本当に天川に染まってきたな」

「あら、あのくらいの方がカッコいい女の子じゃない」

「方向性を間違えていると思うんだ」


 速水は呆れたように溜息をついていた。

 文句は言いたいが、後回しだ。

 今は藍達を信じて、俺達は試練のクリアを目指そう。


 俺達は再び元のチームで行動を始めるのだった。

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